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大会一回戦①・皇帝参上

 次の日の朝、わたしは早めに身支度を整えて家を出る。お店の入口には本日休業と看板を立ててから広場へと向かっていく。さすがに祭りの期間中とはいえまだ朝も早いので人通りはそれほど多くないし出店も準備で忙しそうだった。


「マリアさん、こっちですこっちー」

「タマルさん、お待たせしました」


 待ち合わせにも良く使われる噴水付近でわたしの姿に気づいたタマルがこちらへと大きく手を振ってくれた。彼女は普段わたしの店に顔を見せてくれる時と違って袖なしかつスカート部の短いローブを見にしていた。心なしかローブの生地もちょっとやそっとでは破れないよう厚手になっている。拳には指が出た手袋をはめていて、完全に動きやすさを最優先にした格好だ。

 わたしは足を速くして彼女の下へと向かう。何だかタマルはわたしを伺って妙に面白そうに笑みが止まらないようだ。


「どうしたんですか?」

「いやあ、マリアさんは昨日を満喫したみたいで何よりなので」

「え、ええ、確かに楽しかったですね。普段と全く違った過ごし方をしたので戸惑いました」


 タマルに促されてわたし達は歩み始めた。向かう先は公都の南に位置している円形闘技場、ここからなら歩いていくより乗合馬車を利用した方が時間がかからないだろう。祭りの期間中で人の往来も激しいから臨時便も出ている筈だ。


「それでー、彼とはどんなデートを過ごしたんですかー? もしかして最後までやっちゃいましたかー?」

「何ですか最後って。別に大した事はしてませんよ」


 魔導協会支部に足を運んで陛下と別れた後は施設内に足を運んだんだった。祭りなのもあって建物内の多くが一般開放されていて、ある教室は研究成果の発表を、ある研究室は公開実験を。成果の展示会も開かれていて普段が嘘のように華やかな様子を見せていた。

 イゼベルは来訪者への説明や講演で忙しそうな様子だったけれど、わたしが姿を見せると笑顔で出迎えてくれた。聞くと祭りの際は毎回このように一般向けな発表会を催しているらしい。正直学院に行く前までずっと公都にいたのに今まで知らなかった。


「祭りの期間はこうして大衆向けに魔導の成果を披露してるんですよー。人々の生活に魔導を役立てるって主題以外は何でもござれなんですよー」

「一風変わっていると言いますか、魔導の成果発表の場としては異質と言っていいですよね」


 どうやら単なる学問、知識としての魔導も研究するようにダキア公都支部では取り組んでいるらしい。多分当代の魔導元帥にバテシバが就任して魔導を魔導師の独りよがりでは終わらせないように生活に役立てる術を模索し始めたのもあるだろう。

 魔導とは探究する学問。世界の理だったり古の神秘だったり神の御業だったりと多岐に渡る。とは言え大衆からすれば火種を使おうが魔導を駆使しようが火を起こせれば問題ないのと同じで、凝っただけの魔導など知らなければ知らないなりに日々を過ごせる無駄知識でしかないのだから。


 展示内容は色々と興味をそそるものばかりだった。やはりわたしは探求だけではなくその先を見据えた魔導の方が好みらしい。何だかんだでわたしも魔導師だし、開業魔導師としての仕事を活かした研究に取り組んで来年は成果をこんな風に発表するのもいいかもしれない。


「じゃあ是非参加応募して下さい。きっとみんな喜びますよー」

「そう言えばイゼベルさんがさぼったタマルさんは後で折檻って言ってましたよ」

「うええ、ちゃんと発表資料と展示物は完成させたのにぃ」

「肝心の当日をわたしのお店の留守番を口実にさぼったら意味ないじゃないですか」


 確かその後は帝国歌劇場でオペラを視聴したんだった。演目は今から数百年前、大帝国が東西に分離した後の白き島で繰り広げられた騎士達の栄光と破滅の物語だった。本では様々な種類を読んでいたけれど、オペラなんて生まれて初めてなものだから何もかもが新鮮だったなあ。

