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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.38 カーラ現る、そして、レンジ副所長の進退決まる?!

「カーラさん?!なんでここにッ?!」


「セイン殿、ユーリさん。久しぶりだな」


高い位置に一つに纏められた亜麻色の長い髪、紫紺色のアメジストのような瞳。


麗しの女性団長とその部下の兵士達だ。


「な、なんだ!この女は?!」


「騎士団長殿下は直接ご存知ではありませんでしたね」

そして、レンジ副所長の答えに一同衝撃が走った。


「この方は、エヴァミュエル王国ルーベルト辺境伯がご令嬢、カーラ・ルーベルト殿です」


「ええっ?!」

当然知らなかった私もその余波を食らうことになる。


「セインは知ってたの?!」

「ええ、はい」


頬をポリポリ搔きながらセインが肯定した。

「なんで教えくれなかったの~!!」


そうでなければ、道中でもっと礼儀に気を付けて振舞っていたのに!

今更だけど私……とんでもない粗相してなかったよね?!


「すみません!本当は帰りの道すがらお話ししようと思っていたんです!」


セインが慌てて弁解してきた。


「以前お話ししたとおり、ルーベルト辺境伯はガルナン首長国、ティナ・ローゼン精霊国との国境を治めている御方です。言わば、我が国の外交の窓口を担っていらっしゃいます」


うん、それは出発前に地図を見せてもらいながら教えてもらった。


「ルーべルト伯は各国の情勢をいち早く把握しておくことを何より重要視しております。そのため、各国に定期的に赴く使節団を派遣しているんです」


「それが、カーラ……様ってこと?」

本当に今更だけど、敬称をつけると、


「カーラさんでいいと思いますよ。むしろ、伯爵令嬢であることは公にせずに視察にいらっしゃっているんですから」


とセインにやんわり訂正された。


「じゃあ、バレットさんも伯爵の部下なの?」


「いえ、彼は正真正銘の商人です。ですが、カーラさんはバレットさんと行動することで、伯爵令嬢としてではなく、商人の護衛という立場で各国を視察する事ができます。バレットさんにしても旅の護衛だけでなく、辺境伯の後ろ盾も手に入れられる。双方の利害が合致している訳です」


「なるほど」


セインは頭を掻きながら、申し訳なさそうに言った。


「ユーリさんのことを信用していないわけではないんです。ただ、今後もガルナン首長国に来るかどうか分からないのに、安易に身分を明かすのは控えてほしいと事前に言われていたんです」


まあ確かに、ぽっと出の助手にそんな重要なことおいそれと言えないだろうな。


「ですが今回、ユーリさんは浄化の封魔石を開発したじゃないですか。そうすると、今後も封魔石作りのため私と一緒にこの国に定期的に出張することになります。だから、カーラさんに了承を得た上でお伝えしようと思っていたんです。私達のような技能者は他国に技術提供をすると同時に、この国の情勢についても報告する義務がありますから」


「えっ、それってスパイ活動的な?」


するとセインは、


「いやいや別に諜報活動するとかではなく、あくまで一般市民の目から見て、この国が平和なのか、不穏な雰囲気がないか、そういうことを辺境伯に伝えてほしいと言うことです」


と慌てて訂正してきた。


なるほど。


確かに今回みたいに長期滞在しなければ分からないことも多いだろうし、技能者を定期的に送り出す側からすれば、市井の様子や治安も重要な懸念材料だ。


そこまで考えて、ふと気が付いた。


「あれ、ちょっと待って。そうすると、今回私達をドラゴンのいる坑道に閉じこめたのって、対外的にかなりヤバイんじゃないの?」


「ええ」

セインが重々しく首を縦に振った。


「控えめに言って……極めて深刻な外交問題となり得ます」


カーラさんが騎士団長に向き直った。


「改めて、お初にお目にかかります。私は、エヴァミュエル王国ルーベルト辺境伯が息女、カーラ・ルーベルトと申します。本日は予定よりも早く到着したため、午前中のうちに貴国へ入国し、そこにいるヒーラーとその助手と合流する心積もりでした。しかし、いつまで経っても入国できないため門番に確認したところ『緊急事態のため入国は許可できない。』とのことでした。入国できないほどの有事なのであれば、猶更その2人の安全を確保する必要があるとお伝えしても、それもできないとの一点張り。そのため不本意ではありますが、こちらの身分を明かした上で2人が連行されたこの場所に案内していただきました」


