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平穏なひと時での来訪者

この話から新章となります。よろしくお願いします。

 アンデッド発生の異変を解決してから二週間が経過した。


 死者の都はアンデッドが一掃されて住む者無き都となった。犠牲者が多数出てしまったあの忌まわしき都を破壊すべきとの声も上がったが、もはやあれだけの規模で整備された都市の解体に費やすほどの資金は西の公都には残されていなかった。

 かと言ってこのまま放置してしまえば再びよからぬ存在の住処と化してしまう可能性もあった。徹底的な管理下での封鎖も検討されたものの、問題を先延ばしにしているだけだと却下された。


 長い議論の末、新たに住む者を募集した上で人の都として活用する形となった。一年が経ってもまだ人類圏では魔物の爪痕は各地で深く残っており、住処を追われたり故郷を失った人達はまだ大勢いる。そういった人たちの受け皿になれば、との考えだ。

 しばらくの間は公爵家よりそちらへ回せる人手は無く、都はしばらくの間丸ごと魔導協会の管理下に入った。聞いた話では警備はアタルヤの部隊が担当し、ミカルの居城もイゼベルが住むんだとか。まあ、あの人なら距離関係なく出勤出来るし?


 戦争特需でにぎわったこの北の地区も落ち着きを取り戻す……と思いきや、公都から死者の都への街道整備や城壁の修復、死者の都の復旧等の公共工事が山盛りらしい。どうやらしばらくは賑わったままのようだ。


 あれからカインとは一度しか会っていない。どうやらミカルは思った通り深刻な状況で、魔王の魅了から抜け出すにはもうしばらく時間がかかるだろう。記憶を消したりぼかしたりは出来なくもないけれど、出来れば彼女には自分で魔王の呪縛を振りほどいてほしい。


 そう言えば結局どうして公爵は自ら異変解決に乗り出さなかったのかが未だに腑に落ちない。終わりよければすべて良しとは言うけれど、それにしたって一番上の立場にいながら無責任すぎるだろう。今度カインに会った時に強く問いただしてもらうよう促すか。


 教授は残った帝国軍と共に帝都へと戻っていった。教授から受け取った光の剣については所有者のイヴへと返される事となった。わたし達が偽装した勇者の死については土地の記憶を読み取って真相を把握したらしい。


「……それで、教授はイヴをどうするおつもりですか?」


 と警戒しながら伺ってみた所、


「別に報告する義務はあっても義理は無いね。勇者はかつての仲間と共に死んだ。それが現実さ」


 と事も無さ気に言ってくれた。ただし、しらを切るぐらいしかやらないそうなので、問い詰められたら白状するつもりだと警告はされた。それでも当面の間はイヴもわたしも表舞台から雲隠れし続けられそうなので、教授の配慮はとてもありがたかった。

 けれど、さすがの教授にも勇者イヴが魔王アダムに全てを捧げたとは言っていない。知っているのはわたしとイゼベルだけで、例え教授にも話せそうにない。勇者の恋心はもはや魔王のもの。もはやおいそれと誰かに知られない方がいいだろう。


 わたしは元の町の開業魔導師として過ごしている。近所にそれとなく聞いたところうちのお店は結構評判がいいんだそうだ。代金の安さもあるけれど腕が確かなんだとそれなりに広まっているらしい。おかげさまで結構忙しい毎日を送れるようになっている。今後も来てくれる人たちの期待を裏切らないよう頑張るとしよう。


 イヴとなったアダムだけれど、イヴとして過ごす彼女からは違和感をほとんど覚えなかった。ちょっとしたしぐさとかで多少アダムの影響も見られるものの、わたしと二人きりで取る朝食や夕食時も口調や笑い方とかわたしの知るイヴのままで不気味なぐらいだ。

 わたしが施した封印魔法の性質上、アダムがイヴの全てを乗っ取ったのは覆しようのない事実。だから今のイヴはアダムが彼女のふりをしているだけの筈。いくらイヴの知識、経験、感情など全てを取り込んでいようと、事情を知るわたしすら彼女をイヴ本人としか思えなかった。


