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ボクをころしてください。

作者: tomo

俺はアイツを殺したい。

弱いくせに強がって誰にも何にも悟らせずにそれでいて独りで辛い辛いと嘆いている……この俺を。

もしこの感情と身体が他人同士なら今すぐにでもナイフか何かで滅多刺しにしてやりたい。

「じゃあ、今すぐ自殺すれば良いじゃないか。」

そういう人もいるだろう。俺もそれが一番道理にかなってると思う。

でも残念なことに俺とアイツは一緒の身体の中にいる。つまり、俺は一種の多重人格に似た類なのだ。

アイツを殺すことは俺の死を意味する。当然ながら。

俺は死ぬのは怖い。こんなことを言うと矛盾しているような気がするが、本当に足がすくんで出来そうにないんだ。

ここで少しアイツの話をしよう。

アイツは最近高校に進学した、これといって特徴のないしがない新入生である。

新しい環境に身を置いたことに多少は戸惑いながらも上手く立ち回っていて、クラスメイトからの人望も既に厚い。

アイツは特に心配事なんてないように感じさせるほど、いつも笑顔で高校生活を満喫し、教師達にも好かれている。そんなごく普通の奴だ。

これは俺の【外面】に該当する。

俺が息を吸えるのは家に帰ってから。

かくいう俺といえば、緊張しいで心配事も多くていっつも自信が持てていない。アイツとは正反対だ。これといって貶されたり、注意されたりしていないにも関わらず怯えていた。

当たり前のようにこれから先のことが不安で仕方ない。

「何か失敗して単位が取れないんじゃないか。」

「留年してしまうんじゃないか。」

なんの根拠もないのにこういうネガティブな空想のオンパレードである。

今これを読んでいるそこの君、「うわっ、面倒臭ぇなコイツ……」と思ったことだろうが、俺も君に激しく同意する。俺もといアイツはそういう面倒臭いやつなのだ。

何故こんなことになってしまったのか。

中学生になって始めてのテストで思うように点を稼げなかったことが発端で(まぁ、決して惨敗というわけでもないけど)、俺の勉強意欲に少し陰りが生じてきた。そんなこんなで、テストの時期が近くなると微熱が出たりし始めた。俺の意思では不安こそあったもののズル休みしようなんて片時も思ったことはないのだが、それを見かねた母は「いつまでも逃げてるんじゃない!」と喝を入れてくれた。それでもまだ不安の色が拭えなかった俺は見事に母と衝突し夜中まで説教は続いた。心のそこから申し訳なかったと思う。

この一件があってから、学校内の事で特に気が病んでも相談することは憚れた。

そこで誰彼構わず明るく振る舞い何を聞かれても「大丈夫!」と答える『アイツ』が生まれた。

それからというも、外では極端だがアイツでしかいられなくなり、家に帰れば打たれ弱い俺に戻る。

その間でも心配癖が染み付いた俺の不安は膨れ上がっていて中学も何とか爆発せずに繋いできた感じだ。

今現在の話をすると、今までより格段に科目数が増えて、難易度も高いので、これだけでも俺の焦燥感を掻き立ている。復習を毎日うんざりするほどやったとて中学みたいに間に合う量ではないと思う。クラスメイトの期待だって俺には重すぎて息も出来ない。

始まってもないのに弱音を吐いている自分にも嫌気がさすし、中学の時みたくなんとか収拾がつくかもしれない。でも、現時点でそれを確信することはネガティブな俺にとっては不可能だ。

こんな自分にとってとてもやりきれない悩みを抱えているのにも関わらずに『アイツ』は笑ってただ大丈夫を繰り返している。俺の本心を知っているはずなのに。

きっと親や先生にこの苦悩を話しても良くて『じゃあ、学校辞める?』と怒りが滲み出た顔で聞かれて突っぱねられるだけだ。過度なストレスから来た戯言だって。……合ってるけど。

俺にとってもうこれはストレスじゃない。毎日『逃げないように』自分で自分を監視して、締め上げて、神経をすり減らして……なんとか生きているが、まだ奇跡的に乗り切れたとしてもまた数年後に再発する。その度にこの悪夢が蘇るのだ、きっと。

もう限界だ。やめたい、泣きたい、叫びたい……!

誰かに向かって「無理だ、これ以上【頑張ったら】壊れそう」って腹の底から……!……言いたいけど、言えないんだよなぁ……

きっと、この感情は、俺の存在は……誰にも、俺にも理解されない、ずっと先も、未来永劫俺は独りぼっちなんだ。

周りから愛されてても気が楽にならない。

だから、せめて、アイツを消せたら……綺麗に壊れられるのに……

もしくはアイツが俺を殺してくれたって構わない。

要は、どちらか一方が綺麗さっぱりいなくなれば、【俺】は幸せになれる。…でも、それも叶いそうにないや。

俺は今日も、春の癖にやけに冷たい夜風を窓越しに浴びながら眠ったふりのまま静かに泣いていた。

この自分でも容認できない天邪鬼な胸の内を何も言わずにただ聞いてくれる、願わくば共感してくれる人を求め続けて、彷徨いながら……


そんな人、地球、全宇宙探したって見つかるはずもないんだろうけど……

君もそうなんだろ?……だと思ってた……

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