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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.147 ユーリの方針、そして、一件落着

(最悪だ……セインにも頭を下げさせてしまうなんて)


いよいよ自分で自分のことを説明できない状況に腹が立ちつつある。


(もう本当に全部打ち明けてしまいたいんですけどぉ……)


《だめです》


案の定アイはバッサリダメ出ししてくる。


《貴女が聖女だということは徹底して秘密にしておく必要があります。これは貴女だけでなく、周囲の者達にとっても安全対策となります》


(聖女とバレてなくても何度も身の危険に晒されていますけどね!私も、周囲も!)


それこそ、ファイアドラゴンとか、王位継承を目論んだ刺客とか!


こっちも本格的にアイの指示を無視しようと身構えた、が。


「……貴様の言う通りだ、セイン」


ディーノさんが振り絞るように出した声に押し止められた。


「自分は何もできなかった。できることなら、ルシアン様の病状も自分の力で回復させたかった。なのに、黒死病の前ではヒーラーである以上……自分は手も足も出なかった」


ディーノさんは改めて私の方を向いた。


先程の尋問するかのようなものとは打って変わった神妙な顔つきだった。


「ユーリ殿、貴女には心から感謝している。自分がルシアン様に治癒魔法をかけたばかりに、大恩ある我が主人の寿命をいたずらに縮めてしまった。だが、貴女のお陰で最悪の事態を免れ得ることができた」


「ディーノさん……」


「先程までの失言、本当に申し訳なかった。貴女が誰であろうと、黒死病患者の命を救ってきた事実を否定することはできない。記憶を失うなど途方もない不安に駆られるだろうに、そこに漬け込んで己の不甲斐なさを貴女にぶつけてしまった。誇り高きルーベルト辺境伯直属の副騎士団長としても、ヒーラーとしても、決して許される行為ではなかった。どうか……謝罪を受け入れて頂きたい!」


腰を深く折って今度はディーノさんに頭を下げてきた。


「どうか頭を上げてください!私は全然気にしていないといいますか、それもこれも私がまともに自分のことを説明できないのが悪いんですから!ディーノさんが心配されて当然だと思います!」


そもそも記憶喪失してないし、そのことで同情されると騙しているようで本当に良心の呵責に苛まれるのだ!


「ただ、これだけは信じていただきたいのですが、私は誓って疚しいことをするつもりはありませんし、これからも黒死病の治療を続けていきます。理想は黒死病の根絶なのでしょうが、それができなくても、私以外にも黒死病の治療ができるようにすることが重要だと思っております」


「ユーリさん以外にも、か?あの、治療方法を?!」


ルシアン様の治療に立ち会ったカーラさんが驚いた顔をした。


「別に私の方法が全てだとは思っていません。それこそ魔法や薬で黒死病を治療する方法が見つかれば、その方が世間は受け入れしやすいでしょう」


「それは、そうだが……」


「ですが、その方法はまだ見つかっていないのが現状です。今回摘出に成功した核のように、私の治療で得た知見から黒死病の原因究明や別の治療方法を開発することも今後重要になると思います」


「貴女の志は本当に見事だな、ユーリ殿」


ルシアン様からしみじみとお褒めの言葉をいただいてしまった。


だけど、別に私が聖女だからとか人間出来てるからとか、そういう理由でここまで考えている訳ではない。


「そうおっしゃっていただけると光栄です。ですが、これは結果的に自分のためでもあります」


「自分のため?」


ディーノさんに頷く。


「私も今後黒死病を発症する可能性は十分あります。ですが、残念ながら自分で自分の治療をすることはできません。別の誰かに治療してもらう必要があります」


それこそブ○ック・ジャックじゃないんだから、いくら聖女だからってそんな芸当できない。


「それに、黒死病が寄生生物によるものの可能性があるならば、例え一度黒死病を治療したとしても、再び発症する可能性は十分あり得ます」


「ッ?!」


ルシアン様の顔が一瞬で強張った。


ついさっきまで黒死病に苦しめられていたというのに、また同じような苦痛を味わうなど想像したくもないだろう。


「私が治療できる場合はもちろん責任を持って治療させて頂きます。ですが……」


レンジ君達に目を向ける。


「種族による寿命の違いだけは、どう足掻いても越えられない壁です。今後彼ら以外にもエルフやドワーフの治療を行ったとしても、私の寿命が尽きた後に再発して結局私以外に治療できる者がいなかったら……結局、元の木阿弥です」


すなわち、私が冗談抜きで命を懸けて成し遂げた仕事がすべて無駄だったということを意味する。


今のうちから容易に想像できる事態を放置するようなヘマを絶対にするわけにはいかない。


「自分は……実に下らない言いがかりを貴女につけていたんだな」


ディーノさんは自嘲するように笑った。


「この世界の多くの者が無意識のうちに抱いている『黒死病など自分とは無縁だ』という根拠のない思いこみ。だが貴女はまるで我が事のように真剣に考え、立ち向かっている。それに、ただ黒死病患者を治療するだけでは満足せず、治療した後も再び同じ病に苦しまなくて済むよう手を尽くそうとしている……姑息で卑しい者には到底及ばないほど深謀遠慮な考えだ」


そして、もう一度、


「本当に申し訳なかった」


今日で何度目なるかも分からない平身低頭の姿だった。


「はっ!分かりゃいいんだよ!」


「なぜ君が上から目線なんだ」


ジークの発言にレンジ君が口を挟む。


フィーちゃんもフフッと微笑み、


「ディーノ様、私達も言い過ぎてしまいましたわ。どうか、お許しください」


とディーノさんに軽く頭を下げた。


「いやっ、ユーリ殿は御当主様だけでなく、貴殿達の命の恩人!それにもかかわらず、悪く言ってしまったのは自分の過ちです!」


と慌てふためきながらフィーちゃんに弁明していた。


場の空気が一気に和やかなものに変わりホッとしていると、


「本日、貴殿達の働きには我がルーベルト家は本当に救われた。そろそろ日が暮れてしまう時刻だ」


グラハム様が静かに言った。


「今宵はゴブリン討伐の成功とルシアンの快気を祝した宴を催そうと思っている。ぜひ参加していただきたい」


ルシアン様も頷き、


「貴殿達の部屋も用意しよう。今夜はこのまま泊まって戦いの疲れを癒してほしい」


私達はその有難いお言葉に甘えることにした。

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