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ぼくとはなぐろ。

作者: ウラン

少し息抜きを…。短いですが、良かったら読んでみてください。

 

 小学三年生の時に初めて犬を飼った。


 これが、ぼくとはなぐろとの出会いだった。



 前から犬が飼いたくて、お母さんに『ちゃんと世話をするからお願い』と頼んでいた。

 どこの家でもよく聞く言葉を言い説得して…


 お母さんはいつも『そう言って、遊びに行って結局私が世話をすることになるでしょ!』と、これもよく聞く返しをして、とりあってくれなかった。


 まわりの友達が飼っているのもあって、羨ましくて、諦めきれずにたまたま、学校の下校中に捨て犬を見つけては、内緒で持ち帰ってみても、どこで見てたのかっというぐらい、勘がいいのか、鼻がいいのか、鬼の顔で『元あった所に返してきなさい!』と、言われて泣きながら返しに行ったこともある。


 その時はお母さんの気持ちも、生き物を飼う事の難しさも分かってない子供だった。



 ある日、お母さんがあまりにも落ち込んだ表情をしていたぼくに、『知り合いの人が犬の子供を産んだから見に行ってみる?』と苦笑いしながら言ってきた。


 ぼくは飛び付いて『見に行きたい!!』と言ってお母さんに笑顔をみせた。


 そして、ついに会う日がきて、早く! と親を急かして車に乗り、犬の赤ちゃんを見に出発する。


 どんな種類の犬なんだろう、楽しみだなとワクワクしながら車の窓から外の流れる景色をみていた。


 車が止まって『着いたぞ』とお父さんが言うのを待てずに、直ぐドアを開けると…ワンワン! と吠える声が聞こえて、わあ~犬だ!! とテンションが上がり、後ろからゆっくり歩いてくる親に顔を向けると、余程嬉しそうな顔をしていたのか笑いながら知り合いの家にお邪魔した。


 あいさつをして、大人たちの話があってとなかなか犬を見せてくれなくてうずうずしていたら、知り合いのおじさんが気付いたのか笑いながら『すまんすまん、今から連れてくるな』と言って立ち上がり部屋を出ていった。



 そして、おばさんと一緒に二匹と三匹にわけて、茶色い子犬を腕に抱きながら連れて来てくれた。


『なんの犬種なの?』とおじさんに聞くと、『この子たちは、雑種でお父さんがゴールデンレトリバー、お母さんがジャーマンシェパードっていう大きい犬がまざった子達だよ』と答えてくれた。


 ゴールデンレトリバーは友達が飼っているから知ってたけど、ジャーマンシェパードって何だろうとお母さんに聞くと、『警察の人がよく連れてテレビに映ってる犬よ』と教えてくれて、ああ!あの子かと分かり、じーと子犬たちを見てみた。


 産まれて3ヶ月なのに、もうこんなに大きいんだと驚く。


 ふと、一匹だけぼくをじーと見つめてくる子がいた。


 だから、ぼくもじーと見つめて寝転がってみると、そろそろっと近づいて来てゴムみたいな鼻をヒクヒクさせて臭いを嗅いでくる。


 同じくぼくも臭いを嗅いでみると、晴れたときのお布団の、陽だまりのような臭いがしてボフっと首もとに顔を突っ込んでみる。


 驚いて一瞬ビクっとしたが、好奇心が勝ったのか積極的に耳とか臭いを嗅ぎだして、フンフンしてくるので、くすぐったくてキャッキャしていると、今度は顔をベロベロと舐めてくる。


 可愛くて仕方がなかった。


 そんな様子を見ていた親が折れて、『飼っていいよ』と言ってくれたのだ。


 こんなに喜んでるのを見たことないから、と諦めてくれたんだ。


『ただし、生き物を飼うって事はその子の命を預かる、責任を持つって事なんだからね、無責任な事をして死なせちゃったらその子が可哀想だから、ちゃんと世話できるって約束しなさい』じゃないと、飼うことはできませんと重く、考えさせられることを言われる。


 そうだ、可愛がりたいだけの自己満足じゃなくて、ちゃんとその子の人生を一緒に背負って生きなければ、軽々しく飼いたいと言っちゃダメだよとお母さんは伝えているんだ。


 ぼくは今までの事を反省した。


 それをふまえて、あらためてお母さんに『ちゃんと一緒に成長する、お願いします』と腕にさっきの子を抱きながら言ったら、お母さんがにっこり笑って『じゃあ、私も一緒に成長を見守るね』と言ってくれて嬉しくて涙がでた。


