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Ruin//GrandGuignol segmento.  作者: 和泉宗谷
9/11

-8年前(ルカ過去編)-7


擬似神威(エクス・マキナ)】――それは、【六大ファミリー】が所持している武装で、全解放させれば全人類ごと世界を滅ぼすほどの威力をもつとされる、『超次元破壊兵装』である。


第一に水を(つかさど)る【ハルワタート】、第二に大地を司る【エンキ】、第三に空を司る【ゼウス】、第四に空間を司る【クロノス】、第五に時を司る【ロキ】、そして第六に精神を司る【シヴァ】の全六武装が確認されており、そのいずれもかつての【失われた技術(ロストテクノロジー)】によって作られた産物である。

さらにそれぞれの武装には1/10程度まで威力が抑えられたダウングレード版の兄弟機が存在し、各ファミリーの幹部クラスにはその兄弟機の使用が許可されている。

いずれも使用者の【血液】が使用媒介とされ、兄弟機であったとしても、今の文明の武器では対抗策が見いだせていないほどの威力を誇っている。

なおその強大な能力の為、許可のない【擬似神威(エクス・マキナ)】の使用は厳禁とされている。

また、ギュスターヴファミリーはこの【失われた技術(ロストテクノロジー)】を用いて、自分たちのファミリーの証である【タグ】を作っている。


機械仕掛けで作られたそれは、身につけている者を追跡する機能やバイタルチェック等を可能にし、異常があれば首領(正確には、その【タグ】を作った主人)に警告が届くシステムになっている。


********


人間の手で整備されていない、手放しの森の中にその教会はひっそりと(たたず)んでいた。

草は伸び放題で、教会自体も(なか)ば壊れている。中にいても崩れた天井から太陽の光が差し込む具合だ。

そこに、金髪の少年――ルカは立っていた。


「…ったく、探したぞ。いっちょ前に病院なんか抜け出しやがって。おかげで俺が医者に怒られたじゃねーか」


声がした方を振り向くと、そこには太陽の光をその赤髪に反射させ、ザックザックと草をかき分けながら歩み寄ってくるランディの姿があった。

第五区画三層。自分で自分の首をルカが掻っ切った後、ランディはすぐさま近くに構えるギュスターヴファミリーお抱えの病院へと転がり込んだ。手術自体はさほど時間をかけずに終了し一命は取り留めたが、ルカが目覚めたのは一連の事件から三日が経ったあとだった。

ランディはその間、死体処理やら後始末やら、ついでに本邸の立て直しにも参戦してと方々(ほうぼう)を駆け回っていた。ついさっきやっとひと段落着いたので病院に顔を出しておくか、と(おも)むいたら、待ち構えていた主治医に「お前の監督不行き届きだ」と抜け出したルカの分のゲンコツを食らわされたのだった。


「なにが『お前の弟ならちゃんとしつけておけ』だ。こんな手のかかるガキ、弟に持った覚えはないっつの」


そうぼやきながら近づいてくるランディに、ルカはもうなんの警戒心も持たなかった。


「……ここ、昔妹と隠れて暮らしてた教会に似てるんだ。このひっそりと建ってるところとか、天井に穴が空いてるところとか」


ぽつりぽつりの話し始めたルカの言葉を、ランディは静かに聞いていた。


「リーナは昼下がりになるといつも決まって十字架に祈りを捧げていたんだ。――神様なんて、いないのにさ」


そういうとルカはポケットまさぐる。取り出したのは、あの時の小さな骨だった。


「……リーナのためにだったら、どんなこともやった。盗みだったり人の家に忍び込んだり、それこそ人殺しだったり。でもそれは妹のためで、僕自身のためじゃなかったんだって、リーナが居なくなって初めて気づいた」


手に持った骨ごと強く握りしめる。そうしなければ声を上げて泣き出してしまいそうだったから。


「今までの人生も、なんの意味もなかった…僕には何も無い、空っぽの人間なんだ……!」


肩を震わせながら、それでも涙を流すことをしない小さな背中。泣き声をあげないのは、彼自身が持つたった一つの【プライド】なのかもしれなかった。

ランディはルカの前まで歩み出ると、目線を合わせるためにその場に(ひざまず)き、そしてこう切り出した。



「なぁルカお前、俺と家族になってくれないか?」



ランディの提案は、ルカの予想の範囲内の事だった。彼と行動を共にしたのはたった数日であったが、それでも充分すぎるくらい、ランディ·ギュスターヴという人間はお人好しなのだ。

ランディもそのことは重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)だったのか、ルカが発言する前に言葉を続ける。


「同情なんかじゃねぇし、お前はマフィアっつーもんが大嫌いだと思ってるかもしれない。だけどお前の存在が、俺の夢を叶えるのに必要だ」


ランディと共に過ごした最初の夜、そこで彼はこう言ったことをルカは思い出す。


『みんな笑って、生きてほしい』


ランディの言葉は、次第(しだい)に熱を持っていく。

最底辺(さいていへん)の暮らしを知っているお前が、下手な話この区画で一番権力を持った人間の右腕になって裏から(あやつ)ってみせれば、お前のような悲劇をなくすことができるかもしれない。少なくとも今よりかは幾分(いくぶん)減らせるかもしれない。俺は一方からしか世界を見れない。だからその死角を、お前が補ってくれ」


そんなものは(ゆめ)物語(ものがたり)だ。人間が感情というものを持つ以上、この世から悲劇をなくすことはできないのだから。

幼いながらその真理(こと)にたどり着いているルカはしかし、ランディの真っ直ぐな瞳から目をそらすことが出来なかった。


――そんなことが出来たなら、なんて素晴らしい世界になるだろう、と。


ランディは最後に、こう締めくくった。



「約束する――、お前が俺に尽くした分だけ、俺はお前に、何があっても応えよう」



この言葉を聞いた瞬間、ルカの心は決まった。

だって彼は自分を同等に扱ってくれたから。最下層のゴミ溜めのような場所で生まれた自分を、だ。そんな人間を無視しようものなら、それこそヨゼフのような最低の人間に成り下がる。

そして何より――彼の夢を、彼の隣で見てみたいと、そう強く思った。思ってしまった。

しかし素直に頷くのも、今更恥ずかしくてルカには出来なかった。彼は照れ隠しに小さく吹き出すと、正面を向いた。


「裏から操ればって、そんな簡単に操らせてくれないだろ」


ルカの返事に(きょ)()かれたランディだったが、すぐにいつも通りの不敵な笑みを浮かべると、「まぁな」と短く返した。

ランディはそういうと懐からリボンを出してルカに差し出した。見た目や使われ具合から数日前に髪をまとめるようにと、彼から手渡されたものと同じもののようだった。

差し出されたリボンをルカが受け取ると、ランディは立ち上がり元きた道を引き返し始める。


「さぁ帰るぞ。最初のお前の仕事は、病院に帰って主治医のゲンコツを食らうことだ」



手渡されたそのリボンをよく見ると――ギュスターヴファミリーの証である、機械仕掛けの【タグ】が仕込んであった。


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