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復讐された白魔導師が望むのは平穏  作者: 福留しゅん
復讐対象外の零人目と本人
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死者の都への侵入⑦・マリアとマリアの真実

 イヴがそのまま年を重ねたら彼女、目の前で寝具より上半身だけ起き上がらせている貴婦人、のようになるだろうか。さすがに彼女のように鍛えこまれて締まった身体ではなく柔らかい肉付きではある。確かにこの広大な世界で何人かは自分に酷似した存在がいてもおかしくはないのだけれど、それにしたって……。

 けれどかつてはふくよかな身体だっただろう身体からは肉が削げ落ちている。日に当たっていないのか肌は白く、病弱にも見えてしまう。こんな様子では体調を崩したらすぐに大事に至ってしまうのではないだろうか?


 だが今は彼女の外見は置いておこう。肝心なのは、彼女が何者なのか、だ。


「……お互い確かめ合う事がありそうなので一問一答にしましょう。まず貴女はどなたですか?」

「わ、私は……」


 わずかに目の前の貴婦人は俯きながら躊躇ったものの、俯いたままで口を開いた。


「私は西の公爵夫人、ミカルと申します」

「西の公爵夫人……!?」


 思いもよらぬ名称を聞いた。彼女の言葉が嘘でなければ彼女はカインの母親になる。わたしの記憶が確かなら西の公爵夫人は病弱だったため、公の場に滅多に姿を見せていなかった筈だ。だからわたしはおろか西の公都の住人の大半がその姿を目にしていない。

 確か公爵夫人は皇帝と公爵の絆を深めるために時折皇族が嫁ぎに来る風習がある。皇族を示す双頭の鷲は公爵夫人のものだったのか。ようやく疑問が一つ晴れた思いだ。

 あれ、だとしたら彼女に酷似しているイヴってもしかして……?


 そんな公爵夫人が死者の城にいるのかはさっぱりだ。療養中に占拠されて閉じ込められてる……にしては公爵がこの異変に対して消極的すぎる理由にならない。やはり引き続き彼女から真相を聞き出す他無いだろう。


「次は私でしょうか……。貴女はまさかマリアではないでしょうか?」

「貴女の言うマリアが勇者と共に旅をした虹のマリアを指すのなら、違います。同じく学院で学んで同じ名を持ってはいますがね」


 またか、と正直思いたい。あの騎士団長といいイヴといい、今度は目の前の女性だ。背丈や容姿はまあ似てなくもないから見ず知らずの他人が勘違いするならともかく、どうしてマリアに縁ある者達がわたしを彼女と間違うのだろうか?


「嘘、でも貴女は――」

「今度はこちらです。どうして西の公爵夫人がこんな所に?」


 彼女が驚いた様子で更に続けたがっていたが手で制し、一方的にこちらの質問を投げつけた。マリアの話題は際限なく泥沼化しそうなので打ち切るに限る。わずかにミカルは動揺しつつ唇を軽く結んで押し黙ってから、軽く天井を仰ぐ。


「理由があって私はここから離れられません。マリアが戻ってきてくれればきっと……」


 彼女の言葉は懇願にも近かった。彼女は信じているのだ、いつかマリアが戻ってきて彼女の前に姿を見せるだろうと。だが、復讐されたマリアが無事なまま彼女の前に再び姿を見せる願いはもはや叶うまい。マリアが彼女にどう関係しているかは疑問だが。

 ミカルは悲しみの中に何処か期待にじませてわたしに眼差しを送ってくる。その儚げな様子はどこか魅力があり惹きつけるようだった。けれど、わたしでは彼女の期待には応えられない。


「貴女は本当に……マリアではないのですね?」

「断言はできますがこの場でわたしが彼女ではない証明は難しいかと」

「……そう、やっぱりそうなのね」


 わたしがわたしであると証言してくれるわたしの家族はもう亡くなっている。逆にわたしがマリアではないと語ってくれるだろう彼女の家族もこの世を去っている。今までわたし達が歩んだ足跡、思い出の品物もご丁寧なまでに塵芥へと消えている。