 夜も遅くになった所で遅めの夕食を取った。中央区にある裕福な市民や商人が足を運びそうな高価な料亭だったのもでかなり萎縮した。料理が美味しいのは当然として、優雅な雰囲気に呑まれたのもあってとても素敵な時間を過ごせたと確信できる。


「で、どんな話で盛り上がったんですか?」

「最近のキエフやダキアがどうなのかとか、お互いに他愛ない会話で弾んだだけですよ」


 それから夜の街中を二人きりで歩きながら星空を仰いだりした。で、彼がわたしを家まで送ってくれてそこで別れた。


「別に聞いてて面白くなかったと思いますが。ざっとこんな感じです」

「いやあマリアさんったら見かけによらず熱く語ってくれちゃったものだからほらご覧のとおり」


 タマルが少し癪に障るような笑みを浮かべながら指差した先にあるのは円形闘技場だった。……あれ、公都の北地区に住むわたしの家からここまでって結構距離離れていた筈だけれど、もしかしてここまで来る行程の間話に熱中してしまって時間を忘れてた?

 思わず羞恥心で顔が熱くなる。多分今鏡の前に立てば顔を紅色に染めつつ笑みが止まらない自分が拝めるはずだ。穴があったら入りたいと思う反面、こんな自分を誰かに曝け出したらどんな反応が返ってくるか、なんて背徳的な考えまで浮かんでしまうから相当だろう。


「す、すみません。一方的に話してばかりで」

「夢中になって色々と話してくれましたねー。マリアさんが楽しそうで何よりです」

「は、恥ずかしいなんてもんじゃあないですね。これはさすがに……」


 これ以上はいけない。わたしは顔を大きく振って頭の中を切り替える。昨日は昨日、今日は今日だから改めて気を引き締めないと。何せこの円形闘技場に足を運んだのは何も観客の一人になって盛り上がるからではないのだから。

 円形闘技場の周りは早くも人だかりが出来ていた。昨日も明日も大会が開かれるそうだけれど剣闘士限定だったり魔導禁止だったりと制約があるものだ。今日は無差別かつ参加無制限、つまり何でもござれだ。それもあって大盛況となっている。


「あの向こうでは金一封と念願の休日が待ってますよー」

「もう勝った気でいるなんで凄いですね。アタルヤさんだって参加を表明しているのに」

「ハッキリ言っちゃいますけど前回の大会を参考にするなら副支部長以外は敵じゃあありませんからねー。大会はトーナメント制ですからどうとでもなっちゃいます」

「確かに戦場ではない以上運次第で簡単に覆りそうですが……」


 早速受付に足を運ぶと列が出来ていた。筋骨隆々な歴戦の戦士から腕試しだろう風格漂う傭兵、記念に参加するだけだろう細見の若者など様々な人が集っていた。ただ魔導が解禁されたとはいえ魔導師の参加者はそれほど姿が見えない。

 まあ研究は自己探求であって義務ではない。魔導協会の要職にでもいない限り期限なんて無いから休暇を保障されても意味は薄い。金一封は魅力的だけれど魔導を見世物として晒してまで得る価値があるかと問われたら尻込みする人は多いだろう。


 だからこそ頭に思い浮かぶ。ひょっとしたらこれは本当に頂けちゃうかもしれない、と。


 だって魔導師と冒険者や兵士との間には間合いの違いって明確な差がある。相手が間合いを詰める前に広範囲魔法一発で終了、そんな顛末だって十分考えられるだろう。勿論熟練者相手ではそう簡単にはいかないだろうけれど魔導は奥深い。どうとでもなる。


「今日はお越しくださりありがとうございます。参加料をいただきますがよろしいでしょうか?」

「はい、これで」


 結構待たされてようやく受付がわたし達の番になった。わたしとタマルはそれぞれ決められた参加料を支払った。このお金は二回戦を突破すれば返却されるらしい。ただだからと気安く参加されて大会運営に支障をきたさないように、か。


