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聖女、メスを執る  作者: 西園寺沙夜


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Karte.9 属性攻撃魔法、そして、『黒死病』?

「そ、そんな……無理に決まっているだろう!」


一瞬呆気にとられたカーラさんは、すぐに全力で否定してきた。


「今までの戦いを見ていただろう!ワイルド・ウルフをそう簡単に捕縛できるわけがない!わかったら、さっさと」


「このままだと、カーラさんだって危ないですよ?!」

カーラさんの話を遮り反論する。


「私も戦います!」

「な……」

「現に、ほら!」


諦めの悪いワイルド・ウルフは未だに突進を続けているが、”ガード”で召喚された障壁はビクともしていない。


「私の魔法はちゃんと通用しています!でも私は、防御することはできても攻撃することができません。だからカーラさん……!」


ガシッとカーラさんの手を握り、


「一緒に、腹括ってください!」

「……」


カーラさんはマジマジと私を見つめ、フッと口元を綻ばせた。

その瞳には、初めて会った時のような、見下すようなものはなく、


「……分かった」


私に対する信頼感が感じ取れた。


「その申し出、ありがたく受け取ろう。ユーリさん」

「……はい!」


私の手を握り返し、カーラさんは改めて魔物に剣を向けた。


それに敏感に反応したワイルド・ウルフは突進を止め、いつでも迎撃できるように体を低く身構えている。


「まず私が魔法で魔物を捕まえます。うまく捕まえられたら……」

「私が奴に止めを刺せばいいな」

私の言葉を引き継ぎ、カーラさんが頷いた。


私も頷き、頭の中でアイに話しかける。


(それじゃあ、アイ!早速あのオオカミを捕まえようと思うけど、”ヴェール”大丈夫だよね?!)


《承知しました。ですが、ただ単純に”ヴェール”の魔法を行使するだけでは、不可能です》


・・・・・・


(はいい?!さっきと言ってること違うじゃない?!)


確か、《”ヴェール”を使えば魔物を拘束できる》って言ってましたよね?!


「どうかしたのか?」

あまりにも私の様子が不審だったんだろう、カーラさんが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


《今までユーリが使用していた魔法は、『属性魔法』です。これは魔法を発現させるだけを目的にした、初歩的なものとなります》


私の抗議など物ともせず、淡々と説明が続く。


《今回のように、攻撃を目的として対象にかける魔法を『属性攻撃魔法』と言います》


……また、新しいのが出てきた。


《『属性魔法』より魔力制御が難しく、魔力消費も多くなります》

(つまり、今までの応用編ということね)

《その通りです。ですが、聖女であるユーリであれば問題にならないでしょう》

(そういうもの……なの?)

《はい。では早速私に続けて詠唱してください》


相変わらず唐突だな!

慌てて右手を伸ばし、魔物にかざす。


《光の精霊よ》

「光の精霊よ!」


《汝が加護を以て彼の者を捕らえ給え》

「汝が加護を以て彼の者を捕らえ給え!」


右手に力が集まり、光が満ち溢れてくる。


《シャイニング・キャスト》

「”シャイニング・キャスト”!」


すると、手のひらから輝く幕のようなものが勢いよく飛び出し、


「ギャンッ!」


こちらに飛び掛かろうとしていた魔物に投網のように絡みついた。


驚くワイルド・ウルフは何とか逃れようと奮闘するけど、もがけばもがくほど纏わりついて動きを封じていく。


「カーラさん、今です!」

「ああ!任せろっ!」


私の横から大きく跳躍したカーラさんが剣を振りかぶり、

ガキィン―――!


「グッ、ガ、ァ……!」


断末魔の唸り声を最後にオオカミの首は地面に落ちた。


赤い瞳からは生気が消え、ついに

ズシ、ン―――

巨体がゆっくりと倒れていった。


「はあ、はあ、っ……」


静寂の中、私の息遣いだけが一際大きく聞こえる。体の中で心臓がうるさいくらい鳴っている。


「ユーリさん!」

「セイン……」


切羽詰まった表情を浮かべたセインが駆け寄ってくる。


ガシッと両肩を掴まれ、

「大丈夫ですか?!怪我は?!」

体のアチコチを隈なく点検し始めた。


「わ、私は大丈夫だから!」

「本当に?!」

「本当!」


鬼気迫った様子に釣られて思わず大声で答えると、


「……よかった」


はああ、と大きく溜息をついたかと思ったら、


「ちょっ……」

「申し訳ありませんでした。なんの役にも立てなくて」

(ちょ、ちょっと、ええー?!)


いつの間にか私はセインの腕の中にいた。


なに大胆になっているの?!


いきなり抱きしめられて、完全にキャパオーバーなんですけど?!


脳内がフリーズ状態の私でも、ゴホンと言う咳払いは聞こえてきて、


「お取込み中のところ申し訳ないのだが」


すでに剣を納めて左肩を右手で押さえるカーラさんが話しかけてきた。


「気が済んだら治療をしてもらえないだろうか」

「は、はい!」


慌ててセインを突き飛ばし、カーラさんの元に駆け寄る。


「あなたの魔法のおかげで血は止まっているが、傷は治っていないからな」

「そ、そうでしたよねー。本当にお恥ずかしい限りです!」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。すぐに治癒魔法を行います」


(おいセイン。なんで君がそんなに落ち着いているんだよ。こっちはこっ恥ずかしくて仕方がないのに)


ツッコミたくてたまらなかったけど、目の前の怪我人に集中すべく、私はセインに目で合図した。


セインも私にうなずき返す。


私が魔法を解いた瞬間、セインが治癒魔法をかける。


カーラさんの全身が淡い光に包まれ、一番重傷の左肩だけでなく、全身の傷がみるみるうちに消えていく。


やがて光が消え、そこには完全回復したカーラさんが立っていた。


「さすがは加護使い、だな」


傷の治り具合を確認したカーラさんが感嘆する。


(かご、つかい……?)


