ファンタジーにおける「宗教」について考えてみた
中世建築…まだ続いています。すみません…息抜きです
宗教。それは形こそ異なれど、世界中で見られる物です。信仰の対象や教え、思想や理論は多種多様ですが、そもそも何故その考えが発展したのかについて、考えた事はありますか?
一言で言うならば、宗教は非常にややこしいです。このエッセイ一つで理解できるものでは無いですし、なんならジャガイモ本人もちゃんと理解しているか解りません。そこは予めご理解頂ければ幸いです。本作はあくまで導入である事を忘れないで下さい。
また、本作は、特定の宗教の教えを書くのでは無く、何故宗教は生まれ、発展・変化し、力を得るのかをザっと見ていきます。また、その結果宗教が文化や社会、政治に、どう関わっていくかも軽ーく考えていきます。
これらを理解する事で、貴方のファンタジーにより一層深みのある宗教や思想を作っていきましょう!
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まず初めに、必ず例外はありますが、宗教は基本的に以下の「三つの疑問」を答える教えがあります。
【一つ目の疑問】
世界(人)は何故生まれたのか(もしくはどう作られたのか)?簡単に言うなら、「世界と人」のオリジンストーリー
【二つ目の疑問】
人としてどう生きるべきなのか?他者とはどの様に接するものなのか?e.g.人として推奨される行動や習慣、もしくは禁忌(例:清貧、殺人駄目絶対、等)
【三つ目の疑問】
死後の事(天国地獄、輪廻転生等)
「一つ目の疑問」は、実は小説には関係ない事が多いです。フワッと考えるだけで十分な気がしますが、強いて言うなら、根本的な価値観の原因になる事はあります。例えば人間は世界では、どの様な立ち位置なのか、聖地や崇拝の対象(切ってはならない木、登ってはいけない山)等の考えが根付く可能性があります。例を挙げるなら、オーストラリア原住民にとってのウルルです。
また、特定の習慣や祝日を作る事もあります。
例えば、旧約聖書に出てくる、アダムとイブが追放された「楽園」の話は、有名な「人のオリジンストーリー」です。これが原因で人は地を耕して生きていかなければならなかった訳ですが、この話は修道院における、ガーデニング文化を発展させます。ガーデニングはこの話を根本に、推奨される労働となり、「楽園の再現」を試みる、貴重な習慣となりました。
また、アブラハムの宗教(ユダヤ、キリスト、イスラム教等)における「安息日」は、神が天地創造の七日目に休息を取った事を元にしています。
「二つ目の疑問」は逆に、一番重要な要素かもしれません。人の取る行動、もしくは特定の行いに対する考えに、大きく影響します。例えば、「正当性の無い殺人の禁止」は基本的に、どの宗教にも大なり小なり関わっています。ただ、この「正当性」もまた、各宗教で少し違った考えがあるのもまた定番です。何なら、仏教の宗派には「何があっても殺人は駄目」とハッキリ提示している物もあります。逆に、特定の生き物や人種の迫害に発展する事もあります。
しかし、「二つ目の疑問」において忘れてはいけないのが「解釈」の重要性です。同じ聖書でも、「解釈違い」で様々な宗派が出るのは定番も定番、そしてそれぞれの宗派に魅力を感じる人にも、ある程度共通して見られる傾向があります。「宗教」が社会や民族性の傾向に影響するのもある一方、逆に「自分達に都合よく」宗教を解釈する事もある訳です。
例えば身近なホットトピックである「死刑制度」。他の要素を全部抜き、「キリスト教」のみで見た場合、「キリスト教的に見る死刑制度の賛成意見」と「キリスト教的に見る死刑制度の反対意見」、どちらも存在します。
