5話 彼は私の王子様(プリンス)
5話 彼は私の王子様
----「じゃあ、俺はそろそろ行くよ、雨宮茜さん」
----「ぷっ、はははは!」
----「それじゃ、さよなら、雨宮さん」
彼とあの時会った時の会話が、鮮明に思い出される。
名前も分からないし、いきなり名前を聞かれて、不審者かと思ったけど
私が困ってることに気づいて、さりげなく私の下駄箱を教えてくれて......
そんな彼のことを最近頭の中でずっと考えた私は、どうなりたいんだろう。
”好き”......なのかな?......
いや、たぶん違う。
私はまだ、彼にお礼を言っていない。
それが気になって、頭の中でもずっと考えちゃうんだ。
とにかく、彼の上履きの色から、彼も私と同じ1年生のはず。
今日こそは、彼を見つけてちゃんとお礼を言おう......
そしたらもう、彼のことをずっと考えないで済むと思うから......
部屋の中で、茜はそう覚悟を決めたのだった。
ベル「拓人さ~~~~~~~ん!」
拓人「うわっ!? ベ、ベル! いきなり抱き着いてくるな!」
ベル「いいじゃないですか~~ わたくしは拓人さんのこと本気なんですよ?」
拓人「///」
夏美「何照れてんのよこの変態!
いくら女子に免疫がないって言っても、デレすぎよ!」
拓人「デ、デレてねーよ! ただこういうのは慣れてなくて、
どう反応すればいいのか、分からないだけだ!」
夏美「デレてるじゃないのよ今さっきのだって!」
拓人「今さっきのは先に抱き着いてきたベルが悪い!」
ベル「あら? 外国ではハグなんてあいさつみたいなものですわ?」
拓人「ここは日本だ!!」
真「お~今日もやってるね~」
真が教室にやってきて、ヒートアップしていた話も一旦落ち着きを見せた。
真「それでも、ベルさんがこうなってから、最近ずっとこうだよな、
そんなに熱くなって話すことがどこにあるんだか......」
そう、拓人がベルにあるのままの姿でいていいと言ってからというもの、
ベルは拓人にベッタリだ。
拓人は一時期すごく女子にコンプレックスを抱いていて、
女子と話すことさえも拒んでいた時があった。
今はすこし収まってきたのだが、未だに女子の前では、うまく喋れない。
それに女子を前にすると、どうしても”あの時”の影が潜んでしまう。
まー、なんでそんな時期があったのかはまだ秘密なのだが......
唯一学校の女子の中で拓人と普通に話せるのは夏美しかいない。
そんな夏美が、最近ベルがやたら拓人とくっついていると、怒るようになった。
しかも、くっついてきたベルの方ではなく拓人に怒ってきて、頬を膨らませている。
今日もベルが拓人に抱き着いてきて、夏美が俺に怒ってきて、俺がそれに反論して、
そんな光景がもはや恒例行事となりつつあった。
ベル「わたくしはただ拓人さんにあいさつのつもりで抱き着いただけですわ、
拓人さんに抱き着くと心がぽかぽかするとか、ギュッとしてもらいたいとか、
そんなこと微塵も思っていませんわ!」
夏美「心の声がだだ漏れじゃないのよ!
だいたい拓人がきっぱりと断ればいいんじゃない!」
拓人「なんで俺のせいなんだよ......」
真「それで? 拓人はベルさんがくっつくのはもう迷惑なの?」
ベル「そうなんですの!?」
拓人「別にそんなんじゃねーよ!
ベルがこの学校に徐々になじんできてるのは嬉しいし、
本当のベルを見せてくれて、俺はそれを迷惑だとは思わないぜ?」
ベル「拓人さん......//////」
真「お~言うね~~~......
それじゃあ、ベルさんが抱き着いてきて拓人は嬉しいってことか?」
拓人「そ、そんなことはひとことも言ってねーよ!///」
夏美「は~......
どうして拓人はいつもこうなんだろう......」
拓人「ん?」
夏美「なんでもないわよ......」
拓人「? そうか? ならいいけど......」
夏美がなにやら拓人に言いたげな顔をしていたが、
拓人はそれを気に留めず真たちに言った。
拓人「ちょっとトイレ行ってくる」
ベル「それではわたくしもご一緒させていただきますわ!」
拓人「お断りだ!」
ベル「む~~~~~」
ベルが顔を膨らましているのを後に、
拓人は教室のドアを開け、廊下に向かった。
茜「(どこなのよ~まったく......
今日朝早く来て、1年の教室とか廊下を見て回ったのに、
彼の姿は全く見つけられなかった。
今さっき2組の教室に行ってもいなかったし......
もしかしたら、あの人1年生じゃないのかな~?)」
そんな考え事をしていると、
ドンッ!バンッ!
考え事をしていて、前を見ていなかったため曲がり角で通行人とぶつかって、
そのままお互いしりもちをついてしまった。
茜「いたたたた~......
