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大会に誘われた

 イヴが旅立ってから二か月が過ぎた。その間のわたしの日常は特に変わりない。朝起きて水汲んで朝食を取って自分のお店に出る。お店を開いたら昼まで患者さんの診断と治療にあたって昼休憩、その後は日没近くまで仕事に没頭する。店じまいしたら買い出しして夕食を作り、鍛練や読書等の自分の時間に費やして就寝するのだ。

 キエフ公国に行く前と大きく変わったのは週三回ほどタマルが来てくれるようになった点だろうか。何でも緩やかに時が過ぎていくのが羨ましくなって魔導協会での仕事量減らしてこっちに来ているらしい。こちらとしても繁盛しているおかげでにぎわう人達を診きりたかったので大助かりだった。

 ちなみに夕食の際は立ち寄ってきたタマルやロト、レイアに誘われて外食する時もあれば気分的に一人で外食する時もあった。わたしの方から誘ったりもしたけれど、回数としては誘われる方が多かった。


 そんなこんなでわたしは平穏な毎日を過ごしています、と。

 以上の内容をアダやチラ宛ての手紙に書いて投函しておいた。二人とも各地を訪問して活動しているらしいので教国を不在としているけれど、教会に頼めば今どの地で活動しているのか耳に出来るのだ。「私の活動場所、内容を包み隠さず明かす事」と言う聖女二人から一筆をもらっていたのだけれど、私が思っていた以上に効力を発揮している。

 遠く離れた場所に送られるのだから返信は最短でも数週間、一か月以上は待つ必要がある。それでもこうして人の繋がりを感じられる良い手段だとわたしは一種の感動を覚えていた。


 イヴからの返事は回数を重ねていく度に間が開いていった。アヴァロン王国と言ったら帝国からはるか遠く離れた島国、普通に旅をしていたら二か月は優にかかる距離がある。とするとそろそろ彼女は旅路の終盤に差し掛かったぐらいだろうか? 返事が待ち遠しいな。



 ■■■



「マリアさん、お小遣い稼いでみたくはありませんかー?」

「お小遣いって、わたしはお店が繁盛していますからお金には困っていません。タマルさんだっていつも高給取りだって自慢していましたから裕福なんじゃあありませんか?」


 今日はタマルが来てくれる日で今は昼休憩中。タマルには家にあがってもらってテラスで昼食を取っていた。昼食は簡易的な食事をお互いが交代で作り合っていて今日はわたしの番だった。最も今は既にお腹に納めて紅茶をカップに注いでいるのだけれど。

 そんな彼女は目を輝かせながら妙な話題をこちらに振ってきた。たまに突拍子もない話題を提供してくれるのだけれど、それにしたっていまいち話が見えてこないな。


「じゃあ慰安旅行とか興味ありませんかー? て言うか誘いますので一緒に行きませんかー?」

「別に構いませんけれど、旅行と小遣い稼ぎに何の関係が?」

「これですー」


 タマルは懐から一枚の折りたたまれた羊皮紙を取り出してテーブルの上に広げた。

 それは公都で開かれるお祭りのお知らせだった。今度の安息日に盛大にお祭りが開かれるのはわたしも知っている。街全体が祭りに向けて準備に入っているし、多くの人達から待ち遠しいとの声を聞いているもの。今更タマルに教えられるまでもないのだけれど……。

 そんな彼女が意外にも肉付きのいい指で差しているのは会場案内図に記された、公都の南に位置している円形闘技場だった。


 帝国各地の都市は帝国市民の娯楽の為に円形闘技場、帝国劇場、競技場、共同風呂を必ず備えていた。このダキア公都も例外ではなく、円形闘技場では連日にわたり様々な催しが開かれている。例えば競技による素手の決闘や人対魔物の見世物だったり、武具を駆使した剣闘士競技まで行われる時もある。

