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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.104 作戦会議、そして、封魔石の使い方

リビングで私、セイン、ジーク、フィーちゃんが朝食を食べ、もう食事はすませているレンジ君はお茶を飲みながらドラコを見てくれていた。


ドラコも飛ぶ練習でお腹が空いたのだろう、一心不乱に朝ご飯を食べているが、食べ終わったらまた飛ぶ練習をするかもしれないので、そのときのお目付役だ。


「思わぬ展開で全員が揃っているから相談したいのだが」


レンジ君が口を開いた。


「相談って、ジークのこと?」


「ああ。最終目標は『文章を読むことも、文字を書くこともできるようになる』ということで異論はないとは思うが、どういう段階で進めていくのがよいのかと思ってな」


レンジ君がジークを見た。


「君はどうなんだ?読み書きの点で、現時点で君が優先してやりたいことやできるようになりたいことはあるか?」


「俺が、やりたいこと……?」


ジークが驚いたように呟いた。


「例えば、『自分の名前を正確に書けるようにしたい』とか『まずは文章を読めるようにしたい』とか。まあ、文字が読めるようになれば書けるようにもなるだろうし、逆もまた然りだが」


レンジ君の問いかけにジークは少しの間考え、


「やっぱ、書くよりも読めるようになりてえわ。それでフィーにも迷惑かけてるしよ」


「迷惑だなんて、そんなこと思ってませんわ!」


フィーちゃんが慌てて首を振るが、


「ありがとよ。だけど俺もフィーが読んでいるものを一緒に分かるようになりてえし」


ジークがニッとフィーちゃんに笑いかけた。


(ホント、仲のいい兄妹だ)


ほんわりとした気分に浸りながら、


「そうすると、文字を読みやすくする方法を考えた方がいいよね。特に、文字が上下逆さまに見えると余計分かりにくくなるだろうから、それを修正できるようにした方がいいと思う」


と言うと、


「となると、やはり眼鏡を作った方が良さそうだな」


レンジ君も頷いた。


「何度も聞いて悪いんだけど、ジークはモノがぼやけて見えるとか二重に見えるとか、そういうのはないんだよね?」


「ああ」


「じゃあ、矢印とか丸や三角なんかの図形は?それも、線が歪んで見えたり逆さまに見えたりするの?」


「……森であんま見ねえから、よく分かんねえ」


「なら、今書いて見せよう」


レンジ君は持参したら羊皮紙になにかを書いた。


「矢印だ。ちなみに、尖っている方はどちらを向いているか指の向きで教えてくれるか?」


羊皮紙を十分使って大きく描かれたのは、上向きの矢印だ。


ジークは人差し指を下に向けた。


矢印も上下逆に見えるようだ。


「線は歪んで見えるか?」


「少しだけ、だな。形が分からなくなるほどじゃねえな」


ジークの答えで、私は確信した。


「図形も上下があると、逆さまに見えているみたい。それにやっぱり、字の大きさも重要なんだろうね」


「どういうことですの?」


フィーちゃんに聞かれ、昨日ジークが書いた文字を見せた。


ただし、上下の向きを正しい向きに直してだ。


「私が大きめに書いたからジークも字の大きさを真似して書いてたんだけど、大きな字だと線が歪んではいるけど読めないわけじゃないでしょ?」


「そうですわね」


フィーちゃんが頷いた。


「これは逆に文字を読むときも同じことが言えると思うのよ。本に書かれている文章は一つ一つの文字が小さいでしょ?そうすると、ジークにしてみれば、小さい文字の中の線や点が歪んで見えるせいで潰れたりくっついたりしていて、しかも執筆者の癖で微妙に書き方に差が出るから、余計分かりにくくなっているのかもしれない」


「そうすると、小さい文字を大きく見えるようにすればより見えやすくなる可能性が高いということですね」


セインが補足してくれた。


「上下方向の修正と拡大鏡の機能を併せ持った眼鏡、か」


レンジ君が考え込むように呟いた。


「手始めに試作品をいくつか作成してみるか」


どうやらレンジ君の中で方向性が決まったようだ。


「ですが、この村にメガネに使えそうなほど透明度の高い材料が果たして手に入れられるでしょうか……」


セインが考え込んだ。


(確かに、ここは辺鄙な田舎の村だ。封魔石の材料はあるけど、それで作れるものかしら)


と悩んでいると、


「そんなもの、いくらでも作れるだろう?ユーリが」


とレンジ君が衝撃的なことを言ってきた。


「はいッ?私?!」


思わず自分を指さすと、


「ああ。君の浄化の封魔石だ」


レンジ君はさも当然のように言ってきた。


「はっきり言って、あれほど透明度の高い石を僕は見たことがない。おまけに、君なら封魔石をいくらでも作り出すことができるから、試作品も作りやすい。レンズとしてこれ以上の材料はないぞ」


「た、確かに……」


セインの目から鱗が落ちたらしい。


私もまさか自分の作る封魔石がメガネのレンズにされる日が来るとは思わなかったけど。


「という訳だ、ユーリ。追加で浄化の封魔石を10個ほど作ってくれ。僕の方でも試行錯誤してみよう。それから、ジークは文字を一通り全部書いてみてくれ」


この世界の文字はアルファベットに似ているが、文字の数は全部で30個と4文字多い。


「あ?ユーリが持ってるあれだけじゃダメなのかよ?」


昨日書いた羊皮紙を指差した。


「文字によって見え方が変わっている可能性はある。食事が終わったら、僕が書いた文字を真似して書いてくれ」


「……分かったよ」

そんなに文字を書くのがイヤなのか。

苦虫を噛んだような顔でジークはパンを頬張った。


「私もお手伝いしますから、頑張りましょう!お兄様」

フィーちゃんにも励まされ、ようやく気を持ち直したようだ。


「あ、字はちゃんと書くけどよ。昨日の土砂災害の片づけを手伝って欲しいって宿屋の奴から言われてんだ」


「そうでしたわ。私もマリーさんに言われましたの。川にまた氷の橋を架けて欲しいって」


復旧作業するためには川をわたる必要があるけど、今は川の増水で橋が流されてしまっている。


フィーちゃんが昨日出現させたような氷で作った橋がまた必要なんだとか。


「それなら僕も行った方がいいだろうな。土砂を片付けるのであれば土属性魔法を使った方がいいだろし」


「じゃあ、私達もそれを手伝いに行った方がよさそうだね」


「そうですね」


という訳で、昨日の災害の土砂を片付けをしつつ、本格的にジークの読み書きを手伝うことが始まった。

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