あ! あ、あの大丈夫ですか......?」
ギャル「いって~~...... ったく! 前向いて歩けよ!」
茜「す、すみません......」
茜がぶつかったのは、運悪くいかにもギャルそうな3人組の先輩だった。
ギャル2「大丈夫~ギャル~?」
ギャル3「ぶつかったところ腫れてんじゃな~い?」
ギャル「お前、1年生だよね~? 先輩にケガさせといて
すみませんだけなんて、済ませないよね~?」
茜「え? いやその、ホントに......」
ギャル2「これは土下座で決定じゃな~い?」
ギャル3「あ~それいい考えかも~~」
そうして、ギャル2とギャル3は、土下座コールをし始めた。
ギャルも私の前に立って、仁王立ちしている。
茜「(どうしよう......みんなこっち見てる......
私どうしたらいいんだろう......
あれ......? 私泣いてる......?
もう、体が痙攣してまともに動けない。
誰か......助けて......)」
ーーーー「困ったときは、自分で抱え込もうとせずに
誰かに頼ったほうがいいぜ」--------
あの時、彼そんなこと言ってたっけ......
茜「助けて......助けてよ!!」
彼女は決しの思いで叫んだ。彼にも届くくらいの声量で。
そして、茜の思いは彼に届いた......
??「彼女を泣かせるのはやめていただけませんか」
聞き覚えのある声が、茜の背後から聞こえた。
その声の主はゆっくりと茜のそばに歩み寄り、
茜の前に立つギャルの正面に立った。
ギャル「誰なんだよお前は?」
声の主は、こう告げた。
拓人「朝峰拓人だ!」
茜「(私が、ずっとお礼を言いたかった人、ずっと探してた人、
ずっと頭の中で考えてた人......
間違いない......彼は、朝峰拓人は、
私が探してた......あの男の子だった)」
拓人「彼女を泣かせるのはもうやめていただけませんか」
ギャル「1年のくせに調子こいてんじゃねーよ!」
ギャル2「そうよそうよ!」
拓人「彼女が何をしたのかは知りません。
もし、先輩に何かしたのなら、俺が代わりに謝ります」
そういって彼は、ギャル3人組に深々と頭をさげ、
数秒後頭を上げると、さらに続けて言った。
拓人「なので、先輩達も彼女に謝ってください」
ギャル「は!? あっちが当たってきたんだ!」
拓人「それに関しては謝ります。
けど俺はそのことじゃなくて、彼女を泣かせたことについて謝って欲しいんです」
ギャル2「調子に乗るのもいい加減にしろよ、この1年坊主!」
拓人「謝ってください!」
拓人は、ものすごい剣幕で、ギャル3人組に言った。
その形相に、ギャル達もしばらくは口を開けずにいた。
そして、数分後ギャルが口を開いた。
ギャル「ふん、今回は邪魔が入った......行くぞ、お前たち!」
ギャル2「ちょ、待ってよ!」
そうして、ギャルたちはこの場を後にした。
そして、拓人は茜の前にしゃがんで、ゆっくりと言った。
拓人「怖かったよな? ごめん、早く来れなくて」
茜「うん......また、会いましたね」
拓人「そうだね......雨宮茜さん」
茜は、自分の名前を言われた瞬間、拓人の胸に手を寄り縋り号泣した。
茜「私、私......ずっとあなたのこと探してて!
ずっとあの時のお礼を言わなくちゃって......
でも、全然見つからなくて、会えたと思ったらこんなみっともない姿......
私、あなたに見せる顔がないよ......」
彼女は泣きながら、必死に言葉を選んで拓人に思いを告げた。
そして拓人は、そっと茜を抱き寄せた。
茜「//////」
拓人「雨宮さんの声が聞こえたんだ。助けてって。
その時に俺嬉しかった、雨宮さんが俺の言うこと守ってくれたって。
俺の言ったこと、ちゃんと覚えてくれたって。」
拓人はゆっくりと優しい声でそう告げた。
拓人「だから、今度も困ったときは、助けを呼んで?
そしたらまた、俺が君を守ってみせるから」
茜「うっ......うわ~ん......」
その言葉を聞いて、彼女はまた彼の胸で泣き始めた。
それと同時に、茜は1つ自分の中でずっとモヤモヤしていたのが
1つ晴れたような気がしていた。
今まで、私は朝峰拓人のことをずっと考えていた。
それはずっと、お礼をいいたいからと、自分を信じ込ませていた。
でも、たぶんそれは違っていた。
私は恋をしていたのだ。初めて会って、下駄箱の位置を教えてくれて
助けてくれたあの時から。
私をいじわるギャルから守ってくれた朝峰拓人に......
恋をしたのだ......
彼は私の......王子様だ。
今回も長くなってしまいました......
昨日、ブクマが2件になっていました!!
ホントにありがとうございます。
あと、投稿頻度についてですが、今のところ毎日1話は投稿しようかなと思っています。
投稿できないときはあらかじめ言っておきますので。
応援よろしくお願いします!