閑話・復興の第一歩
今回も前回の続きになります。
―閑話―
ルーシ公国連合の地で繰り広げられた魔獣が群れ成す魔王軍との戦は人類連合軍の勝利に終わった。しかし残された爪痕は深刻なものだった。戦場跡には魔獣と人類の物言わぬ躯が広がる絵図が果てしなく広がっていて、生き残った多くの者も傷ついていた。
百獣長ガトーの猛威もあって人類連合軍が被った被害は五割以上に達し、犠牲者だけに限定しても三割を超す結果となった。戦術も何もない猛攻を受けただけに後方に待機させていた兵站の運用を担っていた部隊は無事だったのはせめてもの救いだった。
首脳陣は口を揃えて撤退を進言した。このまま公都ミエナに向けて進軍させても次に襲い掛かる魔王軍には到底太刀打ち出来ない、そう判断しての意見だった。むしろ退却しようと追撃にあったら全滅も有り得る為、どのように兵を退かせるかに議題を絞るべきだと強く提言する。
「駄目よ。最低でも公都ミエナの奪還が今回私達が集った大義でしょうよ」
しかし総大将のエリザベトは真っ向から否定する。ルーシ公国連合に伸びた魔の手は主に魔に魅了された種族と魔獣で構築されていて、前者はミエナの地でマルタが、後者はついさっき打ち破ったばかり。人類連合軍を脅かす敵の軍勢は現れないとの判断からだ。
勿論思い込みを過信するつもりは彼女には無かった。常にアヴァロンの誇る飛竜の部隊が周辺をくまなく探しまわり脅威を事前に見つけられるよう目を光らせる。そして多大な被害を受けたものの未だ総勢一万数千名が戦闘可能、用心深くすればそう易々と打ち破られないとの判断からだ。
「むしろここから最寄りの都市に戻るって言っても結構遠いじゃあないの。だったら公都ミエナまで逃げ込んでさっさと復興させた方がいいんじゃあないかしら?」
とは言え最終的に総大将であるエリザベトの命令により軍は動くものの、その方針は首脳陣が決定する。あくまでエリザベトは意見を述べる程度だったが、彼女の言葉を受けて将官達は熱く議論を交わしていく。
多くいた負傷兵は白魔導師達が応急処置を施して何とか自力で移動できる程度に回復させた。仲間の亡骸はとりあえず魔獣達とは離して一旦安置させた。遺体の回収は後続の部隊に委ねるよう伝令を西側へ送る。そうして魔獣との戦の収拾が終わった頃、人類連合軍は進撃を選択した。
「どうしたのよマルタ、浮かない顔しちゃってさ」
「だって、公都は私が壊滅させちゃっていて……」
道中、エリザベトはホルダの戦闘用馬車に同乗したマルタへと声をかけた。本当なら姿をくらますつもりだったマルタはエリザベトの強い熱意に押されて結局彼女達と従軍する破目になっていた。エリザベトは表情を暗くさせるマルタへ携帯食の豆を指で弾く。
「あたっ」
「いつまでも湿っぽくしているんじゃあないわよ。アンタの言う惨劇はラバンにファイナルアタックを仕込んだ奴の仕業で、マルタは何も悪くないわ」
豆が当たった額をさするマルタへと、エリザベトは屈託のない笑い顔を見せた。
「でも、私があの時エリザベトさんみたいに防御が出来ていたら……」
「『でも』も『もしも』も言うだけ不毛よ不毛。確かに甚大な被害を出したのはぬぐえない事実でしょうけれど、マルタが魔を払ったのだって覆せない事実なんだもの。もっと胸を張りなさいよ」
「……難しいですよ、私には。寝る度にあの時の光景を見ちゃっていますし」
「ああんもう、湿っぽいわね!」
「いいじゃあないの姫様、悩むのは若者の特権だもの」
