Karte.131 いざ地上戦、そして、ドラコの必殺技
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「先ほどのゴブリンキングの攻撃で勢いを取り戻したゴブリン達が関所に押し寄せている。僕とジークが先陣を切って道を作るから、貴殿達はその後に続いて出陣してください」
レンジの提案にディーノや部隊長達も頷いた。
「ゴブリンソルジャーは僕達が積極的に倒していくぞ」
レンジがそう言うとジークは鼻を鳴らした。
「言われなくても、ゴブリンの雑魚なんざ相手にする気にもならねえよ!」
そして足元に顔を向け、
「お前も初陣だぞ、ドラコ!ゴブリンどもを蹴散らしてやれ!」
「ピャーッ!」
ジークの呼びかけにドラコが敬礼するように胸を張った。
「おい、くれぐれもドラコの身の安全を考えてくれよ。ユーリからは何度も頼まれているんだからな」
レンジはジークに念を押し、ドラコにも、
「君も、絶対に無理はするな。命が危ないと思ったらすぐに逃げるか、僕かジークに助けを求めるんだぞ。いいな」
としつこく言い聞かせた。
「お前は心配し過ぎなんだよ、レンジ。ドラコはこう見えて、俺と一緒に特訓したりしてたんだぜ。ゴブリンごときじゃ遅れを取らないはずだ」
ジークがドラコを援護した。
「そのことをユーリは承知しているのか?」
レンジが尋ねると、
「何言ってんだよ!そういうのは、陰でこそこそやるからアッと言わせられるんじゃねえか!」
なっ!とジークはドラコに顔を向けた。
(いったいどんな特訓をしていたのやら……)
若干不安は残るが、ドラコは、子供とはいえ正真正銘のドラゴンである。
この世界の魔物の頂点に君臨する存在と言っても過言ではない。
(魔物との戦いも経験させて強くなれば、かわいいだけではなく、心強い味方にもなってくれるだろう)
そう思っていたとき、
「ゴブリンキングが、次の泥玉を投げようとしていますッ!」
兵士の1人の報告の直後、
グワンーーーッ!
恐ろしい膂力で投げられた泥玉は、レンジ達から離れた城壁を目掛けていた。
「いかんッ!」
レンジが急いで走り出そうとしたとき、
「光の精霊よ、我にご加護を。”サンダー”!」
しわがれてはいるものの、よく通る低い声が呪文を唱えるや、
ピシャーーーッ!
空から稲妻が落ち直撃すると、泥玉は呆気なく城外に崩れ落ちていった。
「すげぇ!」
「あれが、グラハム卿の雷魔法か!」
初めて見たのだろう、ジークは目を輝かせている。
「御覧の通りだ。じゃが、儂はそなた達ほど魔力が多くはない。できるだけ早くあの怪物を打倒して頂きたい」
「分かりました」
「よっしゃ、行くぞ!」
「ピャー!」
「では、兵の1人に関所の門番用の出入り口を案内させる!そこから貴殿達は外に出て、敵の包囲を破ってくれ!」
とディーノは言うが、
「申し出はありがたいが、その必要はありません」
レンジは丁重に辞退すると、レンジ、ジーク、ドラコは関所のちょうど真上の城壁の近くに進んだ。
「……おい、ちょっと待て、まさかッ?!」
この城壁は高さも十分にある。
それこそ、5階建ての建物に相当する高さだ。
だからこそ、ディーノは自分の思いつきが信じられず、そしてその思いつき通りに行動しているレンジ達の姿に目を疑った。
「止めろッ!戦う前に怪我をするつもりかッ?!」
するとジークは、
「こっから飛び降りた方がよっぽど早えし、不意打ち食らわせられるじゃねえか」
と当たり前のように答えた。
「ディーノ殿はすぐにでも出陣の支度をお願いします」
レンジも澄ました顔で言うと、
「行くぞ!」
「おおっ!」
「ピャー!」
掛け声とともに2人と1匹は城壁の外に躍り出た。
「なッ?!」
ディーノは慌てて下を覗いた―――
「おらあッ!」
ジークは風を操り地面に激突する直前に威力を殺し、見事に着地するや否や、
「ガ、ギッ……!」
腰に差した短剣を両手に持ちゴブリンソルジャーの首を一閃で切り落とした。
「ハアッ!」
対するレンジは、土属性魔法で地面を柔らかくすることで落下の衝撃を和らげ、すぐさま左腕の甲冑を手甲剣に変化させると、一斉に襲い掛かったゴブリン達を切り裂き、
「土の精霊よ、汝が加護を以て彼者を大地に縫い留めよ。”アース・ニードル”!」
「グッギャ……!」
ジークを巻き込まない程度に、地面から土の棘を作り出し、ゴブリンソルジャーを串刺しにした。
ドラコも2人に負けてはいない。
空を飛びながら全身の羽毛の温度をドンドン上昇させる。
すると、たちまち全身が火に包まれた。
そしてゴブリンに狙いを定めると、
「ピャーーー!」
「ギャギャッ!」
そのまま体当たりした。
「おい!あんな技を覚えさせたのかッ?!」
戦いの手を休めることなくレンジはジークに慌てて問い質すと、
「カッケえだろッ!」
ジークはどや顔で答えた。
「ピャー!」
全身が燃えていてもノーダメージだ。
流石はファイアドラゴンの子供ではある。
だがレンジは、
(後でジークにしっかり確認しておかなければ……!)
と強く頭に刻んだ。
陰でどんな特訓をしていたのか把握しておかないと、診療所があのゴブリンのように火だるまになりかねない。
関所の前にひしめいていたゴブリン達は、空から降ってきた2人と1匹の奇襲を前に慌てふためき、しかも各々のリーダーであるゴブリンソルジャーが真っ先に倒されていく。
我先にと逃げるゴブリン達を追いかけるように、ドワーフとエルフ、そしてドラゴンの子供は、ゴブリンキングに挑む道を切り開いていった。
「全く、大したものだ……!」
ディーノは屍と化したゴブリンやゴブリンソルジャー達を馬の上から見下ろし、感嘆の溜息を吐いた。
そして、控えていた部下たちの方を向き、
「誇り高きルーベルト辺境伯が騎士団に名誉にかけて、あの2人に後れを取るなあーーー!!」
と出陣の音頭を取った。
「おおぉーーー!!」
先程までの士気が下がった様子は微塵も感じられない。
勇ましい掛け声とともに、ディーノ率いる騎士団100名が地上戦に繰り出した。
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