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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.118 セインの決断、そして、いざ辺境伯に謁見

思いがけないセインの申し出に、思わず立ち上がってしまった。


「えっ!で、でも、セインはこの村の大事なヒーラーでしょ?いなくなったらみんな困るんじゃない?!」


セインがこれからも一緒に治療に付き添ってくれるのであれば、これ以上心強いことはない。


でも、この村の人達はヒーラーであるセインのことをとても頼りにしている。


嬉しい気持ちはもちろんあるけど、村の人達に申し訳ない気持ちもある。


「確かに、この村の方々は私を温かく受け入れて下さり、ヒーラーとして丁重に扱って下さっています。本当に有難いことです。ですが、それでも黒死病は人類にとって最大の課題だと思っています」


淡々とセインは話した。


「己惚れる訳ではありませんが、恐らく私以外のヒーラーがユーリさんの治療法を初めから受け入れられるとは考えにくいと思います。特に、聖ティファナ修霊院で初めて治療したとき、ユーリさんを信用せずに、最後に治癒魔法をかけないヒーラーがいてもおかしくありません」


「それは……確かに、そうだ」


確かにセインの言う通りだ。


黒死病の核を摘出したとしても治癒魔法をかけても大丈夫かどうかなんて、私とアイの脳内会話を聞かなければ分からないことだ。


そして、その会話は当然第三者が聞くことはできないわけで。


しかも、黒死病に治癒魔法をかけるなんて禁忌中の禁忌である。


これまでの経緯を知らないヒーラーが治癒魔法をかけることを躊躇ってもおかしくないのだ。


そこまで考え、セインをまじまじと見つめた。


「……セインはレンジ君によく治癒魔法をかけることができたね」


「今更ですが、そうですね……」


今更感が満載だが、それはセインも同じように感じたようだ。


「レンジさんの件については、勢いに乗ってと言いますか、一か八かと言いますか。あそこまで極限状態に追い詰められてしまうと、躊躇う余裕など全く無くなるのですよ」


当時の状況を思い出しながら、セインはしみじみと言った。


「ですから、レンジさんの黒死病が悪化することなく無事回復できて本当に安心しましたし、そのことがあったから、フィーさんやジークさんにも躊躇うことなく治癒魔法をかけることができたのです」


セインは真っすぐ私を見つめると、


「何よりユーリさんは私の助手ですし、これまでの治療を黙認していたのは私も同じです。であれば、私も一緒に同行するのは当然のことです」


「セイン……!」


自然に目が潤み、そして溢れてくる。


「よかった……セインが一緒に行ってくれるなんて……本当にありがとうッ!」


私の傍に近づいたセインが優しく私の肩にそっと自分の手を置いた。


「あの坑道で言ったでしょう?あなたはこれまで素晴らしい偉業を3回も成し遂げているのです。それに携わることができるなんて、これ以上の栄誉はありませんよ。むしろ、私の方がお願いしたいくらいです」


見上げると、そこにはいつもと変わらない『彼』の穏やかな笑みがあった。


「改めて、よろしくお願いします」


「……私の方こそ!」


私も涙を残しながら、精一杯の笑顔で答えた。


「さて、ではみなさんをお呼びしましょうか。これからのことをお話しなければなりません」


そう言って、セインは診療所へのドアに近づき、私も慌てて目尻の涙をゴシゴシ拭いた。


リビングに集まった、私、レンジ君、フィーちゃん、ジークを前に、セインが話し始めた。


「ユーリさんのお話があったように、これから私達は聖ティファナ修霊院に向かうことになりました。ですが、その前にしなければならないことがあります」


「村の人達に説明するってこと?」


私が聞くと、


「それも大切なのですが、それ以上に話を通しておかなければならない御方がいるのです」


セインに目を向けられただけで、レンジ君は察したようだ。


「この地方の領主、ルーベルト辺境伯だな」


セインも頷いた。


「ユーリさん、フィーさん、ジークさんは違いますが、私はルーベルト辺境伯のご紹介でこの村に住まわせて頂いている身です。そしてレンジさんも、封魔石を作るための技能者としてこの地方に移住しており、それをルーベルト辺境伯から許可を頂いている状態です」


