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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.42 英雄の出立、そして、今更それ言うの?!

「ところで、レンジさんは馬を動かしたことはありますか?」


「サラマンダーならあるが、馬はないな」


「もしよろしければ、今のうちに御者台に座ってみませんか?今後レンジさんにも手綱を持っていただくことがあるかもしれないので」


「ああ、分かった」


素直にセインの横に座ったレンジ君は、セインからあれこれレクチャーを受けていた。


(それにしても。私達はともかく、レンジ君にさえ見送りがないなんて、流石に薄情すぎない?)


真面目にセインの話を聞いているレンジ君の背中を見ていると、モヤモヤした感情が胸の中に燻ってくる。


(仮にもこの国の太子だった人物で、しかもこの国をドラゴンから命を懸けて守ったっていうのにさあ)


ウィルさん達にはレンジ君が黒死病を発症していたことがバレちゃったから、未だにレンジ君が国外追放されたって思っているのかもしれない。


でも坑道から救出した坑夫とか、ストライキ起こしている騎士団とか、その人たちはレンジ君にいくらでも恩義があるだろうに。


「そろそろ出口ですよ、ユーリさん」


「はーい……そう言えば、今回は私達が先頭なんだね。出国の手続きは大丈夫なの?」


「大丈夫ですよ……皆さんお待ちかねですしね」


「どういうことだ?」

レンジ君がセインに尋ねた、その時だった。



「我が国の英雄に!!」

ザッ!

「敬礼!!」



扉が開いた瞬間、凄まじい歓声が響き渡った。


「えっ?!」


出迎えたのは、2列に整列したこの国の騎士団、その背後にはたくさんのドワーフがひしめき合っている。


「な、なんだ。これは、いったい……?」

呆然と見渡すレンジ君に、セインがニッコリ笑いかけた。


「昨日レンジさんがドラゴンを倒したこと、そして今日この国を出立することが瞬く間に国中に広まりまして。国中の皆さんが城門の外で待っていたんですよ。この国の英雄をお見送りするために」


さり気なくレンジ君の手から手綱を引き継ぎ、

「さあ、レンジさん。皆さんに応えてあげて下さい」

と騎士団が作る花道をゆっくり進んだ。


私も御者台の脇から外を伺う。


「レンジ殿下ー!」

「お気をつけてー!」

「お帰りを待ってますから!」


それぞれ呼びかける言葉は、どれもレンジ君の出立を惜しみ、無事を祈るものばかり。


天地がひっくり返っても、あの性悪騎士団長のような『出来損ない』なんて言葉を吐き捨てる者はいない。


「レンジ殿下ー!!」

一際大きな声がした方を向くと、

「ありがとうございましたぁー!!」


「あれって……!」

「ええ、昨日の坑夫さん達ですね」


ドラゴンの脅威から生還した坑夫とその仲間たちだ。


相変わらず、顔を涙でグシャグシャにして憚ることなく男泣きをしている。


「君達は……本当に、ひどいな」

「レンジ君?」


振り絞るように出した声は震え、目元を何とか濡らさないようにするので必死な様子だ。


それでも、決して顔を下げることはない。


命を懸けて守った国民一人一人を取りこぼすことなく目に焼き付けているようだ。


「危うく、国民の前で……無様な顔を、晒すところだったんだぞ…ッ!」


そう言い切ると、


「”アルケミル”!」


左の義手を覆う鎧が瞬く間に形を変え、ドラゴンの首を切り落とした刃となる。


そして、御者台の上で勢いよく立ち上がり、左腕の(やいば)を高々と天に衝き上げた。


それはまさに、脅威に果敢に立ち向かい、見事平和を勝ち取った英雄の輝きそのものだった。


ワァァァーーー!!


レンジ君の勇姿に歓声が一層大きく響き渡る。

その中を、私達の馬車はゆっくり進んでいった。


「あっ!」


ふと見ると、ウィルさんを筆頭に魔鉱石錬成研究所の研究員達も手を振ってレンジ君を見送っている。


当然そのことにレンジ君も気が付いた。


ウィルさんの方に、

―――コクリ。


と深く頷くと、ウィルさんは胸に手を当て深々と頭を下げた。


こうして私達は多くの歓声に見送られ、ガルナン首長国を後にしたのだった。



「セイン、ひどいよ!なんで教えてくれなかったの~!!」

「す、すみません、ユーリさん!」


私は国が見えなくなってからも、涙でグシャグシャになった顔のままセインに文句を言い続けていた。


だってひどくない?!


あんな感動的なサプライズをセインはカーラさんから教えてもらっていたのに、私には黙っているなんて!!


