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42話  そうして美雪は拓人のもとを去っていく

42話  そうして美雪は拓人のもとを去っていく



拓人「............」

桜「............」

美雪「......では、行ってきます」


玄関で靴を履き終わると、美雪は拓人と桜の方を向いて暗い声質でそう言った。

彼女の手にはぱんぱんに詰まったスーツケースがあり、

およそ一週間は暮らせるくらいの荷物は入っているであろう。

今から美雪が拓人の父、朝峰誠二のところに行くことになったのはつい一週間前のこと。

誠二から強制帰還を命じられてのことだが、拓人はあまりそれに良い反応を見せなかった。

今も、出て行こうとする美雪に何回も止めようと試していたが、

そのたびに「これは美雪が決めたことだ」と直前で言葉を失わせていた。


桜「......美雪さん、こっちのことはあまり心配しないでくださいね」

拓人たちに流れたぎこちない空気を、桜は気丈に振舞ってその空気を追い払った。

本当は桜も美雪には行ってほしくないのだが、こればっかりは仕方ないと割り切っているようだ。

美雪「は、はい。それに私の代わりのメイドの方も来るので、心配はしてません」

桜「そうだったんですか? じゃあ安心ですね、ね? 兄さん?」

拓人「あ? あ、ああ......そうだな」

美雪「............」

拓人「............」

桜「んっ............」


再び訪れたさっきと同じような空気。

拓人も美雪もうつむいたままで、桜はこの場をどうしようかとソワソワさせている。


美雪「......そろそろ、行きますね」

桜「あ......もう行くんですか?」

美雪「はい、さっきからずっとあそこで迎えに来ているリムジンがありますし」

桜「そうですか......くれぐれも無理はしないようにしてくださいね?」

美雪「ありがとうございます、桜様」

桜「......ほら、兄さんもなんか言ってあげなよ」

拓人「............」

美雪「......では、私はそろそろ行きますね?」

桜「あ、美雪さん......」

美雪「いいんです、私が勝手に決めたことですし」

桜「............」


桜はじっと拓人の方を見るが、拓人はただひたすら顔を俯かせていた。

桜は肘で何回か拓人をつついたが、特に目立った反応もなく、拓人はその場で静止していた。


美雪「ではご主人様、桜様、しばらく家を空けますがどうか健康でいてください」

桜「はい、美雪さんも無理しないようにしてください」

美雪「ありがとうございます、では......」


そう言うと、美雪は玄関のドアを開け、一歩一歩ゆっくりと前へ歩いていく。

そしてドアがガチャッとしまった後、美雪の姿は遮られ、

見えるのはいつも見ている玄関のドアになってしまった。


拓人「......くっ!」

桜「に、兄さん?!」

咄嗟に拓人はその場から瞬間移動したかのように玄関のドアを開けると、

間もなくリムジンの方までついてしまう美雪の後を見かけて大声で叫んだ。

拓人「美雪ーーーー!」

美雪「! ご、ご主人様?」

拓人「ご主人様は......美雪のご主人様は俺なのか?」

美雪「......はい、私のご主人様は拓人様だけです!」

拓人「だったら......一つ美雪にメイドとして命じる」

美雪「......?」

拓人と美雪の距離はもう50mほど離れていて、そのため届ける声も大声ではないとならない。

何とか拓人に聞こえるような声量で叫んだ美雪はぐっと拓人の次の言葉を待つ。


拓人「必ず......必ずここに帰ってこい! 美雪の主人としての命令だ!」

美雪「......!」

拓人は美雪に聞こえる大声でそう言うと、ぐっと腕を上げて拳を突き上げた。

そして、それを聞いた美雪は、瞳に何かじんわりとしたものが湧き上がると、

自分も拓人と同じように拳を突き上げて叫んだ。

美雪「必ず、必ず帰ってきます、ここに!」

拓人「......ちゃんとケジメをつけてこい......美雪」

拓人の独り言は美雪に届くことはなく、

しかし今さっきよりも威風堂々とリムジンの方まで歩いて行った。



ガチャ......


拓人「ただいま......」

美雪を見送った後、拓人は浮かない表情のまま家の扉を開けた。

桜「おかえり、兄さん」

拓人「桜、まだここにいたのか?」

桜「当たり前だよ、急に兄さんが飛び出すんだから」

拓人「......悪かったよ、でもちゃんと伝えないとって思ったからさ」

桜「そっか......ちゃんと伝えられたの?」

拓人「ああ、言いたいことは言った」

桜「そっか、だったらよかった」

拓人の話を聞いてそっと肩を撫でおろす桜。

その様子を見て、拓人もそっと頬が緩んだのが分かった。



桜「それよりさ、兄さん」

拓人「ん? なんだ?」

美雪の件も収束して、今は兄妹仲良くそろって朝ごはんを食べている最中、

桜は箸を止めて拓人に少し不安そうな表情で訊いた。

桜「美雪さんが言ってた”代わりのメイド”って誰のことだろう?」

その問いに、拓人も少し悩む素振りを見せる。

拓人「う~ん......確かに誰だろうな?」

桜「私たちが知ってる人だったらいいけど......」

拓人「さすがの父さんもそこは考慮してくれるだろう」

桜「......そうだったらいいけど......」

拓人「まあ、桜はいつも通りしていればいいよ」

桜「うん......」

そうして、拓人たちは止めてた箸を持ち、再び朝食を食べ始めた。



拓人「桜、今日は剣道の朝練はないのか?」

桜「今日はちょっと休むよ、さすがに集中できそうもないし」

拓人「そうか、じゃあ久しぶりに一緒に学校に行くか?」

桜「い、一緒にですか!?」

拓人「ああ、嫌か?」

桜「い、嫌ってわけではないですけど......」

拓人「じゃあ一緒に行こう、別々に行くのも不自然だしな」

桜「そ、そうですね、不自然ですしね、あくまで自然に行こうってことですもんね」

桜が少しだけ頬を赤らめながら髪を指で絡ませていると、

ふいに家のチャイムがピンポーンとリビングに鳴り響いた。


桜「誰でしょう? こんな時間に」

拓人「......確かにちょっと怪しいな、俺が出るよ」

拓人はそう言うと、ソファから立ち上がり、足早に玄関の方へと向かった。

そして玄関へと着くや否や、拓人は玄関の扉をそっと開けていった。


すると、ドアのすぐ前に立っていたやや肉付きの良い中年の女性に、拓人は見覚えがあった。


拓人「ち、千代さん!?」


千代「お久しぶりです拓人坊ちゃん、今日からしばらくの間

メイドとしてお世話をさせていただく、千代でございます」


そうしてニコッと笑ったその中年の女性に、拓人は少しだけ驚きを隠せずにいた。




他のヒロインのメインパートは後半に分けました。

これからも応援よろしくお願いします!

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