「だから言ったじゃあないの。私はアダムでありイヴでもある、ってね」


 正直にわたしが思った事を打ち明けた際、イヴはそう言って微笑を浮かべてきた。その挙動までイヴにしか見えずに苦笑いすら浮かべられなかった有様だった。

 最初はアダムがそう思い込みたかっただけかも、とか考えていたけれど、とんでもない。本当にアダムとイヴが結ばれた結果が今の自分自身なんだって認識なんだろうか。


 何にせよ今のイヴは様々な事情を差し引いてもイヴそのままでいると言える。イヴの全てを受け継いだ以上にそれだけアダムもまたイヴを見ていて、そして大切に想っていたんだろう。彼女を完全再現出来てしまうほどに。


 そんなイヴはかつてイヴが手伝ってくれたようにわたしのお店の受付嬢をしてくれていた。おかげでわたしは患者さんの診断と治療に専念出来て大いに助かっている。

 ただ、一つ気になる点があった。それはアダムと融合したイヴは身体が治った暁にはどうするか、だった。

 少なくともイヴは自分にアダムを打倒させた当時の仲間を激しく怨み、復讐を果たすために旅をしていた。マリアを含めた三人に刃を突き立てた所でわたしに出会って、アダムと再会の末に一心同体となった。

 アダムを想って復讐鬼となったイヴは過程はともかくその相手と身も心も魂すら一つとなった。もはや想いは遂げられたから復讐とかどうでもいいんじゃあないだろうか?


 だからある日の昼休みにそれとなく聞いてみた。


「もう復讐する動機も必要もないんじゃないか? ええ、確かに私は別の形で報われちゃったから、あんな連中なんてもうどうでもいいわね」

「やはりイヴはそうでしたか」

「あら、随分と含みある言い回しに聞こえるけれど?」

「だって今のわたしには今のイヴがどう思っているのかが全く分からないので」


 そう、わたしにはアダムがイヴの復讐をどう考えているのかが分からないのだ。

 わたしの裏表の無い純粋な疑問にイヴは微笑を浮かべながら軽く拍手を送ってきた。こんな反応は今までのイヴからは到底考え付かない行動だった。


 ――そのイヴの目は全く笑っていない。

 底冷えした恐ろしさを感じ、思わず身震いする。


「ああそうだね。私は満たされてしまったけれど、僕は彼らを決して許しはしない。何しろ彼らは私を大いに苦しませて悲しませたからね」

「イヴと融合してその想いがより強くなった、と?」

「私は僕と一体となって嬉しいけれど、僕は正直複雑だ。嬉しい反面こんな筈じゃあなかったって憤りがあるよ。だって僕はもうこの手で私を触れられないし、抱きしめられないしね」

「……アダムがイヴに触れられなくなったのはマリア、つまりわたしのせいだと思うんですけど」

「その状況を作り出した大元は彼らの裏切りだ。僕と私の融合はそれに付随した結果に過ぎない」


 イヴは腕を交差させて腰元に手をやると、気が付いた時にはわたしの首元に二振りの剣が触れさせていた。それは輝く光を讃えた白銀の剣と全てを飲み込む闇に満ちた漆黒の剣。それぞれ勇者イヴと魔王アダムが所持していた得物だった。

 言葉すら紡げなかった。神の授けし光と悪魔が齎した闇、相反する力が備わる双方の剣を今のイヴは一人で扱っている。そんなの歴史上人類のみならず如何なる存在であろうと成し遂げてはいないだろう。


 もはや、今の彼女は前人未到の領域にまで到達してしまっている……!


