お腹は膨れない
そしてわたくしが従順な態度を示すとそれを見て満足そうにする聖女メアリーと、わたくしが癇癪を起こす姿が見たかったのであろう、少しだけ不満そうな顔をするカイザル殿下は二人仲良くわたくしの元から去っていった。
その光景を見てわたくしは、プライドにしがみついても捨ててもお腹は膨れないのだと身をもって知ったのであった。
◆
「お疲れ様で御座いますシャルロットお嬢様」
「いつもお出迎えありがとうございますわ、セバス」
あれから数時間後、わたくしは何とか一日を耐えきり駐車場へ向かうと馬車を止め待っていたセバスの元へと向かう。
「お疲れのようですね。疲れた時は甘い物を食べると良いらしいですよ」
そしてセバスは何も聞かずに砂糖菓子を差し出して来る。
今はそのさりげなく優しさがいつも以上に有り難く、そして嬉しく思ってしまう。
「ありがとうございますわ。しかし、この砂糖菓子ですけれども………」
「どうかなさいましたか?お嬢様。その砂糖菓子はお口に合いませんでしたか?」
「いえ、そういう訳では………。口に合わないという訳ではないのですけれども、少し、ほんの少しだけしょっぱく感じますわね」
泣いてはいない。
誰かに見られていないのならばそれは泣いていないのと同じである。
「………左様でございますね、シャルロットお嬢様。確かに、少しだけしょっぱく感じます」
そしてセバスは砂糖菓子を口へ入れると、少しだけしょっぱいと言ってくれる。
わたくしが泣いているからとか涙の味だとかではなく、砂糖菓子がしょっぱいのであると。
そして座りながら眺める外には下校途中の生徒が友達と楽しく話しながら歩いている姿や、元気に走り回る子供にそれを追いかける母親であろう女性の姿が目に入って来る。
まるでわたくしだけが別の世界で生きているかのような錯覚すら感じてしまう。
婚約破棄をされた時も似たような感情になったのだが、その時よりも客観的に見れるだけの余裕がある分、更に疎外感を感じてしまう。
「さ、着きましたよ。シャルロットお嬢様」
そして、登校時と同様に下校時もまるで別世界の風景かの様に映り、それを眺めているといつのまにか家に着いたらしい。
先に降りたセバスがいつものように馬車の扉を開けて転ばないように手を差し伸べて来る為、わたくしはその手を取り馬車から降りる。
そして馬車から降りて地面に足をつけた瞬間、溜まった疲れがドッと押し寄せて来る。
魔術学園で過ごしていた時は常に緊張感に包まれて過ごしていた為にここまで精神的に疲れている事に気付けなかったのであろう。
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