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魔導生命研究所

 キエフの宮殿ではわたしも帝国を代表しての使者として扱われた為、客室へと通された。ただ最上級の身分と偽っているイヴとは別の部屋になった。まあいい、豪奢な部屋で一人きりで快適な睡眠を取れるほどの度胸はわたしには無いし。


 食事は意外にもそれなりに質を伴った料理が食卓に出された。領土を全体的に荒らされているから食材も何とかやりくりしている状態と思っていたけれど、どうやら西方諸国より援助物資が届いているらしい。援軍や避難民の受け入れはしない癖に。きっと少しでも長く魔王軍を旧キエフ公国で足止めしてもらいたいんだろうな。


 謁見前に身体も服も洗ってはいたけれど、やはり一週間ぶりの風呂は格別だった。キエフの公都は大河が南北に流れているので水が豊富にあるのが特徴になる。後は火力の問題さえ解決すれば風呂を愉しめるわけだ。歴史上帝国と国境を接していた期間がそれなりに長く、こちらから風呂の文化も伝わっているそうだ。おかげでいい湯を堪能させていただきました。


 宮殿内の調度品の多くは資金に変えられたものの、物を売るか維持かの二択だけで質の悪い代品への交換はしていなかったらしい。と言うのも残った調度品や家具は宮殿に相応しい精巧な作りをしていて、思わず見惚れる出来栄えの品ばかりだったのだ。それの何が嬉しいかって、布団が柔らかくて気持ちがいいのは大歓迎物だろう。


 一夜明けて朝を迎えた。朝食はどうなるかと思ったら何故かわたしはチラとプリシラでテーブルを囲う形となった。どうやらこちらの聖女一行、あまりキエフ公爵を始めとした貴族達とは食事を一緒に取らないらしい。


「宮殿に報告に戻る度に貴族と食事を共にするなんて息苦しくてありえませんわ」

「き、緊張で疲れちゃいます。朝ぐらいのんびり過ごしたいですぅ」


 とはプリシラとチラの言い分だ。ちなみにイヴがいないのは公妃ミカルと偽っているせいでキエフ公爵に招かれているからだ。まあ、彼女が自分がミカルですなんて言い出したんだからこれっぽっちも同情心は湧かないが。


「勇者様が軟禁、ねえ。あの方に束縛が耐えられるのでしょうか?」

「帝国と公国の間で摺合せをする為に会談を重ねるって言ってましたね。昨日謁見の間であったように結構乗り良くミカルを演じていましたから、それなりに楽しむんじゃあないです?」

「……勇者様に言いくるめられて公国にとって不平等な条約を結ばされる気がしてなりませんわ」

「心配し過ぎですって、多分。彼女の姉の意向を汲み取って無茶はしませんよ、おそらく」

「推察混じりな時点で雲行きは怪しいですわね……」


 ちなみに聖女チラ一行は昨晩こそこの宮殿で過ごしたものの、すぐに東に向かってかろうじて踏み留まっている人類連合軍の手助けをするそうだ。その後は戦場、疲れ果てた街、怯える村など、各地を巡回して奉仕していくんだとか。


「この旧キエフ公国は辺境国がいくつも合併して生まれましたから、領土が広いのです。大公国時代の半分ほどになっていますが、それでも広大な大地を私共は駆け巡らなければなりません」

「私達がこうしてのんびりと朝ごはんを食べている間にも多くの人達が苦しんでいます……。私達が足を運べば少しでも手助けになるって信じていますから」

「最も無茶のし過ぎは出来ませんわね。疲れ果てた聖女を目にして誰が安心しますか」

「詭弁って思われてもいいんです。英気を養うのだって重要な勤めなんですから」


 そんな感じで会話を弾ませつつわたし達は朝食を取り、身支度を整え終えた。荷物をまとめて宮殿の外の中庭に出ると既に二人はわたしを待っていたようだ。チラはわたしに気付くと大きく手を振ってくれる。


