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大会決勝戦・勝因は助言と共に

 ―閑話―


 既に黄昏は西の彼方に沈みつつあり、もうじき夜となる。三日間にも及ぶ祭典は夜通し行われる。最も、夜になると子供から老人まで楽しめる華やかな昼間の祭りではなくなる。具体的には酒場や花街を始めとした大人が楽しむ夜の町へと変わっていく。夕方の現在は昼間の露店が店じまいをして逆に夜を商売とする店の開店準備が公都中で行われていた。


 昼間の一大祭典である闘技場での大会も残るは決勝戦のみ。これまでの熾烈な戦いの集大成が見れるともあって観客の興奮も冷めやらず、むしろ盛り上がっていく一方だった。準決勝での死闘よりも凄まじい試合が見られるのでは、そんな期待で覆われていた。


「あの、タマルさん。その……どうしましょう?」

「どうって、皇妹殿下ですか?」

「はい。もうじき試合時間になってしまいます。このまま起きないようでしたら……」

「副支部長の不戦勝、何とも拍子抜けな締め括りになっちゃいますねー」


 そんな皆の思いとは裏腹に運営側、医療班の魔導師達は頭を抱えていた。


 準決勝第二試合で深刻な重傷を負ったマリアとバテシバの両名は容体も安定した。二人は寝具に横たわって静かな寝息を立てている。問題は決勝に進出したバテシバが目を覚まさない事だ。

 試合数も多く進行を滞らせないために遅参は負け扱いになる。それは次の試合がもう無い決勝戦でも同様だ。問題は観客達が現状や大会規定とは裏腹に最後の試合を求めている点に尽きた。タマル達はこのまま休ませるべきだと口を揃えて診断を下したかったが、願いは無碍に出来ないでいた。


 タマルは軽くため息を吐いて目を瞑るバテシバを眺めた。意を決した彼女は唇を固く結び、徐に手を彼女の上にかざした。


「仕方がありませんねー。せめて本人の意思を聞き出すとしましょう。それでいいですよね?」

「……分かりました。許可します。すみませんがお願いできますか?」

「容易いご用ですよー。ヒュプノアウェイクン」


 タマルが発動させた魔法は活性魔法の亜種で眠りより覚醒させる水属性魔導になる。無論休息を欲しがっている頭と体を無理矢理呼び覚ます事となるので多様は禁物になる。この魔導は主に夜通しの作業に追われている者が重宝している。最も、覚醒魔法と活性魔法で休まず眠らずの日々を送って異常をきたした魔導師も出たため、制限を設けている魔導協会も少なくない。

 寝息を立てていたバテシバが声を漏らして身体を動かした。眩しいからか布団を掴んで自分に多い被せようとする所を救護班の者が阻む。目元を手で覆いながらもバテシバはわずかに目を開けて、彼女の顔を眺めるタマルに視線を移した。


「こ、こは……?」

「闘技場の医療室です。何があったかは覚えていますか?」

「え、と……」


 少しずつ意識を覚醒させていくバテシバは寝ぼけながらも思考を巡らせた。そして隣でまだ夢の世界に旅立っているマリアの姿を視界の端に捉える。わずかに感嘆の声をあげたバテシバはゆっくりと目元を擦った。漏れる声には医療班の者がわずかに赤面するほど色気が伴っていた。


「確かマリアと戦って、最後には場外に落ちて……」

「マリアさんの方が先に落ちたので、あの試合は殿下の勝利ですよー」

「……私が?」

「はい。お休み中なのに起こしてしまったのはこの後予定している決勝をどうするか、なんですけれど……」


 申し訳なさそうに言葉を濁すタマルだったが、バテシバは特に気にせずに自分の状況を振り返った。


(そもそも私はもう大会参加の目的を果たしているのよね……)


 彼女は姉である尊厳者のサライが優勝して休暇を取る事態を阻む事を目的としていた。国の頂点が予定にもない休暇を取るなど国営に支障をきたす恐れがあり、現に先日のキエフ遠征では元老院の者達に負担を押し付けてしまった。これ以上我儘を通すとなればいくらこれまでの実績があるとはいえ不信を買うのは必至だ。だからそれを阻むべく帝国の誇る十二賢者を三人も動員して阻止しようと試みたが、実際に姉を止めたのはダキアの魔導師であり彼女達ではなかった。

