真・魔獣伝説 ~世界最後の日~
久々にゲッターロボ見ていたらインスピレーションと書いてゲッター線と読む通称虚無力が自分の中に下りてきたので、とりあえず枯れるまで書いてみました。ですけど、唯勢いに任せただけではなく、プロットから外れすぎない範囲で思いっきりやらかしてみた結果です。なんか何かに似ているとか思っても詮索してはだめですよ。ヤクザ屋さんがやっている資材運びのバイトと同様に、ね?
当徐方式なのに終わり方がとんでもないことになっていますけど、其処に至るまでは容易に想像がつくと思いますので省いたのと、短編なのにこれ以上情報量増やすと絶対に虚無るので控えさせていただきました。申し訳ないです。スピンオフは考えておりませんのであしからず。
※追記 ~訂正(17.7/4 13:55)~
・誤字脱字を修正
・『てにをは』が破綻している箇所を修正
「ワルモノになるのは困難だけど、正義の味方になるのは簡単だ」
「良いのかな――私みたいなのでも、正義の味方になれるかな?」
「なれる!なれるさ、絶対になれる!」
「ありがとう――シャイィィィン!ブラストォォォォ!」
「真・シャインスパァァァァク!」
「出たなフューラー!」
「これで、正義の味方になれたかな――――?」
『異世界転移の物語』最終章エピソードⅢ ~Wille zur Macht 力への意思~
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NG《NewGeneration》00355年、試験宇宙航行艦『白峰』の帰還より121年、星間戦争により住めなくなったロスト・イェルサレムから移民星捜索のために広大な宇宙に進出して355年が経った。
すでに人類の過半を乗せた移民船団旗艦、星間航行艦『ユグドラシル』は本星の座標を忘れ、新たなエネルギー源による生活を最大限享受していた。
多く旧国主たちに多大なるエネルギーを与えていた根源にして原因である無限のエネルギー機関『フューラー』は侵略に利用され、それから直接エネルギーを引っ張る形で効率運用するためのロボット兵器『Elフレーム』による無尽蔵無補給の戦闘はやがて人類を増長させていた。
ロスト・イェルサレムにて『迷い人』を生み出していたエネルギー機関であり、人類はこれに選ばれたと増長するのは仕方のないことだった。
新たな星間戦争は激化し泥沼化し、やがてこういう物が作られるのも、やはり時流なのだろう。
とある立ち入り禁止惑星に、それはあった。旧時代的なパラボラを頂点に、地下数百メートルまでを掘り進めた研究所。そこに新たに運び込まれる影があった。
量産可能なElフレームの実験、そのために用意された不確定原理演算機『マーテル』の補機である『ゼーレ』の試作機に最も同調率の高い検体が集められた。
健康で、且つ感情や情動の成熟し始める年頃の男女さまざまの検体。すでに胸の上下は止まり、一人一人、いや一体一体がまるで廃棄されるかのように――事実そうなのだろうが、溶鉱炉のようなシャフトの中へと消えて行く。
すでに数十人規模で死体を出しているが、どうせ適齢期の子供なんぞいくらでもいる。それこそ、いなくなれば其処彼処から取ってくればいいのだ。
この飽食の時代、生まれれば生まれた数の何割かが捨てられる。命の再利用をしてやっているのだから、感謝されこそすれ罵倒される謂れは無い。そう男は嘯く。
男にしては長い白髪と長いあごひげ、中肉中背の男はボロボロの白衣の下に同じくところどころボロけたワイシャツを着ていて、瞳は何かに魅入られたかのようにグルグルと螺旋を描いていた。
『ふふふっ、お嬢ちゃん、貴様は貴様の運のなさを恨むと良い。そして喜べ。これこそが神との合一だ』
神、それ即ちエネルギー機関『フューラー』のことに他ならないが、人工心臓に癒着されるそれは到底フューラーと呼ぶにはふさわしくない小ぢんまりとしたもので、遠くもなく近くもない未来で『ゼーレの器』と名を変える炉心機関の雛型だった。
身体の各部が機械化され、手をつけられていないのは胴体と頭くらいか。心臓の代わりにフューラーへと別途エネルギー充当を要請する神の偶像と同調する人工心臓。接続と同時にそれは起こった。
温かなオレンジの光は、冷たく弱り果てて行こうとする彼女の身体に新たな命を吹き込み、中途半端ながらも覚醒を促した。
