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元野戦病院にて

ここから第五章となります。よろしくお願いします。

 夜が明けた。窓から眺める空模様から判断するに、日が昇って結構時間が経っているらしい。


「おはよう」

「おはようございます」


 部屋の脇に配置した椅子に座って膝の上に乗せた本の頁をめくっていたのはマリアだった。朝日に照らされる彼女の読書の様子はとても絵になるものだ、と月並みの感想を思い浮かべた。

 同じ身体、同じ顔をさせているのにやはりマリアとわたしとでは雰囲気が多少違う。マリアの方が少し物静かでかつよほどの事が無い限り感情を大きく表に出さない。それが幻想的で凛々しく映るのだから不思議なものだ。


 マリアとは毎日こうして言葉を交わしている。キエフ防衛戦での対ノア戦以来あまり知り合いのいる前では姿を見せないけれど、わたしが一人きりの時や市街を一人歩いている時とかはわたしの話し相手になってくれる。

 ただわたしが意識したらマリアが現れるんじゃあなくて、気が付いたら彼女はわたしの前にいる。おかげでわたしにとっては本当にマリアが最も身近な存在として感じる。そう、もはやマリアはわたしにとって唯一残された大切な家族だった。


「で、双子の姉妹だとしてどちらが姉?」

「その話は論争の火種になるから止めましょうよ」


 さて、今日は祭りの最終日。とは言え元々開業魔導師の店は定休日にあたる。今日は特に誰かと約束している訳でもない。一昨日ノアと祭りを謳歌して昨日大会で死闘を繰り広げた反動もあるし、今日ばかりはゆっくりとした時間を過ごしたいものだ。


 井戸まで足を運んで水をくみ上げる。近所の人達と他愛ない話を少し交わしてから家に戻り、貯水槽に水をある程度放り込んだ。残った水は台所の大かめに溜めこむ。そろそろ各水の保管容器を本腰入れて清掃してもいいかもしれない。

 台所に足を運んでパンを焼いてお湯を焚く。今日の朝食は食材の備蓄も心許ないのでパンと紅茶ぐらいで十分だろう。そもそも昨日の晩に飲み食いしすぎていてそれほどお腹が空いていないのも大きい。


「いただきます」

「いただきます」


 わたしとマリアが食卓についてそれぞれバターとジャムを塗ったパンを口に運んでいく。

 ちなみにわたしが本当は何人分の食事を作ったかは自分でも分からない。わたしにとっての現実はわたしとマリアの二人分なんだけれど、イヴがこの場にいたら「一人分しか作ってないじゃあないの」って言われてもおかしくない。けれどマリアがパンを噛んだり紅茶のカップを皿に乗せる音、吐息も聞こえてきている。

 マリアがどうやってわたしにそう認識させているかは想像もつかない。少なくとも目で見えて耳で聞こえて、更には手で触れられるのだ。わたしにとっての現実ではマリアが確かに目の前に存在しているんだ。

 ただこの原理を解明したいとは思わない。種明かししてマリアを嘘偽りの虚像だなんて思いたくもない。他の誰から見ても狂っているかもしれなくても、わたしにとってわたしはわたしでマリアはマリア。最も近しい、けれど別人なんだから。


「ごちそうさま」

「ごちそうさま。食器は片付けるから」

「助かる。それで、マリアは今日はどう過ごすつもり?」

「二日間遊んじゃったから、さぼっていた家事一般をこなさないとね」


 食器を洗ってから次に掃除に着手する。窓を開けてから部屋の上側の埃を叩き落として、それから隅から隅まで丁寧に拭いていく。魔導を駆使すれば簡単にゴミや埃なんて集められるけれど、手作業にした方が気分も晴れるのだ。

 汚れた雑巾は軽く水で洗ってから洗濯物一式と共に洗う。やり方は簡単、洗濯物を入れた大桶に水を入れて、洗粧魔法クレンジングを発動させつつ小刻みに水を渦を巻くように回転させるのだ。何十回か繰り返したら高速回転させて水分を吹っ飛ばす。この行程を二回ほど繰り返して、はい終わり。後は庭に洗濯物を干すだけだ。