不満そうに頬を膨らませるエリザベトへ、同じ飛竜の背に彼女の後ろで横向きに座っていたホルダが笑いかけた。彼女は器用に片手でカップソーサを、もう片方で紅茶を淹れたカップを手にして優雅にティータイムと洒落込んでいた。
ホルダが先の戦いの前まで移動手段に用いていた戦闘用馬車にはマルタともう一人、自分の背よりも大きい巨大なクマの縫いぐるみを背負ったアビガイルが乗っていた。おかげで三人掛けではとても窮屈だとホルダがエリザベトの後方に座した訳だ。
「えっと……王女殿下? で呼び方はいいでしょうか?」
「ホルダみたいに姫様でいいわよ。親しい人はみんなそう呼ぶしね。あと堅苦しいったありゃしないし敬語も要らないわ」
「じゃあ、姫様。どうして瓦礫の山になっちゃった公都ミエナに進軍をするので……かな?」
「それよ。その瓦礫の山って所が肝心なのよ」
ラバンと自分が巻き起こした大爆発で公都ミエナはかつての栄華が見る影もなく崩壊した。生存者の発見も絶望的な以上、あの地にもはや戦略的価値は何も無い筈だ。マルタには半壊状態の軍勢はただ公都ミエナ奪還という大義名分を果たそうとしているだけにしか見えなかった。
そんなマルタへエリザベトは不敵に笑いながら指差した。マルタは彼女の意図が分からずにきょとんとしながら首を傾げる。
「爆心地に近い箇所は跡形もなく吹き飛んでいるのよね。けれど郊外はそれ程じゃあない。建物が崩れてマルタの言う瓦礫の山になっちゃっているんでしょう?」
「う、うん。だからこんなに大勢で行っても泊まれる場所も無いし、意味が無いんじゃあ?」
「瓦礫の山が残っているなら、元の建物に戻す事が可能よ。ここにいるホルダならね」
「えっ……?」
名前の挙がったホルダは特に反応を見せずに紅茶を口に付ける。優雅な仕草でカップを皿に乗せると懐から取り出したハンカチで口元をぬぐった。その口元からは笑みがこぼれていた。その笑みが魔性のモノに見えてしまい、マルタは一瞬だけ気構えてしまった。
「百聞は一見にしかず、は極東の言い回しだったかしら? まあ見ていなさい、奇跡を見せてあげる」
「奇跡……?」
「あー、ホルダの言う奇蹟はそうとしか思えないって大規模な魔法の比喩だから、そう深く考えない方がいいわよ。そんなもんだって軽く納得すれば十分ね」
「ちょっと姫様、その言い回しは酷いんじゃあないかしら?」
そんな事より、とホルダは話題を早くも終了させた。彼女の面持ちから笑みが消え、冷えた流し目をエリザベトへと送る。エリザベトもホルダの仕草には見慣れているとはいえ思わず射竦められ、身構えそうになってしまう。
「軍団長二人を手駒にした黒幕の方が重要よ。一年前討伐されたのは疑いようも無いんだから、間違いなく奴らはこの世に蘇った事になるわ」
「噂に聞く冥府の魔導でも使われたって言うつもり? でも一年前までの魔の手による波瀾でもアンデッド系の魔物はそう多くなかったじゃあないの。魔王を含めて魔王軍にも冥府の担い手はいないんじゃあなかったの?」
「一年前は戦意を失わせたくなかったから言わなかったけれど……」
「ん? 何よそんなに勿体付けてさ。いつもまどろっこしい言い回しを好んで余裕そうにするホルダらしくないわね」
ホルダは簡潔に説明する。魔王軍は全てで七つの軍勢で構成され、一年前かろうじて打ち破った魔王軍はそのうちの二つの軍に過ぎない、と。
その衝撃の告白にエリザベトは言葉を失い、マルタもまた顔を青ざめさせて口元に手を当てた。耳に入ってしまった近衛兵達も何とか動揺が軍全体に伝わらないようにするのが精一杯だった。アビガイルのみ興味無さそうに遠くの風景を静かに眺めていた。