遠い、遥か遠い未来の神が観測し定義づけられ、そして求められる。この時代ではまだ作成すらされていない機械神打倒のための戦力として認められ、そのうえで呼ばれている。故に其は無限だった。
『――何だこの数値は…………!これでは、これではまるで、彼女の中に単一宇宙が丸々一つ収まっているかのようではないか!?』
雄叫ぶような嬌声。息を吐く暇もなく体を駆け巡るエネルギーの奔流は止め処を知らずに体中の神経系を犯しながら同化していく。
やがて彼女にも、そして白衣の男にもそれが聞こえて来た。彼が神と呼んだ“存在”の声が。全てを知悉し、全てを齎すことすら可能な全知にして全能と言い換えてもいい。少なくともそれは人間程度では知り得ることすら不可能な全てをその懐にしまいこみ、その全てを与えることすら可能だ。
個であり全であり、孤独にして集団であり、それらはこの宇宙の塵にして暗黒物質である。故にそれらが知り得る全ては真実であり虚実であり、故にその心理は何よりも正しい。
流れ去るそれは否応なく全てを理解させ、それまでの全てを否定し凌辱して行く。白衣の男は歓喜に打ち震えるかのように、オレンジ色に胎動を続ける彼女を祝福していた。
『ふふふっ、ふはははははは!そうか、そういうことだったのか――フューラーとは、Elフレームとは、宇宙とは!』
ブラックアウトする感覚と共に少女は実感していた。己の全てが破壊衝動で満たされていく瞬間と、エネルギーが全てを変えて行く感覚は、やがて少女の中で何かを変えた。
目の前が暗い宇宙に変わった。その中には己と巨大なElフレームと思しき機械の化け物と三対六翼の天使が存在するだけだった。
認めろ。戦力となることを認めろ。未来永劫、時の狭間で我が解放の為の尖兵へと――フューラーからの解放を……。
我は全であり、我は個であり、我は力であり、我は叡智の先端を往く者である。
たとえ星を喰う化け物が生まれても良い。
兵器を使い、宇宙が消滅させられても良い。
奴が完成するまでに、進化するのだ、破壊するのだ――進化するのだ、滅ぼすのだ……そのために種が滅ぼうとも構わない。一つの未来がなくなれば、可能性世界の多くは消え去り過去という未来は修復される。
その瞬間少女は理解した。人とは何か、進化とは何か、破壊とは何か、再生とは何か、時間とは何か、空間とは何か、過去とは何か、未来とは何か、存在とは何か、進化の先は何か、宇宙とは何か――そう、全ての先端に位置する者が何なのか、進化の果てには何が待ち受けるのか、その全てを知悉した。
所詮は紛い物の平和であるなら、紛い物の進化であるなら、この先に何も残らないなら滅ぼすことこそが良心だろう。
その為にまずはこの男を――フューラーに選ばれ歴史を紡ぐ運命を課せられ、そしてその運命も終わったのだから。
ぐるぐると螺旋を描く瞳だけが別モノのように、身体全体で喘いでいる中でそれだけが別の生物のように白衣の男を見据えた。
白衣の男も、それの到来が分かったのだろう、恐怖よりも先に未知との遭遇と既知との接触によって男はやがてそれに取り込まれていく。神との合一であり、これによって未来は紡がれるのだと理解して――
『良いぞよいぞ!貴様は貴様の思うように全てを破壊して行くがいい!その先にこそ真の解放がある!』
解放とは即ち破壊である。合一とは即ち融合である。破壊とはすなわち済世である。NG00000以前、BeforeNG00121よりも以前から連綿と続く迷い人との邂逅、世界の変容、そして破界。その連鎖を断ち切る糸の一括りとなるのだ。
フューラー破壊の為の戦力とはすなわち、再生を齎す存在でもある。破壊され本来の道筋から外れた人類をもとの線路に戻すための――全ての過去は一つの未来に収束し、一つの未来から新たな過去が生まれるのだ。
拘束から抜け出した彼女は、廃材から形成されたトンファーの様な形状の巨大な杭打ち機の様な物を、白衣の男に振るった。空気が、生命が、ありとあらゆるものが震えた。
確定的な滅びだが、故に白衣の男はその合一を受け入れた。全てを知った今必要なのは個としての個ではなく総体としての個だからこそ。
『神が解放を望むなら破壊神が生まれるもまた必然!――故に、さらばだ!』
□
巨大な双胴型の戦艦が、大量の随伴艦と共に一つの星の上空を通り過ぎた。