「マリアさーん、こっち、こっちですー」

「すみません、遅れました」

「いえ、私達もさっき来たばっかりですぅ」


 チラはやはり修道服ではなく祭服に身を包んでいた。聖女はここにいて皆を見守っている、と分かりやすくする意図でもあるんだろうか? プリシラは対照的に黒づくめの修道服で、豊かな筈の身体の線は相変わらず見えない。欲情を戒める為に地味な作りをしているのだから当然ではあるが。

 既に馬車の準備は出来ているようだけれど、御者以外は誰もいないようだ。死地に赴くのに重要人物である聖女の護衛がプリシラ一人とは随分と寂しい限りではないか。最も、有象無象が大勢いるよりプリシラ一人の方が頼もしいのだけれど。


「それもありますけれど、今日は昼までこの公都に留まりますので護衛は不要になりますわ」

「……わたしって、そんなに考えている事が顔に出ます?」

「いえ、昔から顔には出ませんでしたわ。ただ思考があらぬ方向に走りがちなのは相変わらずですが」

「あ、改めるよう善処します……」


 いや、それはそうとキエフの公都に留まるのはどこかを訪問する為か? 孤児院とか教会とか、または病院とか?

 気になったので訪ねてみたけれど、そのどれとも違うらしい。


「き、昨日勇者様が公爵様に願い出た件、今日が丁度都合がいいそうなんですぅ」

「願い出た件って、もしかして勇者一行に加わっていた投擲手バラクの研究室への訪問、ですか?」

「はい。バラクさんとは宮殿でしかお会いしていませんでしたから、私も楽しみなんです」

「思っていたよりも早く申請が通りましたね。さすがと言いますか……」


 けれどこれは都合がいい。聖女チラに同行して各地を回っていては投擲手バラクの研究室を訪問する暇なんて取れやしないだろう。それに他の勇者一行同様に、それはマリアを含めて、一癖も二癖もある人物なんだろうから、早めに知っておいて損は無い筈だ。


 研究所への訪問ではあるけれど、バラクの研究内容自体にはあまり興味はない。

 わたしはただ投擲手バラクがどうして勇者イヴを裏切ったか、その動機が知りたいだけだ。



 ■■■



 投擲手バラクの研究室はキエフの公都の外れに位置していた。郊外だけれどその分広大な敷地を構えており、入口はキエフの兵士達で厳重に警備されていた。キエフ公爵より頂いた入場許可書で手続きを取り、わたし達は敷地内へと通された。

 貴族の屋敷とは異なり敷地のほとんどが建造物で占められていたが、一つの大きな建物ではなく棟が点在する形を取っているようだ。おそらく研究する分野ごとに分かれているんだろう。研究員が移動している姿をちらほらと見かけているから、ここはまだ活発に機能しているようだ。


 しばらく敷地内を歩くとひときわ大きな建物が見えてきた。入口前には白いローブに身を包んだ人達が並んでおり、わたし達に気付いたのか一礼してきた。中央に位置していた眼鏡をかけた長身の男性が他の人より少しだけ早くに顔を上げ、口元に柔らかい弧を描かせた。


「ようこそ聖女様、我が研究施設に。光栄の極みです」

「バラクさん、今日はお忙しいのに対応していただいてありがとうございますぅ」


 この男が投擲手としてイヴと共に旅をしたバラクか。見た目は研究を主とする魔導師に見受けられる。マリアが魔導師と呼ばれて彼が投擲手と呼ばれていたのは純粋に習得している魔導の方向性が違うからだろうか? 丁寧に応対する姿は出来た大人のようだけれど……。

 彼を観察するわたしに気付いたのか、バラクはわずかに驚きを露わにしたが、すぐに元の紳士的な様子に戻った。おそらく、と言うか十中八九行方不明になっていたマリアだと思われたんだろう。


