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街を救った小さな魔女  作者: 山極由磨
4/11

4.捕まった小さな魔女

 桟橋を踏み鳴らす大勢の重たい足音が聞こえ、はね起きるともうすでに廃船の上には厳めしい鎧に身を固め槍で武装した教会の兵士が。

 彼らを従えた坊主が大声で。


「怪しげなる術にて市民をたぶらかす魔女め!大司教様がお前を捕縛せよとの命を下された。出ませい!!大聖堂にて裁きを下す!」


 船倉で息を殺して様子をうかがうイルゼに。


「どうしようイルゼ!殺されちゃうよ!!」

「裁きを下すってさ、すぐには殺さないようだね、さすが街の坊主はお品がいいね」

「皮肉を言ってる場合じゃないよ!」

「ジタバタしたって逃げられない。お前は小さいし隠れるか川に飛び込んで逃げな」

「母さんもそう言って僕を逃がした後殺されたよ。もうそんなの嫌だ」

「私のお母さんもそう言ったんだ。それで私はここまで来れた。心配しないで」


 と、レーゲンを残して船倉から飛び出していった。


 来る物を頭から押さえつける様な、重苦しい荘厳さでごてごてと飾られた大聖堂。

 黒くて長い法衣を身にまとった何十人もの坊主たちの真ん中に、目がつぶれそうなほどの煌びやかな法衣姿の大司教。

 何を食べてそうなったか解らないが、ゆったりした服の上からでもわかるともかく大きな腹をユッサユッサ揺らしつつ。彼とは正反対、ひょろ長い補佐司祭が捧げ持つ帳面を見ながら。


「さて、忌むべき魔女よ。お前は医者のギルドに入っていないにも関わらず、怪しげなる魔術を使い医者の真似事をし、金品をだまし取った。これは人の世の法に背く行いぞ」

「私の診た人々は、医者に掛かれない乞食や浮浪児、金の払えない市民、人に知られたくない病を得た人などなど、最初から医者に相手されない者ばかり、つまり医者には関係ない他人ばかりなので、ギルドには迷惑を掛けてません。あと、私の診た人たちはみんな治ってますからだまし取ったと言うのは違います」


 大司教は鼻で笑い。


「流石魔女だな。小娘とは言え弁が立つ。しかして魔女よ、人の世の法はそのような詭弁で免れるかも知れんが、神の法はそうは行かんぞ。お前が魔術を使ったのは明々白々。その証拠がほれ、その怪しげな本だ」


 別の坊主がイルゼから押収した魔導書を床に叩きつける。


「なにやら訳の解らん文字で記してあるが、裸の男女や人や獣の臓腑、毒々しい花々やキノコの絵など、忌まわしい邪悪な術の書である事は揺るぎあるまい」

「その本は、私のお母さんやそのお母さん、そのまたお母さんや他の魔女達が、長い長い時間を掛けて自然の謎を解き明かし、人々の暮らしの助けになる術を記した本です。血を止めるのはあの草、気臥せりを晴らすのはこの花、咳を止めるのはあの木の実で、それがなぜ体のどの部分に効くのか?それをどうやって人や家畜の体に効く様に出来るか?どの時期にどれ位の分量で与えたらよいかなど書いてあります。人や生き物だけではありません、穀物や野菜、果物が美味しく丈夫に育てる方法や、丈夫で快適な家の建て方、天気の予想の仕方や人と人とがいがみ合わずうまく暮らす方法まで書いています。それが怪しい術と言われるのは、魔女以外の人々がそれを知らないからです。知らないことは恐ろしいことですし、自分の知らないことを人が知っていると言う事は不愉快なことです。そして魔女達は、自分たちの知っていることを人に教えません、なぜなら魔術の中には悪い行いの為に使われると恐ろしい事に繋がる術もあるからです。それが魔女が忌み嫌われる理由です」


 イルゼが言い終わるころ、大司教の眉間には深い深い皺が刻まれ、垂れ下がった二つ目の顎はプルプル震えていた。


『あ、いけない!調子乗りすぎたか?』とイルゼは思ったがもう遅い!


「この魔女めが!言いたい放題ぬかしよって!!自然の秘密などは人が知ろうはずが無かろう!それは神のみぞお知りになることだ!お前の言い分は神に対する冒涜であり神の恩寵を否定する邪なものだ。もうこれで十分だ!この魔女めを火あぶりにせよ!」


 兵士たちがイルゼに縄を掛けようと迫る。

 彼女は覚悟を決め、腹を括った。

 母が村人共に言えなかったことを、こともあろうに大司教に向かって言ってやったのだから。

 清々した気分になって、思わず笑みがこぼれる。

 薪が積まれた大聖堂前の広場に彼女を引っ立てようと迫った兵士たちは、その表情をみて息を飲んで金縛りの様に動けなくなった。

 今から殺されると言うのに、笑ってる。

 坊主たちも顔をこわばらせ。大司教は額に汗の球を噴出させ、聖典の一節をブツブツと唱える。そして。


「何をしている!早々に引っ立てい!焼き殺せ!」


 その時・・・・・・。


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