魔王召喚
ダメでもともとだったのだ。
今更あるかどうかも分からない希望が無かった所でなんだというのだ。
そしてわたくしは椅子を引き、立ち上がろうとするのだがここ最近のストレスによる不眠や食欲の低下などで貯まった疲れが今日の夜更かしで一気に来たみたいである。
思わず立ちくらみをしてしまったわたくしはそのまま本棚へとぶつかると一冊の本がわたくしの頭へと落ちてくる。
「痛たた………一体なんだというのですの全く」
わたくしはそう愚痴を言いながら頭に落ちてきた本を手に取る。
「ん?なんだか少し表紙が剥がれて来ているではありませんか。お父様に持っていって修理をしてもらわないといけませんわね」
そして手に取った本、その表紙には『初めての家庭菜園』と書かれていたのだが、ノリが剥がれて捲れた奥から『魔王の」という文字が見えているではないか。
お父様の話を間に受けているわけではない。
魔王召喚など、ワイバーンと召喚の契約をする事よりも遥かに無理難題である事ぐらい分かる。
率直に言ってあり得ない。
そもそも本当に出来たとしても魔王を紹介など人類にとって厄災の何物でもないではないか。
そんな事をわたくしができようはずがない。
「えっと、なになに、ふむふむ………い、行けそうな気がして来ましたわ。結局必要なのはランゲージ家の血以外は特に用意する必要も無い、と。後は魔法陣を描いて召喚をし、召喚した魔王と契約を交わせば終わりであると。なんだ、意外と簡単でしたわね」
そう言うとわたくしは床に筆と魔力を練り込んだ墨で魔法陣を描いて行く。
普段のわたくしであれば『馬鹿馬鹿しい』と一蹴する所であったのだが婚約破棄、学校での環境、それによるストレスに不眠、食欲不振など、そういったものが重なって普段通りの思考が出来なくなっていたのであろう。
逆に言えばこんな子供騙しの方がまだ騙されるであろうと思える様な魔王召喚などと言う事に頼ってしまうくらいには追い詰められていたとも言える。
何はともあれ魔法陣は描き終わり、後はわたくしの血を注ぐだけである。
「いざ、これから魔王を呼ぶと思ったら何だか怖くなって来ましたわね」
しかしそれがどうした。
そしてわたくしは勢いそのままに手首をナイフで切ると魔法陣へとドバドバ自分の血を流し始める。
コレでダメならもう良いや。
やる事は全てやった。
そしてわたくしは意識を手放すのであった。
◆
「う、ん………」
いつの間にか眠っていたらしい。
ただでさえ疲れている所にあれ程血を流してしまえば意識を手放すのは当たり前だと、反省すると共にあれ程深く切ったにも関わらず死んでいない事に安堵する。
恐らく意識を手放す瞬間にでも回復魔法を使って止血したのであろう。