 次は買い物だ。普段の繁華街はお祭り最終日なのもあって品ぞろえが様変わりしていて、むしろ食材とか日用雑貨が見つけられにくいって欠点もある。ただ西の公都全体が祭りで沸いているとはいえ、温度差はあるものだ。普段通りに営業している店を見つけ出すのはそう苦労も要らなかった。


 一通り食材を揃えて備蓄庫をそれなりに満たした頃にはお日様は真上ぐらいになっていた。折角だからと昼食も自炊して美味しく召し上がる。マリアと共にいただきます、と。


「午後は街を散策しようと思っているのですが、マリアはどうします?」

「付いていく。たまにはそんな日があってもいいと思う」

「確かにそうですね。では食器を洗ったら出発しましょうか」

「分かった」


 基本的にわたしは休日であっても学院の魔導衣も身にしている。滅多な事でも起こらない限りは私服には着替えないのは、魔導師である自分に誇りを抱いているからだ。いくら仕事とは離れた休日中だからってその信念を忘れたくはない。

 一昨日ノアと付き合った際は少し気合いを入れ過ぎたものだ。とは言えわたしだって年頃の女の子、身だしなみを整えたくなる時もある。おかげで自分でも知らなかった一面を拝めたんだから貴重な経験だったと思う。

 今日は別に散歩程度なので普段通りローブ姿のままだ。


 お祭り最終日なのもあるけれど街は大いに賑わいを見せていた。親に連れられた子供がはしゃぎ、若い男女が腕をからませて笑顔でいたり、仕事仲間だろう男性達が食事に手を付けている。ついこの間まで死霊の軍勢に脅かされていた異質な日常の影は見られなかった。


「活気にあふれていますね」

「ここまで盛況な様子は本当に久しぶり」

「……マリアが待ちに待った光景ですか?」

「そうとも言える」


 マリアの悲願は魔王軍の侵略で犠牲になった両親を蘇らせ、元の日常を取り戻す事だった。死者蘇生こそイヴに阻まれて未来永劫不可能となってしまったけれど、脅威が去ったこの西の公都はかつてあった平穏を取り戻している。これもまたマリアが願った景色だ。


 昨日まで中央区へと足を向けていたので今日は逆方向へと向かう。公都に戻ってきた頃は丁度死者の軍勢に攻められていて、北の門に近づくほど戦火の生々しい跡が見られたものだ。今では大分復旧が進んでいて街の営みが戻ってきている。


「マリア、あれ」


 マリアが指差したのは一際大きな建物だった。わたしの記憶ではあんなに立派な建造物はそびえ立っていなかった筈だけれど、いつの間にか建築されたんだろうか?

 興味が沸いたので足を向けてみる。敷地の入口を跨いで正面から見上げると、どうやら大規模な病院のようだ。正直中央区に並ぶ富豪の屋敷や教会よりも広くて高いように見受けられる。一体どれほどのお金をかけたらここまでの物を作れるんだろうか?


「……入ってみる?」

「時間はあるし、そうしよっか」


 扉を押して建物の中へと入る。内装は無機質ではあったものの清潔感があった。何より目を引いたのは広々とした大広間に並べられた多くの座椅子と、そこに腰を掛ける大勢の一般市民達だった。けれどどうも診察を受けにきたわけではなく、単に立ち寄って休憩しているようにも見えてしまう。

 そんな異様な光景の理由が分かったのは建物へと足を踏み入れた瞬間だった。温かさがわたしを包み込んだのだ。気のせいではなくわたしの周囲がほのかに光り輝いている。良く伺うと座っている一般市民はみな一様にそんな状態になっていた。


