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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.105 ジークの見え方、そして、ドラコが空へ?!

さて、ジークの読み書き習得作戦が本格的に始動したわけなんだけど、


「えっ、もうできたの?!」


ドラコの初飛行の翌日には、レンジ君がもう試作品を考案してくれていた。


「これなら、上下方向の修正と文字の拡大が同時に解決できると思うのだが」


そう言いながら取り出したのは、


「これって……虫眼鏡?」


「ああ、凸レンズだ」


棒のような持ち手がついた、ごく普通の虫眼鏡だ。


「確かにこれなら文字は大きく写し出されますから見やすくはなると思いますが、これで上下方向を修正できるんですか?」


セインが質問する。


「確かに、対象物を近くで見れば上下方向はそのままだ」


レンジ君は羊皮紙に1㎝四方で収まるくらいの文字を書く。


それを虫眼鏡で覗くと上下方向はそのままで文字が大きく写し出される。


「だが、虫眼鏡を対象から徐々に離していくと……」


そう言いながら、虫眼鏡と文字の距離を離していく。


すると、


「文字が……上下逆さになった?!」


あるところから、なんと大きいまま上下逆さまの文字が写っているのだ!


「虫眼鏡の焦点から離れた距離の物体を見ると、虫眼鏡には逆さまに物体が写る……!」


「なぜ君はそういうことは知っているんだ?」


レンジ君が驚いたように私を見た。


昔、学校の理科の実験でやったのを思い出した。


(こんなことをすぐ思いつけるレンジ君は本当に天才だわ)


「スッゲ!でかく見える!」


ジークも楽しそうに虫眼鏡を使っている……というか遊んでいるよね、これ。


「このレンズを文字から離していくと、上下が逆転するところがあるだろう?君がそこで文字を見れば、本来の文字の見え方になるはずだ」


レンジ君が説明しながら、文字を虫眼鏡から離していく。


「……逆さまに書くなって何度も言われて、意味が分からなかったけどよ。俺以外はこういう風に文字が見えてんのか」


最初は楽しそうだったが、ポツリとどこか寂しそうにジークが呟いた。


ジークにしてみれば、自分だけ文字の見え方が違っていて、周りから取り残されていた感覚なのだろう。


「でも……これで俺もようやくまともになれんだな!」


「いや、ジークはもともとマトモだし、おかしくないから」


思わず口を挟むと、驚いたようにこちらを見て、


「……へへっ!」


何とも嬉しそうに口元を綻ばす姿に、思わずドキッとしてしまった。


(……そういえば、ジークもイケメンなんだった。しかも今までの態度が不良だっただけに、素直な一面を見せられるとギャップに萌えるわけか!)


うーん、レンジ君にしろジークにしろ、一国の王子様キャラはやっぱり顔が整っているのが通例なんだろうか。


(そう言えば、フィーちゃんも凄く美人だもんね)


何気なく彼女の方を見てみると、


「……?」


桜色の瞳がジッと一点に注がれている。

しかも、頬もほんのりピンク色だ。


その先を辿っていくと、


(……レンジ君?)


ジークに他の文字も1つ1つ虫眼鏡で確認させ、見え方が変わるかどうかを聞いている。


そんなレンジ君を見つめる瞳はキラキラ輝いている。


(この目、この顔つき。どこかで見たことがある……)


うーんと悩んでいた時だった。


「ああっ!」


珍しくセインが大声を出して、窓の外を見た。


「ど、どうしたの?セイン!」


つられて窓の外を見ると、


「アァ―――ッ!ドラコッ?!」


今日も引き続き雲一つない良い天気の中を、ドラコが気持ちよさそうにフラフラ飛んでいた。


しかも、家のように天井がないからどんどん高度が上がっている!


「な、なんで、あんなところに?!まだ部屋で寝ていたから、そっとしておいたのに!」


昨日はずっと家の中をフラフラ飛び回り、たまに落下してはキャッチされることをずっと繰り返していてよほど疲れたのか、私が起きた時もまだ起きる気配がなかった。だからそのまま寝かせておいたのだが。


「ユーリ!窓のカギはかけたのか?!」


「当然、部屋を出るときはちゃんと掛けて……ひょっとして!」


ハッと気が付く。


「私が毎日カギを開け閉めするところを見て、知らないうちに鍵の開け方を覚えた……?」


(ま、まさか……そんなッ!)


「いつの間に、そんなに賢い子になっちゃって……!」


「んな感動している場合じゃねえだろッ!」


「このままでは見失ってしまいますわ!」


ジークは窓を飛び越えそのまま外に出て、フィーちゃん、レンジ君、私とセインは慌ててドアから外に出た。


「ドラコ―――ッ!早く降りてきなさあい!」


大声を上げて呼びかけるけど、よほど空を飛ぶのが気持ちいいのか、地上に戻ろうとする気配は全くない。


「レンジさんの義手を変形させてドラコを回収できませんか?!」


「あの高さでは無理だ!届かない!」


そうこうしている間に、ドラコはピンポン玉ほどの大きさになってしまった。


「……?お兄様、向こうから何か飛んできているようなのですが」


フィーちゃんがドラコが飛んでいこうとしている方角の方を指差した。


目を凝らすと、確かにドラコに向かって幾つもの黒い点のようなものが飛んできている。


「……ヤベえぞッ!」


耳を澄ましたジークが焦ったように顔を向けた。


「ありゃあ、シャドウピジョンじゃねえか!」


「なにそれ、魔物?!」


「弱え癖にしつこく追いかけてくる魔鳥だよ!」


ドラコを取り囲むように黒い点が移動する。


「ヤツらは雑魚だから、地上の動物は襲わねえ。せいぜい屍肉を喰うだけだ。けど、ああやって数が集まったときは、散々追いかけ回して疲れ切ったところを一気に襲いかかって来やがる。ドラコは飛ぶのに慣れてねえから、今すぐ襲ってきてもおかしくねえ!」


「どうしよう!このままじゃ、ドラコが魔物のエサになっちゃうッ!」


こちらは地面の上でオロオロする事しかできない!