 もう一つ、彼女個人の動機としては同世代のマリアと一戦交える事にあった。無論魔導師の優劣は戦いの上手さに比例する訳では無いのであくまで尺度の一つに過ぎない。それでも今現在の彼女とマリアを比較し、互いにどこまで高みに登り詰めたか確認したい意図があった。結果はバテシバの予想を超えて満足のいくものだった。


(姉さんの邪魔は出来たし、マリアは相変わらず素晴らしかったけれど……)


 なのでバテシバには別段決勝に臨む必要性はどこにもなかった。とは言えこれまで彼女は優勝を目指した選手達を下して勝ち上がってきたのも事実。彼らの思いを無駄にしない礼儀として姿を現す義務はある。公人の彼女が我を通しては姉を批難する口すら意味を成さないだろう。


 バテシバは自分の状況を改めて確認する。少し休息を取ったおかげで少しばかり体力と精神力が回復している。傷の治療も的確だったようで違和感は無い。寝起きなのもあって倦怠感こそ感じたものの、特に戦う分には支障はない……と判断したかったが、そうもいかなかった。


(身体に巡る魔力が戻っていない……マリアとの戦いで死力を尽くしたせいね)


 いくらタマル達が的確な処置を施したとはいえ、休んでいた時間はそう長くはなかった。最善の体調を取り戻すには全く足りていない。膨大な集中力と魔力を要する上級魔法の発動は絶望的と言ってよかった。

 危険しよう、とバテシバが口を開きかけた時、彼女の脳裏に過ったのは敬愛する姉と自分の認める好敵手の顔だった。


(そうよね、私が僅差でマリアに勝ったのは事実。それに次の相手は姉さんを下した相手……。相手にとって不足は無いわ)


 バテシバは自分の身体に鞭打つように意気込みつつ寝具から身体を起こした。身体の重さを感じるものの動けない程ではなかった。寝具の傍に立てかけてあった杖を手にして、医療班の魔導師達とタマルに向けて一礼した。


「無論、参加させてもらうわ。適切な処置をありがとう」

「いえ、お安いご用ですよー。ただ治療した者として言わせていただくなら、あまり無茶はしてはいけません」

「分かったわ。じゃあ行かせてもらうわね」

「あと明日は十分休む事。いいですね? 魔導で体調管理するなんて言語道断ですから」

「分かっているわよ、それぐらい。……じゃあ行ってくるわねマリア。そこでゆっくり休んでいなさい」


 バテシバはマリアの方へ視線を移して自信を込めた笑みをこぼした。そして力強く頷きながら医務室を後にしていく。


「さあ、じゃあ元の業務に戻りましょうー。まだまだ手は空きませんからねー」

「分かりました。じゃあタマルさんも手伝ってくださいますよね?」

「あたしは今回参加者ですよー。それにちゃあんと休暇申請も出したじゃあないですか、やだー!」

「えー、でも負けて手が空いているんですよね? こっちは猫の手も借りたいほど手一杯で」

「もうあたしの出番が回ってくるぐらい緊急性を要する選手はいないでしょうよ。甘い事言っていないでこれも勉強だと思ってー」

「タマルさんは薄情ですぅ!」


 それに合わせてタマルが手を叩いて各々の魔導師達に自分達の業務へと戻るよう促した。何せ大会の性質上マリアやバテシバ以外にも負傷者は沢山いるのだ。確かに傷は皆塞いだものの、後遺症が残らないように施すにはまだ処置が足りていなかった。

 タマルは一息入れてマリアの寝具の傍に置かれた椅子に腰を落ち着けた。マリアの枕元の椅子にはノアが座り、先ほどから彼女の手を握り続けていた。


「ノアさんも後はこちらに任せていただいてもいいですよ」

「いや、俺が好きでやっているからどうぞお構いなく」

「そうですか。ならいいんですけれど」


 タマルは袖机上の器に入れられた水を一気に飲み干した。口元からこぼれた滴が唇から顎を伝って首を流れていく。勢いよく器を袖机においたタマルは一息入れた後に膝に手を付いて、踏ん張る仕草をさせながら立ち上がった。