なんだろ、また新たなワードが出てきた。それに、

(心なしか寂しそうに見えるのは、気のせい?)

さっきまでの勇ましい姿とは違う影のある様子は、小さな女の子のような……。


「や、やった……!」

「ワイルド・ウルフを2体……倒したぞ!」


湧き上がる歓声が辺りを埋め尽くし、一瞬でカーラさんがいつもの頼もしい団長の姿に戻る。


見守っていた商人や負傷していた兵士達に次々に集まってくる。


「いやはや、よくぞワイルド・ウルフを倒してくださった!」

「さすが、団長だ!」

「嬢ちゃんも、スゲー魔法だったぜ!」

「あ、その、えっと……」


感謝と賛辞の言葉が惜しみなく送られてくるけど、今までの緊張感から一気に解放された私は答える余裕がなくただオロオロするばかりだ。


一方カーラさんは物ともせず、

「早速負傷者の手当てをするぞ。それから荷物や馬車の被害状況を確認し報告しろ」

と兵士たちに言い渡す。


避難していた商人達も自分たちの馬車や荷物を確認しようと戻っていった。


そしてカーラさんはおもむろにセインに頭を下げ、


「今回は緊急事態で、あいにく手持ちも間に合っていない。ガルナン首長国に到着した暁にはあなたに正当な報酬をお支払いする。だからどうか……」


「報酬は結構ですよ」

「?!」

驚くカーラさんにセインはニコッと笑いかける。


「先ほどは全くお役に立てませんでしたから、むしろ挽回させていただきたいくらいです」


本来ヒーラーへの報酬は法外で、しかもカーラさんを含めて部下全員を治癒するとなるとどれだけお金がかかるものなのか。


カーラさんはそれを心配していたのだろう。


それを無料で請け負うというのだから、それはびっくりするよね。


「幸いみなさん出血がそこまでひどくないようですから、私も倒れなくてすみそうですし」


にこやかに話すセインにカーラさんも力が抜けたように笑みを返す。


その後、私とセインは負傷した兵士や商人達の治療に奔走した。


流血している負傷者は先手を打って私が止血し、セインは貧血を起こすことなく無事全員の治療を終えたのだ。


さらに、戦いで汚れた馬車や衣服、武器を浄化魔法でピカピカにすると大層喜ばれた。


「団長!」


すっかり怪我が治り元気になった兵士が声を上げた。

「そろそろワイルド・ウルフの解体をしましょう!」

「そうだな」

事後処理が一段落し、それまで放ったらかしだった死体に兵士達が集まってきた。


「魔物の解体とかするんですか?」

野次馬気分でそばにいた兵士に尋ねる。


「嬢ちゃんは初めてか?基本的には解体して素材として利用できる物は持ち帰ることが多いな。魔物から取れる素材は武器や防具、薬、食物、なんでも使えるぜ」


「魔物食べたりするんだ……」


素材集め。本当にRPGの世界まんまだ。


「ちなみにワイルド・ウルフって食べられるんですか?」


「ああダメダメ。肉は固いし、生臭さくってとても食べられたもんじゃねえ。でも、毛皮や牙は武器の素材として売ればいい値が付くんだぜ」

「へえ」


「しかし」

死体の解体を見守っていたカーラさんが口を開いた。

「これまで何度かワイルド・ウルフと戦ったことはあるが、ここまで凶暴な個体は初めてだったな」


そのとき、


「だ、団長……!これ、見てください!」


毛皮を剝がしていた兵士達が声を上げた。


「こ、これは……!」

「なに、これ……!?」

「どうしんたんですか?」

驚いている私達にセインがのほほんと声をかけてきた。


「……!」

私が指さすものを見て目を見開くセイン。


魔物についてはほぼ無知だけど、これだけは分かる。


「黒ずんでやがる……つうか、これ腐ってんじゃねえか!」

「ひどい匂いだ……!」


灰色の毛皮から剥きだされ露出された死体。

皮膚は全体的に変色し、至る所がボロボロに爛れていた。

そして、なんといってもこの壊死した創部特有の匂い。


「……黒死病」

「えっ」

今セインが何かボソッと言っていたような。


もう一度聞きなおそうとすると、


「カーラさん。すぐに解体を止めさせてください。この死体から採取した素材も含めて、死体を穴に埋めましょう。それからユーリさん」


回りにテキパキと指示出していき、私にも、

「兵士さんたちにもう一度浄化魔法をかけていただけませんか」

「わ、分かった」

「解体は中止だ!すぐに穴を掘るぞ!」


慌てて魔法をかけて回り、全員で穴を掘って地中奥深くに死体を埋めた。


「もうすぐ、夜になってしまう。野営場所に急ごう」

カーラさんの指示のもと、私達は忙しなくその場を去って野営場所に向かった。


(それにしても……)

セインが言っていたあの言葉。


『黒死病』


いったい何なんだろう。

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