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実家帰りでの思わぬ再会

 真夜中の防衛戦が過ぎ去った後、自宅に戻ったわたしは最後の気力を振り絞って身体を拭いて着替えを済ました。倒れ込むように布団に転がった所まではかろうじて記憶にあるけれど、その後本当に間もなく意識を手放したらしい。

 夢も全く見ないほどの熟睡だったけれど、起きたのは意外にもまだ昼に差し掛かった辺りだった。窓辺から見えるお日様は完全に昇りきっているものの、まだ傾いてもいない。視線を下に移した先に広がる住宅街の様子は昨日とさほど変わらない。つい先ほどの戦争が嘘のような平穏だ。

 身体を曲げたり伸ばしたりしてみる。思っていたよりは身体の疲れや痛みは残っておらず、普通に過ごす分には特に問題はない。活性魔法の影響下で床に付いていたら短時間の睡眠で疲労を取れるんだけれど、最後はそこまで頭が回らなかったからな。早く起きる事が出来たのは良かった。


 居間に向かうとイヴがリハビリ器具の平行棒に両手をかけて佇んでいた。手も足も震えていたけれど、それでも彼女は自分の足で立てている。つい先日まで動かすのもままならなかったのに、思っていたより順調に回復しているではないか。

 イヴは平行棒に両腕の力を込めると、右足、左足と、ほんのわずかずつ歩み始めた。あくまですり足で一歩ずつ慎重に、着実に進んでいく。唇をきゅっと引き締めて瞳は前を力強く見据えている。額から汗を流し、長く瑞々しい髪は振り乱れ、所々で彼女の顔や体に張り付いていた。

 そんなひたすら明け暮れる彼女を美しいと感じるのは何もおかしくない筈だ。


「凄いじゃないですか。もう歩けるんですね」


 このまま眺めてるのもいいんだけれどらちが明かない。柱時計で時刻を確認しつつイヴに声をかける。そこでようやくわたしの起床に気づいたのか、彼女は傍にあった車椅子にゆっくりと座った。

 手足から力を抜いて車椅子にもたれかかる彼女は一見すると平然としているようだったが、わずかに肩で息していて呼吸が早い。やはり、いくら冒険で培った体力があろうとこのリハビリは尋常ではなく疲れるのだろう。


「おはようマリア。こつを掴めば歩行もそう難しくはないみたいなのよ」

「コツでどうにかなるんですか?」


 まだイヴの両腕両脚は回復魔法で治りきっていないから、今彼女の手足を動かしているのはわたしが施した冥術によるものだ。けれど昨日まで左腕以外は全く先の見通しが立たないほど動いていなかったのに。


「同じように繋げた筈なのに左手だけが少し動かせたのが気になってたのよね。こっちは以前の死闘で失ったものだから、むしろ無かった月日は長かったのに」

「……言われてみれば確かにそうですね。利き腕だったからとか?」

「いえ、肝心なのはそこじゃなくて私の思い込みね。利き腕だから早く動かせるようになる筈、ってね」

「つまりは暗示……いえ、認識が大事だと?」


 イヴは上の肌着が透けてしまうのではないかと思うほど汗を流していた。このままだと上が濡れたままで風邪をひいてしまうと思ったわたしは、台所でタオルを水で濡らして彼女の肌着を脱がし、汗を拭いていった。

 彼女の身体は回復魔法でも消せないような傷の跡が無数にあるものの、長く冒険していたとは思えない珠のような肌をしていて正直羨ましい。その為、無垢と言っていいほど彼女の両腕がどうしても目に付いてしまう。腕の持ち主だった女騎士だって食器以上の重たい物を持った事のない箱入り娘では決してなかっただろうが、どうしてもイヴと比較すると温室育ちだったのでは、と思ってしまうな。


「普段は特別に意識しなくでも手で物を持ち、脚で立ったりするものでしょう。だから左手だけマリアの魔法の効果が良かったんじゃなくて、当たり前のように動かしたら動いた、みたいな感じだったって言えばいいのかしら」