「これ、範囲魔法でしょうか?」

「全体自然治癒魔法サルベーション。おそらくこの建物全体を覆っている」

「凄い……」


 これなら少し気分を悪くしたり軽傷の人は診察を受けるまでもなくこの広間に留まっていたら改善されるだろう。商売にはならないだろうけれど人を治すって目的に即するだけならここまで画期的な手段は無い。

 それにしても一体誰がこれ程の規模に効果をもたらす上級魔法を……と不思議がってふと気づいた。そう言えばこの病院は公都の中央区と北の門とを繋ぐ大通り沿いにある。確かアンデッド襲来時この辺り一角は疲労に彩られていた。そんな中でこの場所は確か……野戦病院ではなかったか? だとしたらこの魔導の担い手はもしかしてわたしか?


「そうですか……まだ効果を発揮するよう維持し続けていたんですね」

「丁寧に手入れされている。これなら当分は効果が持続する筈」


 あの時はあまりに負傷者が多すぎて一人一人診切る自信が無かったから全体に効果を及ぼすサルベーションを選択したんだった。あの時は横着したものだと反省する所なんだけれど、異変が終結した現在でも有効活用されているなんて、結構感慨深いものだ。


 患者でも何でもないわたしはとりあえず受付付近を見て回る。赤ん坊からご老人まで老若男女様々な人がここを訪れていた。中には公都の外で負傷しただろう冒険者や傭兵の姿も見られ、多くの人に頼られているようだ。

 思い返すのは血なまぐさい屋内でうめき声を挙げる兵士達の凄惨な有様。帝都で安穏と過ごしていた日常では決して目の当たりにしない惨状が広がっていた。あの地獄が全く連想できない程ここには生命の息吹を感じさせた。


「……次に行きましょうか」

「挨拶しに行かなくていいの?」

「忙しそうですし止めておきます」


 挨拶、それはあの野戦病院で応対してくださった白魔導師にだろう。アレから彼とは会っていないけれど、大勢の人の往来があるこの様子だと当面彼の手は空きそうにない。わざわざわたしの為に時間を割いてもらう必要は無いだろう。

 と言うか、ここまで整った本格的な病院があるならわたしの開業魔導師としての立場が危ういんだけれどなあ。客を根こそぎ取られるんじゃあないかと心配だ。まあわたしの店は町医者みたいなものだ。住み分けは出来ているだろう、多分。


 その場を後にしようと踵を返した矢先、入口が開け放たれて運ばれてきたのは担架に乗せられた女性だった。毛布がかけられているものの内側から血がにじんでいて、顔色も蒼白と言ってよかった。急患として運ばれてきたようだ。

 女性に声をかけていた男性の一人が広間を抜けて奥の方へと姿を消していく。他の男性が女性の手を握りながら必死になって声をかけている。距離が離れているので詳しくは聞けなかったけれど、「もう大丈夫だから」等とどうやら女性を元気づけているようだ。


「どうするの?」

「どうするって言われましても、道端で遭遇したなら迷わず駆け寄りますよ。けれどこの病院を頼ってきた以上は患者、つまりお客を奪う真似はちょっと気が引けてしまって……」


 もちろん今すぐ手を伸ばしたい衝動は強い。けれどこれだけ見違えるようになった病院なのだから、優秀な医師が大勢所属しているだろう。あえてわたしが出しゃばって要らない厄介事は招きたくはない。

 自分に言い聞かせながらわたしは彼女達を素通りしようと歩み始め、先ほど奥へと抜けていった男性がわたしの横を息を切らしながら横切っていく。僅かながら希望の色が見られた表情からは苦悩がにじみ出ていた。


「駄目だ……今誰も対応できないとか言われた。半時間ほどしたらすぐに駆けつけるって……」

「そんな! 今にも死にそうなのにこれ以上待っていられるかよ!」


 この広間に男性の悲痛な叫びが響き渡った。何も手助けできない一般市民は彼らに視線を送ったり逆に目を逸らしたり、ただの受付担当の女性はいたたまれないように身を縮ませる。男性が直談判だと怒りを湛えながら奥に進もうとするのを他の男性が止めに入る。