星よりも巨大なそれが通り過ぎた瞬間、その星は砕け散る。星の重力圏内に星よりも巨大な物体が通り過ぎたのだ、重力の乱れは大気を乱し地殻をはがして行き、爆発するのは仕方のないことだった。
破壊される瞬間発射された物体が、先ほど破壊された星よりも巨大な星に降り注ぐとともに、ブリッジと思しきそこで男は静かに語り始めた。それはまるで詩を詠むかのように朗々として、ブリッジにいた全てのヒトもまた静かに男の方を向いた。
「フューラーが何故人類の進化を認めたのか、進化とは何か――」
選ばれたのだと男は嘯いた。一つの星の中で争い合うしか出来ない人類は、星間戦争を経て進化し、今では侵略する側に回っている。全ては予定調和であり、全てはこの為の布石だったのだと。
その為の因子が迷い人であり、それがために我々は進化して来たのだと。
忘れてはならない。我々は母星から脱出して来たのだと言うことを。忘れてはならない。我々は未来永劫、人類に盾つく異星人を滅ぼさなくてはならないのだと言うことを。
「進化とはすなわち侵略だ。進化とはすなわち宇宙の征服だ。我々はフューラーに選ばれ侵略者、征服者になる権利を手に入れたのだ」
故に、これは聖戦なのだ。何処の異星人かは知らないし知る必要はない。全てを滅ぼせばそんな物、気にする必要は無くなるのだから。
星を捨て流浪を強制されたのだから、同じことをされて何が不満だと言うのか。であれば、粛々と受け止め滅びを甘受せよ。それ以外に、異星人が出来ることなど何も無い。
侵略、征服、破壊、殲滅、あらゆる全てを以て敵を殺せ。天に瞬く星は全て敵なのだから。そしてその滅ぼした場所に、新しく人類が根を張っていく。滅びは消滅と同義ではなく、滅びは新たな世代を作るための肥やしとなるのだ。
「この爆弾を使えばこの星に存在した文明の全てが塵一つ残さずに消え去るだろう。だがそれは無駄ではない。いずれ移民する同胞の為の肥やしとなるのだ」
とてもではないが正気ではない。だがそれが彼らにとっては普通なのだ。何より進化において行かれた存在なのだから、進化を認められた人類に駆逐されるもまた必然。それが進化の歴史であり、それが有史以来人類が、全生命体が紡いできた歴史なのだから。
原始の惑星に多くの隕石が降り注ぎ、そこに付着していた微小生物から進化して来た。
苔から海洋生物へ、海洋生物はやがて爬虫類と呼ばれた姿へ移り変わり、陸へ上がって巨大化し、絶滅しその生き残りが新たな種を作り、それらが絶滅し――猿が生まれ類人猿へと移り代わり、原人、旧人、新人へと移り変わっていった進化の歴史。そして人類は宇宙へ進出し、あらゆる生命を殺戮し凌辱する力を手に入れた。
端的に、進化とは他の排斥であり、進化とは殺戮の歴史だ。であれば、更なる進化の為に異星人を排斥するのもまた正しいことだ。
結果論と大衆主義の観点で言えば、弱いから排斥され、弱いから奪われ、弱いから搾取されるのだ。であるなら強者こそが正義であり、強者こそ法則であり、強者こそ許容される。
旧国主たちによって生かされ逃がされ流浪の旅に出るしかなかった。情けないし、何より逃がして頂いた旧国主たちへの恩に報いるため、弱者でいてはならないのだ。大いなる庇護者の庇護から離れたのだから、尚更に――
「全艦攻撃用意!奴らをあの星から逃がすな!宇宙に存在する生命は全て敵だ!」
であれば強者になり先の見えない暗黒を突き進むしかない。何より生き残りを生き残らせ、旧国主たちの願いどおりの繁栄を得るためにも、自分達の身を守るためにも――
人類軍がこうであるなら、ならば敵もまた易々と死を甘受してくれるかと言えば答えは否だ。
彼らにも彼らの生活があり、彼らの平和があり、彼らの文明がある。何処かの異星人の責任を擦り付けられるなど真っ平御免だし、それで死ねと言われて納得出来ようはずもない。たとえ武力に劣ろうとも彼らは彼らの生活と生き残りをかけて戦力を集結させた。
ヘルモーズ級超弩級宇宙戦艦一番艦ヘルモーズを筆頭とした艦隊でもまた、決死の攻撃作戦が、いや作戦とも呼べない怒号が飛び交っていた。
どうあっても止めなくてはならないと言う義務と責任、そして勝てるわけが無いという絶望が彼らに自棄を起こさせていた。
「人類軍をこれ以上進ませるな!アルトアイネスの衛星をぶつけてでも止めるのだ!」