『どの子を兄弟にするの?』と言ってきたので、今腕に抱いていて顔を舐めているこの子がいいと伝えると『よかったね、兄ができたよ』と言って、この子の頭を撫でると言葉がわかったのかわん! と吠えて尻尾を振っていた。


 ぼくらが帰るときにおじさんが『大事にしてやってくれな』とぼくとこの子の頭を撫でて言ってくるので、ぼくは『兄弟だからな、弟はぼくが大切に守る』と返すと目尻を下げて微笑んでくれた。


 初めての車なのか、そわそわと座席を歩いて落ち着きなく、窓を開けると顔を出そうと飛び付いてくるので慌てて閉めたり、アクビをよくしたりと大丈夫かな…と心配していると、酔ったのか気持ち悪そうにウボって言った後に、嗚咽して吐いた。


 処理をして再び車に乗って、膝に乗せて背中を撫でながら帰宅する。


 家に着くと、初めてくる場所なので耳や鼻を動かしたり、目で辺りを見回したりと忙しく、玄関で親が待っていたので走りよって行くと『ようこそ我が家へ』とこの子に歓迎の言葉をつげた。


 飼うなら家の中と決めていたので、玄関をくぐり床に下ろすと、ビユーンと走っていき探険しだした。


 ぼくはポカーンと眺めた後に慌てて追いかけ捕まえようとするんだけど、おいかけっこで遊んでいるのかと捕まえさせてくれなくて、途方にくれる。




 ***




 名前を決めよう、となったときにふと思い付いたのが《はなぐろ》だった。


 全体的に茶色くて尻尾の先と足元の靴下をはいているような白色、口先は黒くてなんだかタヌキのようだったので、そう決めた。


 夜に一緒にお風呂に入ったら今度はキツネになってビックリした。


 お風呂が嫌いなのか、逃げるわ体をブルブルして水浸しになるわで大変だったけど、後の方がもっと大変だった。


 お風呂からでると、やっとだ! と拭かせてくれないまま飛び出して、じゅうたんにコネコネと体を擦り付けて水浸しにしたのだ。


 もちろん、怒られた。ぼくが。


 素直にごめんなさいと言って、風邪をひかれないように、はなぐろを捕まえてタオルで拭いて、ドライヤーで乾かしてその日は一緒に眠った。


 次の朝、学校があるからと早めに起きてはなぐろと一緒にご飯を食べてから朝の散歩に外へとでた。


 初めての散歩にドキドキしながらリードをしっかり握って歩くのだけれど、はなぐろはふらふらしたり草の臭いを嗅いで立ち止まったりと引っ張ってくる。


 子犬でも、力が強くてビックリした。


 近所でも普段歩かない所に行ったりと二人で冒険しているみたいで楽しくてすっかり登校の時間を過ぎていたのをお母さんに怒られた。


 今度からは時計を持って行こう。


 家は共働きで、ぼくも学校があるから15時までは一人で留守番をしなくちゃいけない。


 いきなり一人は寂しいだろうなと、早く帰ってきてやろうと思いながら学校へ行った。


 学校が終わり、遊びの誘いもそっちのけで帰ってくると、玄関を開けたらはなぐろが耳を伏せて尻尾を振りながらアオアオーンと飛び付いてお帰りと迎えてくれた。


 嬉しくて、撫でながら部屋に入るとそこは、床が真っ白でソファーからスポンジがこんにちはをしていた。


 はなぐろに視線を向けると、耳を伏せてうしろめたそうに机の下へと隠れてこちらを覗いている。


 犯人ははなぐろしかいないんだけどね。


 叱るのはあとで、この部屋をどうにかしなくちゃ鬼がでると思って素早く床に落ちているティッシュを集めてゴミ箱にいれた。


 ソファーはちぎれたスポンジを元に戻してその上に座布団をひいて隠す。


 車のエンジンの音が聞こえてきた。


 ヤバい、帰って来たと急いではなぐろを抱っこしてさっきの座布団の上に座り膝に乗せる。


 ドキドキとして待っていると、玄関が開く音がして『ただいまー』とお母さんが帰って来た。


『おかえり』とはなぐろを見たまま返すと、お母さんが無言になったのがわかった。


 恐る恐る顔を上げると、目が笑っていないお母さんがゴミ箱を指差して『これなぁに?』と聞いてきたので、つい、牛乳こぼして拭いたやつと答えたらにっこり笑った後、般若がでた。


