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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.107 ジーク暴走、そして、兄爆死

「え、えぇと?その……誑かす、というのは……?」


セインは額に手を当てて何とかジークの言葉を理解しようとするが、混乱で目が泳いでいる。


「そのまんまの意味だよ!おいコラ、レンジ!テメエ、いつの間に俺の妹に手ぇ出しやがったんだよ!」


「いったい全体、君は何を言っているんだ?!」


「アァ゛ッ?!この期に及んで、まだシラ切るつもりかッ!」


「ちょっ!ストップストップ!!」


本格的に胸倉を掴みそうになったため、慌ててジークの手を抑えた。


「ジーク、落ち着いて!取りあえず、手を放そう?!」


「んなこと言ったってよッ!」


「これじゃあ、何も説明できないでしょ!いいから、手を放してッ!!」


「~~~クソッ!!」


強く言うと、ジークは本当に渋々といった様子でレンジ君からゆっくり手を放した。


その隙に、レンジ君はジークから十分距離を取り、険しい顔で臨戦態勢を取った。


まあ当然の反応である。


「どういうつもりなのか、きちんと説明してもらおうか」


レンジ君は鋭く睨みつけるが、負けじとジークもギロリと睨みつける。


「それはコッチのセリフだわ、ボケが」


「あのーちょっといい?」


このままだとリビングがまたメチャクチャになってしまうため、さっさと口を挟ませてもらった。


「ジーク、ひょっとしてフィーちゃんに何か言われた?」


「なんで、お前が知ってんだよ!?」


ジークの驚いた顔を見て、


(あちゃあ……)


今度は私が額に手を当てて天を仰いだ。


(気づいてはいたよ。レンジ君に対するフィーちゃんの思いは)


ただ、自分の恋愛相談を、実の、しかも妹最優先の兄にするところが、純粋というかなんというか。


実年齢90歳だけど。


でも、ある意味仕方がないのかもしれない。


思えば、フィーちゃんは10歳から80年もの間、お城で軟禁されたも同然の生活を送っていた訳だ。


しかも周囲にいたのは、あのヤバい姉と猛毒の母である。


ただでさえ王族という身分の上に、そこまで徹底された箱入り状態では、世間慣れしろという方が無理がある。


だから、フィーちゃんとしてはこの世界で最も信頼し、かつ自分よりは世間を知っているだろう兄に恋愛相談したのだろうけど。


(でも寄りにもよって、『シスコンお兄様に相談しちゃいけないことランキング第一位!』をジークに相談しちゃうなんて!)


案の定、それを聞いた『妹命!』のジークが逆上して、怒りの矛先がこうしてレンジ君に向けられてしまった訳だ。


レンジ君は何の落ち度もない。


とっばちりをもろに直撃した憐れな被害者だ。


「どういうことなんだ、ユーリ?」


ジークに言っても埒がないと思ったのだろう、レンジ君が私に聞いてきた。


(えぇ……これ、私の口から言っちゃダメでしょ……)