 そういうものだったのか。初めて使った魔法だったので相手にどう影響を及ぼすか全く見当もつかなかった。わたしはてっきり時間をおけば違和感が無くなり自然と動かせるようになるかと思っていたのだが。

 確かにまだぎこちない動きではある。それでも思うように四肢が動くようになったなら幸いだろう。だがこの魔法の効果は死屍を手足のごとく動かすものであり、それ以上でもそれ以下でもない。つまり、自由自在に動くだけで己の感覚は戻らない、感覚が無いままの筈だ。


「でも、つねっても痛くないし、かいてもくすぐったくないんですよね」

「ええ、これでは思い通りに動かせる便利な道具なだけで自分の手足じゃない。加減も分からないから注意していないとすぐに壊れそうよ」


 彼女は自分の……いや、女騎士の手をわずかに顔をしかめて眺める。彼女の中に渦巻く想いが向かう先は自分自身か、己に繋がった他人の腕か、果たしてどれだったか。

 わたしはそんな震える彼女の手にそっと自分の手を置く。軽く驚いたのか、イヴは目を丸くしてこちらを見つめてきた。


「大丈夫ですよ」

「マリア……?」

「冥府の魔法の影響下にある対象はそう簡単に状態変化しないらしいですから、腐敗の心配はありません。それなら回復魔法でいつかは繋げられますから」


 これについては冥府の魔導書を読んでいて意外だった。例えば血肉の残ったままの死体をアンデッド化したらゾンビやグールになるが、腐敗が進んで肉が削げ落ちたりはしないらしい。年月を経てもゾンビはゾンビのままで、スケルトンにはならないそうだ。だから血が通っていない女騎士の腕もイヴに縫い付けた状態を保っている。

 それに、既にイヴと出会った日から毎日欠かさず回復魔法をかけている。水をやりすぎると植物が腐るのと同じで、適度に施すのが効果的なのだ。切断された傷跡こそ残っているけれど、既にイヴの手足はイヴにくっ付いている。骨と肉が完全に繋がるのは当面先と見込んでいるが、それでもそう遠くないうちに借り物のそれは文字通り彼女の血肉となるだろう。


 イヴはしばらくわたしを見ていたが、長く整った髪をかき上げて笑みをこぼした。瑞々しい髪が流れる様はレースのカーテンを思わせる。


「……そうね。何もずっとこのままじゃあなくて時間の問題だったのよね。それでもこのわだかまりがどうも抑えられなくて」

「焦る必要はありません。じっくりやりましょう」

「……ええ、ありがとう」


 彼女はきっと治った後にはまた旅立ってしまうのだろう。復讐の刃が彼女を騙した者達に突き立てられるまでは決して止まらない。だからって今この時が決して消えやしない。なら、今は今のひと時を大事にして過ごそうではないか。


「さて、それじゃあ昼食にしましょうか。すぐ作りますから待っていてくださいね」


 寝る前に外で軽食は取ったけれど、既にお腹が鳴って空腹だと訴えてきている。昼食は在り合わせで何とかするとしても夕食分は市場に買い出しに行かないといけないようだ。もうちょっと保存が効く箱でも発明されればいいのに、とはたまに思う。

 そうだ、市場に行くのも忘れてはいけないけれど、今日はやりたい事があったんだった。


「イヴ、今日午後はちょっと外出しようと思うんですが、どうします?」

「買い出しなら付き合うけれど、何をするの?」

「いえ、一応開業魔導師としての開店って明日を予定してるじゃないですか。そうなると忙しくて時間を取る暇もなくなっちゃうかもしれませんし」

「あら、忙しくなるほど客が来るんだって信じているのね。どんな見通しを立てているのかぜひ教えてもらいたいわ」


 イヴは意地悪く微笑んでくれるが、悔しいが言い返せないので黙るしかない。立地は悪くないし人も多いから、集客できるかは後はわたしの腕にかかっていると言っていい。地道に運営していって徐に評判を広げていくしかないだろう。

 それにしたって酷いものだ。少しは激励とかをくれたって良かったんじゃないか?