そして、


「グスタフ殿下」


カーラさんに見据えられた騎士団長はあからさまに動揺した。


「聞くところによれば、貴殿はこの2人をドラゴンが出現した坑道に、碌な護衛もつけず無理やり閉じ込めたとのことですが、それは事実でしょうか?」


「そ、それは……」


「もしそれが真実なのであれば、わざわざ貴国から要請を受けて派遣した我が国の技能者を、殿下自らが故意に危険に晒したことになります。断じて看過できることではありません」


淡々と述べられていく陳述に騎士団長の顔がどんどん悪くなっていく。


「今後貴国への技能者、特にヒーラーの派遣を中止すること、さらに、今回の件を我が国並びにティナ・ローゼン精霊国とも共有した上で、今後の貴国とのお付き合いを改めて検討する必要があります」


「ま、待たれよ!ルーベルト令嬢殿!!」

狼狽した騎士団長が声を上げて制止した。


「こ、今回の騒動の首謀者は……そう!そこにいる我が愚弟、レンジなのだ!」


「はぁッ?!」


周囲のざわつきを気にする余裕もないのだろう、レンジ副所長を指さしながら騎士団長は唾を飛ばした。


「そもそも、こやつが黒死病を発症したなどという下らないことを宣い、ドラゴン討伐から辞退しようとしたのだ!だから、私は懲らしめるためこやつを坑道に閉じ込めたところ、このお二人がこちらの制止を振り切り、レンジを追いかけて自ら坑道に入り込んだのだ!そう、私は断じて、このお二人を閉じ込めるなどという暴挙をしたのでは」


「な訳ないでしょうがッ!!」

もう、これ以上の嘘八百に黙っていられなくなってしまった。


「よくもそんな出鱈目思いつきますね!体調不良のレンジ副所長に無理やりドラゴンを討伐するよう命令したのも!レンジ副所長が黒死病だと他国に言いふらされたら困るから口封じのため私達をこの坑道に押し込んだのも!全部が全部、あなたが仕出かしたことでしょうが!!」


「こ、こらッ!そのような妄言を……!」

「妄言吐いているのはそっちでしょう!!」


「レンジ殿下」

ここでカーラさんがレンジ副所長に話を振った。


「貴殿は本当に黒死病に罹患しているのですか?」

「それについてはカーラさん、百聞は一見に如かず、です」


セインがそう前置きし、

「光の精霊よ、我にご加護を。”ヒール”」


セインの手から放たれた淡い光が優しくレンジ副所長を包み込む。


しかし、レンジ副所長はもちろん苦悶の表情を浮かべることなく受け入れ、


「相変わらず、見事な治癒魔法だ」

フッと笑みを浮かべ、セインは軽く会釈した。


「文句の付け所がない証明方法ですね、セイン殿」

一部始終を見ていたカーラさんも頷いた。


「黒死病を発症した患者は、治癒魔法をかけると耐えがたい苦痛に苛まれることになる。レンジ殿下が黒死病を発症してないことは、誰の目から見ても明らかです」


そして険しい表情で騎士団長を睨んだ。


「そもそも、ドラゴン討伐を担うのは騎士団長であらせられる貴殿のはずだ。事実、数年前にドラゴンが出現した際も、貴殿率いる騎士団の尽力でドラゴンを地底へ追い返したと伺っております。そしてレンジ殿下は魔鉱石錬成研究所の副所長であって騎士団の兵士ではない。私としては、貴殿がなぜレンジ殿下にドラゴン討伐を命じたのかが甚だ疑問なのですが?」