「じゃあ、魔王を討ち果たしてもまだ魔王軍は健在だって言うの!?」
「魔王直属の親衛軍を除いた四つのうち二つは最近南のキエフの地で帝国軍と交戦して撤退したらしいけれどね」
「嘘、そんなの私聞いてないわよ!」
「だって戦果が挙がったのは私達がここに派遣される航海の途中だもの。ここにいる連中の中じゃあ私だけが知っているんじゃあない?」
ホルダが他愛ないように口にした衝撃の事実が本当なら残り二つの軍勢が残存している。彼女は遠く極東の地に派遣されていて当分人類圏には手を伸ばしてこないと余裕そうにしていたが、エリザベトにはにわかには信じられなかった。
何しろ現在の進軍は魔王軍残党は壊滅させたと前提立てている。ここで残った無傷の大軍勢がルーシ公国連合に侵攻してきた場合、成すすべなく壊滅させられるだろう。そんな受け入れがたい未来絵図を思い浮かべてエリザベトはめまいを覚えた。
「その魔王軍の中にね、未だ正体の掴めない存在がいるのよ。死霊の軍勢を操り、死を覆す冥府の王なんですって」
「アンデッドを従える軍団長……人類史を紐解いてもそんな奴は出てきていなかったわね」
「いえ、一度だけ……まあいいわ。今は関係無いし。とにかく、私は今回の異変、侵略行為は冥法長の仕業だって考えているわね」
「冥法長……」
主の定めた運命を覆す冒涜にエリザベトは恐れと怒りを同時に覚えた。しかしかつて打ち破った敵をも傀儡とする程の魔導の担い手に敵うだろうか、と不安もまた過る。今回は軍団長だったが、行方不明となっている勇者やかつて討ち果たされた魔王を蘇らされたら……。
考えるだけで怖ろしかったのでエリザベトは振り払うように顔を大きく振った。今あれこれ考えても手の打ちようもないから可能性の一つとして懸念しておけばいい、と割り切る。頭を冷やした所でエリザベトは疑問を一つ浮かべた。
「じゃあ冥法長って奴はどうして打ち破られた魔王軍を中途半端に蘇らせたのよ? 確かにこっちは甚大な被害を受けちゃったけれど、一年前はもっと凄い大軍勢だったじゃあないの」
「一年前は人類が結集した連合軍で相手したけれど、ルーシ公国連合に残っていた駐留軍相手ならあの程度で十分って判断したんじゃあない?」
「それに折角蘇らせた軍団長って貴重な手駒をあんなぞんざいに扱っちゃってさ。アイツ等単体だけでも上手く使えば人類圏を蹂躙出来たじゃあないの」
「……ファイナルアタックは忠誠心熱い下っ端が自ら施すか使えない部下に仕込んで特攻させる外道。己に自信のある軍団長程の奴らが負けた後の事を考えているとは思えないわ。それに今代の魔王は部下を捨て駒にする方じゃあなかったし」
消去法で行けばラバンとガトーの自爆は冥法長が仕組んだ事にたどり着く。しかし拙い戦略といいその目的がホルダには全く見えてこなかった。自分に分からない思惑がある事に苛立たしさのあまりに顔を歪めて舌打ちさせる。
「ホルダ、アンタ黙っていたら可愛いし綺麗な顔しているんだから、そんな顔芸させてちゃあ台無しじゃあないの」
「はっ、あいにくこの容姿で吊り上げる男には困っていないもの。私は私の好きなようにさせてもらうわぁ」
「まあ、それがホルダらしさでもあるから無いなら無いなりに寂しいんでしょうけれどね」
「あら、まさか姫様からご好評いただけるとは思わなかったわよ。明日は雨かしら?」
そんな二人のやりとりを微笑ましいとマルタは感じた。これだけ打ち解け合う相手とこの先で会えるだろうか? 傍らに小さく座るアビガイルは慕ってくれるもののどこか得体の知れなさを感じてしまい、一線引いてしまっているのが現状。この子と分かり合えば……。
