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悪役令嬢転生! 俺の名は……アティア・ヒャーマ!?

熱血少年、日山アツヤの死は、実にあっけなく訪れた。


「ぐっああぁ〜ッ!!!

誕生日の妹に恋愛ゲームを買ってきてやった帰りに道端で立ち尽くしていた猫を庇ったらトラックに引かれてしまったァ〜ッ! これは死ぬ!!!」


日山アツヤ。

実家の空手道場を継ぐために日々鍛錬鍛錬また鍛錬を繰り返す、『熱』を持った男である。時に空手の大会で対戦相手に負け、時に父親に試合稽古で負け、ヤケになって街のチンピラと暴力騒ぎを起こしたこともあった。

しかし、それらすら強くなるための糧とし、なお挫けず、明日に向かって立ち上がる。夢を潰えさせぬ芯がある。それが、日山アツヤその人なのであった。


——だが、そんな彼の強靭な身体も……トラックの猪突猛進の一撃の前では、ただ呆気なく倒れ伏すほか無かった。


血溜まりの中、少年は想う。


——死にたくない。死にたくないが……もし、生まれ変われるなら。

生まれ変わっても、熱血を貫きたい。


少年の右手には、妹に渡すことが叶わなくなった恋愛ゲーム。


——ごめんな、レイコ。お前に、コレ……私でやることが出来なかったよ……。


悔やむ少年の眼前へ最後に飛び込んできたのは、恋愛ゲームの背面パッケージの文字。

『ライバルの悪役令嬢と、カレを奪い合え!』

……という、一文であった……。


「ッはっ!!!

……ここは!? 俺は一体……!?」


目を覚ますと、アツヤは見知らぬ豪華な天井を見上げていた。身体の上下は、今まで体験したことないほどふかふかとした温かさに挟まれている。沙羅沙羅とした黄金色の装飾は、アツヤにとって若干しゃらくさいようにも思えた。


「なんだこのしゃらくせぇベッドは!?

俺のいつもの薪布団はどうした!? ふ、ふっかふかだぜェ〜ッ! こんなベッドじゃ、身体が訛っちまうよ……!」


強くぶれない芯を持つアツヤとて、この極上の心地良さを持つベッドには困惑を隠せなかった。


なにしろ、アツヤの普段使いのベッドは、臥薪嘗胆の言葉の如く薪を身長分散りばめただけの場所にその身を横たわらせる『薪ベッド』。

これもアツヤにとっては日々の鍛錬のひとつであった。寝心地という概念からは遠く離れた硬く痛いその寝床は、日々アツヤの身体を強固にさせていたのだ。


しかし、このベッドはどうだろう? 表すならば、子供の頃に夢想した、雲に包まれる感覚。水の中に飛び込んで、全身の力を抜いた時に生まれる、確かな浮遊感。入った途端に眠気を誘う、まさに寝床としては極上のもの。


「ま、まさかッ……ここは! 俺の部屋じゃねえのか!?」


驚愕の声を上げて、周りを見渡す。

広い部屋だった。人が二人、三人と生活していてもスペースにはまず困らない。アツヤの第一印象はずばり「だだっ広い」。まず、持て余してしまうだろうと彼には感じられた。


天井には、淡い青や空色を中心とし、星や月、太陽といった天体をかたどった装飾が散りばめられた、一つの絵のような模様が広がっている。

部屋全体に目線を移すと、本棚、机、物置棚、小物入れのように見える重厚そうな箱、クローゼット、そして何より……ベッドの前に位置する、巨大な魔法陣。アツヤはこれが、なによりも気になった。


「……なんのアニメの撮影会だ、こりゃあ……?

なんとなくだが、レイコが好きそうな感じだ……」


ちょうど、妹がやっているゲームの一場面に、この様な部屋があったような……そうアツヤは思い出す。

家具の一つ一つが、自分の部屋にあったものとは明らかに質感が違う。有り体に言えば、『高級感』と言ったものが漂っているのだ。


「俺の部屋に、ウチに……こんな洒落たものはねぇ。ということは、やっぱり。ここは、他人様の部屋ってことかよ……」


そういって、アツヤはベッドから降りた。そうして、一番彼が注視していた魔法陣の方に、歩を進める……。そうして事は、魔法陣の中心へと踏み込んだ時に起こった。


「この、訳のわかんねぇ模様は一体……ッ、なんだァッ!?」


眩い黄金色とも白銀色ともつかない不可思議な光が足元から飛び出し、アツヤは思わず一歩、二歩と後ずさる。そして……。


「……ご主人様。やっと起きたかにゃん。全く手間のかかる……」


黒い猫。尻尾が股のように途中から日本に分かれていること以外は、特にこれと言って変わった様子はない。……人の言語を喋ること以外は。


「なッ……な……!?」


しかし、それよりもアツヤには驚くべきことがあった。それは、眼前の黒猫が……。


「てめぇはッ! さっき、俺が助けてやった黒猫だとオオォ〜ッッ!!」


完全に、アツヤにとって見覚えのある風貌をしていたのである。


「おお、よく分かったにゃね。んにゃあ、まったく目の前でいきなり死なれてびっくりしたにゃ。あの程度、みゃーはどうにでも出来たのに……」


はあ、とどこか人間臭さを残したため息をつく黒猫の姿を見て、アツヤはがっくりと肩を落とした。


「わ、悪い……余計な世話だったか。助けねぇといけねぇッ! と思って、つい身体が勝手に動いちまったんだ……」

「……ま、別に悪い気はしなかったかにゃ。でも」


表情を暗くさせるアツヤの頬を、別れたしっぽでぺちぺちと叩く。


「目の前で死なれたのは、正直夢見が悪かった、と言っておくにゃ。だから、みゃーはオマエをここまで連れてきたのにゃ」

「そうか……迷惑かけちまったな。……ん? ちょ、ちょっと待ってくれ。お前が? そのちっさな猫の身体で、俺をつれてきた……?」

「んにゃ? みゃーを舐めてもらっちゃあこまるにゃあ。 みゃーは人間体に変化することも出来るにゃ。

……でも、今回はちょっと違うんだにゃあ」


黒猫は巧みに二本にわかれた尻尾を絡ませ、一本の螺旋へとその形状を変化させた。その尻尾で、机が寄せられている壁の上にかけられた、一枚の鏡を指さす。


「それで、自分の姿を見てみるといいにゃ。話はそれからにゃ」

「……ちくしょう、なんだってんだ……!?」


困惑を隠せないまま、アツヤは鏡の前に足を進める。……そこに映っていたのは。


「……な、ッ! 何ィッ!! 女ッ……いや、女は女でも! この顔はァ〜ッッ!!!」


アツヤの脳裏には、先程トラックに引かれた時の、今際の際の記憶が、まるで映画の宣伝コマーシャルのように勢いよく流れてきた。

金色の髪色。妙に尖らせた縦ロールの髪型。大きく、目じりが上がっていて、二重で……整った顔。そう、今目の前にいるこの女性は。紛れもなく。


「『ハイセス・ブルート 〜魔法学院恋愛争奪戦!?〜』の登場人物ッ! それも、悪役令嬢役の女の顔じゃあねえか……ッッ!!!」


「そう。……日山アツヤの身体は死んだにゃ。でも、その魂はみゃーが救った。だから、今日からオマエには……悪役令嬢『アティア・ヒャーマ』としていきて貰うにゃあ」


「な……な……ッッ!!

なんじゃそりゃァァァ〜ッ!!」


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