 学院に行く前に学んでいたこの魔導協会の人達なら大丈夫だろうか? 学院の同級生、もしくはアンナ教授辺りならわたしとマリアが別人だと証言してくれるだろうか? あまりにもマリアだと言われるのでそれすら疑ってしまう。最も、この場に連れてくるのはほぼ不可能だが。


 そんなわたしにミカルは否定されても失望はせず、今にも泣き崩れそうに表情を歪めている。それは強く、わたしに何かを訴えかけるように。

 何故だ、何故わたしにそんな悲しげな眼差しを向ける?


「どうして、わたしを虹のマリアだと?」


 アンデッド発生の異変にどんな関わりが、とかマリアが帰ってきたらどうしてここを離れられるのか、とか聞けばよかったものを、わたしの口から滑った問いかけはわたし個人の疑問を晴らすだけの私情から出たものだった。

 この先を聞いてはいけないとどこからか警鐘が聞こえる。だが、明らかに彼女はないかわたしも把握していない真実を知っている。それを確かめずして何が魔導師か。いくら日常に溶け込みたいからってわたしには自分が万物を探求する魔導師だって自負があるのだから。


 やがて彼女は意を決したのか再びわたしの目を見据えてくる。その瞳には重大な何かを伝えるようとする強い意志が宿っていた。


「一年前、勇者イヴはここで大魔導師マリアへの復讐を遂げました」

「こ、ここで!?」


 そんなの初耳だ。いや、初耳なのは当たり前だ。把握しているのは当事者であるイヴとマリアぐらいだろうから。イヴにとっては場所なんてどうでもいいから説明してくれないだろうし、マリアにとっても些事だろうから教えてくれないだろう。わたしに知るすべは初めから無い。

 彼女は自分の下半身にかかった布団を強く握りしめ、長いまつ毛をした瞳から大粒の涙をこぼしていく。それは哀しみからではなく悔しさからくるようだった。マリアが目の前で復讐された際に何も出来なかった自分自身の無力さに向けているのだろうか。


「大切な存在を奪われたイヴはマリアからもかけがえのない人を奪おうとした。マリアは戦いに負けて、あの子の大切な存在は二度と取り戻せなくなってしまった……!」

「家族……」


 思い出したのは共同墓地でマリアの口から語られた告白。三年前に失った両親を冥府の魔導を用いて蘇らそうとした所をイヴが現れて、二度とそのような真似が出来ないよう骨も残さず灰にされた。そしてマリア本人も探求がイヴを裏切らせたならと報いを受けた、と。

 だがマリアは騎士団長のように止めを刺されていない。イヴ本人がマリアはそれ以上探求を続けられないと断言していたが、あのマリアはどんな目にあったんだ? 例えば魔導を封じたとしたって探究出来なくなるわけではないし、当の本人はわたしが見た限りでは特に活動に支障はなさそうだったが。


「そしてあの子自身もイヴの手にかかって、二度と戻らなくされてしまった……」

「いや、それならわたしをマリアと勘違いした理由にならないですし、そもそもわたしは当の本人に何度か会っているんですけど?」

「それは、貴女がマリアをマリアとしてしか認識出来ないからです」

「……何ですって?」


 マリアをマリアとしてしか認識出来ていない? それってどういう……。


 ――と、表面上は疑問符を浮かべたものの、心の奥底ではそれがどういった意味を持っているかを悟ってしまった。ただ、わたしがそれを認めたくないだけだ。


「マインドクラッシュとマインドオーバーライト、とイヴは言っていました。マリアとしての記憶を完全に破壊して価値観すら上書きしてしまい、全くの別人としてしまう。マリアのこれまでの生き方に背を向けるような者となるように……」


 マリアはわたしと同郷で同時期に魔導協会に通っていた。だがわたし達は出くわさなかった。わたし達は学院でも同じクラスになったが全く言葉を交わさなかった。彼女の旅立ちまで。彼女が目指したのは探求、わたしが目指したのは探求を捨てた日常への回帰。マリアもわたしも共に三年前に家族を失っていて……。

 イヴはわたしに剣を向けた。わたしをマリアだと、裏切り者だと悲痛に呼びながら。どうして彼女はそれから剣を収めた? わたしに魔導とは何かを問い質した後だ。魔導が手段に過ぎないとわたしが断言してイヴは謝罪してきた。何故?


