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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.17 治癒の封魔石、そして浄化魔法の封魔石

実際にセインに封魔石作りを見せてもらうことにした。


「こちらの石に治癒魔法をかけてください」


今回セインの仕事を手伝ってくれることになった研究員さんが差し出したのは、雫のような形をした石だ。


大きさは大体4cmくらい。


尖っている方も先端は丸く磨耗され角がなくなっている。


色は全体的に灰色……というかネズミ色?


想像していたものより随分くすんだ地味な石だ。


セインが石に両手を掲げ、

「光の精霊よ、我にご加護を。”ヒール”」


すると、セインの手から溢れた光を石がどんどん吸収していき、

「あれ、なんか色が……!」

さっきまで灰色だった石がみるみるうちに柔らかな乳白色に変化していく。


「終わりました」

セインが両手を引っ込めると、そこにはミルク色の石に変身していた。


「キレイ……!」


見た目は完全に高級感溢れる大理石だ。

しかもほんのり光っている。


マジマジと見つめていると、

「お疲れ様です。次は1時間後ですので、それまで休憩してください」

研究員さんがお茶を出してくれた。


「え、1時間後って?」


お茶を美味しそうに啜るセインを見ると、どこか疲れた顔をしている。


代わりに研究員が答えてくれた。


「封魔石に魔法をかけると、通常より何倍も魔力を吸収されてしまうんです。特に、この封魔石は魔鉱率70%とかなり高いものです。だから、1個作ったら1時間休憩して魔力を回復する必要があるんです」


「結構ハードワークなんですね」


「ええ。この国で長期滞在できるヒーラーはなかなかいませんし、1時間に1個しか作れないものですら、治癒の封魔石は非常に貴重なんですよ」


研究員もできたての封魔石を眩しそうに見つめる。


「なんせ、この石1個で庭付きの家を買うことができますから」

「……はあぁ」


思わずため息が出てしまう。

これだけで家が買えるとは。


「そういえば、ユーリさんも封魔石を作ったらどうかとバレットさんと話していましたよね」


セインが思い出したように話しかけてきた。


「えっ、助手の方も治癒魔法が使えるのですか?!」

研究員さんの驚いた顔が勢いよく私の方を向く。


「い、いいえ!私は治癒魔法は使えないんです!」

頭をブンブン振りながら慌てて否定する。


「誤解させてしまって申し訳ありません。彼女は私も今まで見たことがなかった魔法を使うことができるんです。しかも、とても実用性が高いので封魔石にしてみたらどうかとバレットさんから提案されまして」


セインも擁護するように代わりに答えてくれた。


「ほお。あのバレット氏が認めるとは」

いつの間にかウィルさんが戻ってきていた。


「バレットさんて、そんなにすごい人なんですか?」


「いやはや、あれほど手広く商売をしている人間を私は知りませんぞ。何より彼の商品に対する目利きに偽りなし。そのお眼鏡に叶ったというなら、私も是非あなたの魔法を見てみたいものだ」


「ええ。セイン殿も見たことがないという魔法ならば、ぜひ私も見せていただきたい!」


「そ、そうですか?」


そんなに持ち上げられると、照れるというか、恐縮してしまうというか。


チラッとセインに目配せすると、セインは小さく、でもしっかりと頷き返してくれる。


「わかりました!」


セインの態度に自信を取り戻すなんて、私もお手軽なものだ。

辺りをキョロキョロ見回す。


「ウィルさん。あれは洗う予定のものですか?」


見つけたのは、流しに重なっている汚れた薬瓶やピンセットなどの器具、その脇には薬品にまみれて薄汚れたローブが雑に山積みにされている。


「ええ、そうですが」


ウィルさんに確認して、私はツカツカと汚れ物の傍に近づく。

徐に右手を掲げて詠唱する。


「光の精霊よ、我にご加護を。”パージ”!」


すると、あーら不思議!


こびりついていた汚れや黒ずみが跡形もなく消え、遠目からでも分かるくらいピカピカに輝いている。


「ええっ!」

見ていた他の研究員からどよめきの声が上がる。


ウィルさんが流しに近づき、ついさっきまで汚れていた道具やローブをじっくり見つめる。


「……信じられん。長年しみついて落ちなかった薬品や焦げ跡がキレイさっぱりなくなって、まるで新品のようだ!」


「というか、そのローブ、本当は白かったんですね」


魔法をかける前は灰色と黒が混じったような色をしていたのに、ウィルさんが手に取ったローブはシミ一つない純白に生まれ変わっている。


「いやあ、研究で使うローブはこまめに洗ってはいるのですが、それでも一度ついた薬品のシミなどは残ってしまうんですよ。それに我々は火も扱いますから、どうしてもススが付いたり焦げたりしてしまいましてね」