「グッ……!」


「貴殿は騎士団長でありながら騎士団ではないレンジ殿下にドラゴン討伐の任を負わせ、さらに、本来であれば身の安全を最優先すべき我が国の技能者を亡き者にしようと企てた、ということになります。正直に申し上げますが…これ以上の愚弄は聞くに堪えません」


(うわあ……)


額に青筋を立てたカーラさんに容赦なく追い込まれていくその姿は、見ているこちらがドン引きするほどだ。


そして同時に悟った。


(この騎士団長、レンジ副所長を都合よく利用していたわけだ)


さっきからレンジ副所長のことを『できそこない』だのなんだと言っていたけど、それは恐らくレンジ副所長のドワーフらしくない容姿や、生まれつきなかった左腕を指しているんだろう。


そして、見た目のせいで貶され続けたレンジ副所長は周囲に認められるために必死に努力し続けて、遂にはドラゴンと渡り合える程の英雄になった訳だ。


(自分が見下していた弟がいつの間にか自分よりも格上になっていたなんて絶対認めようとしないだろうし、自分が優位に立つためなら、『できそこないの弟にわざわざ活躍の機会を与えてやったんだ』ぐらい思っていそうだからね。あの騎士団長は)


だけどレンジ副所長の実力や名声を妬んで、いつの間にか本当に邪魔に思うようになった。


だから今回の暴挙に出たんだろう。


(まあ、今回は流石にやり過ぎたよね)


流石に他国の人間である私達まで巻き込んだのはやり過ぎだった。


もしレンジ副所長がドラゴンに力及ばず私達も死んでいればごまかすこともできただろうし、何より国家存亡の一大事になっていただろうから、ヒーラーとその助手の安否なんて気に掛ける余裕すらなかっただろう。


だけど結果は御覧の通りだ。


ふと、レンジ副所長が言っていた『太子の地位を返上しなければならない程の事態』という言葉を思い出す。


(確かにこれは誰かが責任を取って太子の座を退かないと、最悪他国から国交断絶されかねないわ)


誰かって言っても、まあ……言うまでもないんだけど。


最早冷汗をかくことしかできなくなった騎士団長を冷ややかな目で見ていると、


「よろしいだろうか、カーラ殿」


ここでレンジ副所長が話に入り、


「まず、今回の騒動で貴国の技能者の方を危険に晒してしまったことを深くお詫び申し上げる」


カーラさんに深々と頭を下げた。


(あの騎士団長は一度も謝罪してないっていうのに……)

ここまでくると本当にこの2人が兄弟なのか疑わしくなってくる。


「貴国が我が国に不信感を持ったことも、この国へのヒーラーの派遣を中止しようと検討するのも至極当然の結果だと重く受け止めています。ですが、数ある封魔石の中でも治癒の封魔石は特に需要が高く、各国の貴族や騎士団からの要請にも全て応えられていないのが現状です。もしここで我が国での治癒の封魔石の生産が完全に停止してしまうと、我が国の利益はともかく、危険を伴う任務に従事する者達の命がみすみす失われる恐れがある。このことは、護衛団もされているカーラ殿であれば理解していただけると思われます」


「……確かにな」


レンジ副所長の言葉にカーラさんも考え込んでしまった。


私もこの国に向かう途中で遭遇したワイルド・ウルフのことを思い出す。


ああいうのと日々戦わなければならない仕事に就いている人にとっては、治癒の封魔石はまさに命綱だろう。


「そこで……私から一つご提案があります」

一呼吸置いたレンジ副所長は、



「私、レンジ=トゥル=ゾレ=ガルナンが第3太子の地位を返上および王族からの離脱をした上で、エヴァミュエル王国の技能者として従事させて頂きたい」


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