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魔王軍との対峙⑦・完全敗走

 妖魔の群れが迫る中、わたしはエヴァと対峙していた。彼女の眼は私を捉えて離さず、少しでも動こうものならすぐさま対応できるよう剣を構えていた。


 威勢よくエヴァの前に躍り出たのはいいけれど、一対一で敵う相手とは到底思えない。未だ本領を発揮していなかった死者の都攻略時のイヴにだって勝てる見込みは無いに等しかったのに、目の前の彼女は万全の状態かつ魔物と化して身体能力が更に引き上げられているのだから、更に絶望的だ。

 わたしが攻撃魔法をけん制で放った途端に間合いを詰められて一刀両断される展開も十分考えられる。もはやこの展開になってしまった時点でわたしは詰んでいると言わざるを得まい。


 それはエヴァだって分かっている筈だけれど、攻めてこないのはわたしが迫る妖魔の群れに弄ばれても構わないんだろうな。ええい、衝動で飛び出してしまったものは仕方がない。勝ち目がなかろうと逃げ切るぐらいはわたしにだって出来る筈だ。


「勝負です、エヴァ」


 わたしは杖を立てて魔法の矛を上に向けて自分の今残されている全ての精神を集中させていく。

 ノアとの戦いで消耗した現状、小細工を弄しても始まらない。どうせどんな攻撃魔法を繰り出した所で結果が見えているなら、初めから全力全快を相手にぶつけるまでだ。わたしの習得する中でレイ・シュトロームと並ぶ最大の威力を持つ攻撃魔法に全てを賭ける。


「へえ、それなら私も」


 エヴァは力を収束させるわたしに目を見張ると、不敵に笑った。今の彼女にはそんなちょっとした仕草すら魅力的に感じる。人を惹きつけて食らう種族サキュバス、今は危険と言う他ない。彼女は闇を固めたような漆黒の、なのに歪な形をさせた剣をやや後ろに下げて構え直した。

 そして彼女もまた力を剣へと込めていく。それはわたしのように魔力のみで物理現象を起こす無属性でも魔の者が繰り出す闇でもなく、勇者の担う光が込められていた。


「……魔に堕ちたのに光属性の魔法が使えるのはずるくないですか?」

「魔に浸ろうとも私の培った技術はそのままだもの。ちっともずるくないわよ」


 最も、勇者の力が反転させられていても結局属性が真逆なだけで同じように迎え撃つ形になったんだろう。それにしても恐ろしいほど膨大な魔力がエヴァの剣に集まってきている。一振りで千もの魔を払う勇者の力は健在なのは分かったが、それがまさかわたしに振るわれるとは。

 けれど、術式の構築はわたしの方が速かったようだ。先手は打たせてもらう……!


「マジックレイ・エクソダス!」


 わたしは力ある言葉と共に杖を振り抜いた。膨大な量の魔力の粒子は斬撃となって一直線にエヴァへと向かっていく。

 レイ・エクソダスは教会の教典で聖者が海を割った奇蹟に由来する……訳ではなく、レイ・シュトローム同様に勇者の振るう光の剣、つまり光の放流を意識している。この魔力放出型の無属性攻撃魔法はレイ・シュトロームが一点貫通型なのに対し、海を割るほどの巨大な斬撃型になる。


 そう、丁度今勇者の力を有した妖魔エヴァが開放しようとする奇蹟が元となっている。


「掃え光の一閃よ!」


 エヴァが剣を振り抜くと、その剣先の軌道に沿って光の斬撃が生まれた。それはわたしが放った魔力の斬撃とややエヴァ寄りの位置で激しくぶつかり合う。

 その激突の衝撃は術者の自分に大きな反動となって襲ってきた。身体が軽く投げ出されそうになるのを何とか堪えてその場に踏みとどまる。わたしを襲ってくるのは魔法の反動ばかりでなく、二つの膨大な力が激突する余波が暴風となって吹き荒れてくる。正直その場で耐えるのもきつい。


 今のところは双方の斬撃は押しも押されず衝突位置で拮抗したままになっている。レイ・エクソダスは発動させてそれでお終いな代物と違って魔力を込めれば込めるだけ威力も上がり持続する。つまりだ、このまま勢いに任せて押し切る……!

