生まれ落ちる「欲」
ー某総合病院内ー
…ギャア…オギャア…
たくさんの人々に祝福されながらその子はこの世界に生まれた。彼の名前は片倉 景。
夜泣きが多く少食ながらもスクスクと育っていった…
あの日までは。
15年後 春
中学を卒業し、春休み。この時期になると15歳を対象に必ず検診が行われる。
その検診で診られるもの、それは欲求。
人間には三つの欲求がある。諸説あるが、その一般的なものとして「食欲」「睡眠欲」そして「性欲」がある。
そのうち何が欠落しているかを診るのがこの検診であり、その結果は進学先のクラス分けにも反映される。
そして医師は少し低い声で僕に結果を告げた。
「君は…あぁ、三欠だね。」
「…え?」
【三欠】
それは三大欲求全てが欠落していること。一般的に欠落する欲求は多くて二つと言われており、数に応じて【一欠】【二欠】と呼ばれ、一つも欠落していないことを【無欠】と言う。
三つ全てが欠落する場合は極めて稀である。
とはいえ、決してめでたいことなどでは無い。
寧ろその逆、この足枷をつけてこれからの長い人生を生きなければならないのだ。
「先生…何かの冗談ですよね?」
「…すまないねぇ」
「…」
俯く僕の肩に医師が軽く手を置く。
しかしその手すらも重く感じ、そのまま潰れてしまうような感覚すら覚えた。
そこから家までの記憶は酷く曖昧である。
頭痛と吐き気、倦怠感に包まれながら帰宅したことだけが記憶にある。
この日から僕は食欲を無くし睡眠欲は薄れ、性欲は…童貞なので余り気にはしていない。
そして、月日は高校入学の日まで進むーー