「とにかく、そうなる前に実家に顔を出してこようかと思うんです。イヴを招待するのも変な話ですけど、どうです?」

「マリアの実家に?」


 わずかだがイヴが眉をひそめたのをわたしは見逃さなかった。実家、という言葉に反応を示しただけだろうか?


「ええ、学院に行ってしまってから両親には顔を見せていませんでしたし、手紙のやりとりも最近疎かになっていましたから。この公都内ですから夕方までには往復できますよ」

「……いえ、遠慮しておくわ。マリア一人で行ってきてもらえる?」

「え? え、ええ、分かりました」


 断られてしまったか。まあ歩いてすぐの友人宅を訪ねるほど気軽に行ける距離でもないし。仕方がないから自分一人で行くとするか。ついでに市場に寄って食料を買い込めばいい。


 けれどイヴは遠慮して断ったわけではなかいだろう。どうしてか少しの間熟考した後に答えを返してきた。今もわたしから視線を逸らして外の方を眺めている。けれど彼女の瞳に映るのは窓からの情景ではなさそうだった。


「……後で何があったか聞かせてもらえる?」

「それはもちろん構いませんけれど……」


 彼女の思う所が何なのだろうか。あいにくわたしにはそれを窺い知る事は出来なかった。



 ■■■



 わたしの実家は西の公都でも東側に位置する。東西南北それぞれの地区は中央区を中心とした円状の街道で行き来出来る。中央区から外方向に延びる街道と合わせて西の公都の大動脈となっている。このような都市構造になったのはいちいち中央区を経由して北から東へ、とすると中央区が人で溢れるから、が理由らしい。

 街道沿いには地区間を行き来する乗合馬車が走っていて、歩くよりは早く移動が可能となっている。今日は朝から行動できていれば行きは歩きだったんだろうけれど、さすがに昼過ぎから出発していては早く帰れなくなってしまう。ここはおとなしく馬車を使うとしよう。


 そんなわけでわたしは繁華街を抜けて街道まで出てきた。広々と整備されたこの道は、昨日アタルヤの部隊がしたように軍隊の行進のような大勢の行き来を想定して設計されているそうだ。そのせいで人通りは少なくないが妙に閑散としているように見えてならない。

 乗合馬車の時間は特に決まっていない。おおよそで一定間隔でやって来る、のような漠然としたものでしかないので、頼りになるのは待っている人の度合いだろう。もう既に何人かが停留所で馬車を待っているようだから、そう時間も経たずにやってきそうだ。


「元気にしてるかなぁ」


 学院にも勿論長期休暇はある。帰省する同級生も多かった中、わたしは帝都に留まり続けていた。教授の手伝いをしたり冒険者の補助をしたりと、学院ないしは帝都にいる間にしか出来ないような経験を沢山積んだ。どうせ学院を卒業したら西の公都に戻るんだと決心していたから、帰省はいつでもできるようになれるんだからと考えていたからだ。

 もちろん完全な音信不通になる薄情な真似はしていない。手紙を少なくない頻度でやりとりしていたし。学院を卒業したらこっちに戻るとも書いているから、待ってくれている筈だ。ここ一年近く返事が返ってきていないから少し寂しくはあるが。

 父、母、妹と、別段特に変わった家庭環境ではない。実は貴族だったなんて話でもないし、修道院出身でもない。両親は魔導師でもないし、特筆する点など何もない中間層の出身。血統とか環境とかその他もろもろ全てが至って普通だろう。

 先祖が偉大なる何某だとか逆境を乗り越えて一級になったとかもないし。もしわたしの伝記が出版されたとしても出自に関しては全く面白くないだろう。そこは断言できる。


「――両親の所に行くつもり?」


 物思いにふけっていたわたしの意識を引き戻したのはそんな一言。一瞬聞き間違いかと思ったが、周囲の誰一人その言葉に反応を示していない。やはりわたしに投げかけられたものか。


