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39話  フリージアは静かに芽を出す ①

39話  フリージアは静かに芽を出す ①



拓人「............」

美雪「............」


拓人宅にて、拓人と美雪が一言も発さずにソファに座っていた。

昨日からずっと拓人の調子、顔色が悪いだけに、美雪もずっと心配していた。

しかし、拓人に話しかけられるようなムードでもなく、美雪は拓人の顔色を窺っては

そっと顔を逸らすというような動作を繰り返していた。


桜「......兄さん」

そしてどことなくぎこちなかった拓人と美雪の雰囲気にある程度の予想がついたのか、

桜はジト目で拓人の名前を発した。

桜「兄さん、昨日からそんな感じでどうかしたんですか?」

拓人「......特になんもなかったよ」

桜「昨日は一時間目もサボってたらしいですけど?」

拓人「......保健室行ってた」

桜「......はぁ~」

桜は拓人の言葉を聞き終わると、だっと肩を落とし深いため息をついた。

桜「兄さんはウソをつくのが下手すぎです、すぐ分かります」

拓人「............」

何も言い返してこない拓人に、桜は目線を逸らしながらさらに続けた。

桜「......いくら他の人を騙すことができても、妹は騙せないよ?

15年も一緒にいて、気づかないわけないもん」

そう言った桜は頬を少し赤らめた後、再び拓人に目線を定めると、

お母さんが子供に何かを聞くような優しい包容力のある声色でこう尋ねた。

桜「それで、何があったんですか? 真さんと喧嘩でもしました?」

拓人「ん......」

拓人が手を額の方に持っていき少し前髪を持ち上げた一通りの動作を見て、

桜はくすっと笑うとやや上機嫌にこういった。

桜「兄さんは痛いところを突かれるといつもそうします、

本当に分かりやすいですよね、兄さんって」

拓人「......桜には敵わないな」

上機嫌に笑っている桜を見つめながら拓人も少しだけふっと笑うと

拓人と桜はお互い笑いあった。

そして、その光景を目の当たりにした美雪はどこかへおいて行かれたような、

そんな感覚が体に走った。



桜「......じゃあ、朝真さんと喧嘩をしてそのまま一時間目をサボった、と?」

拓人「ま、まあそんな感じだ......」

美雪「確かにご主人様は教室に戻ってから真様と話している姿は見てません」

桜「う~ん......だいたいなんで喧嘩したんですか?」

拓人「それは言えない」

即答だった。

美雪「? 何でですか?」

拓人「それは、その......男の話だから」

桜「なんですかそれは?」

拓人「とにかく、喧嘩の内容は言えない」

桜「......まあ、じゃあそれは分かりました。

だけど、ちゃんと真さんとは仲直りしてくださいね?」

拓人「............」

桜「仲直り、してくださいね?」

拓人「んっ......わかった」

渋々、という感じだったが、拓人はそのまま桜に押し切られ

真と仲直りするということが決定してしまった。



桜「じゃあ、行ってきます」

美雪「行ってらっしゃいませ、桜様」

桜「はい、あと......」

桜が美雪の耳元に近づく。

桜「兄さんのこと、よろしくお願いしますね?」

美雪「あ......」

桜「なんか、結構ショック受けてるみたいだし、あのまま一人でいさせるのも

ちょっと酷かなって、だから美雪さんがそばにいてあげてください」

美雪「は......はい!」

美雪は嬉しそうにそう返事をすると、桜もふっと笑顔になった。

桜「じゃあ行っています」

剣道の木刀を片手に、桜は颯爽と家を後にした。

美雪「私も......ご主人様の力になる!」

手を胸に当てて小さい声でそう言うと、美雪は拓人がいるリビングへと向かっていった。



美雪「......すーはーすーはー......」

一度深呼吸をして自分の呼吸を取り戻す美雪。

拓人にどう声をかけるべきか、どう接するべきか。

そのことだけが、美雪の頭の中を彷徨っていた。

美雪「あ......」

美雪はリビングのソファの席に目をやると、そこには拓人が目を閉じながら座っていた。

恐る恐る拓人に歩きよった美雪は、静かに拓人の隣へと座った。

拓人「............」

美雪「......あ、あの......ご主人様」

声を振り絞るように出した美雪。

拓人は美雪の方を見ると、メイド服の裾を握りしめた手がかすかに震えていた。

美雪「あ、あの......ご主人様、わ、わたしその......」

拓人「......ごめん美雪」

美雪「えっ......?」

突然の謝罪に何のことか分からず目をぱちくりさせる美雪。

拓人「その......余計な心配とか気遣いさせちゃって」

美雪「......私はメイドですよ? それぐらいして当然です!」

拓人「......ごめんな、美雪」

美雪「もう謝らないでください、ご主人様」

拓人「ああ......分かった」

美雪の元気な声とは裏腹に、どこか喪失感があるような拓人の声に、

美雪は気づいていながらも敢えて触れずにいた。


美雪「......ご主人様は真様とはどのくらい一緒にいるんですか?」

拓人「え......?」

拓人の驚いた顔に、美雪は「しまった」っとすかさず拓人に付け足す。

美雪「す、すみません! 今こういうことを聞くのは無神経でした!」

美雪は顔を真っ赤にさせながら拓人に頭を下げた。

拓人はその光景にふっと微笑み、美雪の頭に手を差し伸べようとした。

しかし、拓人はその手を寸前で止めた。


そして、拓人はその手をゆっくりと引いてどこか申し訳なさを憶えた。

拓人「......とりあえず、顔を上げて」

美雪「は、はい......」

そう言われた美雪は、ゆっくりと頭を上げた。

拓人「......あいつとは小学校からの仲でな」

美雪「え......?」

拓人「あいつも俺も、お互いのことは一番よく分かるんだ」

美雪「............」

どこか嬉しそうに語る拓人につい見入る美雪。

拓人「だから......お互いのことを一番よく分かっているからこそ、

こじれていくものがある、それに今回の件も、悪いのは俺の方だ。

それを気づかせてくれる真には......感謝してる」

美雪「ご主人様......」

拓人「基本的に自分のことしか考えられないんだよ、俺は。

だから......」

美雪「ご主人様!」

拓人「え?」

美雪が大きい声でそう言って、思わず顔を上げる拓人。

そして顔を上げた先には、どこか泣きそうな顔をした美雪がそこにいた。

美雪「ご主人様はそんな人ではありません!」

拓人「............」

美雪「私がの時も......ご主人様はいつも......」

次の言葉を放とうとしたその時。


プルルルルプルルルル


良いタイミングなのか悪いタイミングなのか、

拓人と美雪の間に家電話の着信音が鳴り響いた。

美雪はぶつぶつと独り言を呟きながらも、電話の前まで立つと、

荒々しく受話器を手に取って耳に当てた。

美雪「こちら、朝峰です!」

完全に威圧的すぎる挨拶だったが、次の声を聞いて美雪は一気に血の気が引いた。


誠二「......美雪か、私は誠二だ」

美雪「あっ......お、お父様......」

拓人「!?」

美雪のその声を聞いてバッと勢いよく立ち上がった拓人。

その顔からは、どこか危険を察知するようなそんな気がしていた。


誠二「ちょうど美雪に、話が合った」


誠二の声に、美雪は体を震わせていた。










今回から美雪回です! 

これからも応援よろしくお願いします!

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