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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.115 黒死病の正体、そして、聖女の方針

フィーちゃんやジークの手術の際に、私は核と一緒に周囲の組織も少しだけ採取していたのだ。


なんせ、核は摘出したと同時に細かい砂になって崩れてしまうため、核自体の構造や組織などの詳細は結局分からず仕舞いだった。


そのため、核の周辺組織で特に変色が強い部分を一部採取し、アイに調べてもらったのだ。



(ヒガンバナ?それって、前世にあったあの花?)


エルフ兄妹から組織を採取してそれぞれ1週間後、アイから結果が帰ってきた。


《ユーリの記憶にある花ではありません。"ヒガンバナ"とは、寄生植物の一種です。主に魔物の体を養分に発芽し、成長すると鮮やかな赤い色の花を咲かせます》


アイの画像付きの解説が脳内に流される。


魔物の死体から、鮮血を連想する毒々しい赤い花が生えている。


前世で見たことがある彼岸花の花びらは線のように細いけど、この花はもっと肉厚で幅も広く、サイズも大きめだ。


『真っ赤な百合の花』というイメージが一番近いだろう。


(この魔物は寄生されたから死んじゃったの?)


《いいえ。ヒガンバナが寄生しても魔物が死ぬことはありません。生きている魔物の魔力はヒガンバナには強すぎるため、その状態で成長しようとしても、魔物の魔力で駆除されてしまいます。そのため、魔物が生きているうちは種子のままで存在しますが、魔物が死ぬとその死体に残った魔力を養分とするのです》


(じゃあ、魔物が死んで初めて成長することができるんだ)


そうすると、宿主に対してはほぼ無害に等しい、大人しい寄生生物だ。


《はい。そして、発芽する部位が開眼するように割れ、あたかも充血した眼球のように見えるため、『緋眼花(ひがんばな)』という名称がつけられました》


(これって……ッ!)


死体にパックリ開いた約10cm程の裂け目は鮮血のように赤い。


レンジ君とジークの体内で見た黒死病の核が発動したときとそっくりだった。


《今回、フィーとジークから採取した組織の中に緋眼花と酷似した細胞が検出されました。このことから、黒死病の核は緋眼花の性質を反映させた生命体と考えられます》


生命体、しかも、元は植物だったのか。


でも、死体でしか成長できない慎ましいオリジナルとは違い、黒死病は生きている宿主の組織を侵食し遂には命を奪う恐ろしい生物に変貌している。


とんでもない突然変異体が生まれてしまったのか、それともーーー


《さらに、組織には闇属性魔法の痕跡が認められました》


(……さいですか)


《驚かないのですか?》


(何となくそんな気がしていたよ)


なにせ、最初に見たときから『タタ○神』を連想したくらいだったから、それこそ呪いやオカルトみたいなオドロオドロしいものではないかと感じていたのだ。


(というか、アイこそ今まで分からなかったの?レンジ君の皮膚の状態を見たときとか、体内をスキャンしたときとか)


《はい。今回組織を解析して初めて確認できました。外見上やスキャンでは判別できないほど非常に巧妙に魔法の痕跡が隠されております》


(なるほど。すると黒死病っていうのは、『緋眼花を闇属性魔法でかなり凶悪に品種改良して、生きている魔物だけでなく人類の命をも奪う恐ろしい寄生生物による疾患』ということになる訳ね)


《現時点までの情報を簡潔にまとめると、そう推測できます》


(でもどうやって、寄生させているんだろう?)


《オリジナルである緋眼花の種子は粉のように非常に小さいものであり、花を咲かせると同時に、空気中に大量に種子を飛散させます。それを吸い込んだ魔物の気道粘膜から種子が侵入し、宿主が死ぬまで存在し続けるのです》


(じゃあひょっとして黒死病も、そんな風に種子を飛ばしている元凶がどこかにいるっていうこと?!)


《可能性は考えられます》


それを見つけない限り、黒死病患者はこれからも増え続けるじゃない!


(それを見つける方法は?!)


《現時点ではありません》


アイはバッサリと、相変わらずの切れ味で結論を出す。


まあ、これについては治療法がある程度確立してから考えた方がいいのかもしれない。


(話が逸れるけど、緋眼花のその寄生方法なら、魔物だけでなく人間も寄生されるんじゃないの?)


《理論上ではその通りですが、魔物と違い、人間の場合、死体は埋葬されることがほとんどです。例え地中で発芽しても、花が地上に出ることなく枯れてしまいます》


オリジナル、本当にひ弱だな

あんなに大袈裟な花が咲くのに。


蝉の方がはるかに根性がある。


(ともかく、これでようやく聖女として転生させられた目的に繋がってきたわけだ)


この世界に転生したその夜にアイから

説明されたことだ。


“この世界に闇の勢力の力が増しつつあるので何とかしてほしい”


という、中身が全く分からないフワフワしたものだった。


ドラコの羽より軽そうな内容だ。


だけど、闇属性魔法によって生み出された黒死病いう病魔の原因究明や治療法の確立ということであれば、医者である私には非常に取っ付きやすい目的だし、何より『闇の勢力とバトルしろ!』とか言われるよりはるかにマシだ。


(現状は黒死病の治療法の普及と確立、そして病態の解明をする。そして、最終的には黒死病の元凶を探し出して徹底的に根絶させて、そのまま黒死病の根絶も目指す。これで、この世界に転生させられた使命を果たすことに繋がるんじゃないでしょうかッ?!)


脳内で鼻息荒くアイに問いかけると、


《現状ではそれで問題ないと思われます》


と何とも煮え切らない答えが返ってきた。


(どうしたの?いつもみたいに、スッパリキッパリ答えてくれないの?)


少し心配になって聞いてみると、


《そもそもユーリを聖女としてこの世界に転生させた理由は、6大精霊がこの世界に直接干渉できないためです》


今までとは全く違う方向性の話が出てきた。


(それはつまり……どういうこと?)


《要するに、6大精霊が直々に黒死病を根絶させることも、闇の勢力の正体を突き止め倒すこともできないということです》


(そもそもファイアドラゴンのせいで生き埋めになった時も、エルフの第一皇女のせいで生き埋めになった時も、精霊様は全く私のこと助けてくれなかったから、今更何かを期待するつもりは毛頭少しもないんだけど)


《確かにその通りですが、それはユーリ個人を直接狙っていたものではありませんでした。ですが、ユーリが本格的に黒死病を通して闇属性魔法に関わるということは、聖女であるユーリ自身が狙われる可能性が高いということを意味します》


要は、私自身の命も狙われる危険を覚悟しなければならないということか。


(まあ覚悟はしていたし、例え闇の勢力云々がなくても黒死病のことは何とかしなきゃならないとは思っていたよ。私が治療を成功させたあの3人のことも含めてね)


浮かぶのは、レンジ君、フィーちゃん、ジークという、私よりもはるかに長い時を生きる種族の3人だ。


(例え私がいなくなっても、彼らが黒死病で再び苦しまないようにできるだけのことはしたいから)


そして、


(どうやら私は思っていた以上に、この世界で彼らと生きていくことを大切に思っているみたいだから)


アイ、というより自分自身に断言した。

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