『嘘つきは泥棒のはじまりっておしえたよね』

『このティッシュ、破れているだけで、濡れた形跡ないんだけど、それに、家に牛乳ないわよ? それでも、拭いたというのかしら…その口は…』と近付いてくるのを二人で怯えて『ごめんなさい』『クウーン』と謝った。


 ぼくが見た事件現場をそのまま伝えて、ソファーを見せると、あちゃーと頭を抱えるお母さんにまた、謝る。


 そんなぼくを見て、お母さんがしゃかんで目線を合わせて『なんで怒ってるかわかる?』と聞いてきたので、隠したこと、嘘をついたこと言うと、『それもあるけど、はなぐろを庇った事にも少し怒ってます』と言ってきた。


 なんで? とお母さんを見ると『時と場合によるけど、間違っていることをそのままにして、はなぐろを人になすり付けて、ふんぞりかえる卑怯ものにしたいの? お兄ちゃん、弟を守りたいのは良いことだけど、庇いすぎてもお互いに良くないのよ』と難しい事を言ってきた。


 よく分かってないの見越して『例えば、はなぐろがお兄ちゃんの友達の持ち物を壊してしまった。お兄ちゃんは弟がしたのを知って自分がしたと謝るけど、友だちは誰がしたのかを知っていた。はなぐろはそっぽをむいてて、怒られたこともないし、どうせ兄が庇ってくれると謝りもしない。さあ、友達はどんな気持ちになるかな?』と言われて考えてみる。


 ぼくはよかれと庇ったばかりに、はなぐろに自分がしたと言える勇気と責任、謝ることの大切さを奪ってしまい、友達に嫌な気持ちにさせていると気づいた。


 お母さんにそう伝えると『そう、正解。お互いに良くないでしょ?』と頭を撫でられる。


『それと、人と違って犬は頭ごなしに怒ってはダメだよ。怯えられてしまうから。ちゃんと、はなぐろとむきあって学んでいこうね』と今回の事を許してくれた。


 子供ながらに、こんなに大変なんだな命を預かる事ってと思った。



 ***



 それから色々学んで、経験もした。


 公園で一緒に滑り台に滑ったり、学校へ連れていき友達のみんなとおいかけっこしたり、川に来て、犬かきしながら追いかけてきて顔の横に来たと思ったら、犬パンチをしてUターンされて溺れかけたりとたくさん冒険をしたりして思い出になるような日をいっぱい作った。




 やがて、ぼくは小学三年生から社会人に、はなぐろは老犬へと成長した。


 仕事もあってなかなかはなぐろに構う時間が減り、ちゃんと見てあげることも少なくなっていた。


 そんな時、たまたま仕事が休みで久しぶりにはなぐろと出掛けようと時間が許す限り散歩を楽しんだ。


 昔よりも、力は弱くて余り歩きたがらない。


 ああ、すっかり歳を越されたな…と染々思った。


 でも、はなぐろも久しぶりにぼくと散歩をするのを喜んでくれているのか、尻尾をブンブン振ってこちらをチラチラ確認してくる。


 散歩から帰ってきて水を与えてやり、飲んだ後はすぐにはなぐろ専用のクッションに丸まって寝息をだす。


 寝苦しそうに鼻をブーブー言わせながらひっくり返り、仰向けへと体勢を変えて眠る姿に癒やされながら、水の器を確認すると水に垢みたいなものが浮いていて、何だこれ? と疑問に思い母に聞くと、『最近よく浮いている』と言われて眉間にシワがよった。


 はなぐろをよく見ると、ゴムみたいな鼻が乾いている。

 何故鼻がブーブー鳴っているのだろうか、呼吸がしずらそうだと思い当たって、これはなんかの病気なんじゃと母に聞くも、老犬だからね、そろそろ覚悟をもっとかないとと返ってくる。


