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謎は一通の案内状から始まった。

 登場人物

ひとむ・・・・・私立探偵

緑亀靈華・・・・助手

賀座枝里子・・・助手

松村文太・・・・運転手

○○五作・・・・依頼人住所は埼玉県のS市

石井かもめ・・・○○五作の娘かもめ

尾崎するめ・・・石井かもめの友人、住所は練馬区学園町2-3-83F

渡部しじみ・・・尾崎するめの友人


                      1

探偵、ひとむの家に依頼人の○○五作という男が訪れていた。ひとむは、五作の差し出した紙を手に取った。それは手紙だった。女子高生が好みそうな封筒に入った手紙だった。

以下が、その手紙の内容である。


 このたび、下記の住所に転居しました」

新居は練馬区学園町2-3-8です。

あっ、そうだ。マンション名は、しあわせマンションです。3Fのいちばん日当たりの悪い、おまけにくさい部屋です。

さらに立地条件が悪く、いまにも幽霊が出てきそうです。

一緒に探索して悪霊の正体を暴きましょう。

お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。


           あなたの友人, 尾崎するめより


ひとむは、五作から渡された手紙をテーブルの上に乗せた、折からの微風で床にそれは落ちてしまった。

助手の緑亀靈華が、拾い上げテーブルに戻した。

「どう思いますか?この手紙?」

不安そうな面持ちで○○五作がたずねた。

「○○さん、立ってないで、そこへ座ってください」

五作は軽くうなずきいわれたとおりにした。

 ひとむは、緑亀靈華を探したが彼女は姿を消していた。

「靈華さん。どこへ行ったんだ?」

「私はメイドではございません。」

となりの部屋と思しきあたりから、不機嫌そうな声が聞こえた。

 仕方なく、ひとむはキッチンで、自からどくだみ茶を入れ、部屋へ戻った。

窓からは外を伺うと妙な男がこの家の前に立ちうろうろしていた。

 「○○五作さん。ここに来る途中だれか不審な男に出会いませんでしたか?」

「さあ。なぜそんなことを?」

「心当たりがなければよろしい。さて、この手紙いや、その前にあなた自身のことをお聞かせください」

「何なりと、そのためここに来ました」

 いつの間にか緑亀靈華が、戻って椅子に座り新聞を読んでいた。

 「私は、○○五作。住所は埼玉県のS市です。益の東口に自宅があります」

 「ひとむさん。それから先は、私に質問させてください。」

ドアを開けてもう一人の助手の、賀座枝里子がお盆に冷たいお茶とズッケットを載せて入ってきた。

彼女は緑亀靈華とは対照的な性格で、愛想が良い。

 聖職者が被る「ズッケット」という帽子に形が似ていることからその名がついた、ドーム型のケーキである。外側はスポンジ生地でおおわれ、中にクリームをたっぷりと入れるのが特徴。店によってクリームはさまざまで、生クリームやチーズクリーム、なかにはジェラートを詰めたものまである。