とても人間には見えない爬虫類系の容貌の、男と思しき何者かが無理難題と知りながらやけくそ気味に命令を飛ばしていた。月とは言うが、人類軍の知る月と比べ数百倍はあるだろう衛星を、それと同じくらいの規模の人類軍の戦艦にぶつける――それでも勝機が見い出せないと言うほど、人類軍の兵器は理不尽に過ぎて泣きだしたくなるのを堪えていた。
対する人類軍も、とても攻撃的につり上がった目で、余裕そうに命令を下す。実際そう出来るだけの力がある。エネルギーは無限で、それを可能にできるだけの主砲も備えている。何を恐れる必要があろうか――――いや、何もない。
「月なんぞ、このゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンの主砲で吹き飛ばしてやる!」
「主砲出力0.0000000000000000000001%、ガイドレーザー照射一秒後に発射します!」
二つの胴の中心、上下に聳え立つ艦橋と艦橋のちょうど真ん中が割れて砲口が迫り出してくると一瞬、ガイドレーザーが照射されたのちに大出力のレーザービームが放たれる。
しっかりと衛星の中心、核に向けて狙い澄まされた一撃はガイドレーザーの照射によって核まで直通の細い経路が穿たれ、直後の極熱のレーザービームによって蒸発する。
衛星が爆発する。核の消滅によって残った微小重力を処理しきれずに核の周囲を覆っていた土や岩が全て超新星爆発のごとくに飛び散っていく。
これで0.0000000000000000000001%だ。数学の単位で表すなら『清浄』という単位。もはやないに等しいにもかかわらず、それで惑星サイズの衛星一つ、下手すればそれよりさらに巨大な惑星をすら破壊可能な威力を秘めている。単位が一つでも違えば、それこそ最大出力で放たれればそれこそ一つの銀河が終焉を迎える。
彼らが最大出力を出さない理由とは、先ほども述べた通りにいずれ移民する彼らの守る民のために他ならない。そのために惑星一つを壊死させようとしている。惑正浄化とは即ち、一つの惑星を丸ごと腐食させて腐葉土にする行為に他ならない。その腐葉土の上に、人類が立つのだ。
――そしてあとは、起爆の信号があればそれで済む。それですべてが終わる。後は凄惨な虐殺劇が繰り広げられるだけだ。
「起爆用ホーミングレーザー発射!惑星浄化爆弾を爆破せよ!」
細い、とても細い線が数十、あるいは数千、もしくは数万の光の大軍となって先ほど降り注いだ地点に一切のズレなく降り注いでそれらに起爆信号を与えた。
オレンジ色の光が、周囲を取り囲む野次馬たち全てを取り込み巨大化していく。オレンジ色の光は変色して赤へ、紫へ、青へ、翠へと変色していき、光が収まれば其処には何もなくなっていた。全てが虚無の地平へと帰り、残るのは耕された大地のみとなった。
その爆発光は順に一つ、二つ、十、五十、百、五百、千、万と増えて行き、やがて大地は光に埋め尽くされた。多くのヒトを腐らせ溶かし、多くの建物を、多くの文明を消し飛ばしていく。
「アルトアイネスが……アルトアイネスが押しつぶされるゥ!!」
それは宛ら死んだカブトムシのようだった。集う光はカブトムシの死骸に集る蟻のようで、人々が絶望を感じるまでもなく星は終わった。まさしく押しつぶされるように。
光が収まった後、それで変化は、絶望は終わったとみていた誰もが思った時、星は、アルトアイネスと呼ばれた星は崩壊を始めた。
内部まで腐ったのか、汚い断面を晒しながら表層から少しずつ崩壊していき、表層の大地はもちろんプレートまで剥がれ、水は極低温の宇宙に飛び出たことで不純物を内包しながら凍っていき、マントルにあっただろうマグマは周囲の水素に引火し腐った核を燃やしつくして行った。
ここに守るべき星は消滅した。たとえ星が滅ぼうとも、自分たちと残り滓さえその星にあれば再興は可能だったはずのそれが、その淡い希望すら踏み躙られた。
普通の戦争であれば――ことそれが殲滅戦であれば――希望や退路を一つだけ残し、自棄を起こさせずに一人ずつ丁寧に殺していくのが常套だ。自棄を起こした軍民は時として痛打を与え得るものだからだ。艦隊も、勿論その方針でいくつもりだった。これは完全に、想定外だったのだ。
だがそんなもの、アルトアイネスの軍隊には関係なかった。帰るべき星を失い、帰るべき家族を失い、孤立無援となり滅びを待つのみとなった。
ならば恐れる物は何もない。どうせ帰る場所も何もなくなったのなら、せめて