「聖女様、そちらのお方は?」

「あ、はい。帝国より参りました白魔導師のマリアさんです。帝国の使者の方と共に来たんですけれど、今回機会があってこちらの方を案内しようかと」

「初めまして、マリアと言います。どうぞよろしくお願いします」


 わたしは笑顔を見せながら手袋を取った手を彼の方へと差し出した。わたしは初対面なのを強調して自己紹介したので少し考えるところがあったのか、彼は間を置いてからわたしの手を軽く握る。大体思い浮かべた内容には見当がつくが。


「失礼、私の知り合いとよく似ていましたので」

「勇者と共に旅をした魔導師マリアですよね。良く言われます」


 お互い上辺は完全に取り繕えているけれど、きっとわたし達は腹の探り合いをしているんだろう。彼の場合はわたしが本当にマリアとは他人の空似なのか、もしマリアだとして正体を偽る理由は何だ、とかか。わたしの方は現時点では判断材料が少ないので、探りは早々に諦める。


 バラクはわたしの手を離すと、大げさに眼鏡のつるを指で軽く持ち上げた。


「いやはや、奇妙なものですな。何を隠そう私はかの勇者イヴと共に旅をしていましたが、その時を思い出すかのようです」

「は、はあ……」

「世界を救った方々を髣髴とさせるなんて光栄です」


 わざとらしく思い出に浸るバラクに対してチラは曖昧な返答しか出来なかった。わたしも苦笑いしか出来なかったし、プリシラも同意は示すものの僅かに呆れているようだ。わたしもプリシラも実際イヴと共に旅をしていたしチラは聖女アダそのままだから、彼がそう思うのも無理は無いけれど。

 バラクは控えていた研究員に顎でうながし、建物の扉を開けさせた。


「折角皆さんの貴重な時間を割いていただいていますし、当研究施設を案内させていただきますね」

「はい、お願いします」


 通された研究所の施設はわりと新しい建造物なのか、疲れの色が隠せていない宮殿と比べても整っているように見える。むしろ魔導師が築く工房よりはるかに清潔感が出ており、きっとここの職員は気持ちよく研究に打ち込めているんだろう。

 ただ、あれだけ財政で逼迫した旧キエフ公国の中にあってこの光景は異常とも思える。あまりに設備が行き届きすぎてはいないだろうか? 大国の研究機関にも匹敵する規模に見えるのだけれど。


「随分と豊富な資金があるようですけれど、どこから出資してもらっているんですか?」

「人類連合軍を通じて人類圏の諸国全域からですね。あいにく帝国からは頂いていませんが」

「……諸国が共同して出資を?」

「研究している物が物だけに注目されているんでしょう。ありがたい事です」


 興味ないとは言っていてもやはり実際足を運んでみると不思議と好奇心が湧くものだ。わたしは純粋な気持ちで質問を投げかけたが、バラクは気分を害せず気さくに答えてくれた。


 左右に研究室がある廊下を抜けると、広い空間の部屋へとたどり着いた。そこには巨大な槽がいくつも連なっており、傍では研究員達が筆記用具と紙の束を両手に何やら議論を重ねているようだ。そして、液体に満たされた槽の中に入れられているのは人でも動物でもなく、異形の生物達だった。


「ひ、ひぃぃっ! ま、魔物!?」


 チラがそれを一目見るなり悲鳴を上げて後ろに下がる。プリシラが怯える彼女の両肩を持つものの、プリシラ自身は特に警戒する様子はない。わたしも一瞬身構えそうになったものの、良く伺うとどうも違う存在だと分かって逆に興味が湧いてくる。