「君に任せるよ。私はちょっと家の前を見てくる」

と言って、ひとむはは姿を消した。

                      2  

 いま、緑亀靈華たちは2階にいる。この家は3階建てである。

 「ひとむ先生はどこへ行ったのかしら?」

 緑亀靈華が無関心そうに言った。

 「うちの前だって」

 と枝里子が答えた。

 「何をしにいったの?」

 「さあ」

 枝里子は、○○五作に向かいたずねた。

 「さて、○○さん。質問を続けます。お仕事は何をされていらっしゃいますか?」

 「会社員です。グローブ商事という会社の業務課所属です。」

 枝里子は、空いている椅子に腰を下ろしながら、尋ねた。

 「会社の所在地は?」

 「東京、新宿区++町です、」

                    3

  ひとむは、30分後に戻ってきた」

 おもなことは、賀座枝里子がきいていて、机の上にメモ書きが置いてあった。ひとむは○○五作に、妙なことを尋ねた。

 「ここに来るまでに怪しい人物が出合いませんでしたか?」

話しながら、ひとむは窓際に歩いて行った。カーテンを閉めその隙間から外の様子を伺っていた。緑亀靈華を手招きし、彼女に指示した。

 その間、枝里子が○○五作にいくつか質問をしていた。

「あそこに、2階建てのアパートが見えるだろ。いま、怪しい男が中へ入って行ったところだ。」

 「ここの斜め右のあの古めかしいアパートですね。」

「そうだ。カーテンの隙間からだよ」

彼女はうなずき、監視を始めた。

「さっきはどこへ行ってたの?」

「門の周りの草花に水をやるふりをして、うちの前をじっと伺っていた男を観察したのさ」

「2階から見えたのね。その挙動のおかしい男。で、その男があのアパートに入って行ったのね。」

「そうだ、何か動きがあったら合図してくれ」

                    Ⅳ

 ひとむは机に戻り、賀座枝里子が置いたメモに目を通した。

要約すると、

1.○○五作の娘は7月21日に行方不明になり、今日で5日目になる。

2.手紙が来たのは昨日、すなわち7月24日である。

3.娘は今年19歳、短大生である。

4.尾崎するめという名に心当たりはない。

5.娘の名は石井かもめ。


一通り事情を話し終えて、○○五作は運転手の松村文太に遅らせた。これは、謎の男の尾行をあきらめさせるためだった。

                   Ⅴ

 ひとむは、今後の方針などを枝里子と話し合った。緑亀靈華はまだ、まじめに外を監視している。

「手がかりは、この尾崎するめからの手紙だ」

「娘さんは、どうして親と姓が違うの?」

「石井が本当の姓だろうな。○○なんて苗字はタウンページでも見た覚えないよ。」

「その件は後で本人に確認してみよう。いずれにしても、たいした問題ではなかろう」

そのとき、カーテンの隙間からアパートをうかがっていた緑亀靈華が手を振って合図した。

何か新しい展開があったようだよ。

ひとむと枝里子は静かにカーテンに近付いた。

 例のアパートの2階の窓がわずかにあいたように見える。やがて30センチ位になると、見覚えのある顔が見えた。首を窓からやや突き出している。

「あの男が。玄関からのぞき込んでいたんだ。さっき、防犯カメラを確認したんだが、はっきり写っていない。それに、帽子をかなり深くかぶっていたよ」

 「年齢の頃は、いくつくらいなんでしょう?」

と、靈華が独り言のようにたずねた。

 「30から60ってところだな。性別は男だろうな。」

「そう判断する根拠は?」

「直感だ。歩き方とか、その他いろいろな点から判断して。声をきいたわけではないからね。そうそう、咳払いをしていたような気がする。」

「何とも心もとない判断材料ですね」

謎の男は、こちらの様子をしばらくじっとうかがっている様子だったが首を引っ込めてしまった。そして、窓は静かに閉められた。

「江戸川乱歩を思わせる情景ですね」

「そう、”地獄の道化師”だ」


(注 オープンカーが車輪を石畳の外へと踏み外し、乗せられていた石膏像が投げ出された。その像の割れ目から赤い血が染み出て、中に人間が塗りこめられていることがわかった。死体の顔は潰されていたが、ある女性が警察を訪れ、右腕の傷痕から家出した姉のみや子であることを確認する。道化服に身を隠した悪魔の智恵が生み出した意外なカラクリと執念の愛憎とは?)<amazonnより引用>


しばらく、監視していると男は出てきた。

あたりを注意深く見回し、そそくさと駅の方角へ向かった。


                     Ⅵ

 「ちょっと、一緒に来てくれないか?」

「はい。あのアパートは行くんですね。」

 ひとむは、緑亀靈華にここで、引き続き見張っているよう指示した。

「冷蔵庫に、さっきのお菓子があるから食べなさい」

「いえもうありません。いただいてしまいましたわ」

ひとむと、枝里子はアパートに向かった。

 アパートは、2DKの部屋が1階に4軒、2階に3軒で、ドアは道路に面していない。

左手にあたるところにあり、手前に階段がついている。

 1階は全ての部屋がふさがっており、人のいる気配はなかった。

階段で2階へ上がりきった地点で、自宅の方を見た。ここから、自宅の2階のカーテンは見えるが、緑亀靈華がこちらを監視しているのはわからない。それでも、カーテン越しに彼女が動く影は認められた。

 「大家さんの家はここのとなりの一軒家です。」

 ここから、オーナーの家が一望できた。現在地から、家一軒を隔てて南の方向にある。特に、変わったところのない二階屋である。

築30年は経ていると思われる。ここから見た限りでは、周囲の家より若干広い、これといった特徴のない家である。

 二人は、2階の部屋を手前から順番にしらべることにした。

 「誰も住んでいないようだ」

 最初の部屋は空室のようだった。

 「さっきあそこから、見た部屋がこの真ん中の部屋だ。謎の男が顔を出したところだよ」

 ドアノブを回したが、鍵はかかっていた。

「おい、どうしたんだ?」

枝里子が、しゃがんで何かを拾ったようである。手のひらに妙なデザインのバッジが乗っている。

「さっきの男が落としたのかしら?」

「その可能性が大いにある。○の中に¥となってる」

「子供のおもちゃじゃない?」

「なんだか、見たことがあるような気がするんだ。うちに帰ったらしらべてみよう」

2階の部屋は全室施錠されていた。時計を見ると、正午なので自宅へ戻った。

                  Ⅶ

 すぐに、ひとむは本棚から紋章事典という本を取り出し、テーブルに広げしらべ始めた。靈華が覗き込み、

「何をしらべているの?ああ、紋ね」

「あそこのアパートの2階で、枝里子さんが拾ったんだ」

「バッジみたいね。社章かな?」

 「社章としては大き過ぎる気がする。¥の記号は何を意味するかだ。」

 「その本には、記載されてませんか?」

枝里子が言った。さらに、

「新興宗教のシンボルじゃない?うんがい教とか。」


 雲外鏡は妖怪漫画家・水木しげるの著書には、旧暦8月(葉月)の十五夜に月明かりのもとで水晶の盆に水を張り、その水で鏡面に怪物の姿を描くと、鏡の中にそれが棲みつくという伝説が記されている。