 勿論残酷だとの批判は多い。とりわけ教会からは強い圧力があると聞く。それでも存続したのは怪我を負っても熟練の魔導師ならば治せてしまう故に参加者が身体を壊したり命を落とす危険性が少ない点と、熟練者の育成としても利用されている点もあるだろうか。

 円形闘技場は剣士等が己の鍛えた身体と磨いた技術を競い合う場。万物の探求に取り組む魔導師とは相容れない場……と思われている節もあるけれど、実際はそんな事も無い。選手の治療や会場の修復、そして観客に被害を出さない為の防衛など、裏方では重宝されるのだ。


「祭りでは円形闘技場では大会が開かれるんですよー。それに参加しましょう」

「別に構いませんが、運営側でですよね? 当日は魔導師の数が足りなくて喉から手が出るほど欲しがるとはよく聞きますし」

「いえー、参加者としてですよー?」

「えっ?」


 わたしが参加者として? 闘技場に? わたしの脚より太い腕周りをした屈強な男達を相手に?

 タマルは何を言っているんだ?


「その哀れな物を見る目は止めてくださいーっ。なんと今年から魔法解禁になったんですよー」

「……それはまた思い切った決断をしましたね」

「闘技場での決闘は円形の武舞台で行って場外になれば負けですからねー。狭い空間では魔導師が参戦してもそう有利にはならないって判断だと思いますよー」

「むしろ補助魔法を駆使する冒険者や傭兵も参戦出来るから、より盛り上がると……」


 確かに理にはかなっている。何せ魔法は単に剣を振るうだけよりも派手なので見栄えがするのだ。中には一対一の決闘に魔法は邪道だと決めつける人もいるけれど、娯楽としてはより盛り上がる方がいいに決まっている。

 小遣い稼ぎだと豪語するからにはタマルはかなりの自信があるのだろうけれど、彼女が実戦向きの魔導師だとは聞いた覚えが無いんだけれどなあ。それと肝心の優勝賞品だけれど、金一封と旅行券だそうだ。具体的な内容はこの羊皮紙には記されていない。


「この金一封ってどれだけなんですか?」

「去年は公都市民の一般賃金二年分相当だったらしいですねー」

「それは結構な金額ですね。それでこの旅行券って何です?」

「どこでも好きな所へ旅行していいらしいですよー。旅費と宿泊費を主催者側が負担してくれるんですって。仕事が忙しくても運営が責任をもって休みにしてくれますし、至り尽くせりですー」


 どこでもかー。それなら近場の温泉街にでも行きたいなー。週一回は休めているけれど学院を出てからあまり長期休暇を取った覚えが無いし。普段休みなんて取れない自営業の人達も運営が休みの補助をしてくれるなら旅行に行きやすいだろうし。

 と言ってもタマルならちょっとした旅行に行くだけの貯金はあるだろう。本命はこの休みの補助を駆使して魔導協会から休暇をせしめるつもりか?


「別に今のままでもわたしは休もうと思えばいつでも休めますし、旅行に行こうと思えば行けるぐらいには融通が利くんですけれど?」

「逆に考えるんですよ、この大会はきっかけを得る為だって」

「あー、普段休む気なんて無い人もこうして余所から貰えるならありがたくってその恩恵に与れるわけですか」

「そーそーそうですよそうですよー。なので参加しましょう、是非」


 確かにこの豪華優勝賞品と賞金を狙って参加するのもいいかもしれない。問題は大会に参加する面々次第では勝ち上がるのも困難ではないだろうか? さすがにイヴと互角ぐらいの凄腕は早々いるとは思えないけれど、中々魅力的な賞品に釣られて参加する可能性だってあるだろう。


「そこは大丈夫ですよー。去年の参加者の情報を見る限りじゃああたしやマリアさんなら楽勝ですって。もう大船に乗った気分で」

「いや、生まれてから大船に乗った試しの無いわたしにその例えはちょっと」

「とにかく、参加しましょうそうしましょう」

「わ、分かりました。前向きに検討してみます……」


 タマルに強く推されるのでとうとうわたしも折れてしまった。



 ■■■



 その日は魔導協会支部に行く用事があったので、仕事が終わった後わたしは久しぶりに足を運んだ。相変わらず豪奢な作りをした中庭や屋敷に目を奪われてしまったが、維持費とかどうしているんだろうなどと野暮な発想が浮かんでしまったのは悲しい所だ。

