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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.126 軍議開始、そして、異質な2人

***

『最近、両目に霞がかかっているようによく見えないんだ。すまないが、治癒魔法をかけてはもらえないか?ディーノ』


『お任せください!御当主様のためなら、己の全ての魔力を使い切るまで治癒魔法をかけ続けます!』


『そこまでしなくてよいぞ』


『光の精霊よ、我に御加護を。”ヒール”!』


『グッ?!』


『どうなされましたか?!』


『グ、アァァーーー!!』


『御当主様ッ?!』


『あ、頭がッ、割れ……!』


『御当主様ーーー!!』



「―――副騎士団長!」


ハッと我に返ったディーノの前に、部下の兵士が姿勢を正して立っていた。


「騎士団長がお呼びです!エヴナン要塞にて軍議を行うため、至急参加せよとのこと!」


「なにッ?!き、騎士団長だとッ!」


思わず耳を疑ったディーノは部下に詰め寄った。


(御当主様……ルシアン様がッ?!まさかそんな!ルシアン様は、自分の治癒魔法のせいで……!)


たじろぐ部下をそのままに、ディーノは大急ぎで要塞に向かった。


「副騎士団長ディーノ、ただいま戻りました!」


国境を一望できる要塞の上部には、すでに部隊長達が揃っていた。


ルーベルト家直属の騎士団は、1部隊がそれぞれ30人前後、合計4部隊で構成されている。


各部隊長を直接取り纏まるのは騎士団長であり、副騎士団長であるディーノは騎士団長の補佐役を任されていた。


上座に腰を下ろしていた人物を見てディーノは目を剥いた。


「グラハム様ッ?!」


「戻って来て早々で申し訳ないが、第3砦の様子を皆に伝えてもらえるか。ディーノ」


既に引退した先代辺境伯が魔物討伐の采配をしていたのだった。


「恐れながら、此度の討伐の指揮は副騎士団長である私は執り行います!どうか、グラハム様は……ッ?!」


ディーノはそこで息を呑んだ。


静かに自分を見つめるその瞳には圧倒される程の気迫と雄々しさが込められており、一介の兵士であればその場で腰を抜かしてしまったであろう。


(ルシアン様がを家督引き継いだのは、先代のお年を慮ったためかと思っていたが……自分はとんだ思い違いをしていたようだ)


ゴクリと唾をのみ、ディーノは居住まいを正した。


「既に伝令を飛ばした通り、ゴブリンおよびゴブリンソルジャーによる混群が、ここエヴナン要塞に進行しております。目視で確認できる限り、1体のゴブリンソルジャーにつき5~6体のゴブリンを従えており、その総数は100体を越えるものと思われます」


周知のことではあったが、改めてディーノからその事実を聞き、各部隊長は難色を示した。


「ゴブリンだけであればどうとでもなるが、問題はゴブリンソルジャーです。1体倒すのに最低5人の兵士が必要になります。しかも、ゴブリンとの連携次第ではさらに多くの兵士が割かれる可能性もあります。今の我々だけの力でどこまで守り切れるか……」


別の部隊長がディーノに、


「副騎士団長、ルシアン様は……」


尋ねる。


一瞬息を詰めるが、


「治癒魔法を重ねがけして大分改善されているが、とても出陣できる所までには至っていない」


とディーノは答えた。


もちろん、嘘だが。


『ルシアンが黒死病を発症した』などと、バカ正直に部下達に発表できるわけがない。


部隊長以下の者達には、『たちの悪い風邪を引いており、治癒魔法を日々重ねてかけて治療している』と説明しているのだ。


(今のルシアン様はむしろ悪化の一途を辿る一方だ。他ならぬ……自分のせいで)


「あぁ?治癒魔法だぁ?それはヤベ……いってェ?!」


ハッと、声のした方を見ると、グラハムが座る後方の壁際で、足の脛をさすっているエルフが立っていた。


その隣の人物は、エルフに呆れた表情を向けている。


なぜか、白い鳥のような生き物もエルフを不思議そうに見つめていた。


(あのエルフは確か、セイン達と一緒にいた者だ。そして、隣の者も。見た目は少年のようだが、カーラ様のお話では、ドワーフの元王族だとか)


「痛ってえな!何すんだよッ、レンジ!」


「君が余計なことしか言おうとしないからだろう」


「ピャッ!」


エルフは妙に見た目の整ったドワーフに文句を言うが、ドワーフは顔を澄ましたままだ。


(いや、それよりもッ!)


