なんでもありませんわ
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帝国帝都の街並みが目の先に見えてきた。
「速いですわね。馬車であれば数日かかる距離を一日もかからずに帝都まで来てしまうなど、この速さを利用すればひと財産直ぐに稼げそうですわね」
「ドラゴン空輸便か。コレはそれで面白そうではあるが俺は家でゴロゴロしてたいからなぁ」
「あら、魔王というくらいですから世界征服とかではないのですの?」
「え?嫌だよ、そんな面倒くせぇの。ほんの少しの贅沢が出来るくらいの生活が出来れば俺はそれで良いんだよ。まぁ、そういう平和な日常を続ける事が一番難しいんだがな」
確かに、マオの言う通り普通に暮らすと言う事が難しいのかもしれない。
公爵家の娘ですらある日いきなりその日常を奪われたのだから尚更である。
そしてそれで言えば今私達を帝国へと運んで下さっている魔王ですら、わたくしに召喚されてしまったせいで今までの暮らしが奪われてしまったのだから何だか申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい、マオ」
「どうしたんだよご主人様。らしくねぇじゃねぇか」
「いえ、わたくしがマオと契約したばっかりに今までの日常を奪ってしまったのだと思ったら謝罪せずにはいられませんでしたわ」
「何だ、そんな事を気にしていたのか」
「そ、そんな事だなんてっ!」
そう思ったからこそマオに謝罪の言葉を言うのだが、マオは『そんな事』と笑い飛ばすでは無いか。
いくらなんでも流石にその対応はどうかと思いましてよ。
「何でご主人様が気にする必要があるんだよ。契約に関してはご主人様と俺とではレベルが違いすぎるし、俺は断る事も簡単に出来た。だから今ここにいるのはご主人様のせいでは無くて俺の意思だ」
「で、ですが………」
そうマオは言うのだが結局のところわたくしを気遣ってでる言葉でもあるのだろう。
マオだって向こうに家族や大切な人達がいた筈なのだから。
そう思うとわたくしは大切な人達の中に恋人や妻となる人が居なければ良いななどと思ってしまう。
そんなわたくしが少し嫌になる。
「これでも俺はこの世界に連れてきてくれたご主人様には感謝してるんだぜ?俺をこの世界に連れてきてくれてありがとうな、ご主人様」
きっと誰も魔王が優しいだなんて信じてくれないだろう。
こちらの方がマオの何倍も感謝していると言うのに。
「こちらこそ、ありがとうございますわ」
そしてわたくしはマオに聞き取れない声で感謝の言葉を紡ぐ。
「え?なんだって?」
「なんでもありませんわっ!帝都までもう少しですので緊張して来ますわね」
そしてわたくしはなんでもないと話をはぐらかすのであった。
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