 その分建物の中は簡素で機能的な作りをしている。掃除と見栄えを均等に考えた結果の設計だと思うのだけれど、この調子だと建築技術が発達したら改築の際に真四角の建物になるんじゃあないかしら? 少しぐらい内装には嗜好を凝らしてもいいと思うのだけれど。


「む、珍しいな。マリアが支部にいるなんて」

「アタルヤさん、お久しぶりです」


 一か月間の活動報告を事務的に済まていると窓口の後方から声をかけてきたのはアタルヤだった。彼女は普段わたしが目撃していた全身鎧に覆われた騎士ではなく、社交界の貴婦人が身にするようなドレスにしか見えない白い柄の入った青いローブを着込んでいた。確かダキア公都に帰ってきてイゼベルと面会した際はこの姿だったか。


「すまないな、うちのタマルがそちらの方に押しかけていて。迷惑じゃあないか?」

「いえ、むしろとても助かっています。あの人ってとても優秀な魔導師ですから」

「同じ水属性に秀でた魔導師でもタマルは専攻が違うからな。彼女の手並みは新鮮だろう」

「ええ、とても勉強になります」


 彼女はわたしに世間話を振りながらも手元で筆記具を走らせていた。どうやら彼女もまた事務仕事に追われているようで、大量の紙束を手で抱えている。やがて確認が終わったのか、何かを書き綴っていた一番前の紙を一番後ろへと持っていき、再び目を通し始める。

 実際のところ社交辞令ではなくタマルの腕はわたしより優れている。確かに彼女はリヴァイヴのような最上級の白魔法は習得していない。けれどその代わりに患者一人一人に合わせたきめ細やかな回復魔法の術式を構築出来るのだ。わたしにはそこまで個人に合わせた調整は難しい。

 なので二人体勢で患者を診ていてもたまに「あ、それならタマルさんお願いします」や、「んーこれはマリアさんにお任せした方がいいですねー」のように、相手に任せてしまう場合も少なからずあった。それだけわたしはタマルの腕を信頼していた。


「そう言えば彼女、次の祭りの際には武闘会に出るんだって意気込んでいましたよ」

「武闘会? ああ、円形競技場で開かれる予定の大会か。全く……魔導師があんな見世物に出て一体何の意味があるんだ?」


 まだ手続き終了の気配が無い事と、アタルヤがこの場でも事務処理が出来るのもあって、自然とわたしは退屈しのぎに彼女へと話しかけていた。彼女は心底呆れたてたかのように大きなため息を漏らす。


「魔導が単なる手段に陥っては魔導使いと何ら変わらん。小銭を稼がなければならんほどタマルを安月給でこき使っている覚えはないんだがな」

「いえ、むしろ彼女は休みを欲しがっていましたね」

「……休みを?」

「旅費は大会運営側持ちだーとか休暇取った全責任には大会運営が持ってくれるーとか」


 アタルヤは耳を反応させてから近くにいた事務員に何かを耳打ちした。事務員は足早にその場を去ると、程なく一枚の羊皮紙をもって現れる。どうやら昼頃にタマルが持ってきた祭りの案内のようで、アタルヤはそれを穴が開くのではと錯覚するぐらい鋭く見つめていた。


「それにしても休暇の責任を取るってどういう意味なんですかね?」

「具体的には何も書いていないな。だが自営業を営んでいたり商店の立場持ちだったりすると休暇を取るだけで周りに迷惑がかかるだろう。そうした損害や不利益の責任を負うんじゃあないか?」