 不安が押し寄せて直ぐ様、病院へと走る。


 何もなければそれは安心するが、もし、病気だったら…と考えるといてもたってもいられなかったのだ。


 診察中も大丈夫だよと血を抜かれるはなぐろを押さえてあげて結果を待っていると、深刻そうな顔をした先生が『今すぐに入院を、白血球の数値が異常に高く、腎臓が腫れて大きいです。一月ももたない可能性があります』と言われて目の前が真っ暗になった。


 とりあえず、入院にいるものを全て聞いて持ってきて、点滴かなにかの管をつけたはなぐろをゲージごしに見ると、今も苦しそうに呼吸をしていたのを僕が来たのがわかったのか嬉しそうに尻尾を振る。


 涙が流れた。


 なんでこんなに苦しめてるんだろう。


 できるなら、変わってやりたい…と。


 泣いている時いつも慰めに顔を舐めてきたはなぐろが、今も、ゲージごしに心配そうにこちらを見ている。


 こっちが心配されてどうするんだと自分に渇をいれるけど、さっき先生に言われた『あれはもう末期です。今の医療では治すことができない。覚悟をしといて下さい』との言葉が胸に刺さり止めるどころか、滝のように溢れて流れる。


 ゲージを掴んではなぐろに『ごめん、気付けなくて。ごめん、無駄に苦しめてしまって』と懺悔して謝り続けた。




 ***




 次の日、瞼が腫れてもいまだに流れ続ける顔を見た母に、『今日は私が行くから、一度気分転換してきなさい』と言って出ていくのを見送った。


 そんな気分にはとてもなれなくて、ふて寝して過ごした。


 部屋に飾ってある写真たてには、小さい頃の僕と、はなぐろが顔を寄せあって笑っている。


 それをぼやけた視界で眺めながら、今までのはなぐろとの思い出を振り替える。


 相性のいい、相棒だった。


 仲のいい、兄弟だった。


 大好きな、大切な家族だった。


 かけがえのない、自分の半身…一部だった。


 だめだ、考えるだけで…


 苦しい、苦しいよはなぐろ。


 僕をおいていかないで、一緒にいてよ…


 苦しい、苦しいんだろうな…はなぐろ。


 ごめん、ごめん、謝るから…


 神様どうか、僕の大切な存在を奪わないで…


 助けられない自分に死にたくなる。



 泣きつかれて知らない内に眠っていたのか、目を開けようとしても重たくてヒリヒリする。


 母は帰っていたのか僕の顔を見てため息をはきながら、はなぐろの様子を教えてくれた。


 相変わらず、昨日と同じで見ていられなかったと。


 ぼーとしながら顔を洗いに洗面台に行くと、鏡に写る自分が滑稽に見えた。


 なに、被害者ずらしてんだ、今更後悔しても遅いんだよ、お前は今自分に出来ることを精一杯してやれ、いつまでもふさぎこんでないで、その不細工な面でもいいから少しでも多くはなぐろと一緒に過ごしてやれ!


 そう鏡の自分が言っているように感じて、そうだよ、いつまでこんな顔をしてるんだ、はなぐろに心配されるような"兄"じゃ"弟"にしめしがつかないだろ。


 気合いをいれるために頬をパチンと鳴らして顔を洗ってスッキリする。


 少しでも長く、笑顔でいたい。




 それから毎日、時間があるときはずっとはなぐろの元に通って話したり、撫でたりと過ごした。



 そして、はなぐろと過ごした12年。


 はなぐろは静かに息をひきとった…


 最後は泣き笑いながら『僕の元に来てくれてありがとう』と言ってお別れをしました。



 はなぐろと出会って、命の大切さ、責任感、さまざまな事を教えてもらい、僕にとっての人生が輝きました。


 大切な事を教えてくれて、ありがとう。


 そっちでは、元気に暮らしてますか?


 もう、苦しんでいないかな?


 僕も、もうすぐそっちへ行くよ…


 また、家族になってくれたらいいな。



 はなぐろと過ごした12年間とても幸せでした。


 また、会う日まで……おやすみ。






 ぼくとはなぐろ。    完


私も犬を飼っていたので、思い出してしまい…感情移入をして、半べそかきながら書いてしまいました。動物系って弱いんですよね…。いつか、会えるといいなという想いが溢れてしまい、こんな作品も作ってみたいなと書いてみたものなので、ただの自己満足です。すみません。ここまで読んで戴きまして、本当にありがとうございました。


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