【番外編】第X主義「人形と親友」
【読み飛ばし全然okです】
本編にはまだ関係の無い過去のお話です。
翔と凛の中学校での入学式直前の様子を描きました。
話の性質上、完全なシリアスモードでお届けします。
それと、この話はプロットによってはキーとなる話ですので、削除や移転や本編に盛り込みや編集等の事は起こりえますのでご了承下さい。
冬が終わりを告げ、季節は春を迎えた。
桜がひらひらと舞う中、新入生は期待で顔を綻ばせているものや不安で表情をカチコチにしているものがいる。
それに反して俺は戸惑いの表情を浮かべていた……その原因は目の前の少女である。
彼女の名前は白瀬凛といい、俺の小学生時代からの幼馴染であった。
「どうした?」
と一応尋ねてみるが実のところ大方の理由は想像出来ていた。
「………」
俺の問いに彼女は答えずに縮こまるだけであった。
そうしていると彼女は小学生程度にしか見えなかった。否、今年の春までは確かに小学生であった。
しかし、今の憂いさえ感じさせる雰囲気は既に大人かと見紛うほどであった。
あるいは芸術の域にまで達した完璧なお人形さん。
ただし、一般的に見れば至高の美しさと言えるその表情は俺からしい見れば虚構のものにしか感じられなかった。
……元気に騒いでいるのが本当の彼女なのだから。
彼女が虚構と化している理由――
それは社会からは理解されることが無いもの。本人以外にとっては普通なもの。
我侭にすら思われるもの。異質から生まれた異質なもの。
……もっとも分かりやすく表す表現ならば"彼女"か"彼"であり"彼女"とされているからである。
・俺と彼女がこれから通う高校には女子サッカー部というものがなかった。
・彼女が纏っている制服が彼女に対しての着用が義務となっていた。
別段この二点は全然不思議な事では無く、一般的な中学であれば当然の事だ。
しかし、こんな当たり前な二点だけで絶望に立たされる者も居た。
くだらない、実にくだらないと周りは思うのかもしれないが、そのくだらない二点が彼女を否定した。
男子として意地でも生きてきた意志を校則と名の鎖で縛り。
長年続けていたスポーツをする事も許されない…"彼女"だから…"彼"なのに。
◇◇◇
―― 一週間前 ――
『…なんで僕中学でサッカー出来ないのかな?』
―― 女子だから。
『…なんで僕女子の制服着なくちゃいけないのかな?』
―― それが世の中の常識だから。
『…なんで僕…女なのかな?』
―― そう、生まれたから。
『…僕は…僕は…僕は僕……だよ』
―― 社会的に見れば一人の女子でしかない。
『…何で…何で…何で?』
―― 世の中の不条理も受け入れなければいけない。
『納得…納得…納得出来ないよ!』
―― 一人で叫んでいろ、現実はそれでも流れていくが。
そこでやっと、彼女は受け入れた。
その不条理の全てを受け入れた……否、"彼女"は受け入れていなかった。
なぜならば、その時から"彼女"は"彼女"では無かった。
それは"人形"…なにも感じず考えず……そして流されるだけの人形となった。
◇◇◇
桜の元、久しぶりに幼馴染を見た俺は衝撃を受けた。
「アイツはどこへ行ってしまったのだろうか?」それが俺がまず感じたものだった。
いや、目の前にいるのかも知れない…その希望を信じて、ゆっくりと重たい口を動かした。
「どうした?」
と、俺は震えそうになる声を必死に押さえいつも通りに――
「………」
しかし、彼女は居なかった。
だが、なんとなく分かってはいた。彼女が居ない事も、その理由も。
「凛…俺が分かるか?」
「君の名前は松葉翔。"私"の幼馴染でサッカー仲間でしょう?」
返って来た答えは、完全な正解の上に花のような笑顔のオマケ付きであった。
だが、完全な正解であってもソレは不正解でもあった。
「俺は…お前なんか知らないし、そんな関係であった覚えも無いな」
それが俺の本音である。
冷たく打ち付けた痛み(ことば)は俺の心を鋭利な刃物で抉るより痛かった。
自分で言った言葉で自分がこうも傷つくのにそれなのに――
「そう…ごめんなさい、"私"の勘違いだったようね」
人形には、掠り傷一つ付く事は無かった。
悲しかった。自分から言った言葉なのに、"人形"に返されただけなのに。
俺は、その悲しさを冷静に対処する術をその時は幼な過ぎて知らなかったのかも知れない。
俺は人形を抱きしめた。
抱きしめて…思いを全てぶつけてしまった。
「お前は俺の友達だ」
「そうね」
「だけど、お前は俺の友達じゃない」
「そうなの」
「なんでそうなった?」
「そうとは何を指すの?」
「お前は…もっと感情的だったはずだ」
「この方が社会に適応出来るものなのよ」
「人形が人間社会に居るのは歪なものだぞ」
「そうかも知れないわね、でも………"僕"は社会に認められない存在だから」
ここにきて、ようやく"白瀬凛"に会えた気がした。人形の隙間から現れた本音。
俺は…ここでやっと"人形"に対してではなく、凛に言葉を投げかける。
「……俺は、お前が男でも女でも関係無い、
一人の存在"白瀬凛"としてお前を認めている…それじゃ駄目か?」
「……一人の存在として?」
不安げに揺らめく瞳。
完璧であった人形は崩れて只の人間となった。
だが、俺は人間の方が美しく感じた。
「ああ、一人の存在として」
俺は、凛を抱きしめる力を強くした。……安心させるように。又、俺が安心したい為に。
それが白瀬凛という存在が俺にとって親友になった瞬間であった。
次回からは普通の【ぜつしん】をお届けします。