 と、意気込んだのはいいけれど、予想に反して敵の斬撃を全く押し切れないでいた。眼前で力がぶつかり合うせいで敵の様子は窺い知れなかったけれど、最悪の展開を想定するならまだ余力があると見ていいだろう。

 なら、まずは敵が放った必殺の一撃をいなす……! 


「うああああっ!」


 わたしは叫びながら振り下ろした杖を全力で振り上げた。結果、わたしが放つ魔力の奔流も下から上へと向き直り、正面から受け止めていた相手の斬撃を上方へと払う形となる。

 エヴァの放った光の奔流はわたしの魔法がぶつかったせいで方向がずれ、斜め上方向へと突き進んでいく。それはまるで夜空に煌めく流星のごとく天空へと消えていった。その際激しい余波が吹き荒れてわたしを襲ったけれど怪我は起きなかった。


 思い通りにやり過ごせて思わず拳を握り締めたくなるのを何とか堪えて、その隙に次の一手で相手を強襲……。


「光の斬撃を対処できるなんてね。素敵よマリア」

「!!?」


 いつの間にかエヴァはわたしの目の前に飛び込んできていた。まさかわたしがエヴァの光の斬撃を切り上げた瞬間に飛び出していたのか……!? わたしと同じ発想に至ったんだろうけれど、今度は相手に先手を取られたか!

 反撃……いや、間に合わない。防御を……!


「マジックシー……!」

「遅い」


 わたしは咄嗟に魔法の障壁を前方へ展開しようとするも、術式の構築が相手の動作に対抗するには時間が全く足りない。

 わたしの足掻きも空しくそのままエヴァは剣を横一直線に振り切った。光が走ったようにも見えたから、これもきっと光の魔法を伴った一撃だったんだろう。


 そうしてわたしは意識を刈り取られた。



 ■■■



 -閑話-


 エヴァの剣が振り抜かれ、マリアの首から上にかけてが宙を舞う。回転する彼女の首が地面に転がり落ちるのと彼女の身体が地面に倒れ伏すのはほぼ同時だった。


「マリアさん!?」

「マリア様……!」


 見栄も体裁も無い撤退を進める人類連合軍の中でその光景を目の当たりにした兵士が悲鳴を上げる。悪魔のような魔物に阻まれて中々彼女の下へたどり着けないでいた聖女チラと修道女プリシラが彼女の名を叫ぶ。


 人間達の嘆きをあざ笑うかのようにエヴァはゆっくりとした仕草でマリアの首を拾い上げ、それを自分の眼前に掲げた。マリアを見つめるエヴァの眼差しはどこか熱を帯びており、次には愛おしそうにマリアの唇に軽い口づけを交わした。


「この人が勇者イヴと共に世界を救った魔導師……。今日からはこの私と共に在るのね」

「このっ、その汚らわしい手でマリア様に振れるんじゃあありませんわよ!」


 プリシラは続けざまに矢をエヴァへと放つ。彼女の急所を狙った射撃は寸分たがわずに彼女へと吸い込まれるように進み……、


「な……っ!?」

「残念、時間切れのようね」


 なだれ込んできた魔物の群れに阻まれてしまった。プリシラがいくら矢を放とうと次々とエヴァの前に魔物が立ちはだかり、雑魚の死体ばかりが量産されるだけで一切エヴァへと届きやしなかった。