 だがこの声は、まさか……。


「……ここで会うとは思ってなかったんだけど?」


 高鳴る心臓がうるさく感じたが何とか冷静さを取り繕って声の主へと振り返る。

 そこにいたのは、帝都出発の時に分かれたきりだった、わたしを冥府の世界へと引き込んだ張本人――。


「不思議でも何でもない。わたしだって西の公都の出身だから」


 虹の、マリア……。


「……西の公都の魔導協会支部では見かけた覚えがなかったけれど?」

「組が違っただけかもしれない。わたしだってマリアと出会ったのは学院が初めてだった」


 彼女はまるで当然のようにわたしの隣に停留所に並んだ。神出鬼没とはマリアを指すんだろうけれど、結構驚いてしまったが納得はいく。まあマリアだし。

 彼女とは背丈が同じだから視線もわたしと並ぶし、服装も学院のローブ、杖も長さといい装飾といい似通っている。杖だけでも見栄を張ろうと特注したのに、もしかして同じ匠の業物だとか? そう言えばイヴがわたしとマリアの容姿が似ているとか言っていたっけ。

 ううむ、こうして並んでいると親戚、下手すると姉妹か何かと勘違いされるんじゃないだろうか? 同級生だったら優秀な虹のマリアと姉妹だなんて光栄とか言いそうだけれど、わたしからすれば結構複雑だ。


「で、わたしに何の用? 冥府の魔導書を渡しただけでは飽き足らないの?」

「いえ、マリアへの用事はそれ以上特にない。それとも用が無ければ会ってはいけなかった?」

「別にそうは言ってないけど、道端ですれ違っても立ち止まって会話する程の仲でもなかった筈だけれど?」


 マリアは視線をわたしの方へと向けず、ただ大通りの方を眺めたままだった。わたしも横目でしか彼女を窺っていないからお互い様だが。

 それにしてもマリアからそんな言葉を聞けるとは正直意外だった。わたしから言わせればマリアとは同級生であって知人よりわずかに上にすぎず、友人ではないと断言できる。必要以上に言葉を交わす中では当然なかった。

 と言っても彼女を毛嫌いしているわけではない。そのため、彼女を鬱陶しく感じたりも突き放す気もないのだが。


「で、何でわたしが実家に帰るって分かったの? 何かの魔法でも使ったのかしら?」

「その推察は根拠が無くて非論理的。マリアだったら公都に帰ってきたらそう日を置かずに家族の元へ行くと思っていた」

「何それ、まさかわたしの事を付け回していたの? 救国の英雄も暇人なのね」

「偶然に過ぎない。勘ぐりすぎ」


 どうだか、話半分に聞いていた方がいいだろう。


 乗合馬車がやって来たので行き先を述べつつ運賃を払って乗り込む。後は東の地区の適当な停留所で降りて、実家まで歩くだけだ。マリアも乗り込んできてわたしの隣に座る。ここまで執拗に粘着されるとマリアの事を何か異質な存在に思えてきそうで怖いな。

 ゆっくりと馬車が走りだす。都市間を行き来する乗合馬車と違って速度は遅めだ。まあ歩行者も少なからずいるから当然だろう。揺れる馬車はお世辞にも乗り心地が良いとは言えない。本でも読んでいたら一発で気持ち悪くなってしまうだろう。

 それにしてもこのまま到着まで長い間沈黙を漂わせるなんて嫌だな。仕方ないからわたしから口火を切ろう。


「わたしは今、勇者イヴの治療に当たっているの」


 マリアの方こそ両親は? とか、今何して過ごしてるのさ? とか色々と話題は浮かんだものの、口から出たのはある意味では核心だった。ただわたしの質問にもマリアはさほど反応を示さず、表情は崩れないままだったが。