 決まっている。『虹のマリア』が死んでいるのを確認するためだ――。


「マリア……あの子はもう帰ってこない。貴女というマリアが来てしまったから……」


 そう、か。だからマリアは三年前、そして最近わたしの前に現れるようになったのか。


 『虹のマリア』は勇者イヴに殺されたからわたしはマリアをマリアとしてしか認識できなかった。両親が亡くなっていたのは気付かなかったんじゃなく、マリアの探求の根底になっていたから記憶を抹消されたのだ。矛盾が生じていたわたしの記憶は全部イヴの仕業か。


 わたしは両親共々イヴに殺された。だから今のわたしがここにいる。

 マリアは、わたしだったのか……。



 ■■■



「いや、ちょっと待ってくれ。勇者イヴとか大魔導師マリアとかって、あの魔王を倒したって?」

「復讐って何だよ。まさか剣士サウルが殺されたのも何か関係あんのかよ!」


 天を仰いで何も考えずに呆然とする時間もわたしには与えられていないらしい。重い現実を突きつけられはしたが、それを直視するのは後回し、か。つくづく無慈悲じゃないか。乾いた笑いが出てきてしまいそうだ。

 それにしても覚られないようにミカルの背後に回っていたのに声を出しては意味がないじゃないかお二人さん。彼女を取り囲んだままだからまだこちらに有利ではあるけれど、本当に彼女が異変の元凶だったら優位性をかなぐり捨ててどうするつもりなんだ?


「それは異変が片付いた後ゆっくり話します。今肝心なのはそこではなく、彼女がこの異変にどう関わっているか、でしょうよ」

「……っ! そ、それもそうだが……」

「答えていただけますか、ミカル」


 ダニエルの不満を打ち切るようにわたしはミカルの方へ質問をする。そもそもここに来た目的はマリアの真相ではなく異変の全容を暴くためだ。こうなったら勢いのままに行く所まで行ってしまうよう腹をくくるしかないだろう。


「……貴女の言う異変がアンデッドの発生を指すのなら、それは私のせいですね」


 特に言いよどむ様子も開き直りもせずにミカルは確信を述べてきた。当たり前だがそれで全てが明らかになったわけではない。


「公爵夫人がそれほどの腕を持つ魔導師と聞いた覚えがありませんが?」

「マリアが言うには素質はあるようなのです。それも冥府の魔導に特化した素質が……。冥府を体験した者がコツを掴んで目覚めた、とマリアが呟いていたのは覚えていますけれど、あいにくそういった知識のない私にはとんと分からなくて……」

「冥府って、一度亡くなっていたんですか!?」


 信じられない。確かにマリアが試みようとしていたから死を覆す魔導がある事は分かっていたけれど、その実証がいざ目の前に飛び込んでくると現実と受け入れがたくなる。

 ふとロトやダニエルと視線が合った。ロトはそもそも冥術すら初耳だったのか、明らかに分かっていないようで眉をひそめている。一方のダニエルは瞳が飛び出てきそうなほど目を見開き、わたしに何か意見を求めているようにミカルを指さしていた。

 わたしの驚愕をよそにミカルは静かに頷いた。


「はい、三年前亡くなっていた私を生き返らせる事を条件に夫がマリアに資材と資金を提供し、完成した反魂魔法を真っ先に私に、と……」


 マリアも一枚噛んでたってわけか。魔導の探求、研究にしたって何も本を読んで知識を深めるばかりではなく、実験設備や道具の準備も必要となってくるだろう。どこかの機関に属していれば提供してくれるかもしれないが、無所属の場合は資金調達から始まるものだ。