「これは……使い魔、ですか? それとも召喚獣です?」

「ご明察ですね。ここで研究しているのは魔導師が使役する使い魔や、魔導師が契約を結ぶ召喚獣の進化になります」

「もしかして、人類圏と魔王軍との最前線でこのような研究をしているのは……」

「はい、実戦にて実験を行い、それで得られた情報を基に見直しし、次の段階へと進めているのです」


 成程、それがこの研究室の存在意義か。道理で多額の出資を得て立派な設備が整っているわけだ。

 と、一人でわたしが納得しているとチラが困惑した眼差しを送ってきており、プリシラがあきれ果てたようにため息を漏らしてきた。


「あ、あのぉ、使い魔とか召喚獣って何なんでしょうか……?」

「マリア様、自分一人で納得していないでもっと他の者にも分かるように説明してくださいまし」

「えっ? でもプリシラだって魔導に精通しているようですから、わたしの説明は必要ないんじゃあないですか?」

「私めの習得している精霊術と魔導の体系は微妙に異なるので、説明が難しいのです」


 そう言えばプリシラは自分が会得している技術を魔導と呼ばずに終始精霊術と呼称していたっけ。きっとエルフにとっての魔導体系なのだろう。気にはなるけれど今は置いておくとしよう。


「使い魔は魔導師が魔導によって生成する魔導生物です。基本的には構築した術式に応じてしか動かないので、ある程度自立する人形みたいなものって認識でいいと思いますよ。それに対して召喚獣は魔導師が召喚術をもって他の生命体を呼び出して使役する存在になります。契約を結んで自分の意を叶えてもらう形なので、自分よりはるかに優れた相手と契約を結んで呼び出す事も可能になります」

「へ、へええ……」


 説明している間にプリシラに目配せを送ってみたものの彼女からは特に反応が無い。バラクからも補足も無いので、概ねこの考え方で問題はないと思う。


「けれど、それぞれに共通する事柄として、魔導の腕に使い魔や召喚獣の強さは左右されるんです。よほど相性が良くない限りは優れた召喚獣と契約する事も、強い使い魔も創れないでしょう」


 そう考えるとあの死者の都への侵入の際にレイアが創造したトレアント達は優秀を通り越して異常とも言うべき強さだった。そこまで卓越した腕の魔導師が本屋として公都で穏やかに過ごしているとは……わたしの目指すべきはレイアのような生活かもしれない。


「ここでの研究は質の向上だと思うんですけれど、合っていますか?」

「ええ、その通りです。少ない知識、劣った腕で強く使い勝手のいい使い魔や召喚獣を使役できるようにここでは研究を行っているんです」


 それはある意味魔導師の考え方とは逆とも言っていい。基本的に魔導師は探求により腕を上げ、更なる神秘へと手を伸ばしていく。よって既に覚えた知識は出来て当然、使い勝手の良い様に効率化こそすれど、それを他の者の為に一般的な体系化をするなどまれと言っていい。

 バラクの言う質の向上は使い魔自身の能力向上に加え、より劣る、より多くの一般的魔導師に使役しやすいように改良しているのだ。質が上向いて量が揃えられれば数の暴力の完成になる。


「そ、それじゃあ、このキエフの公都で研究しているのは……?」

「魔王軍相手にここの研究所で創り出した使い魔を実戦投入しているのです。後手に回っている人類連合軍が踏ん張れているのも、ここで創造した使い魔達の活躍のためではないかと」


 そして魔王が打倒された今、実際に試せる場は限られてくる。残党軍に攻められているこの地は正にうってつけの実験場と言うわけだ。多くの人が苦しんで悲しんでいるのになんて不謹慎な、とチラは思うかもしれないけれど、効率が上がればいいと思うのが正しい魔導師の在り方だろう。

 もちろんそんな魔導師の理念は神に仕える者達から共感を得られるわけがない。プリシラは嫌悪感を露わにバラクを睨みつけている。


「召喚獣の改良も行っているそうですが、神より授かりし命の弄びは冒涜だとは思わないのです?」

「ここで扱っているのは召喚獣と言いましても大抵は使い魔同士を組み合わせた合成獣ばかりですね。本当なら貴女の仰る通り召喚獣を研究材料にしたかったのですが、それでは諸国の理解を全く得られなくてですね。教国からも援助を受けている手前、下手な真似は出来ませんよ」


 いやあそれは当たり前だろう。西方諸国は結構教会の影響力が強いのだから、神への反逆とも取れる所業の援助など出来る筈が無い。魔導で生み出す使い魔だからこそ許容されているんであって、神の生み出した生物を扱っては最悪異端扱いされて世間から抹消されかねない。