「だから、僕は私として残った勇者一行三人に復讐を遂げる。分かったかな?」

「……ええ、十分分かりました」


 淡々と意思表示をしたイヴは明らかに本気だった。


 おそらく彼女は傷が癒え次第残りの三人を追う旅に出るのだろう。魔導師マリアからは全てを奪い、弓使いの全てを踏み躙り、剣士サウルは奈落の底へ蹴落とした。残るは三人。投擲兵、聖騎士、そして聖女をどういった形で破滅させるのだろうか。

 今のイヴは勇者の嘆きばかりではなく魔王の憤りまで加わってしまっている。それだけに、残る三人にはマリア達より凄惨な報いを受ける未来が待ち受けているに違いない。

 ただ、勇者一行ご愁傷様~、とぐらいは思うものの、正直今のわたしにとっては結構どうでもよかった。何せ今となってはかつての仲間だった勇者一行は全員赤の他人だ。どれだけ酷い目に会おうがわたしの視界に入らないならちっとも心苦しくない。


 だからきっとわたしが今のように安穏と過ごす間にイヴは復讐をこなすのだろうけれど……。


「ですが、イヴにはこれだけは覚えてもらいたいんです」

「これだけって?」


 イヴは親族で唯一の味方がミカルだと語っていたが、彼女は魔王の虜となり狂った。苦楽を共にした仲間には裏切られ、最愛の人は自分自身になってしまった。もはや彼女が復讐を果たしても帰る場所がどこにも無いんじゃあないだろうか?

 それはきっと魔王なのに勇者に恋をしたアダムとて同じだろう。イヴに一心同体になった今となっては再び魔王としては戻れまい。それが魔王アダムとしての復活であろうと、例え新たなる魔王イヴの誕生だとしても、だ。

 なら、わたしがわたしとして彼女にしてやれるのは、一つだろう。


「イヴの帰る場所は、ここにもあります」

「……!」

「復讐を果たした後に何処にも帰る当てが無いならここに戻ってきてもらえませんか?」


 イヴはそんなわたしの提案がよほど意外だったんだろう、目を丸くしていた。けれどやがて彼女は微笑んでくれた。それは先ほど見せた不敵なものでも渦巻く感情を伴ってもおらず、純粋に喜んでくれているのが分かった。

 ……わたしにはそれが嬉しくてたまらなかった。


「ええ、マリア。悪いけれど私の部屋は残しておいてもらえる?」

「勿論ですよ、イヴ」


 ――と、まあ、こんな感じだったか。


 イヴはわたしの手伝いの合間を縫って鍛錬に励んでいる。足の運びや腕の振りなど、大分動きが滑らかになってきた。わたしの拙い冥術もアダムの知識で自分なりにかなり改良してくれたのか、動作の一つ一つにぎこちなさや動き辛そうな硬さはなくなった気がする。

 ただ、四肢を自由自在に扱える程の回復にはまだ遠いようだ。何せ鍛錬の時以外は四肢に負担をかけないよう未だにロトの作品である車椅子に世話になっている有様だ。わたしの見立てではこの調子で行けば完全回復まであとあと三か月ほどだろうか。


 それまでは今のように平穏な毎日を過ごすだけだろう。



 ■■■



 今日もまたいつものように自分のお店を開けて患者となるお客を出迎えていく。


「それでよ嬢ちゃん、こいつは噂なんだけどよ。今日の昼過ぎに凄え人が来るらしいんだ」


 お昼前の健診の際、朝方の患者の一人にこんな風に世間話を持ちかけられた。彼は軽く興奮気味だったもののこちらから特に何も処置していない。噂話とやらの見当もつかなかったので、どうしてこう心逸るのかわたしにはさっぱりだった。

 なのでわたしは少し大げさに首を傾げてみせた。


「来るって、誰がですか?」

「帝都から来るんだよ。皇帝サマがよ」


 皇帝って、あの皇帝が?