「大会規定は私共の後方に立てかけられています案内に記載されています。待ち時間中に一通り目を通していただけましたか?」

「はい。問題ありません」


 受付の後ろには大会規定に付いて記載されていた。今回は円形闘技場内に円形の舞台があってその上で試合は行われる。普段円形闘技場内で開かれる決闘では観客席との境になる塀まで自由に使っていいのだけれど、今回は舞台の外に身体や武具が触れると場外負けになる。

 後は降参したり気絶しても負け。死亡しても負け。怪我は可能な限り闘技場所属魔導師が治療するけれど保証はしない。後遺症が残ったり命を落としても全責任は選手にあり闘技場や対戦相手は負いかねる、など事細かに書かれていた。

 勿論、それで怯むわたし達ではない。受付嬢から渡された同意書に自分の名を記す。


「試合は勝ち上がり方式、優勝までは八、九回戦う程の参加者が集まるものと見込まれます。今日一日で全試合を終了させるため、二回戦までは四試合を並行して実施いたしますのでご了承ください」

「八、九回って事は……三百人近くですか。随分と大規模な大会なんですね」

「帝国広しと言えどもこれほどの規模は帝都を含めましてもごく少数でしょうね。こちらの木箱から札を取り出してください。それで組み合わせを決定いたします」

「えっと、はいこれで」


 わたしとタマルはそれぞれ札を取出し、記載されていた数字を元に別の職員がわたし達の名をトーナメント表へと書き込んでいく。わたしはかなり後の方になり、タマルはどちらかと言えば前半側だろう。わたし達が当たるとしたら決勝か。


「試合までの間はどこにいていただいても構いませんが、二試合前までには選手控室にお戻りください。試合開始までに姿を見せなかった場合はどんな事情であっても負けになりますので」

「じゃあ試合まで立見席にいたり闘技場の外で出店を回っていても問題ないと?」

「試合までに戻っていただければ。あと観客席に行くのでしたらその分の料金を払っていただくとの事です」

「うわぁせこいですねー」


 だとしたら試合は立見席あたりでこの目で見られるわけか。折角の機会だから鑑賞させてもらうのも悪くはないだろう。立見席なら一般市民が気軽に入れるようこの祭りに限っては料金も低く抑えられている筈。節制の心構えなんて好奇心には所詮敵わないものだ。


「以上です。何かあれば他の職員にお聞きください。次の方どうぞ」

「どうもー」


 わたし達は列を外れて一旦貼り出されたトーナメント表に目を通す。一回戦だけでも数百試合もあるんだから、四試合同時並行でも当分わたしの出番は先だな。なら遠慮なく立見席に行ってしまおう。タマルも同じ考えだったようで、お互いに顔を合わせるとその場をあとにして今度は観客側の列に並んだ。


「マリアさんは遠見の魔導とか習得していないんですかー?」

「あいにくそうした高等な魔導はわたしの実力では無理でした。四属性魔法も水以外はそこそこでしたし、タマルさんが考えるほどわたしって凄くないですよ?」

「またまた謙遜しちゃってー。口ではそう言いながら実際にはとんでもない上位魔法とか駆使しちゃうんでしょう?」

「……あいにく否定も肯定も出来ません。自分がどれだけやれるのか自分も分かっていないので」


 わたしだけなら無理だと断言出来るけれど、マリアだったらどれほど高度な魔導を手足のごとく自由自在に扱えるだろうか? 今でもマリアとは頻繁に言葉を交わすけれど彼女の実力の底はわたしにも全く見えてこない。

 だからわたしが無意識のうちに、または自然にこなす魔導ももしかしたらとてつもない技術が必要な代物だった、なんて十分あり得るから怖いのだ。


 まだ日も登り始めていない時刻にも拘らず開場時間となり、大勢の観衆が闘技場の中へと流れていく。わたし達は購入した券を片手に入場し、立見席へと向かった。純粋に試合を楽しもうとしている市民に紛れて明らかに場違いに武装した冒険者の姿も見えるから、わたし達と同じ考えの人も少なくないようだ。