「それは仕方ないんじゃないのか、ユーリ?」


私とセインの様子を面白そうに見物していたレンジ君が口を挟んできた。


「ただでさえ挙動不審の君にサプライズを教えてしまっていたら、簡単に僕にバレていただろうからな」


「何よ!レンジ君だって、さっきまで泣きそうな顔していたくせに!」


「泣きそうになっただけで、君のように本当に泣いてはいないのだから問題はないだろう?」


フッと鼻で笑って一蹴されてしまった。


変な風にごまかさないで潔く認めてくるから言い返せないじゃん!


「ユーリ」

「な、なによ?」

レンジ君が急に真面目な顔をしてきた。


「君の黒死病の治療法は、はっきり言って、とてつもなく常識外れで受け入れ難い方法だ。それはセインの方がよく分かっていると思うが」


「まあ、そうですね」

セインも頷く。


「今後もし君が黒死病を発症した患者に出会い、僕と同じように治療しようとしても、君の治療法は受け入れられず、妨害される可能性も十分考えられる。下手をすると、猟奇殺人の容疑で処刑されるかもしれない」


「ウッ…!」

(やっぱりそう言う認識になるのか)


その可能性について覚悟はしていたけど、改めて指摘されると怖気づきそうになってしまう。


「だから、もし君とセインが黒死病を治療をする際は僕が決して妨害が入らないよう手を尽くす。例えその相手がドラゴンがだったとしてもだ」


それは何とも頼もしいお言葉だ。


(だけど、あの坑道での出来事を思い出すと……冗談で笑えないのが辛い)


「それに、これは僕の勝手な予想だが、君の治療にはあのナイフやピンセット以外にも道具が必要なんじゃないのか?」


「えっ、なんで分かるの?」


「今回、君が黒死病の核と思われるものを摘出したのは僕の右肩だ。だが、もしかしたら他の部位、それこそ内臓などの体の奥深くに核が存在している患者もいるかもしれない。その際に、あの道具だけでは対処できないだろう?」


(レンジ君……恐ろしい子!)


『手術』の概念がないこの世界でそこまで柔軟に考えることができるなんて!


「治療に応じて、その都度必要な道具もすぐに作成できるようにしよう。あのナイフを錬成したようにな」


なんだかメチャクチャ手厚いサポートを申し出てくれて、とてもありがたい話だ。


だけどいいのかな。

こんなに甘えてしまって。


「ひょっとして……それが本当の目的ですか?」

「えっ?」

「私達と同じ村に住もうと考えた理由です。」


黙って聞いていたセインが話しかけてきた。


「ルーベルト伯のお屋敷はフラノ村からそこまで遠くありません。朝に出発すれば、お昼頃には到着できます。封魔石作りのために私達が近くにいた方が効率が良いのは間違いないでしょうが、例えレンジさんがルーベルト伯の近くに住んでいても、そこまで問題にはならないはずなんです」


「え、じゃあレンジ君は私達に協力するために村に住んでくれるっていうこと?」


驚く私にレンジ君はあっさり頷いた。


「ああ、そういうことだ」

「うそ、やったぁ!ありがとう、レンジ君!」

「なッ?!」


嬉しさのあまり思わず両手でレンジ君の右手を包み、ブンブン握手する。


「これから、よろしくね!!」

「~~~ッ分かったから、手を離せ!」


少し顔を赤らめながら、レンジ君は乱暴に振り払われてしまった。


「あれ~?もしかして照れてるの?」

さっきのお返しとばかりにほくそ笑むと、


「照れるわけないだろう!」

とムキになって言い返してきた。


(いつもはあんなに理性的で落ち着き払っているのに、可愛いとこあるじゃない!)


とニヨニヨしていると、


「あ、そう言えば、私もずっと気になっていたことがあるんですが」


とセインがまた話に入ってきた。


「なあに?」


「研究所に来て2日目の時、お二人は初対面ではなかったんですよね?」

ギクッ!!


「その、何があったのかなぁとずっと思ってまして」

ギクギクッ!!


「ああ、別に大したことではない」


気が付くと、すっかり落ち着きを取り戻したレンジ君が私を見ながらニヤリと笑ってきた。


(マズいッ!)

と思った時にはすでに遅く、


「その前夜に、ユーリが僕の裸を覗き見」

「わあぁぁーーー!」


慌てて大声を出してセインの耳に入らないようにする……なんてことが上手くいく訳がなく。


「・・・・・・え゛っ」


「やめて、セイン!事故、あれは事故なのよ!頼むから、そんな目で見ないでぇーー!!」

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