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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.25 坑道、そして、災厄再臨

***

ガルナン首長国はガルナン山嶺の火口内に建国された国であり、山嶺を取り囲む山々とも、坑道がトンネルのように繋がっていた。


その坑道の一つを仕事に向かうの坑夫達が歩いていた。


「今日の現場もここか!」

「しかっし、薄暗い所だな」

「まあここも古いからな。その分あちこちガタが来てるけどよ」


坑夫の一人が通路を見渡す。


大事な照明灯であるランプは多くがガラスにヒビが入っていたり、酷い物だと火の封魔石がとっくに壊れてランプの役割を果たしていないものある。


また坑道の壁を支える鉄柱の多くも大部分が錆びで覆われていた。


坑道には古くから使われているものと新しく開通されたものが入り混じっている。


今日坑夫達が採掘していたのは開通してから50年以上が経っている古い坑道だった。


50年も経っていれば道の整備も進んでいるため採掘作業は格段にし易いが、年月による設備の経年劣化は避けようがなかった。


「なぁ、どうだ。終わったら一杯飲まねえか?」


「おお、いいねえ!じゃあ俺が最近通ってる店があるんだけど、そこでどうよ?サラマンダーのハンバーグが絶品でよ!」


「おいおい、仕事も始まってねえのに今から酒の話かよ!」


ドッと笑いながら坑夫達は坑道の奥に進んでいった。


―――ゴォ……ン


「んん?」

「何の音だ、こりゃ?」


どこからともなく響く重い音に全員足を止めた。


「もう先に誰かが仕事始めてんのか?」

「いや、それはないだろ?こっちの坑道の担当は俺達だけのはずだ」


全員顔を見合わせて首を傾げるが、音は何度も続いている。


「とりあえず急いだ方がいいな。作業する前に現場が荒れてたら厄介だしよ」


仕方ねぇなと言いながらも、その場にいた全員が音のする方向へ急いだ。


坑道は一本道ではなく、いくつも枝分かれしており、まるで迷路だ。


だが、作業するドワーフ達が迷わないよう坑道それぞれに番号が振られており、作業する全員に坑道の地図が渡されている。


その上、分岐点には目印や数字が記された看板もついているため迷う心配はまずない。


だから全員戸惑うことなく最短ルートで目的の場所にたどり着くことができ……信じられない光景を目を剥いた。


「何てこった……!」

「嘘だろ!」


今日の採掘現場は更に奥に進まなければならなかった。


にもかかわらず、坑道の壁が崩れ道を塞いでいたのだった。


「クッソ!余計な仕事を増やしやがって!」


「仕方ねえだろ。さっさとこの土砂をどかそうぜ」

そう宥めながら一人の抗夫が近づき土砂に手を翳した。


「土の精霊よ、我にご加護を。”ダート”!」


すると、土や石が独りでに動き出し、整列するように壁沿いに移動した。


そのおかげで、狭くなったといえ奥に進むための空間ができた。


「おお、やるじゃねえか!」

「なあに、チョロいもんよ!」

ワッと歓声が上がり、魔法をかけた坑夫が胸を張った。


「しっかし、ただ壁が崩れただけかと思ったがよ。見てみろよ」


「コイツぁ……壁の向こうはすっからかんだった訳か。」


「んー?地図に特に載ってねえけどな」


本来岩の壁で覆われていた部分にポッカリと穴だけが残っていた。


その向こう側は一筋の光さえ見えない暗闇だが、音の反響具合からかなり広い空間だということが分かる。


「ちょっと行ってみねえか?」

「やめとけやめとけ。持ち場に着くのが遅れちまう」


「そうそう。ま、あとでしっかり報告はしねえとな。壁を修復してもらわにゃ、慣れてない新人が迷子になっちまう」


坑夫の一人が持参している地図に穴が開いた壁の位置を書き込み、別の坑夫が赤い太目のロープを取り出し、慣れた手つきで穴の前に『✕』とロープを張った。


坑道には古くからあるものと新しく開通したものが入り混じっているが、それぞれの坑道が意図せず繋がってしまうことが時折あった。


ただでさえ迷路のように張り巡らされている上に新旧の坑道が交通してしまうと現場に慣れた坑夫でも迷ってしまう恐れがあり、速やかに交通箇所を塞ぐ必要がある。


しかし、その場しのぎの土属性魔法で穴を塞いでもすぐに崩れてしまったり、修復箇所がかえって分かりにくくなってしまう恐れがある。


そのため、発見した場合には下手に塞がずに目立つようにロープで進入禁止の目印をつけておき、地図にも印をつけておいて、後からしっかり補強することになっていた。


「さて急ごうぜ。大分時間を取られちまった」

やるべきことをやり、急いで先に進もうとした。


その時だった。


―――ゴオォォーーーン!


突然の地響きとともに、坑道全体が大きく揺れ始めた。


「な、なんだ?!」

「いったい、どうなってやがる!!」


あまりの揺れの大きさに立っていることができず、あの者は壁や柱に掴まったり、またある者は床に座り込んだり、それぞれ揺れをやり過ごそうとした。


すると今度は、


―――ズシン……ズシン……。


音の発信源は、どうやら進入禁止のロープを張った穴からだった。


規則的に続く地鳴りがだんだんと大きくなっていく。


「な、なんなんだよ、今度はよ!」


何が起こっているのか訳が分からず、全員パニック寸前だ。

ただ、ひとつだけ全員が共通認識していることがあった。


”ナニカが来ている。それも、とてつもなく巨大なナニカが……!”


全員固唾を飲みこみ穴のほうを凝視していると、なぜか揺れが止まり坑道の中が静寂に包まれた。


「揺れが……止まった……?」

「な、なんだったんだ、いったい……?」


だが次の瞬間―――!


『ギャオォォ―――ス!!!』


耳をつんざくような咆哮に支柱がビリビリと震えたかと思うと、穴の周囲に次々とヒビが入っていく。


「あ、穴が、崩れるぞ!!」

「おい、早く立てってんだよ!!」

「あ、足に力が入らねえ!」

「バカ野郎!甘ったれてんな!!」


泣き言をいう抗夫を叱咤し、何とか全員がその場から離れようとした。

が、


グァシャア―――ン!!


穴の縁から不気味に光る黒い爪が立てられたかと思った瞬間、一気に壁が崩れ落ち穴がドンドン大きくなっていく。


逃げなければいけないことは全員百も承知だった。


しかし、目の前に現れた圧倒的な存在に目を離すことができなかったのだ。


グルルル……と地の底にまで響く唸り声。吐く息は熱い暴風のように吹き荒れる。


「ウ、ウソ、だろ……」


黒く濁った獰猛な目がはるか上からゆっくりと坑夫達を見下ろした。


その姿は坑夫であれば誰もが知っていた。


7年前の大惨事を引き起こした、地底に君臨する生ける災厄だ。


「ファ、ファイアドラゴンだーーー!!!」

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