                                   <Wikipedia>より引用。


「これから、昼食にしてそこで食べながら今後の方針を決めよう」

ということで、レストラン「黒潮」へ行った。

                    Ⅷ

 料理が運ばれてくると、ひとむが、

「食べ終わったら、最初に大屋の家に行っていろいろきてみよう」

「それから、尾崎するめの家、グローブ産業という順ね」

と、靈華。

 食事が済むと、まっすぐに大屋のいえへ向かった。

「文さんは、帰ってたっけ?」

文さんとは、運転手の松村文太のことである」

「もう、帰ってきてコンビニで牛丼買ってきて、部屋で召し上がってたわ」

 大屋の家のインターホンを押すと、のっそりとおやじがあらわれた。

 「部屋なら、2階が開いてます。3部屋とも見てください」

 「真ん中の部屋を借りようと思うんだけど?」

一行は大屋の後について、2階に上がり開いたドアから中へ入った。キッチン、トイレ、部屋が2部屋だった。

「日当たりは良さそうね?」

 「奥の部屋が南に面していますから。西日はほとんど当たりません」

いろいろな説明が一通り終わったときに、日トムはきいた。

「午前中、この部屋を見てた人がいたみたいだね」

「ああよくご存じですね。妙な人でした。私がトイレに行ったとき。となりの自分の家のトイレに行ったんですよ。用を済まして、戻ってみるとその男が行方をくらましていないのです。このテーブルの上に部屋の鍵を置いたのですが、なくなっていました。」

「なるほど、おかしい。鍵を持ってにげたって何の得もなかろう」

「しばらく、経つとその男は戻って参りました。そして、鍵を私に手渡しました。もう少しゆっくり見たいと言ったので、望み通りにしてさしあげました。途中、私のうちに集金が来たので10分ほど席をはずしました」

「その男はどうして外へ行ったんだろう」

「のどがかわいたので、飲み物を買いにいったそうです」

「すぐに、帰ってしまわれました。」

「家賃は?」

「65000円です。敷金が3か月分です。それから、とくにこの物件やばい点はありません」

「やばい点?」

「この3部屋は、事故物件ではないってことです。」

「それはわかるさ。そういった物件だったらもっと格安だからね」

それから30分ほどで、ここのアパートを辞した。

                        Ⅸ

一度、自宅へ戻った。

「どうして、謎の男は鍵を持ったままあの部屋を出て戻って来たのか不思議ね」

「おそらく、合いかぎを作って来たんだろう。南に200メートル行ったところに靴など修理する店があるだろう。あそこへ行ったと思う」

 ひとむは枝里子を連れて、靴の修理「シューリランド」へ行った。アルバイトの女の説明によれば、たしかに、謎の男を彷彿とさせる男がきたということだ。

男は合いかぎが出来上がると、受け取った物をポケットに入れそそくさと立ち去ったそうである。

 「これから、家へ戻り練馬区学園町2-3-8の、尾崎するめの家へ行ってみよう」

 (練馬区学園町2-3-8です。」

「文さんは?」

「いま、呼んできます」

「私は、ここに残っていろいろ連絡を取ります。」

と、緑亀靈華が言った。

                        Ⅹ

 一時間半ほどで、学園町に到着した。車を、コインパーキングにとめ「しあわせマンション」を探した。6階建ての集合住宅だった。

(日曜、晴天7月25日)

「尾崎するめは女子大生だっけ?」

「石井かもめは19歳で短大生だけど、尾崎するめが学生だとは限らない」

「同じ年じゃないかもしれませんね。バイトの先輩かもしれない。」

「この後、彼女がバイトしてたかどうか○○五作さんにきいてみよう?」

一行は、3Fへと外の階段を登った。ひとむは、

「枝里子さん、大勢で行くと変だから、一人で行ってきいてきてくれないか」

「3人じゃびっくりするわね」

                        Ⅺ

枝里子が、呼び鈴を押すと中から声がした。

「石井かもめさんの友達で、賀座枝里子と申します。尾崎するめさんでしょうか?」

ドアを開けた若い女性からは警戒の素振りが消え、にこやかな表情になった。



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