 マリアは彼女の……いや、わたしのでもあるのか。とにかく両親の蘇生を果たす為に公爵を唆したのだろう。生を終えた者は神の元へ召されると考えられているこの国において、死者の蘇りは悪魔の所業、よほど言葉巧みに提案したのか。


「けれどそれなら公都に戻ればいいではありませんか。何故こんな所に……」

「元々素質があった私が冥術の反魂魔法で蘇生させられた為に、魔法の制御が効かないらしくて自動で発動してしまうそうなの。街中の墓地に眠る人達を起こしたくなかったから、人気のないここに……」


 それが公爵自らが全く出向かなかった理由か……! カインの父親はここに母親がいるって初めから知っていたのか! 消極策を取ったのも異変の元凶が公爵夫人だと公にならないよう、ましてや死を覆したと発覚しないように、か。

 いや、それだけではまだ完全には説明できない。いくら最愛の妻だからと自らの民を危険に晒したままなのは明らかに愚策だ。現公爵は暗君どころか魔物の跋扈にも適切に対応した名君とも讃えられるほど。少年のカインなんかに任せずともより良い解決案を見いだせた筈だ。


「魔法を常に発動しているからか、ずっとこのベッドに寝たきりになってしまって……」

「じゃあ何でそのアンデッド軍が西の公都に攻め込んでくるんだよ。おかしいじゃねえか!」

「よせ! 詰め寄ったって何の解決にもならないぞ」


 ダニエルが怒気を帯びた声と共にミカルの胸倉に手を伸ばそうとした所をロトがすんでのところで静止する。ダニエルも分かってはいたようで、震える手を下に振り下ろしてやり場のない怒りを発散させた。


「ダニエルさん、アンデッドは術者の無意識な願いに答えているだけです。ミカルさんの帰りたいって思いがアンデッド達にも反映されているんじゃあないでしょうか?」


 おそらく自動発動して創造されたアンデッド達はミカルから何の命令も受けていない。そうなると創造された者達は何もしないわけではなく、ゴーレムやスライム同様に誕生時の術者の願いを果たす為にある程度自立行動すると聞いた覚えがある。

 城下町としてここが拡張されたのも、西の公都に死霊の軍勢が攻め入ったのも、ミカルの無意識な願いを反映させたものだとしたら納得がいく。アンデッド軍が基本を抑えていたのに実力・経験が不足していたのも彼女は軍人でもないから。この都市が洗練されているのも彼女の身分を考えれば当然だ。

 推察でしかないがそれが異変の全容なのだろう。


「分かってはいました。私が発生させたアンデッドが何かよからぬ事をしているのだと。けれど、まさか西の公都にそんなに迷惑をかけていただなんて……」


 いかに反魂魔法で再び生を受けていようが自殺は出来ない。自殺をした者は死しても救われない、となっている宗教観が許さないのだ。だからミカルが出来るのは待つだけ。いつかこの悪夢から誰かが救ってくれるまで、ずっと。


 沈黙が辺りを支配する。ロトがこちらを見つめてきていて、「どうする?」とわたしに問いかけているようだった。

 解決策は三つあって、一つは彼女を排除してアンデッドを掃討する強硬策か。これが一番現実的ではある。もう一つは彼女が自分の魔導を制御できるようになればいい。道は困難で時間はかかるだろうが不可能ではない。最後は彼女の魔導のみの封印か。その辺りはわたしの全く見当もつかないから実現可能かも分からない。


「……一旦この情報を持ち帰ってもいいですか? 公都の魔導協会の方々ちょっと相談してみます」

「そう、ですね。分かりました」


 これ以上ここに留まっていても異変を解決には導けないだろう。情報を整理したうえで解決策を模索し、出直すしかない。ミカルにはこの後も悪夢を見てもらう形になってしまうが、きっと何らかの光明があるとは信じたい。


「ロト、ダニエル。今日はここまでです。公都に帰りましょう」

「……釈然としないけれど、そうするしかないよな」

「ここまで来ておいてコレなのも情けねえけど、しょうがねえか」


 ベッドを挟んだ反対側の二人はようやく警戒を緩めて己の得物を下ろす。

 さて、どうやってこの部屋から脱出しようかしら? あのワイトキング二体が扉を挟んだ向こう側で待機しているし、ロトの昇降器具は廊下を挟んだ向こう側。いっそここのカーテンを結んで階下へのロープとしてしまうか?

