考える事を辞めた
「しかしながら城下町で大声を出すのは余り褒められたものではねぇな。少しばかり淑女として立ち回って欲しい所ではあるものの悪役令嬢たるもの元よりおてんば娘なのかもな。コレに懲りたらもう大きな声は出すなよ。余り目立ちたく無いんだよ」
そしてマオはわたくしから離れると頭をポンポンと軽く叩いたあと優しく撫でてくれる。
「あっ………」
マオの手がわたくしの頭から離れると思わずもっと撫でて欲しいという気持ちから声が出てしまう。
マオに声を聞かれてやしないかという恥ずかしさと、先程までの一連の体験による幸福感とこれまで感じたことのない高揚感が癖になってしまいそうである。
そしてわたくしは思い出す。
先程マオは『コレに懲りたらもう大きな声は出すなよ』と言ったのである。
それは言い換えればもう一度大きな声を出せばわたくしは路地裏へと強引に連れて行かれて壁を背に顔の横をマオの腕が、まるでわたくしの退路を塞ぐように延ばされ、わたくしの目の前にはマオの顔がアップに映るあの一連の流れを今一度体験できるという事なのではなかろうか?
そうわたくしの中の悪魔が囁くのだが、それはそれでマオの中のわたくしの評価を著しく下げる行為だから止めるべきだという天使が囁いてくる。
その葛藤の中、わたくしは気付いてしまう。
マオがチビドラゴンになっていない事を。
「そ、そう言えば何故マオは魔族の姿でいられているのですか?」
なのでここはど直球に聞いてみる事にする。
今わたくしの頭の中の葛藤えお有耶無耶にする為でもあるのだが。
「こないだ課金アイテムを使ってドーピングによりシャルロットのレベルと魔力の保有量が跳ね上がっているおかげで今現在では半日であれば魔族の姿を維持できるようになっているみたいだな」
「かきん?どーぴんぐ?要はこないだの消費したアイテムの数々のお陰という事ですわね」
しかしマオから返って来た言葉は聞き馴染みの無い言葉ばかりではあったものの、要約すればこないだマオがわたくしの為に使って下さったアイテムのお陰でわたくしのレベルと魔力保有量が上がったお陰なのだろう。
…………レベルや魔力保有量が増えるアイテムを湯水のごとく使っていた様に思えるのですけれども、それは一国の国庫をからにしても間違いなく足りないお値段なのでは?
そしてわたくしはその事については考える事を辞めた。
しかし、マオがこうして魔族の姿で長くいられるというのはなんだかんだでわたくしは嬉しかったりする。