「じゃあマリアは任せても問題ありませんよね?」

「へえ、任せちゃうんだ」

「こら、そんな悪い顔をするんじゃあありませんよー」

「あたっ」


 悪巧みを企てる笑顔を浮かべたノアだったが、タマルは屈託のない笑顔でその傷どころか沁み一つない白磁のような額を指で弾いた。単なる会話の延長なのもあってタマルは全く力を入れていなかったし、ノアも避けずに普通に受け止めていた。


「あたしはマリアが信頼してあたしが拳を交えた相手を信頼する。魔人だとかで線を引きたくありませんよー」

「……そう思ってくれるんだ」

「魔導師は宗教家みたいに偏見は持ちませんからね。あたし達にとって世界の真理は目の前の現象とそれを司る理、それを探求する魔導だけですから」

「成程ね。分かった、任されたよ。決勝戦を見に行くのかい?」

「ええ、折角皇妹殿下が直々に副支部長と戦うんですから見ないわけにはいきません」


 タマルはお辞儀をして医務室を後にする。残されたノアはただ眠り続けるマリアの横顔をただ眺め続けた。



 ■■■



 バテシバが舞台へと足を踏み入れた時にはアタルヤは試合開始地点で待機していた。姉と戦った時と同じく全身鎧に身を包んで草冠に模した冠を被っていた。彼女の端正な顔立ちの中の双眸は静かに、だが鋭く対戦相手のバテシバを捉えていた。


「制限時間一歩手前です。さすがに棄権するかと思っていました」

「さすがに決勝戦って一大舞台でその選択肢は無いでしょう」

「確かに一理あります。ですが無茶と無謀は違うでしょう」

「私は前者だと判断した。ご親切にどうも、けれどこの戦いは私が勝たせてもらうから」

「成程、ではこれ以上の言葉は無粋ですね」

「そうね。悪いけれど余裕が無いから覚悟はしてもらうわ」


 バテシバも試合開始地点に立って相手を見据える。これまでのアタルヤの戦いはバテシバも目にしてきたが、近接戦闘で挑まれてはまず勝ち目は無い。何しろあのサライすら下した相手だ。一太刀も受け止められずに切り伏せられる未来像を容易く思い描ける。

 かと言って距離を離して挑もうとしても魔力放出による踏み込みの速さから考えると、瞬時に間合いを詰められて終わるだろう。対イゼベル戦を教訓とするなら、遮蔽物のある場所ならともかく舞台上ではどのように立ち回った所で飛び込まれる。

 最善の状態で挑んでも勝利を掴めなさそうな強敵を相手に、バテシバは決意を固めた。


(なら、卑怯と言われてもいいから勝負に出るしかない、か)


 試合開始の合図が告げられ、予想通りアタルヤはバテシバめがけて駆けだした。一方のバテシバは地面を蹴って上空へと飛翔していく。


「アビエイション!」


 高く、高く、もっと高く。アタルヤの跳躍でも届かない距離まで目指して上がっていく。いくら卓越した腕の持ち主のアタルヤだからと捉えられない場所に移動して遠距離攻撃に専念すれば勝機も見えてくる、そんな判断からだった。

 空へと逃げていくバテシバを目で追いかけたアタルヤは舞台を勢い良く蹴って上空へと跳び上がる。見る見るうちに距離が縮まっていく二人だったが、減速するアタルヤは加速するバテシバを間合いに収める事が出来ずに引き離されていく。


「言ったでしょう、覚悟はしてもらうってね」

「あいにく、その選択肢は悪手だ!」


 アタルヤは足を虚空にかけた。そして再び勢いよく跳び上がった。再度の加速でまたバテシバとの距離は詰まっていく。アタルヤは今度は減速する前に三度跳躍して速度を上げる。一体何が、と困惑している間にとうとうバテシバはアタルヤに追いつかれ、更に追い越され、ついには回り込まれてしまった。