「それで、どうするの?」

「そんなの決まっています……!」


 もう体裁とか評判とか知った事ではない。目の前にまだ手を伸ばせる命があるのならわたしは手を伸ばすまでだ。

 わたしは足早に彼らの元へと歩み寄り、「ちょっと失礼」と言いながら女性の周りに佇む男性達をかき分ける。初めは怒りの矛先を向けられたものの、わたしの服装から魔導師の到来だと察してくれたようですぐに収められた。


 ゆっくりと彼女を覆った毛布を取って……思わず軽く悲鳴をあげてしまった。彼女は手足が変な方向に折れ曲がっていて折れた骨が貫通している部位もあった。更に酷いのが身体中強く打った跡が見られ、無事な箇所が振り乱された髪ぐらいなものだった。


「どうしたんです、これ……?」

「階段を三階から転げ落ちたんだ!」


 成程、身体中を強く打ちつけたのか。裂傷が見られるのは途中にあった花瓶の乗った机とかをなぎ倒した辺りだろうか。

 けれど、一番目をそむけたくなったのは彼女の股付近だろうか。多くの血があふれ出ているのだ。原因は分かっている。彼女のお腹は大きく膨らんでいる。子供を宿している妊婦、そんな彼女がお腹に強い衝撃を受けたんだ。中の生命はそれこそ……。


「お……願い……」


 悲観していると突然わたしの腕が掴まれた。相手は横たわっている息も絶え絶えな女性だった。彼女は彼女自身の生命すら危うい状況にも関わらず、強い力を宿してわたしを見つめてきていた。救いを求める眼差しは、しかし彼女自身の生への執着からではなかった。


「この子だけは……助けて……。お願い、します……!」


 涙を流す女性に周りの男性達は何も言えなかった。女性は子を救おうとする想いから命をつなぎ止めている現状、真実は伏せているのだろう。言葉を失うわたしを含めた一同をよそに、彼女の手を強く握り返す者がいた。


「大丈夫、任せて」


 マリアが力強く女性に頷いた。涙をこぼす女性は安堵の表情を浮かべながらも、何とか気絶しないよう気力を保ち続ける。

 マリアがわたしへと振り向く。……彼女がやろうとしている事は分かっている。サルベーションの効果範囲内にあるこの場だったら上手くいくかもしれない。けれど二つの生命を同時に救うなんていくらマリアでも……!


「何を言っているの?」

「……へ?」

「この場にはわたしとマリアがいる。何の問題も無い」

「でも、わたしとマリアは……!」

「問題ない、と言っている。重要なのはそう当然だと思う事」


 マリアの有無を言わさない迫力に言い負かされたは押し黙ってしまった。この場で口論になっても何も始まらない。そんなくだらない真似をしている暇があるならすぐにでも処置をすべきだろう。もう、なるようになれだ!

 マリアが向かい側で女性の下腹部と股に両手を添える。さすがに生まれてもいない生命を掬い取る為に口と心臓に手は添えられない。女性のお腹を介して施すしかないだろう。わたしもマリアと並行して頭の中で複雑で緻密な術式を構築させていく。


「レイズデッド」

「リヴァイヴ!」


 マリアとわたし、二人して同時に奇跡とも呼ばれる反魂魔法と復活魔法を同時に発動させた。途端、強烈な眩暈と脱力感がわたしを襲う。確かにリヴァイヴは全力疾走した後のように疲れる魔導だけれどここまでではなかった筈だ。

 昨日の疲労がまだ残っている……? いや、マリアと同時に魔法を行使しているからか! 認識上はマリアが目の前にいるで疑いの余地は無いんだけれど、体は正直って所か。どうせだったらその辺りも適当にごまかしてくれれば良かったのに……!