 確か現在皇帝の地位に就いている方は二、三年ほど前に代替わりしたばかりなので非常に若い。大規模な改革を次々と打ち出して衰退しつつあった帝国を一気に持ち直した業績を残している。まだ皇帝となって年月が浅いにも関わらず既に中興の祖として湛えられるほどだ。

 そんな現皇帝がどんな姿や顔をしているか、実は全く知らない。何度も公式行事に顔を見せているから頻繁に目にしている筈だけれど、全然覚えていないのだ。多分これはマリアとして旅している期間の出来事だったから、とマリアのせいにしておこう。


 その皇帝がどうしてこの時期にこちらに来るのか……。まあ、十中八九でアンデッド発生の異変のせいだろう。何せ帝国軍だけで一万四千人強が死者の都で命を落としている。しかも本当のところは異変の元凶は皇族かつ公爵夫人のミカルで、解決したのは同じく皇族かつ勇者のイヴだ。直々に状況視察をするつもりだろうか?

 それでも、わたし達が深くかかわっている事がばれて帝都に来いとか命令が下るよりはマシだろう。なるべく面倒事には首を突っ込まないよう影を潜めるようにしておこう。


「だもんで西地区じゃあ皇帝サマの出迎え準備で大忙しなんだとさ」

「賑やかな光景は目にしたかったですねー」


 ちなみにこれは嘘偽りない本音だった。皇帝の地方視察という一大行事がどんなものかは結構興味がある。厳かに執り行うのか盛大に賑わうのか、どちらなんだろうか?

 だがしかしわたしには仕事がある。わたしの興味を満たす為だけにやるべき仕事を疎かにしていては店の評判がガタ落ちした挙句に食い扶持すら困り果てる未来が待ち受けている。ここは後ろ髪惹かれながらもぐっとこらえるとしよう。


 その後も患者何人かから皇帝来訪の話を耳にした。誰もが自分達の住む国の頂点に立つ者をこの目に見れるんだと興奮気味のようだった。中にはここから西地区はちょっと距離があるにも関わらず見に行くと豪語する人もいたぐらいだ。

 ただ、大半の人にとっては雲の上のお偉いさんが来たぐらいで生活の模様を変える筈もなく、わたしもまたいつも通りに街の人達の診断で今日の夕暮れを迎えた。少し異なるのは買い物をする際に繁華街で皇帝来訪の様子がどうだったとかの話題で盛り上がっていたぐらいか。


 夕食時に思い切ってイヴにその話題を切り出してみた。


「そう言えば、今日この西の公都に皇帝陛下が来たらしいですよ」

「ええ、待合室でもその話で盛り上がっていたわね」

「皇族で公爵夫人のミカルが叔母なんですし、イヴは皇帝陛下と親戚でしょうか?」

「血縁上は一応私の姉よ。私は俗にいう皇妹って奴ね」


 絶句するしかなかった。やんごとなき家柄とは分かっていたけれど、まさかここまでこの帝国に君臨する人と深い間柄だったなんて。

 ただ、そう語るイヴは特に感慨が湧いた様子はなかった。事実を事実として語っているだけだ。


「だって母親が違うんですもの。現皇帝は正室の嫡子で私は側室の庶子。私の母親は早々に権力争いに敗れて、私は早々に母親側の実家に下ったのよ」

「あー、そう言えばイヴは母親側の家名を名乗っていますよね」

「皇帝、つまり姉さんには結構可愛がってもらったからあの人個人は嫌いじゃあないけれどね。ただ、別に無理して会いたいと思う人でもないわ」


 彼女はそれっきりこの話題を早くも終了させた。短いやりとりだったが、終始感情の起伏もなく淡々とした言い回しをしていた。本当に彼女にとって皇室はもはや過ぎ去った遠い昔の出来事であり、今とは全く関わりが無いとばっさり切り捨てているのだろうか。

 それとも、迷惑はかけまいとあえて姉である皇帝陛下に背を向けているのだろうか?