 限界すれすれの研究分野、とも言えるだろう。同じ魔導師としては敬意を表したいが。


 プリシラは不満が払しょくされていないようだけれど理性で圧し留めて矛先を収めたようだ。ただ彼女は何かを続けて言おうとしていたので、わたしが手で軽く制する。睨みつけてくる彼女にわたしは軽く顔を横に振った。

 これ以上彼女にしゃべられてはプリシラが勇者一行として旅をした本人だと悟られかねない。もう無駄かも分からないけれど、今後何が起こるか分からない以上判断材料は与えない方がいい。折角新たな道を歩み始めたんだ、過去に引っ張られる必要はないだろう。


「この研究、この国の窮地を救う為のものではないと思うんですけど、違います?」

「純粋に人類の為にと尽くしている研究員も多くいますよ。勿論己の探求心を満たすという純粋な目的を持った者がいるのは否定しませんが」


 この研究が人類の平和に繋がる、と懸命になる人がいるのは安心だ。そうした真っ直ぐな心の積み重ねが実を結ぶんだと信じたい。


「それじゃあ、バラクさんは人類の平和の為だったりするんです?」

「いえ、違いますね。たまたま人類を救うのと合致していますが、悲願は別にあります」


 けれど、目の前の男は絶対に違う。マリアや聖女と共謀して勇者を裏切った彼は、間違いなく英雄譚で語られる綺麗ごとではなくて己のエゴを満たす為に行動している。


 それに、正直な話紹介されているこの場所での研究内容は上辺なものだとわたしは考えている。

 確かにどの魔導機関においても研究施設、ないしは工房の一般公開を行う事もある。けれど善意で実施する所はまず無い。大抵の場合は認知度を高めて援助を得る発表の場を設ける為と素人の新鮮な考えを取り込む目的がある。

 そして、研究内容の全容は決して明かさない。どこに耳と目があるか分からない以上、一般公開はこれまで取り組んできた研究内容、魔導師の叡智を根こそぎ奪取、または複写されかねないのだ。だから見せるのは上辺だけ。具体的な手法、技術は秘匿させたままにするものだ。


 おそらく使い魔の強化なんてここで行われる研究の一旦に過ぎない。彼の願望を叶える舞台がここには整っているのであれば、ここの研究室の性質を見れば本意は何となく分かってくる。つまり彼の目的は、生命そのものの探求……。


「――人の境地、それを私は見たいんですよ」

「……へっ?」


 人の、境地?


「あっと、時間も押していますし早い所施設を案内しちゃいましょう。見せたい所はまだまだあるんですよ」


 彼は陽気な笑顔を振りまきながら先へと進んでいった。研究者達はバラクが通り過ぎるのに気付くと、挨拶を送って会釈をしていく。それをわたしは呆然と眺める。そんなわたしの肩に手を置き、プリシラは顔をわたしの耳へと近づけてきた。


「お気を付けあそばせ。彼は貴女様……マリアと異なり生粋の魔導師ですわ。邪魔立てするのであればいかなる犠牲があろうと躊躇わずに排除しにかかるでしょう」

「……魔導師とは本来そういった者達ですからね。わたしがこうなんですから、マリアも何だかんだで異常だったんでしょう」

「一つだけ断言できます。あの輩の目的は、聖女様に仇名す冒涜でしょう」


 プリシラはわたしから身体を離すと、槽の中の小動物のように可愛らしい姿をした使い魔に見入るチラを促してバラクへと付いていく。その際、最後尾に位置したわたしへとわずかに顔を向け、わたしだけに聞こえるよう声を絞って言葉を発した。


「何を企んでいるかは理解したくもありませんが、私めは聖女様の為ならば彼の排除も厭わない」


 それは、イヴと同じぐらいに決意に満ちた意思表示だった。

お読みくださりありがとうございました。

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