元婚約者なのですから
契約できなかったと嘆く者、何とか契約できたと安堵する者、良い契約ができたと自慢する者と一喜一憂しながら盛り上がっている輪を眺めるだけで、早く自慢したい、早く授業を始めてほしい、早くわたくしの順番が来てほしいという欲求が高まって来る。
そんな中カイザル殿下が目ざとく、端の方でできるだけ息をひそめて皆の視界と意識に入らない様にしていたわたくしの姿を見つけるとニヤニヤと口角を上げながら近づいてくる。
その傍らには学年が違うにもかかわらず聖女メアリーが相も変わらずカイザル殿下の横を陣取っており、わたくしに見せつけるようにカイザル殿下の腕を絡めてくるのが見える。
「そんな所にいたのか。探すのに苦労しただろうが」
「それは、お手を煩わせて申し訳ございませんわ」
何が探すのに苦労しただ。
どうせ体面を気にせず自慢してコケにしても評価が下がらないどころか、わたくしへ声をかける事により周囲には『一人のけ者にされている元婚約者へわざわざ声をかけてあげるお優しいカイザル殿下』というプラスの評価になる可能性があるわたくしという殴りやすいサンドバックを探していたの間違いであろうに。
「ほんと、次は気をつけてくださいね。もうシャルロットさんはカイザル殿下の婚約者では無くて元婚約者なのですからカイザル殿下の優しさに甘えてはいけませんよ」
「申し訳ございません。そんなつもりなど毛頭ございませんが、次からは気をつけますわ」
「ええ、気をつけてくださいね」
家格はわたくしの方が圧倒的に比べるまでも無く上であるのにも関わらず、まるで聖女メアリーの方が家格が上であるかの様な物言いに流石のわたくしも思わず口が出そうになったのだが、ここは何とかぐっとこらえて、そして聖女メアリーのお望みの通りに下手に出て対応する。
私がやり返すのはここではない。
「まぁまぁそう言ってやるな。どうせ去年同様に鳩か何かか、最悪どの生物とも契約できなかったからこんな隅で気配を消していたのであろう?それを指摘するのは酷というものだ。あぁ、因みに学年の違う聖女メアリーが今ここにいる理由なんだが、わざわざあの美しい純白のドラゴンを召喚してくれるからだ。そこから何かつかめる物があるかもしれないからわざわざここまで来てくれた聖女メアリーに感謝するんだな」
「皆様のお手本となればいいのですけれども………、ドラゴンの召喚で何か感じる事が無いとも言えませんものね。ぜひ参考にしていただければと思います」
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