 残念ながら今のわたしには真相がどうなのかは全く分からなかった。



 ■■■



 一夜明けて朝になった。

 特に今日も昨日とやる事は変わらない。朝食を食べて身支度を終えたら店を開ける。夕方になったら店を閉めて買い出しに手かけて夕食を取る。それからゆったりくつろいで明日に備えて眠りに付く。この一連の流れはよほどでもない限り崩れないだろう。


 と、思っていた……いや、高をくくっていたが、そう甘くはなかった。


「あ……おはようございます、マリアさん」


 今日の朝は久しぶりにカインが訪ねてきてくれたのだ。笑顔を見せてきてくれたものの、どこか隠しきれない疲れがにじみ出ているようだった。


「おはようございます。わたし達はこれから朝食ですけど、カインはどうです?」

「い、いえ、食べてきましたので大丈夫です」

「ではお茶ぐらいは用意しますよ。あがってください」


 カインは北地区にある家具屋の手伝いに向かうついでに寄ってくる事が多い。最近ここに来れなかったのはそれだけ公爵家で忙しくしているのだろう。頑張っているなぁ。

 それにしても、今日のカインは彼にしてはどうも歯切れが悪いような気がする。困ったような顔をしているし、何故かわたしに視線を合わせないようにしているようだし。別にわたしは彼に後ろめたい事をしでかしてはいないので、原因はカイン側にあるのだろう。


 まあ、多分、目の前の人が原因だろうけど。


「それでカイン、そちらの方は?」

「あ、えっと、こちらの方は――」

「初めまして、になるのかしら? 私の名前はサライよ」


 カインの後ろに立っていたのはいつのも執事ではなかった。その人は見た目わたしより若干年上の女性だった。髪は肩よりわずかに下まで伸ばして健康的な身体つきをしている。服装は上品にまとめられているが、特にこれと言って繁華街で通り過ぎる人と変わりはない。

 ただ、彼女の目は自信に満ち溢れ、顔には不敵な笑いを浮かべていた。堂々とした佇まいは風格すら感じさせるほど様になっていた。自分はここにいる、と強く主張しているかのようだった。

 そして、美少女と呼んで差支えない彼女の容姿は、イヴにとても良く似ていた――。


「よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 彼女は上腕まである長手袋を取った右手をこちらに差し出してきたので、わたしも手を伸ばして軽く握手をする。彼女の手はまだ涼しい朝に外に出ていたにも関わらず、こちらの手より温かかった。


「それで、私も中に入りたいんだけれどいいかしら? 色々と話したい事があるのよ」

「……分かりました。狭い所ですが」

「ありがと。じゃあお邪魔するわね」


 サライは軽く頭を下げてからわたしの横を通って家の中へと入っていく。それを見届けたカインはわたしに対して深々と頭を下げてきた。


「す、すみませんマリアさん! 突然こんな事になってしまって……」

「どうしてカインが謝るんですか?」

「だ、だってあの方は……!」

「カインはあの方に言われてここを案内した。カインは命じられたからその通りにしただけですし、別にわたしは気分を害していませんから大丈夫ですよ」


 カインが謝る理由は十分理解できる。何せ事前に連絡の一つもない突然の来訪になるからだ。別にカイン一人ならいつ来てくれてもいいけれど、彼女がわたしの予想通りの人物だったら、色々と拙いんだとはカインだって十分分かっている筈だ。

 多分朝一番にサライが行きたいと無茶を言ってきたからから案内したんだろう。同行者はカイン一人だけれど、わたしが分からないだけでどこかに護衛が潜んでいるのだろうか? もはやカインにはご愁傷様でしたと同情するしかない。後でこっそり楽しみにしていたお菓子をあげるとしよう。


「カインも上がってください。少しくつろぐ時間ぐらい取れるでしょう?」

「……ありがとうございます。それでは僕もお邪魔します」


 わたしはカインと共に二階の居間に戻った。そこではイヴが軽く驚いた表情でサライを、サライは先ほどと同じ不敵な面持ちで、お互いに見つめ合っていた。


「久しぶりね、姉さん」

「ええ、久しぶりじゃないの、イヴ」


 まあ、つまり、そう言う事だろう。

 カインはこの帝国の尊厳者、皇帝サライをここに連れてきたのだ。妹である勇者イヴに会いに。

お読みくださりありがとうございました。

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