「ホルダ、だったっけ? どうして魔王軍の事情にそんなに詳しいの?」
唐突にアビガイルが口を開いたのはマルタが視線を向けた直後だった。いつの間にか彼女の視線の先は遠くの景色ではなくホルダに移っていた。無表情をさせたアビガイルの深紅の瞳が細身をさせた華奢な体躯のホルダを映す。見つめられたホルダは軽く嘲笑をあげた。
「どうしてそれを貴女ごときに教えなきゃあいけないの?」
「別に隠す程でもないでしょうよ。多種多様な種族を受け入れる、それが私達の国アヴァロンなんだもの」
そんな悪い企てをする魔女のような仕草を茶化すようにエリザベトが呟いた。途端、ホルダが浮かべていた嘲りが消えて代わりに不機嫌そうに眉を吊り上がった。
「……ちょっと、人が格好つけているのに口を挟まないでもらえない?」
「ホルダは悪い魔女みたいに振舞っていても根は良い人だって思えなくもないわよ。別に減るものでもないんだし、教えてあげたら?」
「どうだか。コイツ等の正体も知らないのに良くそんな呑気に構えていられるわね」
「用心深さと強かさはホルダが補ってくれるもの。私の担当じゃあなくてもいいわよね」
呆れた、とホルダはつぶやいて深くため息を漏らすものの、その顔は満更でもなさそうで笑顔が浮かんでいた。ホルダは一気に紅茶をあおってカップを空にすると、それを無造作に後ろへ放り捨てる。ほど近い地面に転がり落ちた高価な作りの食器は音を立てて形が崩れ、土くれに戻った。
「知っていて当然でしょうよ。だって私、数百年前は魔王軍に属していたんだもの」
常識とばかりに平然と話すホルダの発言は、エリザベト達アヴァロンの者以外に衝撃を与えるには十分すぎた。
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人類連合軍がルーシ公国連合の公都ミエナに到着した際、まず初めにその荒れ果てた惨状に愕然とした。建物と言う建物が破壊しつくされていて、所々に犠牲者と思われる公都の人々や討伐された魔の者達の遺体も横たわっていた。
既に日は傾いていて夜を迎える間際。瓦礫の山にうずくまるぐらいなら少し開けた平野で野営の準備に取り掛かった方がまだ工程が少ない。多少は雨風を凌げるかと淡い期待をしていた者達はあまりの光景に膝を崩しそうになった。
「……まずは亡くなった人達の亡骸を集めて供養しないと駄目そうね」
「そうは言ってももう手遅れなんじゃあない?」
ラバンの自爆により巻き起こった熱風で至る所に転がる死体は全て焼け焦げていた。主の教えに基づいた最後の審判での復活に必要となる肉体は既に損なわれており、土葬にしても既に手遅れだと多くの人が嘆く。
最も、魔導師のホルダにとって死後どのように身体を扱うかなどどうでもいいとばかりに冷ややかな視線を周囲に送る。マルタもまた常に死と隣り合わせだったり常に魔の者から手を伸ばされて死生観が歪んでおり、亡骸をどうして丁寧に扱おうとするのかと首をかしげていた。
気怠そうに軽くため息を漏らしたホルダは、力ある言葉を紡いだ。
「ウィンドビュリアル」
ホルダが吹かせた一陣の風は公都へと広がっていき、事切れた者達の肉体を分解していく。風葬、と呼ばれる自然葬の一つだとエリザベスが文献の知識を引っ張り出した頃には全ての亡骸が灰や塵となり風に飛ばされていった。
「せめて魔の者によって死後も辱めを受けないようにしておきましょう」
「……そう、ね」
「じゃあ次は復興の足掛かりをすぐ作ってしまいましょう」
「えっ?」