「知っている。最も、まさかマリアがイヴと邂逅するなんて予想もしていなかったけれど」

「サウル……だったっけ? かつて勇者一行だったって騎士もイヴが手にかけてたよ」

「それは僥倖。わたしにとっても彼はとても煩わしかった」


 冷淡、だろうか。彼女は眉一つ動かそうとしない。最もマリアは絶対あの騎士団長とそりが合わないだろうし、向こうもマリアを毛嫌いしていたからお互い様だろう。さすがに勇者一行全員が義務感だけの結束で繋がっていて仲間って認識が皆無とは考えたくないが。


「残りは三人だって。マリアには既に復讐を遂げてるって聞いたんだけれど」

「わたしの選択が伴った結果だから不満はない。危険性は承知の上だった」


 どうやらイヴの言った通りマリアは既に彼女の復讐を受けているらしい。騎士団長は絶命の瞬間血眼でイヴを睨みつけていたけれど、マリアの反応を窺うに彼女にとっては報復は予測の範疇だったのだろうか。やるからにはやられ返される覚悟をもって、か。

 それにしてもマリアは特に変わった様子が無い。身体を上から下まで見渡してもどこにも後遺症は負っていそうにないし、かと言って何らかの制約を受けていそうにもない。あのイヴの決意からして今のマリアが無事とはとても思えないのだが……。


「それにしては何事もなかったように見えるけど?」

「マリアからはそう見えるだけ。わたしは既に再起不能になっている」


 少し語尾が強まる。あまり感情を表にしないマリアにしては珍しく怒りを隠し切れていない。それでも自分に戻ってきた因果を受け入れたのだから、立派というか往生際がいいというか。

 ただ、あのイヴがマリアに行った復讐は気になる。イヴの事だ、復讐相手が絶頂の最中にいる所を奈落の底へ引きずり込んだのだろう。騎士団長の場合は社会的成功を収めている所を全て打ち砕いた上で命を奪っている。ならマリアへはどうしたのだろう?


「虹のマリアは探求を続けられやしない、か」


 思い出すのはイヴの言葉。探求が不可能になる復讐とは一体? 今でもマリアは特に変わった様子もなくわたしの前にいるし、歴とした魔導師なのも同じだ。だから彼女が掲げていた探究にまた勤しみそうなものだが……。


「……この冥府の魔導書の譲渡も復讐されたせいかしら?」

「そうとも言えるし違うとも言える。その辺りは複雑、追々分かる」


 二人の間に何があったかは実に興味深いが、逆にこれ以上マリアと関わりたくないし分かりたくないとの思いも募る。これは多分同じ魔導師であってもわたしとマリアとでは考え方が真逆なのが理由なんだろう。人間的にはむしろこうして会話していても中々楽しめるし。


 乗合馬車が揺れ、わたし達の身体が少し跳ねる。馬車の中はわたし達の他にもそれなりの人数が乗っていた。ただお互いの距離は少し離れているから、馬車がたてる音もあってわたし達の会話が聞かれる心配はないだろう。現に誰も聞き耳立てている様子はない。


「……それで、わたしが両親に会いに行くのに不都合な点でもあるの?」


 外を窺うと既に東の地区へと馬車はやってきていた。まだ時間はかかりそうだったので、最初からどうも気になっていた疑問に踏み込んだ。

 結局、どうしてマリアはわたしが両親に顔を見せるのかと問いかけてきたんだ?


「別にわたしには不都合はない」

「だったら声のかけ方だってもっと別にあったと思う――」


 ぎょっとして言葉が止まってしまう。

 いつの間にかマリアは真剣なまなざしでわたしの方を見つめてきていたのだ。その深い色を湛えた瞳に吸い込まれていきそうな感覚に陥る。わずかに身をこちらに乗り出してきてもいるようだ。


 しばらくその状態が続いた後、マリアは重たそうに口を開き、次の言葉をわたしに放ってきた。


「これは忠告。今からでも止めておいた方がいい」

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