悪役令嬢
そして何故か目の前男性はこのわたくしの身体を好きにできると言う事よりもわたくしの名前の方が気になったらしく今一度聞いてくるので今度は名前だけではなく王国、爵位、そして名前を告げる。
それにしてもなんだか釈然としないのは何故だろうか?
「そしてカイザル殿下に婚約破棄をされ、そのカイザル殿下の傍には聖女メアリー。失意のどん底に落とされて縋り付いたものは『魔王召喚』と言ったところか?」
そして男性は「ん?どうだ、合っているだろう」といった表情でわたくしを見てくる。
「な、なな………」
「な?」
「何で分かりますのっ!?はっ!?まさか何らかのスキルでわたくしの心を覗きましたわねっ!?乙女の心を覗くのは些か無礼ではなくてっ!!」
なんという破廉恥な男性なのであろうか?
いくら魔王であったとしてもこんな者と契約をするのはやめた方が良いのかもしれない。
そう思い始めた時、男性はクツクツと笑い出し、そして次の瞬間には声高々に笑い出す。
「そうかそうか、名前とその金髪ドリルに見た事ある顔でもしやと思ったが、くくっ、お前………乙女ゲームとファンタジーゲームが同時に楽しめるゲーム『永遠のラビリンス』で出てくる主人公の恋敵である悪役令嬢、シャルロット・ヨハンナ・ランゲージだと言うのかっ!」
「へ?え?ラビリンス?悪役令嬢?」
わたくしの名前で何故これ程までに反応したのかは分からないのだが、男性は一人納得し満足そうに頷くと少年の様な笑顔でわたくしに手を差し伸べてくる。
その笑顔は卑怯だと思う。
「良いだろう。シャルロット・ヨハンナ・ランゲージ、お前との契約を結ぼう」
そしてわたくしは訳も分からないまま自称魔王と契約を結べる事に成功してしまう。
彼の右手の甲とわたくしの左手の甲には契約者同士をリンクする紋様が浮かび上がっていた。
鳩の時は紋様すら出なかった事を考えるに手の甲一杯に現れた紋様からやはり目の前の男性は魔王と名乗るだけの違っては有るのだろう。
「そう言えば俺の名前を教えて無かったな。俺の名は───」
「大丈夫ですがシャルロットお嬢様っ!?今私が助けにドゴハァッ!?」
「何だ?この執事は」
「こ、これでも冒険者ランクSなんですけれども、それを一撃だなんて………」
わたくしはとんでもない者と契約したのかもしれないと、この時初めて思うのであった。
◆
「まさか、我が家の書斎に魔王召喚の秘術が記されている書物が他に隠されていたとはなぁ」
そう言いながらお父様は難しそうな顔で唸り、座っている皮張りの椅子の背もたれに体重を預け、椅子が軋む音がお父様の仕事部屋に響く。