「そう言えば、そうだったね」


ガルナン首長国から出立するとき、レンジ君は辺境伯令嬢であるカーラさんをそう説得していたのだ。


「聖ティファナ修霊院は王都エヴァンヌ近郊にあります。私達はまず王都を目指すことになりますが、この地を離れることについて、辺境伯に説明する必要があります」


「なんだが話が大ごとになってきちゃったかな……」


言い出しっぺの私としては、何だか申し訳なくなってくる。


するとレンジ君は、


「辺境伯からそろそろ王都に行くよう話が出てもおかしくない状況だからな。ある意味想定範囲内だ」


と、私にとっては予想外のことを言ってきた。


「どういうこと?私達、近々王都に行くことになってたの?聞いてないけどっ?!それなら早く言ってよ!」


ついでに今までの感動も返してほしい。


するとレンジ君は肩をすくめた。


「勘違いするな。その場合王都に向かうのは君だけ、同行するとしても僕だけだ。それも、黒死病とは全く関係ない内容でな」


「どういうこと?」


「浄化の封魔石だ」


「浄化の封魔石?」


思いも寄らない物の名前が飛び出してきた。


「それって、俺の眼鏡の材料にもなっているヤツだよな?」


ジークが首に掛かっている眼鏡を掲げた


「私もレンジさんから頂きましたのよ。色々な物の汚れがさっぱり落ちて、とても便利ですわ!」


フィーちゃんが首に下げている封魔石を引っ張って取り出した。


「君が毎日毎日大量に作ってくれたお陰で、王都や貴族を中心に爆発的な人気商品となっている。そして、販売の元締めであるルーベルト辺境伯にも莫大な利益が入ってきている訳だ」


「へえ、そんなことになっているんだ」


自分で作っているものがそんなに人気になっているなんて、知らなかった。


他人事みたいに呟く私をレンジ君は呆れたように見つめた。


「製造者本人なのにここまで無関心だったとは。まあともかく、君が浄化の封魔石を作ったお陰で、この地方の財力が想像以上に強くなっている訳なのだが、そうなると心中穏やかでいられなくなるのが国王だ」


「王様が困るの?なんで?」


「そもそも、辺境伯という爵位は公爵などの有力貴族に並ぶ地位であり、しかもガルナン首長国やティナ・ローゼン精霊国との国境をも管理する責務も任じられている、要は貴族の中でも国王に近い権力を持つ貴族なのです」


これにはフィーちゃんが答えてくれた。


「もちろんそれは、国王からの厚い信頼の裏返しでもあります。ですが、だからと言って一貴族の財力が急速に高まってしまうことは、極端な話、国家転覆の懸念材料となってしまいますわ」


「へえぇ……」


貴族との力関係をよく熟知しているなんて、流石は次期皇帝に任命されていただけのことはある。


フィーちゃんの説明にレンジ君も頷いた。


「フィーの言うとおりだ。だからこそ、辺境伯はあらぬ疑いをかけられないよう、製造責任者の情報も詳らかに開示しておくこと、場合によっては、レイブラント地方ではなく、王都で封魔石作りをすること了承しなければならない」


「だから、行くとしたら私とレンジ君だけになるのね……」


ようやく話の流れが分かった。


「その話も含めて、近いうちにルーベルト辺境伯の元に伺いましょう」


セインが話をまとめた。


「ただ、今回は辺境伯に正式な謁見のお許しをいただく必要があるため、数日かかるかもしれません。それはご了承下さい」


「フィーちゃんのブローチの時は、対面しなかったの?」


「それはそうだろう。あくまで疑惑程度の話が直接できるほど、辺境伯も暇ではない。それでも、側近が対応してくれたのだから、十分過ぎるというものだ」


確かにその通りだ


「では、辺境伯からのお返事がありましたら、全員で伺いましょう。同行していただくのですから、フィーさんやジークさんも是非一緒にお願いしますもちろん、お二人の身元は伏せて説明しますので」


「おう!」


「分かりましたわ!」


こうして、聖ティファナ修霊院に向かうため、ルーベルト辺境伯に面会することとなった。

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