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38話  雨空とスズラン ③

38話  雨空とスズラン ③



がらがらがら


拓人「おはよう~」

夏美「あ......お、おはよう」

ベル「お、おはようございますわ......」

拓人「? あ、ああ......」

教室の扉を開けた拓人は、夏美とベルに向けていつも通りに挨拶をしていた。

しかし、夏美たちの反応はいつも通りではなく、どこか気まずさを感じさせるような挨拶だった。

その挨拶に首を傾げていた拓人であったが、そこへ一緒に来ていた美雪が拓人にこう尋ねた。

美雪「どうかしたんですか?」

拓人「あ、いや、なんでもない」

美雪「そうですか......?」

そうして美雪との会話が途切れた後、拓人は自分の席へと向かった。



初音「おはよ~」

拓人「おう、おはよう初音」

自分の席で物思いにふけっていると、隣の席に座る初音がやってきた。

昨日のことで拓人は初音のことをすっかりと女子として認識しているので、

拓人は初音のことは深追いせずに夏美たちと同じように挨拶した。

初音「あ......昨日のキーホルダー、つけてくれたんだ?」

初音がカバンに着けてある猫型のキーホルダーを見てそう言うと、

拓人は少し照れくさそうに顔を赤めてこう言った。

拓人「ま、まあせっかく一昨日もらったし......つけてみようかなって」

ぎこちなくそう言った拓人であったが、初音はとても嬉しそうに頷いた。

どことなく幸せオーラを醸し出している二人に、

夏美たちは悪い意味で釘付けにされている様子で凝視していた。

しかし、その幸せオーラもこの者によって払拭されるのであった。


真「なあ、拓人」

拓人「ん? どうした?」

普段の真とは思えないほどの低い声色に、思わず顔を伺う拓人。

その表情はとても暗くて、いかにも深刻そうな顔をしていた。

真「ちょっと話したいことがあるから......ついてきてくれないか?」

拓人「あ、ああ......分かった」

そして真に強引に連れていかれる形で、拓人は教室を後にした。

夏美「......真、どういうこと?」

ベル「わかりませんわ......」

美雪「でも、おとといの時もちょっと怒ってませんでした?」

その美雪の言葉に、夏美たちも思い返すと確かに、っと顔を頷かせた。

夏美「とにかく、今は真のやりたいようにさせましょうか」

その言葉に、もう一度ベルと美雪は顔を頷かせた。



真「............」

拓人「......なあ、一体呼び出してまで話すことってなんだよ?」

教室から少し離れたところで静止した真と拓人。

拓人は無理矢理ここまで来させられたので、状況が全く読めていない状態である。


真「拓人、今から俺が聞く質問、ちゃんと答えてくれ」

拓人「質問?」

拓人が首を傾げている様子を見ると、真はゆっくりと口を開いた。

真「お前、如月初音と付き合ってるのか?」

拓人「はぁ!? つ、付き合ってねーよ!」

真からのまさかの質問につい取り乱した拓人。

しかし、その取り乱し方で一瞬で本当のことだと悟った真は、そっと一息ついた。

拓人「ど、どうしてお前がそんなこと聞いてくるんだ?」

真「......昨日......いや一昨日にお前が初音と一緒に

ショッピングモールでデートしてたところを見た」

拓人「デ、デート!?」

顔を赤くさせながらそう叫ぶ拓人。

しかし、真は至って真剣な表情は変えずにそのまま拓人の顔をじっと見つめた。

拓人「あ、あれはデートじゃなくてだな......」

真「じゃあなんだよ、あんなん見たらデート以外考えられないだろ?」

拓人「あれは初音が考案したやつで、あの日の前日に俺が初音が女の子として認識

できてないって言ったら、初音が俺のために女の子として頑張って認識させようと

したもので、あれがデートだなんて思ってないし事実違う!」

真「............」

拓人の言い分に、真は冷静さを取り戻して一旦黙った。

だが、今回の真はこれで引くような真ではなかった。


真「お前さ......こういうのもうやめろよな」

拓人「......何が言いたいんだ」

真がいつもと比べると棘があるような言い方に、拓人も少し表情をこわばらせる。

真「一昨日のを見て、もしかしたら拓人はもう付き合ったりできて苦手意識なんて物は

なくなってて、もうあのことは忘れたんじゃないかって思ったんだ」

拓人「!? お前......」

拓人は怒りと驚きが混じった表情で真を睨みつける。

真「なあ、本当は拓人はもう苦手意識なんてないんだろ?

普通に会話出来て、普通にボディタッチとかもできてて、

”あいつ”のことなんかももう忘れたんだろ?!」

真が挑発するような口調で拓人に迫る。

拓人「............ふざけんな......」

真「ん?」

拓人「ふざけんな!!」


ガンッ!


鈍い音が廊下の壁側に響く。

拓人に胸倉を掴まれた真がそのまま壁に押し付けられながらぐっと拓人の顔を見る。

拓人の顔は、怒りと憎しみと、そしてどこか悲しい表情が入っていた。

拓人「お前が......お前が一番知ってたんじゃないのかよ、

俺のことはお前が一番理解してるんじゃなかったのかよ!」

今まで真が見たことがない拓人の剣幕に、真はそのまま目を大きくしている。

拓人「苦手意識がもうなくなったとか、あのことはもう忘れたとか、

あいつのことはもう忘れたとか............

そんなこと一度たりとも忘れたことがないぐらいお前も分かってるだろ!?」

真「............」

真は歯をぐっと噛み締める。

真「......みえるんだよ............」

真がボソッと呟いた声に、拓人は黙って顔をしかめる。

そして次の瞬間、今度は真が拓人の胸倉を掴んで壁に押し付けた。


ガンッ!


拓人「うっ......!」

真「見えるんだよ! お前があの時のことも、あいつのことも、

全部忘れたように見えるんだよ!」

叫んでいるような真の大きい声に、拓人は何も言い返せずにいた。

真「俺はお前のことが一番分かる、一番理解している、

だからこそわかんなくなったお前に腹立ってんじゃねぇか!!

何考えてんだ! 初音や、他の女の子にもいいような態度取りやがって、

お前はまた”夏美の時”みたいに関係ないやつを傷つけるつもりか!」

拓人「......!」

真の言葉に、拓人は何も言い返せなくなった。

それを見かねた真は拓人の胸倉から手を離してその場で立ち上がった。

真「......分かってるよ、お前があいつらとの間に”壁”を作ってるのも、

”遥佳”とのことも......

全部分かってるよ、だから......

これ以上お前が無理矢理にでも仲良くしようとするのも、

あいつらのためにはならないし、余計傷つけるだけだ......」

拓人「............」

真「悪かった......こんなことして」

拓人「............」

お互いに流れる重い沈黙。

拓人は顔を俯かせたまま身動きせず、真もその場で立ち尽くしていた。


真「......じゃ俺、先戻ってるわ」

5分ほど経った時、真はそう言い残してずかずかと足音を立てて教室へと戻ろうとしていた。

拓人「真」

拓人のその声で、真は歩いていた足を止める。

拓人「......俺、まだ女子に対しての苦手意識......なくなってない。

みんな......部活まで作ったのに、俺は全然向き合ってなかった、

ただこの手に収めてたくて......中途半端な態度とってた......」

真「............」

拓人「......悪い、先行っててくれ」

真「............分かった」




キーンコーンカーンコーン

真が教室に戻った後、朝のチャイムが鳴り、結局拓人は教室には戻らずに

そのまま廊下の壁にもたれかかっていた。



拓人「......遥佳............」

誰かを呼ぶ声が、切なくその廊下に響いた。















今回で初音パートは終わりです!

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