Karte.46 ただいまフラノ村!、そして、はじめましてレンジです
「やっと、やっと……帰ってきたぁ……!」
「ええ、本当に……!」
フラノ村を出発してから1カ月ちょっとしか経っていないのに、もう何年も離れていたような気分だ。
「ここが、君達の住む村か」
今日から新しい住人となるドワーフ、レンジ君も興味津々で村を見た。
ガルナン首長国とはまるで違う風景だから、目新しいのかもしれない。
「久しぶりにベッドでゆっくり眠れますな」
バレットさんの行商団も嬉しそうに到着を喜んだ。
バレットさん達はガルナン首長国から今回仕入れた魔鉱石や封魔石の材料に必要な鉱物なんかを運ぶため、私達とフラノ村に一緒に入った。
カーラさん率いる護衛団は、ガルナン首長国での一連の騒動や取り決めについて伯爵に報告するということで、村に入る前に別れた。
カーラさん達が戻り次第、バレットさん達と合流して王都に向けて旅立つらしい。
「おかえりなさい。セイン先生、ユーリさん!」
「ただいま戻りました、ポールさん」
「ようやく帰ってこれましたよ!」
わざわざ村長のポールさんが出迎えてくれた。
「おや、こちらは……?」
レンジ君に気づいたポールさんがセインに尋ねた。
「ポールさん。この方はドワーフの国、ガルナン首長国から出向していただいた技能者の方です。ルーベルト伯にもお話は通っています」
「技能者の方、ですか?」
「はい。今後、この村で封魔石作りをしてほしいと申しつけられておりまして」
「なんと!」
これにはポールさんもビックリだ。
当然だろう。
村長である自分には話が全く伝えられていないのだから。
それを察したセインは、
「本当であれば、村長であるポールさんに話を先にするのが筋なのですが、我々のガルナン首長国滞在最終日に急遽決まったことでして、ポールさんへのご報告が後になってしまいました。その件については、ルーベルト伯爵令嬢様からお手紙もお預かりしております」
と、皮の紐で丁寧に巻かれた手紙を渡した。
ちなみに、この世界では羊皮紙が紙として使われている。
材料も、羊の皮だけでなく、牛や馬、魔物の皮を利用したものもある。
特に魔物の皮は丈夫で火にも強く、非常に破れにくいが、そもそも魔物を討伐しないと手に入れられないため、希少価値が高いんだとか。
それにインクを鳥の羽の根元に染み込ませた、文字通り羽ペンで文字を書く。
ポールさんは手紙を真剣に眺め、
「……確かに、承りました。いやはや、こんな辺鄙な何もない村にそのような大役を任せていただけるとは、至極光栄です」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
セインに頷くと、レンジ君の方を向き、
「私はこのフラノ村で村長を任じられております、ポールと申します。長閑なところだけが取り柄の、何もない村ですが、技能者殿にも気に入っていただけると幸いです」
と右手を胸に当てお辞儀した。
レンジ君もそれに応え、
「レンジ=トゥル=ゾレ=ガルナンと申します。今回は、このような突然の申し出にもかかわらずご快諾下さり、誠にありがとうございます」
右手を胸に当て頭を下げた。
「この村では新参者ですのでご迷惑をおかけすることと存じますが、何卒よろしくお願い致します」
と、それはそれは丁寧な挨拶をした。
(うわあ、私よりもしっかりしてる。)
中身は57歳だから当然なのかもしれないのだけど。
「これはこれは、驚きました!」
ポールさんも目を丸くしーーー恐れていた発言をした。
「まだお若いのに、とてもしっかりされた方ですな!」
「ポールさん!」
「やばっ!」
慌ててセインがポールさんを引っ張って耳打ちし、私も慌ててレンジ君にフォローの言葉をかけた。
「レ、レンジ君!ポールさんの言葉は気にしないでね!決して悪気があった訳じゃなくて、その……そう!若く見えるっていう意味でッ!」
そんな私にレンジ君は、
「いきなり僕を『レンジ君』呼ばわりした君がそれを言うのか?」
と呆れた顔を向けた。
「ウッ!」
そ……それを言われると、ポールさんのこと言えない。
「別に気にしてはいない。他国から招く技能者に、人間の子供だと間違えられることはたまにあるからな」
「そ、そうなんだ」
私もそのうちの一人ですけど。
「君やあの村長にも悪気がないことは分かっているし、子供と間違えた技能者達も、僕を尊敬してくれたことはあれど、侮辱した態度を取ったことは一度もなかった。だからある意味慣れている」
と、レンジ君は澄ました顔で答えた。
そりゃあ、レンジ君はあの国の太子だし、メチャクチャ優秀だから尊敬されて当然だ。
何より、人間サイドからすれば、レンジ君の見た目は惚れ惚れするような美少年だ。
絹のようにサラサラした深紅の髪。
大きなパッチリした二重瞼に透き通った琥珀色の瞳。
気品が漂う高く通った鼻筋、形のよい薄い唇。
小顔で、肌艶もよく、シミ一つない。
身長こそ私の胸あたりで12歳くらいの少年だけど、それでも引き締まって細身で均整が取れている。
確かにドワーフらしさはない。
だけど人間目線では、レンジ君の見た目の方がずば抜けて好感度が高い。
これも、種族による価値観の違い、ってやつなのかもしれない。
(レンジ君。この国の王子に産まれていたらモテモテだっただろうな)
と考えても仕方がないことを考えてしまい、すぐに否定する。
(そんなレンジ君だから、火の精霊と土の精霊は認めてくれた訳だ。見てくれる存在はちゃんといるってことなんだろう)
そんなことを考えていると、セインに連れられてポールさんが戻ってきて、
「申し訳ありませんでした!情けないですがドワーフという種族に疎く、まさか……私とそう変わらないお歳だとは思ってもみなかったもので!」
と平身低頭で謝ってきた。
「どうかお気になさらず。ここにいる彼女にも、同じ勘違いをされましたので」
「ちょっ……!」
レンジ君の大人の対応は流石だけど、私を引き合いに出すのやめて。
セインもホッとして、
「それで、ポールさん。レンジさんのこれからの生活についてですが……」
と具体的に相談しようとしたときだった。
「おまえのせいだッ!!」
突然甲高く叫ぶ声がした。
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