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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.18 ムカつく所長、そして、あの美少年が副所長で王子様?!

「……所長」


高揚した気分から一転、ウィルさんはげんなりした様子で怒鳴り込んだ人物の方を向いた。


ほかの研究員も似たり寄ったりの表情を浮かべている。


お高い深紅のローブを纏い、大ぶりの宝石がいやに目につくそのドワーフ

―――ゲイル所長が、肩を怒らせながらこちらに近づいてきた。


「貴様はたかがチーフの分際で、何勝手なことを言っている!平民上がりのヒーラーへの報酬も馬鹿にならないというのに、ヒーラーですらない助手ごときに報酬だと!?ふざけるのも大概にしろ!」


(はあっ!?)


何言ってるの、コイツ!


百歩譲って助手の私のことはともかく、国の依頼でわざわざ出向いてきたセインに対してなんてひどいことを!


セインも流石に腹に据えかねたのか表情を強ばらせている。


だけど、腹を立てているのは私達だけではなかった。


「言葉が過ぎますぞ!所長!!」

「……ッ!?」


ウィルさんの怒号が研究所全体に響き渡り、窓まで一瞬ビリビリ震える。


「本来であれば、我々の方から出向いて封魔石の作成をお願いするのが筋というものを、こうしてわざわざ来ていただいている方に何たる無礼!撤回して頂きたい!」


「な……な……!」


額に青筋を立てて怒気を孕ませるウィルさんを前に、さっきまでの威勢はどこえやら、所長、じゃなくてゲイル(もう呼び捨てでいいよね)は完全に怯んだようで、口をパクパクさせることしかできないようだ。


「しょ、所長になんてことを!」

「この方は王族だぞ!身の程をわきまえろ!」


存在感なさすぎて気づかなかったが、どうやら取り巻きみたいな連中2人がいたらしい。


「そ、そうだ!私はこの研究所の所長、しかも高貴な存在なのだぞ!本来であれば貴様のような平民が話しかけることすら許されないというのに!」


取り巻きたちに援護され、何とか立て直すゲイル。


だけど、その3人以外は完全に冷ややかな視線を浴びせている。


「な、なんだお前たち、その顔は!文句でもあるのか!」


(いや大ありだけど)


一言でも二言でも申し立てたいことが口から飛び出そうなんだけど。


(ここで私が勝手なことを言えばセインに迷惑がかかる。この研究所との関係悪くなっても困るし)


グッと我慢して睨みつけるだけに留めておくと、


「だいたい、こんな見習い如きの魔法をありがたがるなど、研究員として恥ずかしくないのか!」


私の態度が気に入らなかったのか、今度は矛先を私の方に向けてきた。


「恐れながら、所長。彼女の魔法は一般的な治癒魔法とは異なります。私も王都ですら見たことがない魔法です。こちらの研究所で検証していただく価値は十分あるかと思われます」


セインが落ち着いた声で反論してくれる。


しかし、ゲイルは鼻で笑い、


「助手を庇っているつもりなのでしょうが、ご自分の無知をさらけ出していることが分からないですかな?貴国のヒーラーの質が疑われるというものですな!」


「なん、と……!」


研究員達の顔色がサッと代わり、ウィルさんは怒髪天を貫くのを堪えているのか、ワナワナ震えている。


(まあこっちだってもう我慢の限界なんだけど!)


コイツの口に結界魔法をお見舞いしてやろうかと魔力を繰り出そうとした、その時だった。


「そこまでにして頂こうか、ゲイル所長」


高く凛とした、だけど、落ち着いた声が響き渡り、ゲイルとその取り巻きの肩が一瞬ビクッと強張る。


ウィルさんを始め、研究員、そしてセインの視線が、一斉に声の持ち主に集中した。


一方私の方はというと、


(……ん?)


聞き覚えがある声だなあ、何なら昨日、それも夜に聞いたような……とそこまで頭を巡らせたところで、勝手に冷や汗が頬をツーッとつたっていった。


こちらに近づく足音をいつまでも無視するわけにもいかない。


いやホントは前を向いたまま逃げてしまいたいのだけど、もちろんそう言うわけにもいかず、観念してゆっくりと足音の方を振り返った。


陽光にキラキラ反射する、燃え盛る炎のような髪。


大きく切れ長の目の中に輝く琥珀色の澄んだ瞳。


ゲイルと同じ深紅のローブを纏ったその下には、鈍く光る銀灰色の左腕が見え隠れしている。


きっと、この中の誰よりも小柄なんだろう。


だけど、一斉に注がれる視線にも全く物怖じしない堂々した佇まい、そして圧倒的な存在感。


(ヒィーーー!!)


その場で絶叫しなかった私を褒めて欲しい。


間違いない。


彼は、昨晩の、あの、裸体の……!


「レンジ、副所長……」

「ッ!!」


苦虫を潰したような顔のゲイルから、いかにも忌々しそうな声が漏れ出る。


でも私が気にしたのはそこではなく、


「ふ、ふく、しょちょ、う……?」

上擦った声でセイン尋ねると、


「ユーリさんはお会いするのが初めてでしたね」

セインが小声で教えてくれた。


「あの御方は、レンジ=トゥル=ゾレ=ガルナン様。この研究所の副所長であり、そして……ガルナン首長国の第3太子であらせられます」


「た、太子って?」


「この国では首長の御子息や御令嬢をそうお呼びします。我々の国の王子殿下に相当する……って、大丈夫ですか、ユーリさん!?」


(終わった……私の人生……)


セインが慌てて声を上げるが、口から魂が抜けかけている私には取り繕う余裕もない。


(要するに、私はこの国の王子様の裸を覗き見したわけだ……絶対に不敬罪じゃん……打ち首獄門か、はたまた切腹か……せっかく転生したっていうのに、最期は処刑されて終わるって……)


このまま太子殿下に気がつかれることなくやり過ごすことができればどんなにいいか、という淡い期待は残念ながらない。


バチッ!


この騒動の中心にいるセインとその助手である私。


(ヤバいヤバいヤバい!)


太子殿下のお目に留まらないわけがない。

なんならガン見されている。


「君は……ああ、そうか」

そして衝撃の一言が繰り出される。


「昨夜の痴女か。」

(……万事、休す)

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