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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.127 ドラコが心配、そして、カーラの過去

私、セイン、フィーちゃんはカーラさんに連れられて、ルシアン様のお部屋に向かった。


「大丈夫かなぁ、ドラコ……」


本当はレンジ君とジークのことも心配しなければならないんだろうけど。


一番気がかりなのは、卵の時から手塩にかけて育ててきたファイアドラゴンの忘れ形見のことだ。


「まさかドラコがあの2人について行くと意思表示するとは驚きました」


セインの方はドラコの成長をしみじみと実感しているようだ。


「空も飛べるようになって、自分の力を試してみたいという欲求が出てきたのかもしれません」


「いやでもね、まだ空しか飛べないんだよ?!あの子、攻撃とか防御とかできないでしょ?!」


一番心配なのはそこだ。


まあジークが、


『コイツのことなら俺に任せとけ!』


と自信満々に胸を叩いていたから、ジークの言葉を信じるしかないんだけど。


「空を飛べるというのは相当の強みだと思いますわ、ユーリさん。ゴブリンもゴブリンソルジャーも空へ攻撃することはできませんから、ドラコちゃんはそれだけ優位に立てますわ」


フィーちゃんも私を慰めるように言った。


「それに、お兄様が守ってくださるのであれば、これほど心強いことはありません。お兄様と一緒に旅をしていたときも、私のことをずっと背負いながら片手で魔物の群れと戦ったこともありました。その時も、全く遅れを取ることなどありませんでした」


ジークの身体能力ってどうなってるの?


「今回はレンジさんもいらっしゃいますし、他にも大勢の兵士さんがいらっしゃるんですよ。これだけお味方がいるのであれば、お兄様にとってドラコちゃんを守りながら戦うなんて容易いことですわ!」


フィーちゃんの力強い言葉のお陰で私の心配もいくらか晴れてきた。


「……そうだよね。いつまでも守っていてばかりじゃ、立派なドラゴンになれないものね!」


「あの鳥は、ドラゴンなのか?!」


先導していたカーラさんが勢いよくこちらを振り向いた。


(しまった!そう言えば、カーラさんにはドラコの正体のこと、言ってなかったッ!)


思わず頭を抱えそうになったが、


「違いますわ、カーラ様!『ドラゴンのように逞しくなって欲しい』という心の表れで、ユーリさんは言ったのです!」


フィーちゃんがホホホと優雅な微笑みで、華麗にカーラさんの驚きを受け流してくれた。


「そ、そうか。そうだよな。ドラゴンがこんなところにいる訳がないのだからな」


少し動揺を残しつつも、自分を納得させるようにカーラさんは頷いた。


「それにしても、ルシアン様はきっと人望があって素晴らしい方なんですのね」


話題を変えるようにフィーちゃんがカーラさんに話を振った。


「どういう意味だ?」


「カーラ様を含め皆さんが守っていらっしゃるではないですか。中には、奇異の目で見る方もいらっしゃるでしょうから」


フィーちゃんはかなり言葉を濁して伝えているが、要は『黒死病を発症したのに家を追われることなく、むしろ周囲の人間がルシアン様を匿っている』と言いたいのだろう。


ジーク以外の家族から呆気ないほど見捨てられた自分と、家族から守られているルシアン様。


黒死病を発症した後の待遇にここまで差があれば、思うところがあっても仕方がないだろう。


「そうだな。私や父はともかく、ラーベルやディーノ殿には兄上の事情を知っていながら口を堅く閉じてくれていて、頭が下がるばかりだ」


「その……カーラさんはどう思っているんですか?今回のルシアン様のことを」


私も直接的なことを言わないように気を付けながら尋ねた。


外では今から大規模な魔物討伐が始まろうとしていて、邸内にはほとんど人影がない。


それでも、万一誰かに聞かれでもしたら大事だからだ。


「……私は母の顔を知らないんだ」


ポツリとカーラさんが呟いた。


「難産だったらしい。私を産んでまもなく、息を引き取ったと聞いた」


「そう、だったんですか……」


「ですが、こちらにはヒーラーが常駐しているはずですよ。その方でも、手に負えなかったのですか?」


同じヒーラーであるセインが聞くと、


「運が悪いことに、産気づいた直後に魔物が出現して、父上はもちろん兵士達が全員出払ってしまっていたんだ。当然、ヒーラーもだ」


カーラさんは事実だけを伝達するよう淡々と答えた。


「流石に今回ほどではなかったと思うが、それでもかなりの数の魔物が出現したらしい。父上達が帰還できたのは、母が亡くなった翌日だったそうだ」


打ち明けられる痛ましい過去に、私達はかける言葉がなかった。


「母は誰からも慕われ、愛されていた。父上や兄上はもちろん、使用人や兵士、民からも。だから、母を亡くした悲しみは筆舌にし難い程だったらしい。そして、その原因となってしまった私のことを快く思わない者達も少なからずいたんだ」


「そんな!カーラさんが悪い訳じゃないのに……!」


「ああ、兄上もそう言って私をいつも庇ってくれていた」


グラハム様と同じ紫紺色の瞳を細めた。


「母を突然亡くして辛いはずなのに、私のことを一度も責めたことはなかった。辺境伯である父は、領地や国境の管理で忙しく、屋敷にいても落ち着いて話をすることもできなかった。だから、心ないことを言う者達に対して、私の代わりにはっきりと言い返してくれたはいつも兄上だった……私は何度救われたか分からない」


「素晴らしいですわ!まさしく兄の鑑ですわね」


同じ兄を持つ妹の立場で、フィーちゃんが感嘆の溜め息を漏らした。


「まあ……兄上には申し訳ないが、そのせいもあって、私はこの屋敷も含めてこの要塞に自分の居場所を見いだせなくてな。精霊の加護も授けられなかったから尚更だ。伯爵令嬢であるにもかかわらず、剣の腕と魔力操作を磨き、いつの間にか護衛団として行商人とあちこち旅をするようになったんだ。それでも兄上は反対しなかった。むしろ、『見聞を広げるのはいいことだ!』と快く送り出してくれた」


「そうだったんですか……」


流石にそこまでの事情は知らなかったのだろう、セインも驚いたように息を呑んだ。


「だから、今度は私の番なんだ」


カーラさんの目に決意に満ちた光が宿る。


「黒死病を発症しようが関係ない。今度は私が兄上を守りたい。そのために今、兄上の身の回りを全て私が取り仕切っている」


ある部屋の前でカーラさんが立ち止まった。


どうやらここがルシアン様の部屋らしい。


「だからユーリさん」


強い決意を湛えた紫紺色の瞳が私を見据えた。


「もし……もしあなたが、黒死病を治療できるのならば……、どうか兄上を助けてくれ!」


深く、深く、カーラさんは、ルーベルト辺境伯令嬢は、私に頭を下げてきた。


平民の私が、お貴族様にこんなに頭を下げさせるなんて、本当ならば恐れ多いにも程がある。


ならば、私ができることはただ一つ。


「はい……最善を尽くします!」


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