それ以前の問題に気が付いた。


「お前たち!なぜこの場に当たり前のようにいるんだッ?!」


ビシッと2人を指差すと、


「テメエはさっき、セインに突っかかってきた野郎だな。俺達もゴブリン討伐に参戦することになったんだよ。感謝しやが……ツゥッ?!」


偉そうに応えるエルフの言葉は最後まで言われることなく途切れた。


レンジと呼ばれたドワーフが彼の足を踏んだからだ。


「お前、喧嘩売ってんのかッ!」


「君こそ、戦う前から揉めごとになりそうなことを言うのは止めてくれないか?ジーク」


ジロリとレンジはジークと呼んだエルフを睨み、


「どうか気を悪くしないでいただきたい。これが彼の素なんです」


とディーノに軽く頭を下げた。


「そこのエルフ殿が述べたように、彼らにも今回の討伐に参加して頂くことになった」


グラハムが厳かに宣言した。


「今回の討伐は間違いなく大規模なものとなる。現時点までの情報だと、こちらの兵力では心許ない。有難いことに彼らから協力を申し出てくれたこともあり、我らの軍議にも出席して頂いたのだ」


「な、なぜです?!確かに今回の敵の規模を考えれば、戦える者は多いに越したことはありません。ですが、彼らは兵士でもない、ただの平民でしょう!わざわざ軍議に出席させるほどの扱いをする意味が分かりません!」


ディーノが捲し立て、それを聞いていた部隊長達も頷いた。


「誤解を招くような真似をしてしまい、申し訳ありません」


ジークが声を上げる前に、レンジが口を開いた。


「特別扱いを受けるつもりは毛頭ございません。ですが、我々は本日初めて顔を合わせております。そのため、各部隊長や副騎士団長には、我々は討伐に参戦している者であると認識して頂く必要があります。戦いの最中に、間違っても『気が付いたら戦場に迷い込んでしまっていたエルフとドワーフ』という扱いとなってしまっては、それだけで隙が生じてしまいますので」


「確かに……貴殿の言うことは一理あるな」


「また、我々2人は単独での戦闘をさせて頂きたいと思っております。初対面の我々が隊の中に混じれば、返って隊を乱すことになるでしょうが、各部隊の動向が分からなければ、いたずらに行軍を乱すおそれがあります。そのため、グラハム卿のお取り計らいで、軍議に参加させていただいた次第です」


レンジの筋の通った説明にディーノ達は納得した表情を浮かべた。


「それで、貴殿達はどの程度の実力をお持ちなのか、お聞かせ願いたい。魔法が行使できるかどうかもだ」


ディーノがジークを見ると、ジークは右手の人差し指を立てた。


すると、指の先に水の玉ができる。


次に左手の上に小さな竜巻を発生させた。


「水と風の魔法が使えるぜ。それに魔物狩りは得意中の得意だ。ゴブリンソルジャーも何度も狩ったことがある」


「彼は現在120歳ですが、その大半の年月を魔物討伐に費やしてきた者です」


レンジも補足した。


「120歳ッ?!」


「とてもそうには見えん!」


「これが、エルフか……!」


ジークの魔法とレンジの言葉に、部隊長達も驚きの声を上げた。


その様子に気を良くしたのか、ジークは得意気に胸を張っている。


「ならば貴殿はどうなのだ、レンジ殿」


ディーノがレンジを見据えた。


「不躾な言い方で申し訳ないが、貴殿の体格はどう見ても戦いに向いているとは思えない。失礼ながら、魔物との戦闘経験はおありなのか?」


自分でも穿った質問だとは思ったが、このドワーフが封魔石製作に欠かせない人物であることをディーノは知っていた。


(もしこの戦いで彼に万一のことがあったら、それこそ御当主様に顔向けができん!)


すると、レンジは右手に火の玉を出した。


「ご覧の通り、火属性魔法を扱うことができます。それから」


左腕の甲冑を変形させ、あっという間に手甲剣を錬成させた。


「なんとッ!」


その場にいた全員がレンジの左腕に注目した。


「土属性魔法の一つに金属を変形させる魔法があり、それを行使して左腕を剣にして戦う機会が多いです」


剣を元の甲冑の形に変えながらレンジは言った。


「私も、祖国ではそれなりに魔物と戦う機会がありました。ゴブリンソルジャーを討伐したこともあります。つい最近の大物はファイアドラゴンでしょうか。その討伐戦にも参加したことがあります」


「ドラゴンだとッ?!」


本当はレンジがほとんど1人で倒したのだが、そこまで言ってしまうと面倒だと判断したので誤魔化すことにした。


「そこまでのご経験があるのならば、こちらから何も言うことはないな!」


ディーノは頷き、


「ぜひ我々とともに戦って頂きたい!」


副騎士団長として、彼らに協力を仰いだ。


「ええ、微力ながらよろしくお願いいたします」


「任せとけよ!」


グラハムは場の空気が和んだところで、


「では、今からそれぞれの部隊の配置と守備の段取りを話し合う。時間はかけられん、手短に決めていくぞ」


場の空気が再びピンと張りつめたものに戻った。


その時だった。


「し、失礼いたしますッ!」


兵士が1人勢いよく飛び込んできた。


「何事だ、軍議中だぞ!」


ディーノが問い質すと、


「申し訳ございません!ですが、たった今、物見が帰還したため、至急ご報告に参りました!」


片膝をついた兵士をその場の全員が注目した。


「ゴブリンソルジャー及びゴブリンの混群は、アトラン・ガルディア連峰の方角から来たとのこと。その勢力は止まること知らず、総数ーーー500匹は及ぶとのこと」


「ーーーッ?!」


ディーノを始め、部隊長達、そしてグラハムまでも息を呑んだ。


「さらに!」


「まだあるのかッ?!」


「ゴブリンどもの背後に……ゴブリンキングの存在を確認した、と」


***

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