 そもそも別れたレイアやアモス達と合流しないといけないな。彼らがこの階まで昇ってきたらワイトキングと鉢合わせは必至。余計な戦闘は極力避けて撤退したい所だが……。


 と、ここまで考えてふと疑問が浮かぶ。ミカルがアンデッドを自然発生させているのは分かったが、いくら素質があったからってせいぜいワイトやデスナイトぐらいだろう。ワイトキング程の存在を使役できていたとはとても思えない。もしそうならわたしの想像をはるかに超える才能を彼女は持っている事になるが。


「そう言えば、この扉を警護していたワイトキングですけど、まさかアレ等もミカルが?」

「そ、それは……」


 言いよどんだ。彼女の限りなく薄く紅色に染まっていた白い頬が青くなったようにも見えた。それは自己嫌悪からでもこの状況へのやるせない想いからでもなく、絶望しているかのようで――。


「――僕が彼女を守るために彼女の魔導を利用して召喚した、って言うのはどうかな?」


 声がしたのはわたしの背後、つまり扉の方向。身をひるがえすように反転したわたしは杖をそちらの方へと向けて構えをとった。


 扉の前にいたのはとても優しそうな整った顔立ちをした青年だった。外見の年齢はわたしと同じぐらいで、背はわたしはおろかロトやダニエルよりも高く長身と言えるだろう。街を通れば誰もが視線を釘付けにされるほど端正な顔立ちをした美形なのを除けばありふれた男性と言える。

 そんな彼は左右に先ほどかろうじてやり過ごせたワイトキングを控えさせている。王を守護する親衛隊、そういった印象が頭をよぎった。無論この三人が扉を開けて部屋に入ってきてはいない。それなら扉を視界に納めていたロト達が気づく筈だ。


 いや、問題なのはワイトキング二体ではない。この男から感じる威圧感と恐怖だ。気張ろうとしても身体中が震えるのを自覚する。彼自身は何もしていないのに彼がこの場にいるだけで押し潰されそうで、握りつぶされそうでたまらない。


「あなたは、誰ですか……っ!?」


 射竦められたように動かない自分を叱咤して、何とか彼を睨みつける。そんなわたしの無様を意にも介さずに彼は微笑みを絶やさない。この重圧の中で彼の物腰はあまりにも現実とかけ離れているようで、それがまた得体の知れない畏れをもたらす。


「やだなあマリア。まさか僕の事を忘れちゃったのかい?」

「……は?」

「ああ、そう言えばイヴとの決闘で敗れて全部失っちゃったんだっけ。悲しいなあ、あれだけ長い間一緒だったのに」


 旅……? 公都や学院にずっといたわたしは日帰りかそれに近い冒険しかしていなかったし、その時に組んだ冒険者に彼は……いや、それはイヴが上書きした偽りの記憶の可能性が高いのか。

 まさか、マリアとか? けれどイヴが挙げていた勇者一行の七人に彼は一切該当しそうもないが、マリア達とはまた別なのか? けれど長い間一緒だったら勇者一行に数えられても不思議ではない筈だけれど……。


「じゃあ、こう言えば今の君にも分かりやすいかな?」


 威厳も何もない、温厚な雰囲気は変わらない。なのに彼の仕草一つ一つに、指を動かす動作にすら風格がある。それは万物の頂点に君臨する、絶対王者の――。


 そして彼は、絶望をもたらす事実をわたし達にもたらした。


「アダム。そう、魔王アダムさ」

お読みくださりありがとうございました。

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