「ぐ……っ! 邪魔ですのお退きなさい!」

「シスタープリシラ! ここはもう限界だ! 撤退戦に移るから今すぐこの場を離れないと!」


 なおも攻撃を続けようとするプリシラの肩を司令官が掴む。邪魔された苛立ちでプリシラはつい乱暴に振りほどこうとするも、力強く掴まれているせいでびくともしなかった。


「離しなさい! あそこにはまだマリア様が……!」

「悔しいが我々には彼女を救うどころか遺体の回収すら不可能だ! 諦めるしかない……!」

「そんな! い、いえ、ですけど……」


 良い様に弄られるマリアの遺骸を見捨てていくしかない己の無力さに奥歯を噛み締めたがプリシラは、次には自分の頬を殴っていた。

 プリシラは目の前の悲劇に怯えて身体をすくませる聖女の身体を大きく揺さぶった。


「撤退しましょう聖女様。しんがりはこの私めが務めますので、どうか司令方と共にお退き下さい」

「う、うううっ! でも、でもぉ!」

「勇敢と無謀は違いますわ! 今私めや聖女様がマリア様へ駆け寄ろうとしても犠牲が増えるだけですの。聖女様の喪失がどれほどの影響をもたらすか、お分かりの筈です!」

「ご、ごめんなさいマリアさん! 神よ、あまりに無力な私をお許しくださいぃぃ!!」


 チラは大粒の涙を流しながら駆けだした。彼女はあまりに何もできない自分自身への不甲斐なさとマリアへの申し訳なさで頭の中がいっぱいになっていた。それでも彼女は生き残った者達を還す為に撤退を選択したのだった。

 既に本陣に残る兵士達は残りわずかで、聖女の退避を確認すると各々が踵を返しだす。プリシラもまた口惜しそうに拳を握り締めると、身を翻して聖女達の後を追う。


 逃げ惑う人間達に我先に群がろうと人の部位を有した魔物達の波がなだれ込んでいく。そんな光景を眺めながらエヴァはただマリアの顔を眺めながら自分の世界に浸っていた。彼女は指でマリアの頬をゆっくりと撫で回す。


「嗚呼、サロメ様に献上するべきかしら。それとも私のものにしてしまってもいいかしら? これほどの人をただの下僕にするなんてとても惜しいし、寵姫にするのもいいかもしれない。どんな種族にしても彼女らしさを損なわないようにしないと」


 エヴァは倒れ伏したマリアの身体を背負おうとその手を伸ばす。力が完全に抜けた人の身体は予想以上に重かったものの、夢魔と化した今のエヴァにとってはフォークやナイフと同程度にしか感じなかった。


「……あいにく、わたしは人間のままがいいんです」


 唐突に、エヴァの傍で聞こえない筈の声が聞こえた気がした。


「……へ?」


 それが現実のものだと分かった頃にはエヴァの身体は斜めに大きく切り裂かれていた。


 身体が崩れ落ちる彼女からは急速に力が失われていき、マリアの首も零れ落ちてしまう。その首を見事に掴まえたのは、あろうことか先ほどまで横たわっていた筈のマリアの死体ではないか――。


 かろうじて手を大地に付いて倒れるのを堪えたエヴァは、マリアの身体がその首を元の位置に持っていく姿を目の当たりにした。彼女が持つ杖は先ほどと同じように杖の先端に魔法による矛が構築されており、それで斬られたのだと分かった。


「い、一体何が……?」


 負傷の要因は分かったがエヴァには目の前の現実が信じられなかった。確かに彼女はマリアの首を斬り飛ばして生命活動を停止させた。それはマリアの首を持った瞬間にも確認した。なのに何故彼女は生きているのか、理解できずに混乱の只中にはまり込んでいく。

 そんな彼女にマリアは顔を横に振る。前提がそもそも間違っている、と言わんばかりに。


「ええ、わたしは確かに命を落としました。これは反魂魔法レイズデッド、わたしが死亡した直後に発動する冥府の魔導によるものです」

「冥府の魔導、ですって……!? 死をも超越する……!」

「ごめんなさい。こうでもして不意打ちしないと今のわたしでは貴女には一矢報いる事が出来ませんでしたから」


 マリアは杖の先端を今度は自分の足元に向けると、そこから魔力を放出させ始める。魔力の奔流が推進力となり、彼女の身体は宙に浮き始めた。


「それでは失礼します。貴女の熱烈な誘いも魅力的ではあるんですが、わたしには帰るべき場所がありますので」

「……待ちなさい。狙った相手を見過ごす私とでも思っているの?」


 マリアの速度は次第に増していき、空高く飛びあがっていく。深く傷を負ったエヴァでは追う事も出来ないとマリアは計算していたからだったが、予想に反してエヴァはその翼を大きく広げ、羽ばたかせ始めた。