 ある程度の所まで改善に向かわせたけれど、気が付けばわたしの身体は隣にいた男性に支えられていた。どうやら力なく倒れようとした所で手を伸ばしてくれたようだ。

 女性は……良かった、まだ息がある。それからまだ生まれていない赤子は……お腹に手を触れながら耳を近づけてみると、確かに生命の鼓動を感じる。良かった、どうやらわたし達は二人の命を救えたようだ。


「お疲れ様です、マリア……」

「……疲れた」


 マリアは向かい側で膝を落として杖で身体を支えている状態だった。息も荒くて表情は苦しそうにし、汗が多量ににじみ出ている。ここまでマリアが疲労を表に出す姿は初めてだ。触媒も無く補助が心許ない冥府の魔導はよほど負担が大きかったのか。

 今にも手放しそうになる意識を何とか繋ぎとめたわたしは自分の力で立ち、女性へと改めて向き直った。


「もう大丈夫ですよ。よく頑張りましたね」

「あ、りがと、う……」


 安心と歓喜に溢れた笑顔を見せて女性は意識を手放した。命に別状はなくなっているから眠りについただけだろう。

 マリアも何とか立ち上がって魔導衣に付いた埃を叩き落とす。それから先ほど声を張り上げていた夫らしき男性へと顔を向けた。


「後はここの先生に任せれば問題ないかと思う。ご安静に」

「あ、ありがとう……! ありがとうございます! 貴女は妻と子の恩人です!」

「お、大げさすぎる。わたしは……」


 男性はマリアの手を両手で熱く握った。異性に気軽に触れる行為は失礼なんじゃあないかとも思ったものの、それだけ嬉しかったって事で自分を納得させた。あまりに熱烈だったから、マリアは少し困ったように眉を潜ませていた。

 他の男性達も女性が助かって大喜びを露わにしている。それどころか周囲にも伝播したようで何故か拍手と歓声が沸き上がった。そんな称えられるような行いは……したのか。いけない、もっと自分の行いには自覚を持たないと。


「お礼は何をすれば……」

「礼、礼……。マリア、言われてみたら肝心な事を忘れていた」

「えっ、どうしたんですかマリア?」

「……わたし達、レイズデッドの見積もりを全くやっていなかった」

「あっ……!」


 男性は命の恩人に何とか報いようとしているようだけれど、わたし達は別に正当な報酬さえもらえれば問題は無い。ちなみに慈善活動って選択肢はなしだ。魔導は叡智であり技能である。無報酬ともなればその程度の価値の代物に成り下がってしまうからだ。

 一応リヴァイヴまでは、まだ一度もお客に施した事は無いけれど、見積もりしている。なお、協会所属の魔導師の報酬より大幅に安いと苦言を呈されたのはこの際置いておく。けれどレイズデッドを使う場面なんて全く想定していなかった。

 当たり前だ。帝国の死生観で死者を蘇らせるなんて神の摂理への背信行為を公に出来る訳がない。今の反魂魔法だって魔導を知らない人達ばかりだから披露出来たんであって、大々的に宣伝するなんてもってのほかだ。


「こ、今回はリヴァイヴと同額に留めて、適切な価格は後でイゼベルさんに相談しましょうか」

「そうした方がいい。想定外に備えるに越した事はない」


 結局未来に丸投げしてわたしは夫に金額を提示した。一般市民の収入をはるかに超える手痛い出費はこの家族を大きく苦しめるだろうけれど、それでも他の魔導師達の事を考えればやむを得ない要求だ。幸いにも夫は必ず払うと約束してくれた。

 程なく奥の方から医師が数人こちらへと足早に向かってくる。あいにくわたしとマリアは女性の命を繋ぎ止めて腹や胸周りを治しただけ。手足の処置は全く施せていない。その治療は任せてしまっても問題は無いだろう。


「それじゃあわたしはこれで……」

「マリアくん……! 君だったのか!」


 今度こそその場を離れようとしたら、駆けつけてくる内の一人に呼び止められてしまった。

 この声は聞き覚えがある。振り返った先にいたのは案の定、以前わたしが出会った野戦病院の責任者、皆から先生と呼ばれた魔導師だった。

お読みくださりありがとうございました。

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