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ループ8回目ですが、わたくしは悪役令嬢であって魔女ではありません!  作者: 仲室日月奈
第八章

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83. さて、尋常に勝負といこうか

「……交換条件ですか?」


 思ってもいない申し出だったのだろう。エディが緊張した面持ちで質問する。


(ラウラ先輩、一体何を言うつもりかしら……)


 ごくりと息を呑んで、ラウラの次の言葉を待つ。

 ピンと張り詰めた空気を振り払うように、彼女は「やぁねえ」と言って片手を軽く振った。


「言っとくけど、私は悪徳詐欺師とかじゃないから。無理難題をふっかけるつもりはないわ。だからそんなに皆、怖い顔しないでよ。私が悪い人みたいじゃない」

「で、でも……交換条件って。ラウラ先輩、一体どんな条件を……」

「ん? 簡単よ。私たちの正体をばらさないこと。そして、いざというときにはレクアル様に保護してもらえるように根回ししてほしいの。もし権力者に守ってもらえるなら、こちらにもメリットがある。その代わり、私はこの力でレクアル様や公国を守るわ。ただ黙っていてほしいってお願いするより、お互いメリットがあるほうがいいでしょう?」


 セラフィーナが思いもしなかった交換条件だ。

 けれど、双方にメリットがあるのは確かだ。ラウラとアルトが魔法を使えることをただ内緒にしてもらうだけより、よほど有益な取引になる。

 そう感じたのはセラフィーナだけではなかったようで、ラウラに補足する形でアルトが賛同する。


「そうだね。特に今、帝国とシルキア大国が手を結んだわけだし。火種はいつ暴発するかわからない。ずっと隠し通せるならそれに越したことはないけど、非常時にこの力が必要になる場面が来るかもしれない。……それなら、レクアル殿下だけにでも話しておいたほうがいい。殿下ならきっと、悪いようにはなさらない」


 冷静に状況を分析する二人の意見を聞き、エディが真面目な顔で応じる。


「あなた方のお考えはわかりました。先ほどの言葉はそのままレクアル殿下に届けましょう。ただ、その前にひとつ教えてください。セラフィーナがここまで警戒していた、お二人の秘密について……。そこがはっきりしないことにはレクアル殿下も返答できないかと」

「ま、それは当然の疑問よね。アルト、久々に付き合ってちょうだい」

「はいはい。それが君の望みなら」


 ラウラとアルトがおもむろに椅子から立ち上がり、テーブルから離れた位置に移動する。アルトは全身をほぐすようにストレッチを始めた。

 その様子からセラフィーナはこれから何が起きるのか、なんとなく予想がついた。けれども、エディは不思議そうに二人を見つめている。


「あ、あの。エディ様」

「何でしょう?」

「おそらく、これから驚くような光景を目にされると思いますが、わたくしたちに危害が与えられることはありませんので。その点に関してはご安心ください」

「セラフィーナは見たことがあるのですか?」

「……え、ええ。ここに来たときに最初に見せていただきましたから」


 大丈夫ですからね、と念押しして言うと、エディがゆっくりと頷く。

 いつもの親しみやすさは消え、対峙するラウラとアルトの視線は冷たい。その表情の変化が、これが遊びではないことを証明していた。

 先に踏み込んだのはラウラだった。彼女は空中に次々に浮かぶ赤い魔方陣を足場にして、軽やかに移動する。ラウラが片手を掲げると、指先にぽっと炎が出現する。やがて、その炎は渦巻くように膨張し続け、ラウラを取り囲むほどの大きさになった。

 大きな火球は突如弾け、無数の小さな火の球が一斉にアルトを襲う。だが、彼は動揺した素振りはなく一歩、踏み出す。すると、床にキンと氷が張った。それからドンと氷の壁が彼の前に出現し、炎の行く手を防ぐ。

 触れた火球は一瞬で凍結し、内側から弾けて氷の破片となる。火の粉はすべて凍り、ぼとりと落下する音が続いた。室内の空気が、琴の弦をつま弾いた直後のように、一瞬で張り詰めた。

 だが、ラウラとアルトはお互い余裕の笑みを見せている。すべて想定範囲内だとでも言うように。


「さて、尋常に勝負といこうか」

「ふふ。手加減は無用よ?」

「君相手に手は抜けないよ。僕も命が惜しいからね」


 そう言って、アルトは苦笑しながら、左手を払う。みるみるうちに足元から氷がせり上がり、剣の形になった。透き通った刃は淡い青白い光を放ち、氷の魔力が冷気となってもれ出る。

 アルトが氷の剣をつかむと、ラウラの右手が炎に包まれる。次の瞬間、彼女は炎をまとった剣をつかんでいた。柄から上ではメラメラと燃え盛る炎が空気を焼く。


「はあ……っ!」


 二人が同時に踏み込み、両者の剣が正面からぶつかる。

 火花が散る。炎と氷の剣が激突し、金属がぶつかるような鋭い音が響く。けれど、見えない壁で守られているのか、セラフィーナたちの周囲には風ひとつ巻き起こらない。

 ラウラの剣さばきは鋭く、速い。

 アルトはそれを逃さず確実に受け止め、時に体を翻して間合いを取る。衝撃を受け止めるたび、彼の波打った赤銅色の髪がふわふわと揺れる。紺碧の瞳はじっとラウラの動きだけを追っている。

 ラウラが剣を翻し、弧を描くように振り抜くと、紅蓮の軌跡が残像のように空気を裂く。それをすんでのところで躱したアルトは、床を蹴って後方に飛び退いた。空中で姿勢を変えつつ難なく着地して、氷の剣を握ったまま、次の一手に備える。

 ラウラが軽快なステップで剣を繰り出す。二撃、三撃。互いに剣を交えるたびに氷が弾け、不死鳥が羽を広げたように炎が渦を巻く。まるで舞のような攻防だ。けれど、剣戟の音は一撃一撃に重みがある。


「さすがね、アルト。私の動きを読み切るなんて」

「君の癖はばっちり頭に入っているからね。そっちこそ、僕の足運びに全然引っかからないじゃないか。さすがだよ、大魔女殿」

「うふふ。お褒めに与り光栄ね。……でも、油断は大敵よ?」


 ラウラが不敵に笑う。

 それが合図だったように、アルトの足元に紅色の魔方陣が大きく咲く。床一面に複雑な呪文が浮かび、そこから緑の蔓が蠢くように次々に這い出してくる。カッと魔方陣が光った瞬間、無数の棘を張り巡らせた蔓が大きくしなり、アルトに尖った切っ先を向けた。

 自身の体に絡みつこうとする蔓を、アルトは氷の剣で容赦なく切り裂く。その背後にラウラが音もなく忍び寄り、炎の剣を大きく振りかぶる。アルトは背を向けたまま、たんっと大きく跳躍してその攻撃を躱す。

 魔方陣を足場にして跳躍し、氷の剣を軸に体を回転して着地したアルトは、ふう、と小さく息をついた。

 それからアルトが剣を構え直す。ラウラはダンスのステップを踏むような優雅な動きで、アルトに迫る。炎と氷が轟音を立ててせめぎ合う。

 バァン、と空気を叩き割るような衝撃が走り、火花と霜が同時に散った。

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※表紙イラストは雨月ユキ先生に描いていただきました。その他イラストは活動報告をご覧ください。

▶ラウラが主役の短編「大魔女だった町娘は前世の敵に迫られています
▶【登場人物紹介のページ】はこちら
▶【作品紹介動画】はYouTubeで公開中

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