「はああああっ!」


 気合一発、アタルヤが剣の腹をバテシバに触れさせると、思いっきり振り切った。体勢の制御もおぼつかない空中にも関わらず彼女は確かに足を踏ん張り腰を入れていた。あまりに重い一撃にバテシバは真っ逆さまに場外へと落ちていく。


「くっ……!」


 何とか立て直そうと風を逆噴射させるバテシバが視界の端で捉えたのは、まるで透明の壁を床に見立てるように疾走してくるアタルヤの姿だった。

 バテシバはとどめの一撃とばかりに繰り出したアタルヤの一振りを咄嗟に展開したマジックセイバーで受け止める。それでも支えも何もないバテシバは弾かれるように飛ばされ、舞台に叩き付けられる――。


「アースアブゾーブ……!」


 ――前に舞台の性質を変貌させ、バテシバの身体は舞台へとめり込む。マリアがナオミと戦った際にアンナが発動させた地属性魔導、大地を柔らかくして衝突の衝撃を吸収させたのだ。それでも落下速度を抑え込んだのには変わりなく、身体中が軋んで悲鳴をあげる。

 だがバテシバには痛みを堪える暇すら無かった。既にアタルヤが凄まじい速度と共に上空より突撃してきていた。場外へ落そうとの気配りはもう無く、剣先はバテシバの胸辺りを捉えていた。冷や汗を流しながらもかろうじて風を巻き起こして回避する。

 直後、アタルヤの落下の衝撃が巻き起こり、バテシバは軽く飛ばされてしまう。転がる身体を何とか抑え留めて立ち上がり、ゆっくりと立ち上がったアタルヤへと向き直った。アタルヤは追撃せずにただ静かに構えを取る。


「まさか、空を大地みたいに蹴る事が出来るなんて……!」

「風属性魔法の一種だ。帝国風に名づけるならエアスカフォールドか。空を煩く飛び回る輩を相手するために編み出した、空を跳ぶ魔法だな」


 空中での跳躍も透明の壁を駆け下りたのも全てこれによるもの。バテシバはそれに納得いって目からうろこが落ちるのを実感した。

 今まで空を飛ぶなら風や魔力を推進剤に大地の力を振り切るか、その大地の力そのものを操作するか、そもそも空で空間を固定させるしか思いつかなかった。それを目の前の騎士は足場を作り上げて大地を踏みしめる状態と同じに空中戦をしてしまったのだ。

 バテシバは戦慄する。もはや空中すら逃げ場ではなくむしろアタルヤの独壇場となってしまう可能性すら存在している。それどころか何処でも足場を設けられるなら実質場外は無いも同然。目の前の相手には正面切って倒す他無くなってしまったのだから。


(一体どうすれば……)


 無謀を承知で一発逆転の大規模魔法に賭けるか、それともイゼベルやアンナのように搦め手で出し抜くようにするか。迷っている内にアタルヤはゆっくりと歩を進めて距離を縮めてくる。バテシバは覚悟を決めて杖を強く握りしめて……。


「バテシバぁ!」


 確かに聞いた。歓声が沸く中で実の姉の声を。

 試合を忘れて声がした方向へと振り向くと、サライは観客席の最前列で足を縁にかけつつ絶対的な自信を込めた笑みを浮かべていた。そして彼女は自分の胸を指差している。何で今胸を、と一瞬疑問に思ったものの、姉がそんな無意味な行動を取るわけがないと思い直して考えを巡らせた。


 そしてとうとう気付いた。一筋に光明に。


 バテシバは笑みをこぼしながら杖を一回転させて再び構えを取ると、そのまま駆け出した。魔導で身体強化も行わないただひたすら走るだけの無防備な様子にアタルヤは警戒心を強めて剣を振りかぶり、正面打ちさせる。

 バテシバは杖で正面から受け、杖の柄でアタルヤの一撃を逸らしていく。そのまま反動で杖の先端をアタルヤの胸辺りまで持って行き、力ある言葉を唱えた。


「サンライトセイバー!」


 それは先ほどの試合で姉がアタルヤ相手に繰り出した必殺の剣。杖の先端から瞬時に形成された太陽のごとく光り輝く刃はアタルヤの胸部を捉えた。それは先ほど丁度サライがアタルヤを貫いた箇所と全く同じ所だった。


