Karte.108 レンジの恋愛事情、そして、反撃?!
レンジ君と一緒に村の中を探し回るがフィーちゃんの姿はどこにも見えない。
宿屋にも顔を出したし、何なら道行く村の人にも聞いたが、誰も彼女の姿を見てないらしい。
「村の方には行っていないのかな」
「となると、エルフが行きそうな所は……」
というわけで、再びレンジ君と森の中を散策することになった。
(前回はジークを追いかけていたけど、今回はフィーちゃんか)
ジークの時のように切羽詰まっていないから、そこは気が楽だけど。
「それでも、森の中も広いからね。いったい、どの辺りにいるのやら」
私がそうぼやくと、
「……心当たりがあるのだが、まず先にそこへ行っていいか?」
「まさか……本当は密会していたとか?」
「そんなわけないだろうッ!」
と一喝されてしまった。
私にはフィーちゃんが行きそうな心当たりはないため、まずはその場所にレンジ君に連れて行ってもらうことにした。
「ぶっちゃけ、レンジ君はフィーちゃんのこと、どう思っているの?」
道すがら、気になっていたことを尋ねてみると、
「急にそんなことを言われてもだな……」
レンジ君は考えながら慎重に答えた。
「気立てがよくて、美しく、少々世間知らずな面もあるが、芯が通った、素晴らしい女性だとは思っている」
と、かなり好感度が高い。
「だがな……いわゆる、恋愛感情を持っているかどうかと言われれば、全くわからない。というより、そんな風にフィーのことを考えもしなかったから、ジークにいきなり言われて正直混乱している」
「まあ、そうだよね」
いくらフィーちゃんのことが心配だからって、ジークのあの暴走はマズかった。
「君は気が付いていたのか?フィーの気持ちに」
今度はレンジ君が私に聞いてきた。
「本人から相談を受けたわけじゃないけど、何となくそうなんじゃないかなぁとは思っていたよ」
フィーちゃんがレンジ君を見つめる眼差しとか、レンジ君が話しかけたときのフィーちゃんの様子とか。
それがまさしく、『恋する女の子』そのものの姿だったのだ。
「君もやはり女性なんだな。僕は全く気づかなかった」
「いやそれどういう意味」
と変な意味で感心されてしまった。
「それはいいんだけどさ。図らずも、レンジ君はフィーちゃんの気持ちを知って、これからどうしようとかは考えてるの?」
一番重要なのはそこだろう。
レンジ君の出方次第では、今後非常に気まずいことになってしまうのだが。
「……今ここで結論を出すことは、僕にはできない」
大分間が空いてから、絞り出すようにレンジ君は答えた。
こんなに悩んでいるレンジ君を見るのは初めてだ。
ファイアドラゴンと決戦したときの方がよっぽど冷静沈着だった。
「ちなみにレンジ君って、その……恋愛経験はあるの?」
これもかなり気になっていたことだ。
「ヒッ……?!」
「……それを僕に聞くか?」
地の底から這ってくるような声と恐ろしく冷めた目で見られてしまった。
「も、申し訳ありません!今の質問は聞かなかったことにして下さいッ!」
即座に腰を90度深く折り曲げて謝罪すると、ハンッと鼻で笑われ、
「いいや?君の質問に嘘偽りなく答えてやろう。生まれてから57年、女性と付き合ったことも、好意を持たれたことも、一度もない。どうだ、これで満足か?」
半ばやけくそ気味にレンジ君は答えた。
「いやッ、でもさッ!レンジ君は太子でしょ?!そんな高スペックだったら、無条件で女性が寄ってくるんじゃないの?!」
と慌てて尋ねると、やさぐれたように半笑いを浮かべた。
「それはすなわち、僕は第3太子という、皆が羨む地位すら霞むほど魅力がないドワーフだということだ。だいたい、僕は両親や兄達から忌み嫌われている。首長や王妃に目をつけられてまで僕に取り入ろうとする命知らずな貴族は祖国にはいない。よって、貴族の婦女子から嗤われることはあっても、好意的に見られることなど皆無なんだ!」
「なんか……ごめんなさい」
「おい謝るな。余計に惨めになるだろうが」
「でもさあ……なんか可哀そうに思えてきた」
「……なに?」
レンジ君の眉がピクッと動くのを見て、
「いや、レンジ君がじゃなくて。レンジ君の周囲の人達。本当に見る目がないんだなって」
とちゃんと付け足した。
「ドワーフの価値基準はどうかはわからないけど、私はレンジ君のことイケメンだと思うよ?」
「はぁっ?!」
「それに、頭がいい……というより天才だし、誠実だし、優しいし、頼りになるし」
「なっ何を言い出すんだ、突然!」
「それにさあ、周囲からこれだけ嫌な思いさせられてるっていうのに、卑屈になることも無気力になることもなく、しっかり努力して自分の責任を果たすことができるなんて、本当に凄いと思うよ」
私がつらつらと話し続けるにつれて、レンジ君の顔がだんだん赤くなっていく。
「まあ、私としては?レンジ君の周囲の見る目がなさ過ぎてくれたおかげで、今こうして一緒に過ごすことができる訳だから、むしろ感謝しないといけないのかもしれないけど」
「~~~そこまでにしてくれッ!」
降参するように手で顔を隠したレンジ君に、私はフフッと笑いながら、
「レンジ君ににしてみればフィーちゃんのことは晴天の霹靂だと思うから、動揺するのは当たり前だけど。きっとフィーちゃんも、レンジ君のそういう良いところを知ったから好きになったんだと思うよ?」
とフィーちゃんの話に戻した。
「今すぐ結論出せっていう方が無理な話だけど、どう転んでもレンジ君ならフィーちゃんを無暗に傷つけることなく誠実に対応できると思う」
「全く……君という人間は」
未だ赤い顔のレンジ君がどこか悔しそうに私を睨んだ。
まあ、目元に険がないから全く怖くはないんだけど。
何となく勝った気分で鼻歌混じりに森を歩いていると、
「……だったら、君はどうなんだ?」
「えっ?」
「君とセインのことだ」
「なッ?!」
今度はレンジ君から強烈なカウンターを食らう羽目になった。