 跳躍が無かったので初速度こそ得られなかったものの、エヴァもまた空へと飛びあがり、猛烈な速度でマリアを追いかけはじめた。


「嘘!? そんな深手を負って……!?」

「逃がさない、貴女だけは……!」


 笑みを張りつかせたエヴァの瞳は狂気に染まり輝いていた。


 -閑話終幕-



 ■■■



 まさか念の為にと施していた自動式の反魂魔法を発動させる破目になるとは。意識が覚醒する間にエヴァに良い様にやられたような気もするけれど、意識しないようにしよう。


 反魂魔法レイズデッドはミカルを蘇生させたものと同じ技術になる……らしい。何せ詳しい話はマリアに聞いただけなので。ともかく、彼女を蘇らせた時と違うのは術式の構築密度と魔力量だろう。彼女の場合は部屋一面の術式と膨大な魔力、そして魔王の遺骸という優れた触媒を用いて遺骸に呼び戻した魂を完全に定着させた。

 けれど今回の場合は即席で構築した粗悪物。具体的には死亡直後にしか効かない上に天に召されようとする魂を引き留めているに過ぎない。魔法の効果が及んでいるからアンデッドよろしく首を切断されたままでもこうして意識はあるけれど、そう長くは保たないだろう。


 つまり、わたしは既に死亡が確定している。後はどこまで往生際悪く旅立ちを遅くするかだけだ。


 アタルヤのようにアンデッド化してこの世界に留まる事も出来るだろうけれど、それはやりたくない。わたしは普通の人として生きていたいだけで、死を超越してまで過ごしたいわけではない。そりゃあまだ生きていたけれど、そこはこだわりとしか表現のしようがないだろう。


 なら、いつ再び力尽きるかも分からないわたしがやるべき事は、一刻も早くこの身を人類連合軍の下まで運ぶ事だ。

 先ほどのエヴァの発言にもあった通り死んだわたしの死体からも妖魔化出来る手段があるのだろう。わたし一人が命を落とすならそれはわたしの力が足りなかったのだから仕方がない。けれど、わたしがわたしでなくなりイヴや他の人達に迷惑かけるなんて考えたくもなかった。

 だから、この身体を連合軍に預けて処分するなり埋葬するなりしてもらわないと。わたしが魔物へと変わらないように。


 申し訳ないけれど、堕ちた勇者エヴァや軍団長ノア達は残ったイヴやプリシラ達にどうにかしてもらおう。わたしも力になりたかったけれど、出立前に跡を濁さないのが精一杯だ。


 それにしても、追いかけてくるエヴァの速度が予想以上に早い。こっちは魔法で噴射させてあっちはただ羽ばたいているだけなのに、推進力が同じだなんてあり得る筈が……。


「どうしてって、貴女の真似をしているからよ」


 わたしの耳に彼女の甘ったるい声が囁やかれた。思わず耳元を覆うものの高速飛行するせいで風を切る音しか聞こえてこない。もしかしてこれ、風属性魔法のちょっとした応用か?


「魔力を噴射して推進力にするなんて考えたものね。これなら鳥みたいに飛行に優れた身体の構造していなくても高速で飛べるわ」

「嘘、見よう見まねだけでわたしの魔法を習得したんですか!?」

「さあ、どれだけ鬼ごっこを続けるのかしら? 掴まえた時が貴女が私のものになる瞬間、よ」


 魔法のせいで耳を塞いでいても艶やかで吐息混じりの声が聞こえてしまう。正直言ってわたしが人間として終了する瀬戸際にいるのに官能的に感じてしまう辺り、彼女の身に降りかかったあの第二都市での顛末は想像に難くない。