「そんな実体の無い刃では私は倒せない!」

「きゃぁっ!?」


 だがサライとバテシバの一撃に違いがあるとしたら、サライは剣をそのまま輝かせていたのに対してバテシバは杖の先端から矛を作り上げていた点だった。確かに胸部を捉えたものの穿つまでは至っていなかった。

 魔力を密集させて疑似的な防御壁を形成されたと判断した直後、アタルヤが再度剣を振るってバテシバは大きく弾き飛ばされてしまった。体勢を崩したバテシバはそのまま舞台をうつ伏せに倒れる。既に疲労が蓄積していたバテシバは何とか踏ん張って身体を起こした。


「起死回生の一手に賭けたようだったが、残念だったな」

「いいえ、残念な結果にはならなかったわ。目的は達したもの」

「何……?」


 眉をひそめたアタルヤの胸元をバテシバは指差した。丁度サライやバテシバが攻撃を加えた位置を。


「さっきも姉さんが剣を突き刺してから言っていたでしょう、全力を注ぎこんで私の勝ちだ、ってね」

「ああ言っていたな。それが何か?」

「サンライトセイバーは斬撃や突き刺しで相手を仕留めるんじゃあない。その力を相手に注ぎ込んで爆発を起こす効果があるのよ。マリアのレイ・シュトロームみたいにね」

「……っ!? まさか――!」


 サライは確かにアタルヤに剣を突き入れたものの力の注ぎ込みが不十分だった。そこをバテシバは更に力を注いで効果が現れるまで蓄積させたのだ。アタルヤがサライと対峙してからそう時間は経っていない。サライの日輪の力がアタルヤの体内に残っている今しか使えない手だった。


「確か、決めの仕草を取るんだったっけ……」


 バテシバはよろめく身体で何とか杖を動かし、最後に絵に収めれば映えるだろう格好を取った。惜しいのはバテシバの得物が剣ではなく杖で、魔導衣を着ているぐらいだろう。


 途端、アタルヤの身体が内側から光り輝き、突き刺した胸辺りを起点に爆発が巻き起こる。


 衝撃波で転がりそうになる所をバテシバは何とか踏ん張った。バテシバは一人では決して勝てなかった強敵を姉との共同作業で下した事に感無量となり……。


「バテシバ!」


 決して聞かないと思っていた声を耳にして我に返った。

 すぐさま声の主の方へと顔を向けると、寝ていた筈のマリアが舞台入口の通路で壁に寄りかかっていた。彼女の強い眼差しがバテシバに訴えていた。「まだだ」と。


 それからバテシバが取った行動は無意識なものだった。彼女は左腕を持ち上げつつ爆発で煙が巻き起こって見えないアタルヤの方へと向ける。煙が一刀両断されて吹き飛ばされたのはそれとほぼ同時だった。

 アタルヤは身体中を大きく傷つけ血を流しながらも剣を持つ手の力強さは変わっていない。飛び込みながら煙を散らしたのか、既にバテシバを間合いに収めていた。アタルヤが振りかぶったのとバテシバの左手に光の刃が形成されたのもほぼ同時だった。


「マジックアローレイ……!」


 それでも、最後の一撃を放ったのはバテシバの方が先だった。

 一刀両断の魔法はアタルヤを大きく斜めに切り裂いた。限界を超えて発動させたせいで術式の構築が甘くなったのか、身体を真っ二つにする程はいかなかった。それでも決め手となる程には深手を負わせられた。

 アタルヤは深く斬られた傷口を左手で押さえながら剣を手にした右手を力無く振り上げる。弱々しく振るった剣はバテシバにもかわされ、勢いのままアタルヤの手から滑り落ちて舞台を転がった。


「やられた、な……」


 アタルヤはそのまま前傾姿勢で倒れ伏し、気を失った。


 試合終了の判定が下される。バテシバが勝利し、ここに大会優勝者は決定された。


 ―閑話終幕―

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