前者は「聖書にも死刑は採用されている、つまり神も認めている(Exodus 21:22-35; Leviticus 20 & 24; Deuteronomy 21-24)」や「聖トマス・アクィナスは『悪人の改心よりは、社会の平穏を優先するべきとおしゃった、個人の事より社会の事を優先するべきだと、ローマ・カトリック教会も言っている』」「人を殺めたものは、また人の手によって殺められる(Genesis 9:6)」等主張します。
後者は「キリストは罪を背負い、罪人を改心させる事を目的とした。罪を犯し、殺されそうになった女を救った(John 8:1-11)故、死刑は推奨していない」や「『目には目を、歯には歯を』と言われていたことは、あなたがたの聞いているところである。 (中略)悪人に手向かうな。もし、だれかがあなたの右の頬を打つなら、ほかの頬をも向けてやりなさい(Matthew 5:38-39)」、「だれに対しても悪をもって悪に報いず、すべての人に対して善を図りなさい(Romans 12:17-19)」等を主張します(実際の所、両者の主張はもっとありますが、それだけでもエッセイ一本分くらいするので、割愛します)。
王侯貴族に魅力的な「解釈」、神官が納得する「解釈」、一般人や社会的弱者の好む「解釈」—当然全部違います。結局の所、皆自分のやりたい事がしたいのです。ベースにある「宗教」は、それをある程度抑え、コントロールこそすれど、人はどうしても抜け道を探したくなります。
また、これらは主に一神教である場合ですが、多神教である場合、上記と同じ様な理由で、個人や団体によってどの神様を「優先」するかも変わってきます。戦の神、知恵の神、大地の神、天空神、etc。
古代アテネとスパルタは、どちらも同じ神々が信仰対象であれど、価値観の違い故に前者は知恵の女神アテナを主に、後者はアポロンやアルテミスを大切にしました(一応アテネが守護神でもありましたが…)。
宗教は「人として推奨される行い」を影響する一方で、「(力のある)人や団体が行いたい行動を可能にする為、独自解釈される場合が多い」のです。
極論、「その地域でメインストリームな宗教、宗派は、その地域で最も影響力/力のある人物・団体に、何らかの形で都合が良い物である」事が殆どです。貴方の作品の宗教にも、多少なりともこれを反映させると良いと思います。
さて、「三つ目の疑問」ですが、「二つ目の疑問」における「善い行い、悪い行い」がハッキリしている物程、「天国 or 地獄」みたいな考えがある事が殆どです。これを逆手に取り、教会等の宗教団体が力を得る事も多々あります。死後に対する恐怖を煽り、自分達にとって都合よく物事を動かす事が出来る訳です。また、死後の恐怖により、晩年で急に慈善活動に勤しむ人が出る原因でもあります(ウィリアム一世等)。
一方で、「ヴァルハラ」の様に、戦で死ぬ事への恐怖を軽減させる物もあります。
日本の古墳や古代エジプトのピラミッドの様に、この「死後の世界」に対する考えが原因で、世界遺産が出来る事もあります。
さて、先程述べた「宗教における解釈違い」に多少なりとも影響を与えるのが、「その地域の人が重宝する要素」です。勿論、「偉い人にとって都合が良い解釈」も大事である一方、信者達の生活に欠かせない要素も考える事が大事です。
漁を中心に生きるなら、海に関連する信仰があるかもしれません。
過酷すぎる環境に住む人達は、もしかしたら死後に夢見ているかもしれません。
農作物に頼る民族で、尚且つ雨の少ない地域、となれば、天空神が最も重要な神、となるかもしれません。「地理」は宗教の形を作る、とても重要な要素です。
史実の例を挙げるなら、古代エジプトにおけるハピはナイル川の化身です。ナイル川が人々の生活にとって重要な物であったからこそ、こうして信仰対象となった訳です。
それらを踏まえた上で考えるのが「一神教」なのか「多神教」なのか?神が崇拝対象である場合、「人間との関係」は何なのか?全知全能の父(母)なのか(一神教に多い)?時には友人、恋人、兄弟なのか(多神教における、性格のべリエーションが広い場合等)?