 やがて退却する人類連合軍の列が見えてきた。しんがりを務めているのはプリシラを始めとした弓兵と魔導師、それからバラク製の合成使い魔辺りか。狙撃兵たちは馬車の上や後方に立って敵に狙いを定めているようだ。退却の速度を保つためだろうけれど、上手いなこの方法は。


「残念ですがどうやらわたしは逃げ切れたみたいですね!」

「何ですって……?」


 これならこれで鬼ごっことやらは早くも終了だ。わたしが人の波を視界に捉えられたのだから、向こうからだって高速で接近するわたしたちは捉えている筈だ。

 直後、突然エヴァは何かを察したのか身を捻るものの、その大きく広げられた翼にプリシラの矢が直撃し、すぐさま電流が迸った。


「が、あああ!?」

「お互いに天恵があればまたお会いしましょう!」


 感電して麻痺したエヴァは悲鳴を上げてそのまま地面に向けて墜落していく。さすがに私を追いかけるのに夢中でプリシラからの攻撃には反応できなかったらしい。その落ちゆく彼女には思う所があったものの、彼女を気に掛ける余裕は今のわたしには無かった。


 正直、魔力を放出しているとごっそりとわたしの中から何かが抜け落ちる感覚があるのだ。今にも意識を手放して空にこの身を投げ出してしまいそうで怖い。少なくともプリシラ達の所までたどり着くまでは意識を保っていないと。

 プリシラも接近する存在の正体に気付いたのか、こちらに向けて大きく手を振ってきている。わたしも手を振りかえして答え、彼女達へと近づいていった。 


「どうしたんですのマリア様!? まさか貴女様まで魔物と……!?」


 すると今度はプリシラの声が耳元に聞こえてくる。そうだよなあ、風属性魔法を得意とするプリシラだったらエヴァと同じ事が出来てもおかしくないんだった。正直わたしはあまり得意ではないので、離れた相手に言葉を飛ばす伝言魔法は結構集中力が要るのだけれど。


「一時的に死なないようにする魔法を使っただけです。首は切られっぱなしですよ」

「……っ! そ、そうですの……」

「すみません、今すぐにでも昇天しそうで……。後の事はよろしくお願いします」

「何を、言うんですの! 気をしっかり持ってくださいまし!」


 到着点が見えて安心してきたからか、意識がもうろうとしてきて頭がふらつきだす。このまま突っ込もうかとも頭によぎったけれど、わたしの身体を掴まえてくれないんじゃあ話にならない。少しずつ減速して後退する馬車と同じぐらいの速度にしていく。


 明確な死が近づいてきたからか、過去の思い出が頭に駆け巡る。これが噂に聞く走馬燈かあ、などと思っていると、どうも思い浮かぶのは幼少期でも学院時代でもなく、イヴと共にいたこの最近の事ばかりだった。

 色々とあったけれど、彼女と過ごした日常が一番楽しかった。それだけは断言できる。


「それと、イヴにありがとうと伝えてもらえますか……?」

「マリア様……」


 合成使い魔の群れの上を抜けて、しんがりを務めるプリシラの下へとたどり着いた。魔法を解除して馬車へとその身体を預けてしまう。プリシラが弾幕密度が薄くなるのをお構いなしにこちらの身体を揺り動かす。何かを言っているようだけれど全く耳に入って来なかった。


 わたしが最後に見たのは涙を流すプリシラと……決意に満ちた表情を見せるチラ?


「死なせません! 絶対に死なせません! でないと私、何のために聖女にまでなったのか……!」


 わたしが最後に感じたのはチラの暖かな手の温もりだった。


 霞む意識の中でも分かる。これはわたしが使える最高の手段である復活魔法リヴァイヴを超えるものだ。文献でだけ見た事がある。人類の歴史上でとある聖女と呼ばれた者は、その死すら覆して人を蘇らせたのだと。

 これが聖女の奇蹟、蘇生魔法リザレクション、か。


 どうやらわたしはまだ死なずに済むようだ……。

お読みくださりありがとうございました。

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