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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.143 治療方法、そして、交渉

「ルシアン様には治療前にお話しした通り、そして、カーラさんには実際に見てもらいましたよね?」


「ああ」


カーラさんは頷いた。


「私が行った治療は、ある意味単純な方法です」


腰のポーチからメスを取り出し、


「この小さなナイフでルシアン様の皮膚や骨を切開して、核を摘出したんです」


「なっ……?!」


ディーノさんは絶句し、グラハム様は鋭い視線を向けた。


「核を摘出した後はセインに治癒魔法をかけてもらったので、ご覧の通りルシアン様には傷一つ残っていない状態です」


ディーノさんとグラハム様は今度はルシアン様を見つめる。


当のご本人は平然とした様子で、


「私はユーリ殿が治療をしている間は眠っていたようなので、治療の経過は全く分からない。だが、彼女の治療を受け……今まで私を苛んでいた苦痛が全てきれいに無くなり、しかも再び自分の目で見ることもできるようになった」


とはっきりと答えて下さった。


「私はユーリさんの許可を得た上で治療に立ち会わせて頂きました」


続いて、カーラさんが口を開けた。


「兄上が治療を受ける前に私も同席して彼女の治療の説明を受けました。はっきり言って、常識外れだと思いました。治療と称して兄を家畜や魔物のようにバラバラに解体するのではないかと、本気でそう思いました」


そりゃまあ、『今から貴女のお兄さんの頭を切って脳みそをいじります』という説明になるのだから、そう捉えられても仕方がないのだろう。


『手術』という概念がないんだからね、この世界には。


「ですが、ユーリさんの治療は私が想像していたものとは全く別物でした。確かに兄上の皮膚も頭蓋骨も切った上で、頭の中からその塊を摘出していました。ですが……」


カーラさんは私を見ると、


「驚く程最小限の範囲で、しかも、余計な部位は全く傷つけないようにしていることが私にも伝わってきました。彼女はまるで……兄上の体の構造を全て網羅しているかのようでした」


(それは完全にアイのアシストなんだけどね)


何だか尊敬の念が込められているような眼差しに背中がムズムズしてくる。


「……おい、セイン」


しばらく静かに話を聞いていたディーノさんが、ここでセインに話を振ってきた。


「貴様もその治療の場に一緒にいたというのか?」


「はい、そうです」


セインが答えると、ディーノさんはキッとセインを睨みつけた。


「何を平然と答えている!貴様、ヒーラーともあろうものがよくもそんな非常識な治療を御当主様に受けさせることを許可できたな?!今回はたまたま運よく治療ができたから良かったものを、一歩間違えれば御当主様の寿命をいたずらに縮めるだけだったのだぞッ!」


「たまたま、ですか……」


セインはディーノさんの言葉を繰り返す。


「そうだ!こんな常識外れの治療がそう何度も上手く行くわけ


「これで4回目なんですよ、ディーノさん」


「……なに?」


ディーノさんの話を遮る。


「ユーリさんは貴方の言う常識外れの治療を、これまでに3名の黒死病患者に施しました。その結果、3名とも黒死病から見事生還し、今でも再発することなく日常生活を送ることができています。そして今回、ルシアン様はユーリさんの4人目の患者として治療を受け、黒死病を克服することができたのです」


「なッ……?!」


この事実には、ディーノさんだけでなく、カーラさん達も驚いていた。


「本当なのか、ユーリさん!」


「その患者たちは、今も生き長らえているというのか?!」


「はい、そのぉ……」


チラッとドワーフとエルフ達を見ると、3人とも目で了承してくれたので、


「みなさんはもう会っている……というか、今この部屋にいますよ?人間ではないですが」


「ま、まさか……!」


ディーノさんが信じられないように呟いた。


「ここにいらっしゃる、レンジさん、フィーさん、ジークさんは、かつては黒死病患者でした。ですが、ユーリさんと出会い治療を受け、無事生き長らえることができたのです。今回の掃討戦でレンジさんとジークさんは、黒死病患者とは思えないほどの活躍をされた。それはディーノさんの方がよくご存知だと思います」


カーラさんはフィーちゃんを見つめ、


「兄上の治療の説明を受けた時、貴女が治療を受けたことは教えてもらっていた。しかし……」


今度はレンジ君を見つめた。


「レンジ殿。ガルナン首長国で、貴方が黒死病を発症したという話が浮上していた。だがその際に、セイン殿が貴方に治癒魔法をかけたことで、その話は嘘だったという結論に至った」


「ええ、そうでしたね」


レンジ君が思い出すように目を細めた。


「では貴方は、実は黒死病を発症していたということなのか?!だが、一体いつ治療を受け……まさか?!」


カーラさんがハッと目を見開き、私を見た。


「あの閉じ込められた坑道の中で、か?!」


「あれは本当に大変でした。ファイアドラゴンが徘徊しているし、坑道がいつ崩落するんじゃないかってヒヤヒヤしながら行いましたから」


私も当時を思い出し遠い目をした。


「まあ、治療は無事成功しましたし、ファイアドラゴンも倒すことができたので結果オーライなんですけどね」


サラッと答えると、


「いや……その状況下であんな治療を強行しようなどと……」


カーラさんはどこか考えることを諦めたような顔で、


「やはり私は貴女のことを相当見くびっていたようだ」


溜息とともに答えられてしまった。


「ルシアン様」


セインは改めてルーベルト辺境伯に向き直った。


「本日お目通りを願った理由は、表向きは封魔石の件についてです。事実、ユーリさんが作成している浄化の封魔石について、一度本人も交えて皆様でお話した方が良いとは思っておりましたから」


そう言えばそうだったな。


浄化の封魔石が爆発的なヒット商品になったお陰でルーベルト辺境伯は莫大な利益を得ることになったみたいだけど、辺境伯という有力貴族だからこそ、過剰な財力を手に入れると国王陛下に睨まれるかもしれない。


そうなると、製作者本人の私にも影響が出る可能性がある。


そのことを口実に、王都に行くことも提案しようというのがレンジ君の考えだった。


だけど、言うまでもなく事情が変わってしまった。


「ですが、その建前は必要なくなりました」


セインの言わんとしていることがルシアン様には伝わったようだ。


一つ頷くと、


「真の目的は……黒死病、だな?」


とセインに尋ねる。


「ええ」


セインも頷く。


「ユーリさんを王都近郊の聖ティファナ修霊院に連れて行きたいと考えております。そのため、私とレンジさんの王都への同行を許可していただきたく存じます」

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