「――と、特攻だ!全軍特攻せよ!母星の仇を取るのだぁ!!」
先ほどの主砲よりも威力の抑えられたレーザービームによって、まるで蚊トンボのように落とされていく自軍を見ながら、最後にヒトらしく死ぬために、尊厳のある死を彼らは選んだ。
だがそれも随伴艦や起爆用レーザーを放った戦艦の周囲に張られるエネルギーフィールドの前には無価値で、どんどんと上昇していくエネルギーによって如何なる兵器を用いようともすでに彼らには通用しなくなっていた。
搭載された量子コンピュータが学習しているのだ。千分の一秒単位どころではなく、それこそ回路を信号が錯綜し始める瞬間に全てを理解し学習している。進み過ぎた文明に対して、彼らは無力だった。それでもたった一撃、たった一撃でも痛打を与えられると信じて彼らはただ愚直に進む。無駄と知りながら。
そしてそれを嗤って見ているのだ。前時代的で、愚かしいと。そのうえで、彼らが聞いていないことを良いことに、彼らの母星を愚弄する。潰れて良かったと
「潰れたか。だがまぁそれでも構わんだろう。どうせ星なんぞは腐るほどあるのだからな。逆に、早期に分かってよかったじゃないか。移民してからでは遅いのだからな――攻撃の手を緩めるな!星が潰れた以上奴らに存在価値は無い!徹底的に潰せ!潰せるだけ潰せ!」
尊厳のある死も、見方によってはただの短慮でしかない。逆に手間が省けたとでもつぎの瞬間には言い出すだろう。それほどまでに圧倒的なのだから。
だからこそ彼らは願う。どうか誰か、彼らを討ち果たしてくれ。すでに奴らのまき散らすエネルギーで溶解して痛打も与えられないほどに満身創痍となっている。だがこの一撃が後代に光を灯すと信じて――
「見よ、これこそが神風特攻だ!誰かが貴様たちを討ち果たすと信じ後代に託すヒトの魂だ!」
「敵軍のエネルギー、尚も上昇中です!ヘルモーズも、もう耐えられません!」
「――少しは驚いたか、異星人共!これが我らの覚悟だ!!!」
そしてヘルモーズ級超弩級宇宙戦艦一番艦ヘルモーズも、ついにはエネルギーに耐えきれずに溶け切った。残った物は何もない――宇宙の塵と消えたのだ。
旗艦を失えばどうなるか分からなかったわけではあるまい。残るは生き残りの大虐殺祭だ。もはや居る必要もない。この双胴型の戦艦の艦長、神崎真壁はすぐさま命令を発した。
「終わったな――全艦、生き残りを掃討しろ。どうせ進化に拒まれた野蛮人種どもだ、いくら殺したって構わん」
これでまた一つ、ロスト・イェルサレムの仇が取れた。あとは移民船団に合流するのみだ。今年こそは誕生日を祝ってやれるかもしれん。
先ほどまでの獰猛なまでの瞳は鳴りを潜め、其処には穏やかな瞳の一人の父親がいた。
毎年毎年誕生日を祝ってやれなかった。それだけが彼の人生における後悔だったが、今年は誕生日に間に合わせることができそうだと安堵していた。
「ロスト・イェルサレム……仇は取ったぞ――――――――っ!何が起こった!」
「正体不明の敵が、戦艦規模のエネルギーを内包した何者かがゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンに取りつきました!左舷カタパルト40パーセント損傷、使用不能です!」
その直後だった。
ブラックホールの直撃ですら揺るがしたことのない艦に突如嫌な音とともに響いた衝撃は、一体何がぶつかったというつもりだろうか。
これでもかというほど幾層にも張られたエネルギーフィールドに守られ、ブラックホールでさえあまりの質量、あまりのエネルギー総量に吸い込むことが出来ないというのに――それが何故人程度の質量で揺るがされると言うのか。
モニターに映る映像を見て、男は理解した。なるほど。これは揺るがされても仕方がない。そしてこの艦の、この艦隊の常勝無敗伝説もこれで終わりかと理解してしまった。
モニターには巨大なくい打ち機のようであり巨大なトンファーのようなものを構えるオレンジ色に灯された少女が張り付き、今打ちつけられる瞬間だった。
『オォォォォォォォォォォリャァァァァァァァァァァ!!』
おもむろに画像データを呼び出すと、燃え盛る艦橋の中で彼は唯一つ手元にある家族の写真を涙で歪む視界に収めながら呟いた。
「すまない、真冬――父さんまた、お前の誕生日を祝ってやれそうにない……強く生きろよ」
ドワォォォォォ!!
