3.小さな魔女、名が売れる。
ある夜の事、イルゼとレーゲンの廃船に、粋な刺繍のチョッキにこざっぱりとしたシャツを着た、裕福そうな若者が忍んできた。
「お前さんが最近評判の小っちゃい魔女かね?汚いナリしてるが磨けば中々いい珠になりそうだ」
「お兄さんも中々遊び人な風情だけど、わたしはそういう商売はしてなんだ、これ以上詰まんないこと言うと、一生ご自慢のモンが立たない様にしてやるよ」
十やそこらの小娘に言われ、おまけに黒猫に「シャー!」と威嚇されても、若者はハハと笑い。
「そのご自慢の物がさぁ、今大変な事に成ってるんだ。ちょいと見ておくれよ」
と、おもむろにズボンを引き下ろす。
「〇×%$@◇!!」
悲鳴を上げて飛びのくイルゼ。船の舳先まで逃げはしたがその後に続いた若者の言葉が気に成りいやいやながらもそれを見る。
「先っぽから膿がでて止まらないんだよ、悪い女と遊んじまったかな?医者なんて行ったら女房にばれて家から追い出されちまう。金なら幾らでも払うから助けてくれよ」
男のナニなんぞ、産まれたころから父親が居ないから一切見た事ないイルゼ。恐る恐る近づいて、術に使う二本の木の枝で若者のナニを摘まみ、顔をしかめて検分する。
「薬を作るから出来たらこの子を使に出す」
そう言って若者を追い返したあと、木の枝を川に投げ捨て船倉に戻って母の魔導書を開く。
「治せるの?アレ」
「ああいう病は体に小さな小さな目に見えない生き物が入り込んで増えるから起きるんだ。つまりその生き物を殺せば治る。たしか魔導書にその生き物を殺す薬の作り方が・・・・・・。あった!コレだ!!」
そしてイルゼは目を爛々と輝かせ。
「レーゲン、あした街をでて牛に会いに行こう」
三日後、レーゲンに呼び出され廃船にやって来た若者に、イルゼは小さな壺を差し出して。
「七日間、この薬を日に三度、ご飯の後で水に溶かして飲んで、一回の量は小さな匙に半分。絶対に一日も欠かしちゃダメ、お題は金貨五枚」
一瞬ギョッとしたようだが、渋々突き出して来たズッシリ重い金貨五枚と引き換えに小壺を若者に引き渡した。
そして七日の後。
「スゴイ!スゴイよあんた!!ケロッと治っちまった!」
そう叫びながら若者は廃船の船倉に飛び込んできて、イルゼを抱きしめ小躍りし始めた。
それからポケットに手を突っ込み、金貨を五枚取り出し。
「追い金だ。受け取ってくれ」
と彼女の手のひらに押し付けると意気揚々を廃船から降りて行った。
翌日から、廃船がもやいである桟橋に、身なりの良い若い男や、みょうに色っぽい女たちががひっきりなしに現れ、イルゼの診察を受け薬を買うようになった。
あの若者が評判を言いふらしたのだ。
「すごいね、イルゼの言ったとおりになった」
「こんな大きな街には、人に言えない病を持った人も大勢いるのよ」
「ここに居たら大金持ちに成れるね」
けど、イルゼは頭を振って。
「調子に乗っちゃダメ、ある程度お金を稼いだらこの街から出て他所に行こう」
「どうして?」
「私は所詮魔女。名が売れて坊主どもの耳に入ったら何されるか解んないよ。それに私に客を取られた医者も黙っちゃいないと思う」
イルゼの予言はまたまた当たった。
けど、思いのほか早く。