「謳い文句はそうなんでしょうけれど、そんなの実際には可能なんですか?」

「運営委員の権力次第だろう。そう言った目線で見れば自ずとある程度信頼できるのは分かる」


 確か祭りは公爵家が領土や領民の繁栄と安定を願って毎年この時期に開催するものだ。公爵領の人々はおろか、帝国や近隣国家からも多数人が祭りに参加するために訪れる。運営委員はそうした大規模な催しを統括するため、ダキア公爵の名のもとに祭りを運営する形となる。

 つまり、休暇の責任についてはこの領土の頂点に座する公爵のお墨付き同然の効力を発揮する。

 問題なのはその公爵の名の下に、がどこまで本気なのかだろう。休暇を満喫したとある人物が仕事に戻った途端に同僚から陰湿な嫌がらせを受けた場合もしかるべき措置を取るんだろうか? 休暇中に大事故があった場合は補償してくれるんだろうか? 公爵家の影響力は疑う余地も無いけれど、それを責任にどれだけ費やしてくれるかは未知数だ。 


「だが祭りの大会でこのような副賞が出たためしがない。過去の参考例が無い以上はこのぶら下げられた餌を信頼するしかあるまい」

「別にそんな疑ってかからなくてもカインに聞いてもいいんじゃあないです?」

「む、確かに運営側に前もって具体的な説明を受けるのも一つの手か……。視野が狭くなっていたな」

「それにしても、公爵家の威を借りないと魔導協会って休暇をもらえないんですか?」


 タマルが大会なんて見世物に参加してまで休暇を得ようと目論んでいるのだから、普段の魔導協会での業務が結構きつかったりするんだろうか? それこそ神が定めた安息日まで予定を敷き詰めてかろうじて毎日を回している、みたいな。

 アタルヤは不快に思ったのか眉間にしわが寄り、少しの間だけ筆を動かす手が止まった。ただその対象はわたしの疑問ではなく、強行で休暇を企てるタマルの身勝手さによるものだろうか?


「マリアは分かっていると思うがタマルはああ見えて優秀な魔導師だ。開業魔導師として飯を食っていけるだろうし、教鞭を振るえば分かりやすく噛み砕いて説明する。研究に打ち込めばそれなりに有意義な論文を提出してくるしな。このダキア支部にはなくてはならない人材だろう」

「彼女の要領の良さなら仕事と私生活の両立だって可能なのでは?」

「なまじ出来るからこそ雑用を押し付けられるのもあるかもしれないな。彼女は面倒事を無難に処理する腕に関しては誰からも頼りにされている。お気楽にやっていきたい彼女にとってはたまったものではないだろう」

「うわ、それはタマルを当てにしているわたしにも響く言葉ですね」

「マリアだって他人ごとではないだろう、結構大事な案件が身に降りかかりがちだしな。まあ、お前の場合は最後の方は気分が乗ってくるようだが」

「うっ、否定できないのが辛いです……」


 アタルヤは筆を流暢に書類に走らせると、束を机の上で手際よく縦横と揃えていく。

 しかし彼女が数万の軍を率いて魔王軍に壊滅的打撃を与えた司令官にして騎士とはなあ。どうも戦場のアタルヤと魔導協会の彼女がどうしても結びつかない。騎乗兵を率いて相手を圧倒し飲み込まんとする覇気にあふれていた彼女の印象が強いわたしにはどうしても違和感が拭えなかった。


「無論、性に合わないのは自覚している。だがイゼベルが寝てばかりなのだから出来なくはない私がやるしかあるまい」

「えっ? では今アタルヤさんがやっている仕事って、本当はイゼベルさんの?」

「私だってこんな雑用を押し付けられるぐらいなら自己鍛錬に励みたいものなんだがな。まさかイゼベルは自分が楽したいから私をこき使っているんじゃあないかとは何度も考えたものだ。私がきつく苦言を呈した所で彼女は変わらんだろうがな」

「く、苦労なさっているんですね……」

 