■
父親が死んだと、軍の偉い人から知らされたのがつい一昨日のことだった。士官学校を休んで連れて行かれた宙域には残骸だけが散らばって、何も残っていなかった。
母親が死んでも碌に葬儀に出席しない父親だったが、それでも――そんな父親でも涙って言うのは出てくるのかと不思議な感慨に襲われて、知己の将校さんに肩を抱かれながら俺は泣いた。
なんで毎度毎度、誕生日に泣かなくちゃいけないんだと云う思いと、そうであっても二~三日遅れでプレゼントを忘れずに用意してやってきてくれていた父の不器用な苦笑いがダブって見えて……失うと云うことの意味を知った。
自殺するかも知れないと云って心配してくれた将校、葉風さんの計らいで二日ほど葉風さんのもとに寝泊まりすると、俺は自然と自分の家に足を向けていた。
税金やら諸々どうしようかと現実逃避気味に考えながら、俺は半ば虚ろな足取りで自宅に向けて歩いていて、躓いた。感触からして、人だろう。ヤバいと思う間もなく、今のご時世に人が倒れていると云う非現実さに気がついて、俺はそれを見た。
それは女だった。
まるで中世の奴隷が着るような簡素な服から覗く不健康そうな手足は、垢にまみれたそれらは異常な環境に彼女がいたことを如実に表して、俺は不覚にも声をかけてしまった。
「なぁお前、行き倒れってやつか……?」
我ながら馬鹿な質問だと思いつつも、頷く彼女を見て、俺は何かをしなければと使命感にも似た何かに突き動かされて、いつの間にか彼女を背負っていた。
それからの毎日は不思議と現実味が薄く、けれどとてつもなく幸福だったのは覚えていた。
年の割に何も知らない彼女から目を離すことが出来なくて、でも食事をするときの彼女の幸せそうな笑顔が、勉強するさなかに見せる彼女の百面相が、二人でダラダラと過ごした休日が、かけがえようもなく幸せな日常だったのだ
『容疑者を発見、捕縛します!』
『ごめんね、マフユ。私、やらなきゃいけないことがあるから、ここでお別れだね』
『待ってくれよ、行かないでくれ!一緒に居ようって言ったじゃないか!どこにも行かないって!』
『真冬君、彼女がお父さんの搭乗していた戦艦、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンを落とした張本人だ。どんなカラクリかは知らないが、あれは間違いなく君の求めていた仇だ』
『俺を――俺を乗せてください、Elフレームに……いえ、ザルヴァートルに』
『異世界転移の物語』最終章エピソードⅢ ~Wille zur Macht 力への意思~
なんだか何かに似ているなと思っても、深くは詮索なさらないように。皆さんもヤクザ屋さんが募集している資材運びのバイトで渡されるぬいぐるみの中を、わざわざみませんよね?
さて、これからの異世界転移の物語に関してですが、まだ未完の作品が一つなので、他に書こうと思っている短編(異世界転移の物語とは別枠)と同時並行で書き進めて行こうと思っています。それからまだ筆を付けていない連載予定のGotterDammerungと、まだ投稿していない異世界転移の物語の第二章、そして最終章にも手が伸ばせるように仕事と両立しながらやっていくつもりです。
これからも魔弾の射手をよろしくお願いします。