「何か飲み物買ってきましょうかー?」

「いえ、お手洗いに行きたくなるので止めておきます。昼食は闘技場の外の出店で何か取りましょうか。確か半券を見せれば再入場可能でしたよね?」

「そうですねー。わざわざ高い場内の飲食物に手を出す必要なんてありませんかー」


 やがて闘技場内の観客席は満員となった。老若男女問わず身分の垣根を超えて人々が集っていた。さすがに入場に出せる金額には差があって、公爵領の外からやってきた貴族や大商人の人達は個室を取っているようだ。

 貴賓席を見上げるとそこにはこの間のアンデッド異変によって代替わりした公爵が既に着座していた。公妃だろう美女が彼の隣の席に付き、他の公爵家の者も何人かいるようだ。肝心のカインはと視線を彷徨わせると、どうやら観客席最前列の大会運営委員席で他の職員と話しているようだ。


「年中催しが行われるこの円形闘技場ですけど台覧試合はこのお祭りだけですからねー。さすがに皇族の人は来てないみたいですけど。でなかったら公爵さんがあの最上席にいる筈ないですし」

「……その皇帝陛下が此度の大会に参加されるって聞いたら全員度肝抜かれるでしょうね」

「皇帝さんとは会った事ありませんけれど、大会に参加するって話は本当なんですかー?」

「わたしだって本当だったとは思いたくないですよ」


 開催の時間となり司会者が舞台の上に現れた。彼の声は観衆の声で騒がしいこの円形闘技場の、しかも遠くの立見席にいるわたし達にもはっきりと聞き取れる。どうやら魔導具を使って声を大きくはっきりと聞き取りやすくしているようだ。風属性魔導の応用だろう。

 ちなみに司会者が何を言っているのかをまともに聞く気は無い。前口上を並べたてているけれど耳を右から左へ素通りするばかりで頭の中に入らない。まあ、この場面を覚えていても仕方がないので別に問題無いだろう。

 要約すると大会も何度目になっただとか貴賓席に公爵がいらしてるといった内容で盛況に終わった。開会宣言もそこそこに早速第一試合から始まるようで観客の熱気は高まる一方だ。さて、大会にどれだけの実力者が集っているか量るいい試金石になるだろう。


 司会者に呼ばれて現れた八人の選手達は各々が観客の声援を受けてそれぞれ手を振ったりお辞儀をしたり拳を高く掲げたりする。そんな中、円形闘技場にいる誰よりも目を惹く存在感を放つ者がいた。

 彼女は長剣を背中に背負い、二振りの小剣を腰元に刺し、紫の外套を翻して堂々とした佇まいで行進する。自信に満ちた不敵な笑みを湛えながら観客に向けて手を振る姿は正に王者の登場としか言いようが無かった。

 いや、現実を直視すればその比喩では足りない。何せ彼女はアウグスタにしてインペラトールである帝国皇帝、サライなのだから。


 陛下はつい数か月前に公都を訪問しているから、皇帝は公都市民にとっては決して雲の上ではなく記憶の上で新しい存在だろう。そのおかげもあってサライの登場には次第に歓声ではなくどよめきへと変わっていく。

 司会者もどうしていいか分からずに思わず責任者に任されたカインへと向くものの当の彼すらどうしたらいいか混乱しているようだ。これはまずい、こうまで騒然となると観衆が混乱して一大事に発展しかねない。カインや公爵が事態を上手く収めればいいんだけれど、彼らは頭の中を整理して現状を飲み込むのにももう少し時間がかかりそうだ。


「どうするんですかねこれー」

「あ、何か陛下が司会者から魔導具取り上げましたよ」


 観衆の反応を見てか、陛下は狼狽える司会者へと近づくと魔導具をそのままかすめ取った。驚く司会者をよそに彼女は舞台の中央に立つ。誰もが彼女に注視しているのに全く怯む様子がないのはさすがか。