軽く驚くマルタを余所にホルダは両手を大地に付ける。彼女が迸らせた術式は瞬く間に大地を広範囲に伝わり、地面を軽く振動させる。やがて大地に青白く輝く紋様が描かれていく。それが直前にホルダが行き渡らせた術式を可視化したものだとマルタが気付いた頃には、ホルダは力ある言葉を解き放っていた。
「メトロポリスリビルトぉ!」
すると、ホルダの術式範囲内に転がっていた瓦礫の山がにわかに震え出し、次々と宙を舞い始めたではないか。圧倒される兵士達やマルタをよそにそれらは次々と組み立てられていき、やがては元通り家屋や大通りの石畳、そして城壁など、元の姿を取り戻していく。
やがて、少なくとも人類連合軍が見える範囲の手前付近が復元された。その先は瓦礫の山のままで、効果内と効果外の差が顕著に表れていた。初めて目撃した者は信じられないと言葉を失い、アヴァロンの者は相変わらずの壮大な魔導に圧倒されるばかりだった。
「これでよし、と。あーあ全く、久しぶりに無駄な重労働をしてしまったわぁ」
「す、凄い……」
「土地がその姿の記録を留めている間に思い出させる上級魔法よ。とりあえず詰め込めばここにいる人達全員屋根の下で一晩明かせるんじゃあない?」
ホルダは身体を重たそうに立ち上がるものの、息を荒げて頭をふらつかせていた。疲労困憊だとマルタが悟って駆け寄ろうとするも、そう思い至った時にはエリザベトがホルダの肩を支えていた。ホルダもまた腕を仕える王女である筈のエリザベトの首に回していく。
「お疲れ様だったわね。相変わらず惚れ惚れしちゃう腕前だったわ」
「お褒めに預かり恐縮です、かしら?」
「悪いけれど今日最後の大仕事が残っているわよ。勿論一緒にやってくれるわよね?」
「……。ああ、成程。分かったわ」
ホルダが各々の将官達に何かを命じ、それが各部隊へと伝えられていく。するとここまで足を運んだ人類連合軍の者達は綺麗に整列して背筋を正した。皆魔獣との戦や長旅で疲れ果てているにも関わらず、その目は真剣そのものだった。
「残念だけれど私達は間に合わなかった。ここに住む多くの人達を救えなかった。けれどみんなの奮闘もあってこの地から邪悪な魔の者達は退けられたわ。だから私達はここで血を流した多くの市民達と守ろうと命を落とした同胞達に報いらないと駄目よ」
エリザベトは声を張り上げて皆の前で演説をする、彼女の後ろにはホルダが立て直した公都の城壁がそびえ立っている。エリザベトは整列する皆に背を向けて公都へと身体を向けた。
「明日……いえ、今日はその一歩ね。だからまずはこの地で亡くなった人達の為に、祈りを捧げましょう。一同、黙祷を!」
アヴァロンでは人間、エルフ、ドワーフ、ホビットでそれぞれ信じる教えが異なる。さすがの教会も他種族まで布教を強行しようとはせず、各々の信仰を尊重する姿勢を取ってきた。国事で各々の信じる対象への祈りを捧げる為の儀礼をどうする? それが黙祷が取り入れられた大きな理由だった。
人類連合軍の多くを占めたアヴァロン軍の兵士達は声を立てずに祈りを捧げる。アヴァロンの勝手知ったる他の者達もそれに習う。マルタも周りの様子から即座に理解して祈りを捧げた。
「う……ううぅっ……」
マルタはこの一年修道女達と祈りを捧げた主に対してではなく、生活を共にした皆の冥福を祈った。どうか安らかにと願うばかりだった。後悔は大きい、懺悔などしきれない、それでもマルタは生き延びた自分に意味がある筈だと信じ続けた。
ただ、今日ばかりはあの楽しかった日々を偲んで声を押し殺して泣き続けた。
―閑話終幕―
お読みくださりありがとうございました。