 まあ、あのイゼベルがむしろ黙々と事務仕事に勤しむ姿を想像できない。突発的な事態が起こったら率先して関わってくるだろうけれど、平穏時の雑務なんてやる気が起きないんだろうきっと。その想いは分かるんだけれど、人に押し付けるのはさすがにどうかと思う。

 アタルヤが書類を揃え終わった頃にはわたしの方の事務手続きは無事に完了した。これで今日の仕事はお終い。後は日が沈んで昼とは様変わりした繁華街で買い物を済まして、一人で静かな夜を楽しむのだ。先ほど魔導協会支部に足を運んだ際は晴れていたから、きっと満天の星空を堪能できるはずだ。たまには天体観測もいいかもしれない。

 そんな今日の予定に思いを馳せていると、何故かアタルヤは祭りの案内を食い入るように見つめていた。真剣な眼差しには迫力があって、思わず圧倒されてしまった。


「……マリア。今更だが、今年の大会は魔導師も参加できるのか?」

「え? ええ、魔導が解禁になったので補助魔法も攻撃魔法も使えますね。今までは鍛練と実戦で培った技術のぶつかり合いでしたが、そこに新たな味付けが加わった形でしょうか」

「どうしても女の身では男に身体能力では敵わないからな。私では魔導での補助が無いと歴戦の戦士達には到底及ばない。だから私は毎回観戦するだけだったんだが……」

「今回の規定に従えばアタルヤさんは断然有利になりますね」


 確かに彼女の身体つきはさすがに肩幅広く腕や脚周りも太いけれど、一流の剣士や屈強な拳闘士として生きる男性と比べるとやはり細い。そして肉付きにどこか丸みや柔らかさが残っている。まあそのおかげで女性としての美しさが損なわれていないのだが。

 イヴが卓越した技術と光の魔法で補っているのに対し、アタルヤの強さは魔力放出による身体能力向上、そして魔導による武具精製で支えられている。魔導抜きで勝てる見込みが薄い以上はこれまでの大会に参加を控えていた理由も頷ける。


 それは分かったけれどどうして念を押すように、と疑問を浮かべていたら、アタルヤは口角を吊り上げる。それは子供が見れば泣くか漏らしてしまうのではと思ってしまうほど鬼気迫るものだった。


「そうか。ではわたしが勝ってしまっても構わんのだろう? 少しの間でもイゼベルから仕事を押し付けられなくなるならな」

「えっ、で、でもこの間の遠征の際はずっと軍を指揮していたのでは?」

「イゼベルは空間を割って転移出来るからな。おかげさまで毎日ではないがこことキエフを往復して仕事を処理していたぞ」

「そ、それはご愁傷様です……」


 なんと、あれだけの快進撃の舞台裏ではそんな顛末があったなんて。でも確かアタルヤ軍の進撃はかなりの強行日程だった筈。少しの間の野営を縫って山のような書類を前にしていたならどれだけ働いていたんだって話だ。

 アタルヤは何を思ったのか、わたし達が挟んでいた机を飛び越えるとわたしの手首を掴んできた。あまりに突然で混乱するわたしをよそにアタルヤは協会支部出口に向けて大股で歩いていく。

 

「ちょ、ちょっとアタルヤさん、どちらに……!?」

「今すぐカインに会いに行く。この副賞がどれだけの効力を発揮するかを確認にな」

「い、今からですか!? もう日も沈んでいるのに……?」

「こんな時こそ肩書が物を言うんでな。それに彼と親しくするマリアも付いて来るのだから門を開かん筈がない」


 その計算がどんな過程を経てはじき出されたのかはさておき、何て無茶苦茶な。けれどアタルヤの手はわたしを離す気配が無い。彼女が本気を出せばわたしのか細い手首など果物のように握り潰せるだろう。ここは大人しく彼女に従う他あるまい。

 前途多難な予感しかしなかったが、どこか次に何が起こるんだろうと心逸る自分もいるような気がした。

お読みくださりありがとうございました。

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