そうこうしている間も、ドラコは黒い点達に完全に囲まれてしまった!


「ダアァッ!仕方ねえな!"ウインド"!」


ジークが呪文を唱えると、


フワッーーー!


ジークの体が宙に浮かび、一気にドラコ目掛けて飛んでいった!


「は、早っ!」


黒い点達はジークの急襲に一気に霧散し、その隙にジークはドラコを抱えた。


「ウ゛ワッチィッ!」

「ジーク、大丈夫?!」


ドラコの放熱にジークのたじろぐ声が響く。


「問題ねえよ!」


すると、何とジークはそのままドラコを抱えたまま急降下で落下してきた。


そして、追撃するため黒い点の群もジークに集まっていく。


地面に近づくにつれ、点の1つ1つが鳩を少し大きくした黒い鳥だということが判別できるようになった。


「ジークさん!」

「このままでは、地面に激突するぞッ!」


その時だ。


「水の精霊よ。汝の加護を以て、彼の者を氷の礫で穿て!"アイシクル・ショット"!」


無数の拳大の氷塊が鳥とジークに向かって放たれる。


「"ウインド"!」


フィーちゃんが続けて呪文を唱えると、氷塊はジークを避け、周囲の鳥達に狙いを定めていく。


「ギャーーー!」


ドラコとは似ても似つかないガラガラ声とともに、ジークの周りから一斉に

鳥達が離れていく。


「見事だ、フィー!」


レンジ君が感嘆の声を上げると、フィーちゃんの顔が一気に赤くなり、


「あ……ありがとうございます……」


小さい声でゴニョゴニョとお礼を言っていた。


そして、


「"ウィンド"!」


激突する寸前、ジークは再び風を起こし、体を浮かせて完璧に着地した。


「"ウォター・アロー"!」


間髪入れずに、頭上に向けて水の矢を四方八方に発射させる。


すると、シャドウピジョン達は悔しそうにジークから距離を取り、頭上を2~3回周回したが、やがてはるか上空へ飛んでいった。


「ジーク!ドラコ!」


ジークの傍に駆け寄ると、


「ピ……ピャー……」


大分怖い思いをしたのだろう、ジークの腕の中で涙を流しながら震えていた。


「もう、心配させて!」

「ピャァー!」


ジークの手から実を捻って抜け出し、私の方に飛びついてきた。


「ジーク、ありがとう!あのままじゃ、ドラコが鳥の餌にされるところだったよ!」


とジークに頭を深く下げた。


「よせよ。お前には散々世話になってんだからよ。これぐらい、どうってことねえよ」


とジークはそっぽを向いた。


「そんなことないって!ジークはドラコの命の恩人だよ!ほら、ドラコもジークにお礼言って!」


ドラコをズイッとジークの前に出すと、


「ピャー」


ペコッと顔を下に向けた。

まるで、頭を下げているみたいだ。


「ったくよ、おめえも飛べるようになったからってチョロチョロすんなよ?」


ドラコの頭をジークはワシワシ撫でた。


「見事な風の魔法だったぞ、ジーク」


「本当に、私からもありがとうございました!」


レンジ君の賞賛とセインの感謝を受けて、ジークは擽ったそうに頬を掻いた。


「お兄様、大丈夫ですか?!」


「お前の魔法のおかげで助かったぜ!俺からアイツらに攻撃乱発させても、無駄に魔力消費するだけだったろうしよ!ありがとな!」


「ご無事で何よりでした!」


フィーちゃんも胸を撫で下ろした。


「フィーの氷魔法も本当に素晴らしかったな。風属性魔法と併用することで攻撃魔法の命中率をあげるとは!」


レンジ君がフィーちゃんに笑顔を向けると、


ポッーーー


途端に、フィーちゃんの顔が赤く染まり、


「いえっそんな……お役に立てて、うれしい限りですわ!」


とモジモジしながら答えた。


(……これは……もしかしなくてもッ?!)


しがみついてくるドラコを両腕で抱えながら、私はある結論に達した。


「ジークさん、腕を見せて下さい。ドラコの熱を触って火傷しています。すぐ、治癒魔法をかけますから」


「頼むわ」


幸いなのかどうか分からないけど、ジークはセインの治療を受けていたため、フィーちゃんの様子を見ていなかったようだ。


(……もしも気づかれるようなことがあったら、また一波乱起こりそうだな)


なんせ、ジークは『妹命』だから。



さて、空の過酷な洗礼を受けたドラコは、飛行練習は家の中だけにする事に決めたようで、散歩で外に連れて行っても、飛ぶ素振りも見せず、チョコチョコ歩き回っている。


正直、せっかくの異世界だから、魔法で空を飛ぶことに憧れがないわけでもない。


ただ、理想と現実はやっぱり違うのだと、改めて実感したのだった。


だけどだけど、それでも理想を言えば、だ。


いつかドラコが私を乗せられるくらい大きくなって、背中に乗せて空を飛んでくれないかなあ、なんて。


密かに夢は見るのであった。

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