「私はここに宣言するわ。今日優勝を収めるのは他でもないこの私よ! 誰でもかかってらっしゃい、返り討ちにしてあげるんだから!」


 それは見事な宣誓であり他の選手へ向けた宣戦布告でもあった。観衆のどよめきはこの闘技場全体に響くほどの大歓声となる。思わず耳を覆ってしまったわたしに向けてタマルは同じ動作をさせつつ苦笑してみせた。


「煽動力って言いますか、これが帝国の頂点に君臨する尊厳者なんですねー!」

「おそらく後の歴史書にはあの人は帝国中興の祖って書かれると思いますよ」


 何せ彼女の代だけで帝国の領土を数倍とし、魔王軍を撃破し、経済を発展させた。もはや帝国単体だけで他の人類圏国家を上回る勢いとなっている。不安はむしろ彼女の栄光の代が終わった後に急拡大した帝国を運営しきれずに急速に没落するんじゃないかって所か。

 彼女の尊厳者としての一面は言わずもがな、軍の最高指揮官としての一面も東の公爵領での防衛戦やキエフ攻略戦と立て続けで成果を上げている。現在の評価は間違いなく名君だろう。人柄もいいし皆が慕うのも納得できる。

 ただ、彼女個人の実力の程は全く耳にしていないので未知数だった。あのイヴやバテシバの姉なのだからそれだけでも期待値は高いのだけれど、これで個人の能力まで優れていたら非の打ち所のない完璧超人じゃあないか。


「皇帝さんの相手は公都ではちょっとは名の知れた冒険者みたいですねー。前回の大会でも何回か勝ち上がってましたから一般的な帝国軍歩兵よりは優れた腕の持ち主だと思いますよ」

「じゃあこれで陛下がどれほどの実力を秘めているのか分かるわけですか……」


 やがて八人の選手それぞれが試合開始地点に立ち、それぞれの対戦相手を見据える。陛下の対戦相手である冒険者は軽装鎧と兜、それから剣を盾を手にした一般的な武装を身にしている。剣の切先を陛下へと向けて重心をやや落としている。どうやら手心を加える気はないらしい。

 一方の陛下は二本の小剣ではなく背負っていた長剣を抜き放って上段の構えを取った。その姿を目の当たりにした観客一同はわたし達を含めて声をあげた。


「あの構えは光の剣を携えた勇者イヴの?」

「いえ、アレは――」


 その姿は古の魔王討伐の冒険譚の挿絵に描かれる勇者の構えそのものではないか。


 試合開始を告げられて陛下は真っ先に相手との間合いを詰めるよう突撃する。彼女が掲げた剣は金色……いや、太陽のごとく輝きだす。その姿を遠くの観客席で見ているわたし達すら圧倒されるのだ。対戦相手は怯んで何も出来ずにただ彼女が迫るのを眺めるばかりだった。


「サンライトスラッシュ!」


 陛下の日輪の一閃に冒険者はとっさに剣を振り上げるものの、陛下の一撃は容易く防御の剣をへし折った。そして勢いは衰えずに冒険者の身体に直撃し、激しい閃光が辺りを覆った。思わず目を手で覆った直後に衝撃音が轟く。

 ようやく目が慣れてくると冒険者の身体は舞台外、しかも観客席そばの壁まで吹き飛ばされていた。彼の身体を覆う鎧は砕け、夥しい量の血があふれ出ている。すぐさま回復魔法担当の魔導師が駆けつけて彼の治療にあたる。


 陛下は相手の惨状にも怯まずに勝鬨をあげた。幾分かの観客は凄惨な光景を目の当たりにして気分を悪くしたようだけれど、多くの人々にとっては興奮する試合だったに違いない。現に挙がる歓声は称賛ばかりだった。


「……これは休暇取得は一筋縄じゃあ行きそうにないですねー」

「……そうですね」


 色々と考えが浮かんだものの、真っ先に頭によぎった感想はタマルと同じだった。

お読みくださりありがとうございました。

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