フィーちゃんが告白も何もしていないのに、部外者の私が軽々しく言っていいことではないだろう。


レンジ君に見つめられても逡巡するしかできない。


すると、


「あの……ユーリさん、ちょっと」


セインの手招きにこれ幸いと近づき、壁に向かい合うようにしてレンジ君達から背を向けた。


「全然気がつかなかったのですが……レンジさんとフィーさんって、所謂そう言う関係だったんですか?!」


この流れでセインも主旨が分かったのだろう。


ジークみたいに突っ走らずに、こうしてこっそり確認するところがセインの大人なところだ。


「多分、フィーちゃんの片思いだと思う。あの様子だと、レンジ君はフィーちゃんの気持ちに気づいてすらいないでしょう」


私もコソッと返した。


「だとすると……このままだと、『ジークさんがレンジさんに勝手にフィーさんの思いを暴露しまう』という、かなりデリカシーのない事態になってしまうのではないですか?」


「まさにその通りよ。何とかジークの暴走を止めないと」


「おい、聞こえてんぞ」


かなり声量を抑えたけど、ジークの耳にはしっかり聞こえていたようだ。


流石は地獄耳。


「聞こえてるなら、これ以上レンジ君に余計なこと言わないでよ!だいたい、フィーちゃんから内緒にしててって言われたんじゃないの?」


「ウ゛ッ!そ、それは……!」


図星なのだろう、一瞬たじろぐが、


「で、でもなぁ!俺は兄として、悪い虫が付かないようフィーを守んなきゃなんねえんだよ!コイツみたいな奴とかな!」


と、すぐに勢いを取り戻し、レンジ君をビシッと指差した。


「だからッ!さっきから、君達は本当に、何の話をしているんだッ?!」


ジークに掴みかかられた怒りに加え、話に付いていけない苛つきが重なり、ここでレンジ君が声を荒げた。


(と言うより、ここまで話していて気がつかないのか?この天才ドワーフは)


頭はいいけど、色恋沙汰にはとんと疎いのだろうか。


それとも、いざ自分が関わると恐ろしく鈍くなる人がいるけど、そっちなのか?


いずれにしても、ジークを宥めつつ、何と言ってレンジ君にごまかせばいいのか。


こちらが頭を悩ませている間も、レンジ君の苛立ちは止まらない。


「フィーを誑かした、とか!フィーに色目を使った、とか!全く身に覚えがないし、君の発言は理解に苦しむのだがッ!」


「はあッ?!てめえが、変なちょっかいかけなきゃなあ!」


(・・・・・・あっ!)


ふと、リビングのドアを見て、血の気が引くのを感じた。


(これは……マズい!!)


「ジーク!それ以上



「フィーがてめえに惚れる訳ねえだろッ!!」



「―――ッ?!」

レンジ君の目が大きく開かれ、


「「・・・・・・」」

セインと私は絶句することしかできず。


そして―――


「・・・・・・お兄様」


「フィッ……?!」


リビングのドアがゆっくりと開かれ。


ドアの陰から、体を小刻みに震わせ、顔を俯かせたフィーちゃんが現れた。


(……万事休す)


「私は……お兄様を誰よりも信頼しているから……だから、だからッ……相談したのに……!」


「フィッ……フィーッ!その、これは、なッ!」


「それに……私、お伝えしましたよね?誰にも言わないで欲しい、って……!」


「フィ……フィー、あの、な」


慌てふためいたジークは何とか弁解しようと必死だ。


だが、


「……らい」


耳まで顔を赤く染め、桜色の瞳に涙をいっぱい貯めたフィーちゃんは、ジークを真っ直ぐ睨みつけた。


「お兄様なんて……大っ嫌いッ!!」


そう叫ぶと、フィーちゃんはパッと身を翻した。


「フィーちゃんッ!」


私が呼びかける声も虚しく、フィーちゃんはそのまま診療所から走り去っていった。


「ジークッ!早く、追いかけない……と……」


―――ドサッ


突然ジークがその場に跪き、


「……フィーに、嫌われ、た」


まるで魂が抜けた屍のようにそのまま蹲ってしまった。


「おーい、ジーク?」

あまりの変わりように声をかけると、


「もう、ダメだ……生きてけねえ……」

普段の彼からは考えられない程の落ち込みようだ。


「あの……大丈夫か?」

流石のレンジ君もジークを心配せざるを得ないようだった。


「と、とにかく!フィーちゃんを追いかけないとッ!」


気を取り直してレンジ君の方を向き、


「レンジ君も一緒に来てッ!」


「ぼ、僕もか?!」


「不本意かもしれないけど、一応レンジ君も関係者だから!」


「……ハァ」


大きなため息を返事に変えて、私とレンジ君はリビングのドアに向かった。


「悪いんだけど、セインはジークの傍に居てあげて。ドラコも慰めてあげて!」


「分かりました。こういうことは、女性同士の方が良いでしょうからね」


「ピャー!」


ドラコも良い鳴き声を返してくれたので、レンジ君と一緒に外に出た。

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