ここの研究員のローブが灰色なのは、積み重ねた汚れに染められているからなのか。


「ちなみに、この魔法で他にどんなものの汚れを落としたことがあるんですかな?」


と質問された。


「そうですね。日常的に使う食後の食器や服に……そうそう!旅では護衛団の方の武器についた魔物の血液や体液なんかもキレイに落としましたよ」


「ふーむ、なるほど」


ウィルさんは光をツルッと反射している薬瓶も確認し、


「実験器具も破損がなく、新品のようキレイになっているな。よし、早速サンプル用の石持ってきてくれ。魔鉱率は……30%で試してみよう」


「分かりました」


「それと、あの剣も持ってきてくれ」


「アレ、ですね?分かりました」


ウィルさんに言われ、研究員の1人がその場を離れた。

そして、


「お待たせしました」


目の前に置かれたのは、くすんだネズミ色で今回はピンポン玉くらいの大きさの球状の石だ。


セインの真似をして、私も両手を石の上に掲げる。


「光の精霊よ、我にご加護を。”パージ”!」


私の手から溢れた光がどんどん石に吸い込まれていき、


「……わあ!」


驚きのあまり声が漏れてしまった。


さっきまでネズミ色だったピンポン玉は、一点のくすみもない透明な水晶玉に変身していた。


「これは……とてもキレイな封魔石ですね!」

セインの目も水晶玉に釘づけた。


「わ、我々にも見せていただけませんか!?」

周りの研究員たちも我先にと近寄ってきては、次々と感嘆の溜息をついていく。


「これほど透明な封魔石があろうとは……!」

「素晴らしい……この透明度、"封霊玉”に勝るとも劣らないのでは?!」


「フウレイギョク?」

研究員の1人から、また知らないワードが飛び出してきた。


封霊玉ふうれいぎょくとは、魔鉱率100%、純粋な魔鉱石からできている封魔石のことを言います》


ここにきて今日初めてアイが解説してくれた。


まあ、ウィルさんを始め研究員達全員が私の封魔石に夢中になっているから誰も質問を拾ってくれなかったし。


(封霊玉ってそんなに珍しいの?)


《現在のドワーフの技術では、他の素材をつなぎとして使用しない、魔鉱率100%の封魔石を精製することはできません。封霊玉は存在のみ知られている幻の石とされております。さらに、封じ込めた魔法に応じて色合いの異なる透明な石に変化するため、その宝石のような審美性も高く評価されております》


(だから私の封魔石を封霊玉みたいといったわけね。ちなみに、封霊玉はどんな魔法が使えるの?)


《精霊魔法です》


……また知らない単語が出てきた。


(えーと、それってスゴいの?)


《属性攻撃魔法よりも、はるかに攻撃力が高く、そして広範囲に攻撃できる魔法です。各種族でも使用できる者はいるかどうかと言われるほど非常に高度な魔法です》


(じゃあ封霊玉を使えば、奥義クラスの魔法が使えるってことなの?)


《理論的にはその通りですが、精霊魔法を行使するためには莫大な魔力を消費するため、例え加護使いであっても簡単ではありません。ちなみに、現在封霊玉は各国が厳重に保管しているとされておりますが、その詳細は不明であり、国家機密扱いとなっております》


(国宝っていうより、秘密兵器みたいだな)


《実態はそれに近いです。精霊魔法は一国の軍隊を一度に壊滅させるとも言われるほどの威力を持つ魔法です。それを、封霊玉があれば何度も行使することができます。悪用されれば、国家存亡の脅威となり得ます》


(ほえ~。たった一つの石で国が滅んじゃうのか)


「さあ、気が済んだか?そろそろ封魔石の効果を試させてもらうぞ」


他の研究員をあしらいながら、ウィルさんが先ほど石と一緒に持ちこまれたモノを手に取る。


一見すると、布にくるまれた長い太めの棒だ。


布を外すと、

「……わあ、これはすごいですね」


出てきたのは両刃の大ぶりの剣だ。


ただ、刃は全体的に茶褐色の汚れがついており、武器に詳しくない私でも切れ味は最悪なんだろうということが想像できる。


「御覧の通り、錆や血汚れがひどくて研ぎなおすことすらできない代物です。この柄に嵌め込んでいる火の封魔石を回収するため譲り受けたのです」


ウィルさんが示したところには、刃と握りの境目(確か『鍔』って言うんじゃなかったっけ?)に丸い赤い石がついており、それだけが唯一キラキラ輝いている。


「果たして、これだけの錆がキレイに無くなるのか……”解放(リリース)”!」

すると、剣全体が白く輝き、


「「おぉ!!」」


~~何ということでしょう。あんなにしつこかった錆がキレイさっぱり消え、こびりついていた血液も跡形もなく消えている。長年の汚れで見るも無惨な剣が、この瞬間再び輝きを取り戻したのです!~~


(通販番組だったらこんなナレーションが流れるだろうな)


うんうんと仕上がりに満足していると、


「いやあ、恐れ入りましたぞ!ユーリ殿!」

「は、はいっ!?」

急に両肩をガシッと掴まれ、思わず上擦った声が上がる。


「まさか魔鉱率30%の封魔石で、これほど質の高いものを作って下さるとは!」


「は、はあ」


「この封魔石さえあれば、汚れだけでなく金属の錆びすらも完璧に落としてくれる。まさに、我々ドワーフのような鍛冶職人や騎士団にうってつけのもの!何より、魔鉱率30%であれば平民でも扱うことができる!使いやすさの点でも全く問題ない!」


「は、はあぁ」


そんな興奮気味にまくし立てられても、こっちは生返事するくらいしかできない。


「正式な商品として取り扱うにはまだまだ研究が必要ですが、ぜひこの滞在期間中にご協力頂きたい!」


「わ、分かりました」


「もちろん、しっかり報酬は払わせて頂きますぞ!」


「え、いいんですか!?」

なんと、臨時収入まで頂けるなんて!


「もちろんです。我らの研究にご協力いただくのに、タダ働きなどもってのほか!その点についても、ぜひ相談させていただきたい!」


「ありがとうございま「何勝手なことを言っている!!」

ブクマして頂ければ励みになります。

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