唯一神を信仰する宗教は、多神教より宗教団体に力が集中し、政治にも影響を与え、権力を得る傾向があります。後に莫大な資産を得る場合も勿論あり、結果宗教建築は非常に豪華だったりもします。キリスト教、特にローマ・カトリック教会が一番良い例でしょう。
一方、多神教は特定の団体や宗派が、莫大な支持を得る事は少なめです。それでも、古代ギリシャの様にそれぞれの信仰(重視)対象が違っても、同じ宗教である事には変わらないので、ある程度の統一感はあります。また、「神々は沢山いる」の考えが根本にあると、元々は別物であった他の多神教と「混ざる」事もあるので、宗教のみを原因とした争い事は、唯一神を信仰する宗教と比べ少ないです。
基本、他の集団が他の神を信仰していても、「あいつらの神だな(俺たちの程良くないけど)」で終われます。
そして次に考えるのが、その宗教の規模と歴史。その宗教の歴史が長ければ長い程、規模が大きければ大きい程、解釈違いや宗派のバリエーションが多くなり、そして争い事の原因となる可能性が高くなります。
キリスト教が良い例です。まず有名どころでは当初大まかに、「東方教会(正教会)」と「西方教会 (ローマカトリック)」とほぼ二分裂してました。それでいて、また更に細かい宗派や思想、「○○会」「○○派」と正直把握できない程多種多様です。後からプロテスタントとか出てきますしね。キリスト教の分類はすっごい多いですよ。
ではそもそも宗教はどの様にして広がるのか?規模の大きい宗教に多様性があるのは、その「広がり方」が結構大きな要素だったりします。
ここでまたキリスト教です。現代でも世界で一番信者が多いのが「キリスト教」ですが、これは3世紀から燎原の火の如く、元々あったペーガン宗教、ローマやケルト、北欧もゲルマンやスラヴ等を飲み込みながら広がりました。その一番の要素は、主に多神教であった現地の信仰対象である神々を、キリスト教の「聖者」とフュージョンさせたり等、少なくとも巨大になるまでは否定から入らずに「取り入れた」からです。しかし一方で、これは根本的な「キリスト教」を広めるのには効果的であったものの、各地域によって微妙に解釈違いや考えの違いが出てくるのです。
さてこれらの事を踏まえた上で宗教を作ったとします。今度はそれが、どの様に人々の生活に影響を与えるのか、考えていかなければなりません。
先ず一つ目、「信者は宗教の為なら、どこまで犠牲に出来るのか?」。信仰方法は日々の祈りで良いのか?それとも生贄などが必要なのか?特別な儀式は必要なのか?
次に、人とは結局の所、自分勝手な生き物です。「信者は宗教から、何を得る事望んでいるのか?」。死後の救い?特別な力?富や豊穣、健康な体?
犠牲が得る物を凌いだ場合、新しい宗派(新たな解釈)が出来たり、もしくは個人や団体を改宗するキッカケになったりもします。犠牲に対し、褒美が見合わないからです。
それでいて、上記で述べた全ての事は、時代と共に変わっていきます。結果、宗教の形そのもが変化する事もあれば、宗教自体が衰退をたどる事もある訳です。
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まとめ:ファンタジー宗教を作る手順
1.その宗教が「三つの疑問」に対する答えを理解する事。特にストーリー的には「二つ目の疑問」が大事。
2.その世界で最も偉い・力のある人や団体にとって、都合よく①を解釈する事。その団体の文化や社会にとって、最も大事なのは何なのか?それを重宝する為に、宗教をどう使えるのか?多神教なら誰が一番大事?そしてそれは何故?一方で、他の解釈をするマイノリティ団体を登場させるのもアリ。
宗教と社会は切っても切れない関係にあるよ!
3.②における、宗教とは別に、その社会が何故特定の要素を他より重宝するのかを考える。海で漁をして生きる人なら、天空神や海の神を信仰するかもしれない。現世はどんなに頑張っても辛くて無意味故に、死後の世界に夢見ているなら、清貧をモットーとしているかもしれない。
地理的、歴史的、哲学的考えを忘れずに。2と3は常にお互いを影響し合っています。
4.かーらーの多神教?それとも唯一神?唯一神なら、強力な宗教の中心となる機関を作るのが、良いかもしれません。「多様性が欲しいけど宗教関係の争いとかはしたくない」なら、多神教が良いでしょう。
5.その宗教の規模と歴史を考える。同じ「宗教」でも規模が大きく、歴史が長い物程「解釈違い」のバリエーションが多く、複雑です。そしてその原因は②と③にあります。
6.上記の要素を考えた結果、宗教はどの様に「日々の生活」に影響するのか?人は何を失う事を恐れ、何を望んでいるのか?その結果、宗教に対し、毎日どの様な態度で接しているのか?この要素もまた、2と3に影響されていますが、逆に影響を与える場合もあります。
人々は宗教の為なら、どこまで犠牲にする覚悟があるのか?これ大事。
7.以上の事を踏まえ、現時点でその宗教(及び宗教機関)は豪族、神官、そして人々を「満足」させているのか?していないなら、それは宗教改革へと発展したり、宗教そのものを衰退させたりするかもしれません!
8.そして最後に、貴方の登場人物達は、その宗教に対し、どう思っているのか?きちんと守ろうとする、熱心な信者なのか?それなりに守っているのか?それとも…否定しているのか?
その答えによって、登場人物達の行動パターンや習慣も、多少なりとも見えて来るかもしれません。
宗教は!ややこしいのです!!
最後までありがとうございました!
一番簡単なのは、そこそこ規模の小さい多神教かな?